私たちがラインハットに滞在して十日ほど経った日のことだった。私たちはラインハットの悪戯三人組として随分有名になっていて、ヘンリーの悪評は私たちの悪評になった。
今日はなんだか定着してしまった剣の稽古でのリュカとヘンリーの一本勝負を、ラインハット王が見学に来ている。私はこの時間、一応二人の動きを見て伝えるという役割を担っていた。そうすることで、反省点や良かったところの振り返りができるからだ。ちなみに、私は体も小さく力もあまりないので、剣の稽古は基礎だけやったら、あとはゲレゲレと一緒に体力づくりをしている。二人のように本格的な剣術は習っていない。
「アルマや。わしは、そなたらがこの城に来てくれてよかったと、心から思っておるよ」
「えーと、ありがとうございます。わたしも、ヘンリー様とお友達になれて、うれしいです」
相変わらず顔色は悪いが、ラインハット王の表情は穏やかだった。まぶしいものを見つめるように目を細めて、視線はヘンリーから外さない。
「あれは明るくなった。これまでのように、下手な関わりではなく、きちんと相手のことを考えるようになった」
「王様……あの、自分でこんなこというの変だけど、わたしたち、いたずらばっかりしてるよ?」
「それでも、前は誰もあれに面と向かって怒ることはできなかったのだ。できたのは、厨房で働くおばちゃんくらいかのう。傷つけられる前に他人を傷つけていた子どもが、他人との関わりを受け入れるようになったのじゃ」
ヘンリーが一本取られた。最近は接戦になってきたが、ヘンリーは剣の腕ではリュカには敵わない。それでも、「くっそー!」と悪態を吐きながらも、彼は毎日の一本勝負をやめることはなかった。
「わしは、なんと不出来な父親であることか」
子どもだからなのか、それとも下手に言いふらさないと信用されているのか、あるいは別の理由なのか、私は大人の「独り言を聞く係」になることがしばしばある。まあ別にいいんだけど、人生経験の少ないはずの五歳児としての正解が分からないので、いつも言葉に迷う。
「でも、ヘンリー様、王様のことすきよ。わたしがおとうさんのこと、だいすきなのと同じように」
だから、五歳児としてというよりは、「娘である私」として答える。もっと言えば「娘にしてもらったアルマ」として。
「王様はいそがしいから、たいへんかもしれないけど。わたしだったら、おとうさんに『何かしてもらえる』よりも、ただ一緒にいてくれることの方が、ずっとだいじよ」
ぽつりとそう言えば、ラインハット王の存在に気が付いたヘンリーが、大慌てでこちらへ駆け寄ってきた。勝負をしていたリュカや、審判をしていたパパスさんも、あとからこちらへ向かって歩いてくる。
「ち、父上! 恥ずかしいところをお見せしました……」
「いいや、良い勝負だった。上達したな、ヘンリー。王宮剣術の稽古は嫌いだったのにと、兵士長が拗ねておったぞ」
顔を真っ赤にしたヘンリーが、俯きながら「……その、友達と一緒だと、楽しいので」と蚊の鳴くような声で返した。その言葉を聞いて、リュカが目をきらきらさせながら、パパスを見やる。ヘンリーが直接的に私たちのことを友達と称するのは初めてのことだった。
「それは、なによりであるな。リュカも、良い腕をしておる。さすがはパパスの息子じゃ」
褒められたリュカはにこにこして「僕、大人になったらお父さんみたいに強くなりたいんです!」と良い息子の模範みたいな回答を、計算など少しもなく言ってのけた。まぶしすぎる笑顔に、私は自分の心の汚れを見せつけられた気がして、思わず胸を押さえた。
「アルマ、どうしたの?」
「なんでもない……」
純粋すぎることは、ときに鋭すぎるナイフのような切れ味を誇るのだと知る。私だってブラック会社勤務の社畜だった過去を鑑みれば純粋な方だと思うけど……シャークアイ様をはじめとしたマール・デ・ドラゴーンの人たちとか勇者様たちとかに浄化してもらってるし……。でも、私だったらあの手の発言は受け手の反応を想定した上での計算によって口に出すだろう。
「父上、あの、もし時間があるなら、もう一勝負見て行ってください! 僕、次は勝ちますから!」
お、初の延長戦。ヘンリーの言葉によって思考を切り替えた私は、心の汚れ問題から目をそらし、少年の反応を見た。これにはリュカもノリノリで「僕だって負けない!」と気合を入れている。ラインハット王は、「もちろん。良い試合を楽しみにしておる」と笑った。さっそく始まった二試合目に、ヘンリーはいつにも増して真剣な表情だ。いつもだったらここで子どもらしい挑発のオンパレードだが、それも今はなりを潜めている。
私はゲレゲレの隣に腰を下ろして、ふかふかの毛皮にもたれかかった。王宮のお風呂で毎日洗っているからか、獣臭さは感じず、おひさまのにおいのゲレゲレちゃんである。
「アルマ、どちらが勝つと思う?」
パパスさんにそう聞かれ、私は「リュカかなぁ」と素直に答えた。
「ヘンリーは意外とまじめだから、教えられた型を、教えられた通りに使うことが多いもの。リュカは魔物ともたたかうし、型にしばられずにいろいろやってみるのよね」
武器だって、剣も使えればブーメランもナイフも使える、万能型だ。それは実戦で鍛えられたからこそのしなやかさであり、強さなのだろう。一方、ヘンリーは基本に忠実だ。実戦経験の少ないヘンリーには、それが何よりの強みとなる。守りと攻めのバランスが良いのだ。パパスさんは彼らの特徴をよく理解して、それぞれに合った剣術を教えているようだった。
「アルマに戦い方を教えたのは、勇者殿か?」
首を傾げる。私は基本的に、パパスさんがいるときには戦闘に参加しない。というのも、必要がないからだ。戦いを補助する前に男三人衆で敵をやっつけている。レヌール城でのお化け退治の話はビアンカとリュカがしていたけれど、実際に目で見たわけではないから、私がどの程度戦えるかは分からない、はず。
「ううん。勇者様にたたかいかたを教えてもらったことはないわ。『わたしもたたかう』っていえば、守ってくれたけれど」
シャークアイ様や勇者様に言ったことがあるのは、「私も船乗りになる! 船乗りマスターしたいから、一緒に戦って!」みたいなことである。ダーマの神殿へ行って転職させてもらったり、魔物に殺されないように体の使い方を教わったりはしたけれど、戦い方と言われれば疑問が浮かんだ。
「どうしてそう思ったの?」
「アルマの戦いを見る目は、『戦いを知る目』だ。だから、きっと誰かに教えてもらったんだろうと思ったのだが……」
「それなら、勇者様がたたかってる横で、マリベル様がおしえてくれたの!」
「マリベル様?」
「勇者様の、こいびとよ。たぶん、もうすぐ奥さんになるの! マリベル様はきびしいことも言うけど、本当は誰よりも優しい、すてきなひとなんだよ!」
まあ、その優しさは時と場合によって度合いがかなり変わってくるけど。でも、マリベル様はよく怒ってはいるが、その怒りの根底には誰かへの思いやりがあることは間違いない。その「誰か」が自分であることも少なくはないが。
「マリベル様、すごいんだよ。わたしには、勇者様の戦いは『すごい』としか思えないのに、『今のは全然ダメ』とか『今のは無駄が多い』とか『今のはまあまあだったわね』とか、そういうのをおかし食べながら教えてくれるの!」
「……待て、それはどういう状況だ?」
「えっとね、船にのってて、海の魔物が出てきたときに、アルス様と他の人にたたかわせて、マリベル様はわたしのそばで一緒におかしを食べながら『けんがく』するの。人数がそろってるときは、たたかいたくないんだって」
それと、本人は口に出さなかったけど私のことを守ってくれていたんだと思う。事実、私が船乗りの経験を積むために魔物と戦うときは、補助呪文を駆使して、過保護なくらいに戦いやすくしてくれていた。私は弱いので大変ありがたかった。
そういうところにも性格は出て、マリベル様は補助呪文を使って、私自身に戦わせようとしていたが、アルス様は基本的に自由にやってみろ、という感じで、危なくなったら助けてくれた。それから、マール・デ・ドラゴーンのみんなは、茶々を入れながら一緒に戦ってくれて、その中で危なくないように守ってくれた。大変だし疲れるし怖いけど、意外と一番安全なのがマリベル様と戦うときだ。そして一番ヒヤッとする場面が多かったのがマール・デ・ドラゴーンのみんなと戦うときだった。人数が多いので、みんな私のことを忘れて戦っていて、私一人ピンチになることが多々あったのである。そういうときはシャークアイ様が助けてくれて事なきを得るんだけど。
「ということは、そのマリベル殿も戦えるのか?」
「マリベル様は魔法でそこらへんの魔物ならしゅんさつできるよ」
魔法じゃなくて特技を使うこともある。あくびをしながら魔物へジゴスパークをぶちかましていたのを見たときは、鳥肌が立った。なんか、感動とか畏怖とかいろいろで。私の周り、レベルの違う強さを誇る人がたくさんいたから。勇者様一向は別の次元として、シャークアイ様をはじめ、マール・デ・ドラゴーンの人たちも世界の海を平気で渡り歩いていられるくらい強いからね。
さて、私と同じくらいのレベルの少年たちの勝負は、そろそろ佳境に入っていた。稽古終わりの二戦目ということで疲れもあるのか、二人とも動きが大振りだ。当ててやろう、終わらせてやろうという魂胆が見え見えである。父親にかっこいいところを見せたい気持ちが強いのだろう。
「あっ」
ヘンリーが勝負に出た。いつもの基本に忠実なヘンリーらしくなく、型が崩れており、さらには攻撃的で妙に力んでいる。それを見逃すリュカではなく、攻勢に出たヘンリーへ見事にカウンターを食らわせる。できた隙にモロに入ってしまった横薙ぎの一閃に、「ぐぅっ」とヘンリーの苦しそうな声が聞こえた。
「そこまで!」
パパスさんの張りのある声に宣言されて、相変わらずヘンリーの負け越しで勝負は幕を閉じた。
「うわわっ、ヘンリー、大丈夫!? 今ホイミを……」
「いらねぇ!」
仰向けに倒れたままのヘンリーは、駆け寄ってきたリュカが差し伸べた手を払いのける。
「先生、回復、お願いします」
稽古と勉強をしている午前中の間だけは、パパスさんのことを「先生」と呼ぶ少年は、本当に悔しそうに顔をゆがめたまま、のそりと起き上がった。それから回復魔法を施してもらい、力ない笑みでラインハット王へと向き合う。
「父上……次は、次は勝ちますから」
「うむ。上達を楽しみにしておるぞ、ヘンリー」
「はい!」
「では、わしもそろそろ戻らねばならん。ヘンリー、リュカ、アルマ、各々励むように」
私たちの返事を聞くと、ラインハット王は頷いてから、城の中へと戻っていった。
「先生、オレ、今日は勉強は休んでもいいですか」
自分の父親の姿が見えなくなると、ヘンリーは俯いたまま、傍に立っていたパパスさんに小さく声を掛けていた。
「ふむ。理由を聞こう」
「先生にはいいんですけど。あいつらには聞かれたくありません」
ハッキリとそう告げたヘンリーに、リュカがショックを受けた表情になる。私は口を挟まず、パパスさんの反応を見た。顎に手を当てた彼は、逡巡した後、「分かった」と口を開いた。
「では、今日の授業は休みにする。お前たちは文字の読み書きを自習するように」
何かを言いたそうにしているリュカを無視して、「はーい」と軽く返事をする。私は立ち上がって、そのままリュカの手を取った。
「ほら、リュカ。行こう?」
「でも……」
「いいのよ、パパスおじさんがああ言ったんだもの。ね、昨日読んだ本の続きを読みましょう。ゲレゲレ、おいで」
不満そうなリュカを連れて中庭から城内に入ると、彼は「ヘンリー、僕のこと嫌いになったのかな」とぽつりと呟いた。
「王様の前で、勝ちたかったにちがいないし……僕、負けてあげた方がよかったかな」
「そんなことしたら、よけいにおこるだけだよぉ」
ぴたり、一度足を止めて、リュカに向き直る。両手をつないで、じっと迷いに揺れる黒い双眸を見つめた。
「リュカ。リュカはヘンリーのお友達だけど、きっとそれだけじゃないのよ」
「それって、どういう……?」
「さあ。でも、そんな感じがするわ。たとえば、リュカとヘンリーはよくけんかをするけれど、わたしとはあんまりしないじゃない。同じお友達でも、同じ種類の仲良しではないと思うの」
にこり。私は不安げな少年に安心を与えるために笑みを作った。
「リュカだって、もしもヘンリーが自分より強いのに、わざと負けたらおこるでしょ?」
「そりゃあ、そうだけど。本当に嫌われてないかな?」
「それは午後にたしかめればいいんだよ。わたしたち、本の続きも読まなくちゃいけないし、ビアンカとサンチョさんにお手紙も書かなくちゃいけないし、いそがしいんだから。早く部屋にもどりましょう」
「……うん」
そんなやり取りをして、ヘンリーの部屋へと戻る。彼が数年前に文字の勉強用にともらった絵本や児童書を、私たちは教科書としていた。この世界の文字は、向こうと似ていて少し違う。なので覚えやすいと言えば覚えやすいが、想像で補填するととんでもない思い違いをしていることもあるのだ。その点、絵本や児童書が教科書というのは都合がよかった。思い違いをしても害がないし、スラングを使わないので正しく単語を覚えられる。しかも物によっては易しい歴史書のようなものもあり、この世界のことを知るのにも役立つ。私はこの世界のことを知っているようで全然知らないので、大変ありがたい。
「先に本を読む? 手紙を書く?」
「手紙、かなぁ。今はなんだか、本を読む気分にはなれないや」
「じゃあ、書きたいことをまとめようよ。ビアンカには何を書く? わたし、妖精の国のこと、ビアンカに教えてあげたい!」
「そうだね。アルカパを出てから、いろいろあったもんね。妖精の国のこと、ラインハットでヘンリーと大喧嘩したこと、友達になったこと、僕たちが悪戯ばっかりしてること、教えてあげなくちゃ」
「ビアンカ、まじめだからおこるかな?」
「ふふ、怒るかもね。サンチョには、悪戯のことは内緒にしておこう。サンチョには剣の稽古とか、勉強のこととか、ラインハットがどんなところかとか、そういうの、教えてあげたいな」
私たちはメモを取りながら、ビアンカとサンチョさんへの手紙の内容を考える。それはこれまでの日々を振り返る時間でもあり、私はふと、勇者様が旅をしているときにいつでもつけていたという冒険の書のことを思い出した。
私は冒険の書をつけていない。日記というものが非常に苦手だし、誰かに頼むには演技もろもろが面倒だからだ。リュカはたまに、教会で神父様にこれまでのことを話して、書き記してもらっている。冒険の書とは日記のようなものであり、自分の努力についての記録であり、旅の出来事に関する備忘録であり、その時々の自分の思いを語る相棒のようなものであるようだった。
――「冒険の書は、僕の宝物のひとつでもあるんだよ」。
そうおっしゃった勇者様の顔はひどく穏やかで、そこにいるのに、いないような、不思議な感じがした。勇者様は私に、冒険の書をつけろと言ったことはない。私は勇者様の冒険に憧れながら、マール・デ・ドラゴーンに乗せてもらうことに満足していたし、あそこを離れて冒険する気もなかったので、これまでは冒険の書をつけようと思ったこともなかった。
「ねえ、リュカ。わたし、冒険の書をつけてみようかなと思うの。神父様にたのむんじゃなくて、自分で思ったことを、自分の言葉で書けたら、すてきだなって思ったから」
「そうだね。僕も今まで、神父様にこれまでのことを告白してつけてもらってたけど、自分でつけれたらいいよね。神父様が書いてくれるみたいに上手にはできないかもしれないけど……」
私たちは、未熟な文字で、文章で、パパスさんに練習用にともらったノートにこれまでの冒険のことを書いていた。リュカと出会ったこと。サンタローズの洞窟での、初めての冒険。アルカパの町のこと。レヌール城でお化け退治をしたこと。助けた「猫」をゲレゲレと名付けたこと。いつまでも寒いサンタローズの村で、ベラを見つけたこと。ベラに妖精の国へ連れて行ってもらったこと。春風のフルートを取り返して、ポワン様が世界に春を告げたこと。ラインハットに来て、ヘンリーとひと悶着あったこと。仲良くなって悪戯三昧をして、ラインハット内に悪評を轟かせていること。
「わたしたち、けっこうすごいことしてるよね」
「うん。ね、アルマ。冒険の書を書き始めた記念に、手形を付けようよ。僕、アルマのノートに付けるから、アルマは僕のノートに付けて」
「わかった」
手のひらにインクを付けたリュカが、ペたりと一番最後のページに手形を付ける。私もそれに倣って、リュカの「冒険の書」の最後のページに手形を付けた。今日の日付と、自分の名前を添えてやると、それを見たリュカが私のノートにも同じことをする。
子どもの小さな手形をすっぽり収めたノートを見て、私たちは満足げに笑った。仲間外れにされたゲレゲレが、ぴちゃりと前足をインクに浸して、裏表紙の内側、最後のページの隣に自分の肉球を押し当てる。「やってやった」と、満足げな顔にまた笑い合うころには、リュカが抱いていたらしいヘンリーへの不安もすっかり吹き飛んだようで、汗だくのヘンリーとパパスさんが部屋に帰ってくると、晴れやかな顔で二人を迎えていた。
「ヘンリー、今日の午後はどうする?」
昼食を取りながらリュカが質問をすると、剣の稽古のときよりはすっきりした顔で、ヘンリーは腕を組んで「今日はなぁ……」と眉を寄せた。
「デールのところに行くか。オレたちがあいつにちょっかいかけ始めたってんで、義母上が怒ってるらしいんだよ。それで、参ってるって兵士たちが話してたんだ。外に連れ出すのは難しいかもしれねぇけど、少しの時間話すくらいならできるだろ」
「わたし、あの部屋にがてだから、デール様にはどこか来てもらおうよ」
「じゃ、ヘンリーの部屋に呼ぼうよ! そしたら王妃さまも来ないだろうし」
きゃあきゃあと騒ぐ子どもたちへ、パパスさんが「それなら、私はお邪魔かな?」とクスクス笑う。
「ああ、邪魔だ! お前は部屋の前で変なやつが来ないか見張っていろ!」
「そうさせてもらおう」
ヘンリーの言葉に頷いたパパスさんの方を見る。今までも、一応パパスさんの目が離れる場面では、必要がありそうなら「子どもの情報」を伝えるようにしていた。たとえば、彼らがパパスさんを出し抜いて子どもだけで城下町に遊びに行きたいといえば、出し抜くための作戦をそれとなく伝えたり、「秘密を隠し切れない子ども」を装ってどこで何をするか情報提供したりと、ともかく子どもだけにならないように気を配ってきたのだ。
今回はデール様を部屋に呼ぶだけだから問題ないとは思うが、これで子どもだけになったときに「じゃ、部屋から出よう」と、ヘンリーの部屋にある隠し階段を使って抜け出す可能性もなくはない。今までが安全だからと、これからも安全とは限らないのだから。
さて、午後になり、私たちはデール周辺の情報を探っていた。というのも、私たちは全員デールの部屋のにおいが嫌いなので、できれば滞在時間を少なくしたい。王妃様は一日の内のほとんどをあの部屋で過ごすが、もちろん出ていくタイミングもある。そのときは見張りの兵士とデールだけになる。その見張りが私たちに協力的な場合は話が簡単なのだが、そうではない場合は面倒で、そういうときはデールを連れ出すのを諦めていた。
幸運なことに、今日は私たちに協力的な兵士が見張りをしているようで、少し話がしたいのだと伝えればすぐにデールを呼んできてくれ、王妃様が戻る予定時刻まで教えてくれた。王妃様が部屋を開けるときの大体の理由が良からぬ連中との密会らしい、というのは兵士の間でなんとなく広がっている噂である。
ただし、王妃様自身の安全確保のためもあるのだろう、戻る時間を必ず伝えられているため、その時間さえ知ることができれば、私たちはそれよりもちょっと早めにデールを部屋に送ればいい。
「兄さま! 今日は何の遊びを教えてくれるんですか?」
「いや、デール。今日は悪戯は休憩だ。ちょっとオレが疲れてるんでな」
ヘンリーの部屋に着くなり、デールは顔を輝かせて聞いてきた。その言葉に首を振ったヘンリーだったが、すぐににやりと笑みを浮かべる。
「お前の鬱憤が溜まってるんじゃないかと思って、話を聞いてやろうと思ったのさ。お茶と菓子でももってこさせようと思うが、何がいい?」
「あっ、それなら……」
デールがにこりとうれしそうに笑う。
「お母さまのくれたケーキがあるんです。とっても美味しいんですが、ボク一人では食べきれなくて……侍女に持ってきてもらいましょう。兄さまが食べたいものはありますか?」
「ケーキか、いいじゃないか。義母上もオレには食べさせたくなかっただろうし……ククク、もしオレが食べたって知ったら、悔しがるだろうなぁ。言わないけど」
悪い笑みを浮かべているヘンリーに呆れる。
「デール様、わたし、ざんねんだけどお昼を食べすぎちゃったから、ケーキはやめとくね」
たとえ息子にあげたものだとしても、信用できない人物の用意した物を、私は口に入れる気にはなれない。あの部屋の香や、息子の気持ちを鑑みない日頃の言動から、「息子のためを思って」と怪しい薬が入れられていてもおかしくはないだろう。成長促進剤とか、下手したら怪しい連中とやらからだまされて得体の知れない何かが入っている可能性もある。絶対に嫌だ。できればリュカやヘンリーにも食べさせたくない。
「そうなの? 残念だけど……アルマは小さいものね。あんまり食べられなくても仕方がないか」
残念そうな顔のデールには申し訳ないが、断固拒否だ。
「ちょうどあと四つ余りがあったんだけど……リュカさん、ゲレゲレはケーキも食べられますか?」
「うーん、大丈夫だと思うよ。僕たちと同じものも結構食べてるし……食べないものもあるから、自分で食べていいものとだめなものが分かってるんじゃないかな?」
私は嫌な予感を抱きながら、主に目を向けられて得意げに「にゃおん!」と魔物らしからぬ可愛い返事をしているゲレゲレの背を撫でた。
ヘンリー レベル5
ちから:29 すばやさ:15 みのまもり:15
かしこさ:19 うんのよさ:21
最大HP:62 最大MP:22
呪文・特技:メラ、マヌーサ
(攻略サイト参照)