「寒い」
開口一番、杏奈はそう呟いた。開いた玄関から伝わる冷風から、それはシュンにもわかる。
「と、とにかく中に入って」
「うん、そうする」
シュンの言う間もなく、杏奈は彼の家に入り込む。暖房の効いた室内に入ると、寒さに強張っていた彼女の顔が一気に緩んだ。
「ああ、暖かい……」
「急にどうしたの?連絡もなしにうちに来るなんて」
責めるわけではなく、確認のため。シュンは杏奈に問いかける。
「だって自分の家に居ても寂しいから、シュン君のところに来たかったの」
「なら僕を呼びつければよかったじゃん」
「それだとこうやってくっつく口実ができないじゃん」
言うが早いか、杏奈はコートを脱いでシュンに抱きついた。唐突な抱擁と肌の冷たさに驚くシュンだったが、顔を赤くして彼女を受け入れる。
「び、びっくりするじゃん……」
「ふふ、ごめんね。でもこうしたいの、いい?」
「……うん、もちろん」
そのままシュンは杏奈を抱き返す。自分の温もりを分け与えるように、いつもよりも強く。彼の体温に表情を蕩けさせながら、杏奈はシュンに密着する。
「あったかい……」
「それで、どうしよっか」
「ごろごろしてたい」
「ごろごろって……床固いよ?」
「ベッドに連れてって……」
ベッド、という単語にシュンは思わず反応する。それは何かを望んでのことか、単に寝たいというだけなのか。
「えっと、それはどういう……」
「シュン君のしたいようにして……」
私はなすがままだから、と杏奈は続ける。もはや暖房とか関係なく二人は赤くなり、心臓の音を鳴らす。
「僕の、なすがままに……」
「シュン君……」
とろんとした目に、シュンは情欲を煽られる。このまま彼女と溶け合いたい、交ざりたいと思ってしまう。でもそれは何かに負けたような気がして。そもそも勢いに任せて行為に挑む気にはなれなくて。
「……杏奈」
意を決したシュンは、ベッドに杏奈を連れ込む。そして彼女を強く抱きしめ、足を絡める。
「シュン、君……?」
「暖まるまで、こうしてよう。これなら暖かいよ」
「……へたれ」
「ごめん……」
「ううん、正直本当にベッドに連れられるのは予想外だもん」
「だって、何するにも床だと身体痛いでしょ」
見つめあって、二人はクスリと笑う。そうして杏奈もシュンに身体を絡め、密着し始める。
「最近どう?」
「そこそこ。順位も落ち着いてきたし、大丈夫だと思う。シュン君は?」
「僕もそこそこ。高校にも慣れてきたし、友達も出来た、かな」
「むう、その人が羨ましいなあ。学校シュン君と一緒なんでしょ?」
「そうだけど……こんなことするのは杏奈だけだよ?」
「それでも羨ましいの。ああ、私以外のシュン君と時間を共有する人全てが妬ましい」
「……最近欲張りじゃない?」
「好きな人と一つになって変えられたのかもね。責任、取ってね?」
「……はい」
ベッドの上で身体を暖め、暖房すら暑いと感じるまで二人は重なっていた。
「……暑くない?」
「……ちょっと暑い、かな。でも、シュン君の暑さは嫌じゃない」
「……暖房、消そうか」
「……うん」
暖房を消し、シュンは杏奈をより一層強く抱きしめた。自分だけが彼女を暖めるのだと、そう言わんばかりに。一方杏奈もシュンの熱を欲し、身体をよじる。次第に息にも熱が籠り、二人の理性を溶かす。
「シュン君……私……」
「だめ、杏奈。今多分やばい」
「……だめ?」
「……………………」
無言のまま、シュンは杏奈の唇に触れる。それからどうなったかは、またの機会に。