私が見た小説版青鬼の幻覚   作:ラヴィルズ(元タガモス)

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pixivと同日投稿です


委員長がパソコンに嫉妬する話

 カタカタと、キーボードの叩かれる音だけが部屋に響く。時おり額に手を当てながらシュンは黙々と作業を続ける。

「……ねぇシュン君」

「………………」

「……ねぇ、シュン君?」

 肩をつつかれようやく振り向く。パジャマ姿にコップを持ち、不機嫌そうな杏奈を見て慌てぬほどシュンも朴念仁ではなかった。

「ご、ごめん委員長。もう風呂上がってたんだね」

「もう、って30分も経ってたら普通上がってるも思うけど」

「え、そんなに経ってた?」

 壁に掛けられた時計を確認すると、確かに彼女が風呂に入ってからそれだけは経っていた。コップを机に置きつつ、杏奈は尋ねる。

「そんなに集中するくらい作業に没頭してたんだ」

「う、うん。ゲームのデバッグをしてたらつい」

「ふーん。今どんなゲームを作ってるの?」

「今は簡単な戦闘を絡めた脱出ゲームかな。でも戦闘のプログラムとか組んだことないから、プログラム書いたそばからバグが出るわ、出たバグを修正すればまた別のところにバグが出るわ……」

 苦労してることを話すシュンだが、その表情はやや笑みを含んでいる。得意気に話す彼に、杏奈はえもいわれぬ感情を抱く。

「よくわからないけど、大変なんだ。嫌じゃないの?」

「バグが出てくるのは嫌かな。でも数少ない僕の誇れることだし、やれることは突き詰めていきたいかなって」

「へー………………私と付き合ってることより誇れること?」

「そんなわけ。委員長と付き合ってることは何よりの誇りだよ」

 咄嗟に口をついた言葉に自分でも困惑するも、シュンの返答に彼女は顔を赤くする。

「そ、そっか。ふーん、そうなんだ」

「……もしかして、妬いてた?」

「……ちょっとだけ」

「ごめん、次から気をつけるよ」

「う、ううん。シュン君が夢中になるのもわかるし、謝ることなんて」

「でも僕がパソコンばっか弄ってるから委員長は妬いたわけだし」

「だ、だから謝らないでって」

「でも」

「そ、そう思うなら、なんか行動で示してほしいんだけどな」

 突然の要求に面食らうシュンに対し、杏奈は先ほどからの自分の言動を内々に恥じていた。いくら恋人が趣味に夢中になっているからといって、ここまで言うことあるだろうか。どうやら自分は、わりと嫉妬深い人間らしい。

「じゃ、じゃあ、えっと……触れるよ」

「ふぇ」

 何を思ったのか、シュンは両腕で杏奈を抱き寄せた。抵抗させる間もなく、彼は話し始める。

「その、これからはちゃんと集中しすぎないように作業するし、時間もなるべく短くするから、えっと……妬かせてごめんなさい」

「…………は、はい」

 キャパオーバーした頭でちゃんとした返しを考えられるわけもなく、生返事になってしまう。しばらく抱きしめられ続けたのち、解放された杏奈はのぼせたような表情になっていた。

「……委員長?」

「……あの、えっと。正直、パソコンに嫉妬してめちゃくちゃ言った自分を駄目だと思ってたから、まさかこんな甘やかされるなんて思ってなかった」

「え、えっと、迷惑だった?」

「ううん。シュン君の愛情を感じられたからむしろ嬉しい」

「そっか、ならよかった」

 そう言って離れようとしたのを、杏奈は服の裾を掴んで引き止める。

「……委員長?」

「もし、もしシュン君が良いなら、明日起きるまでシュン君の愛情を感じていたいんだけど」

 目線を下に向け、ぼそぼそと杏奈は自分の欲望を吐露する。一瞬ドキっとして言葉を詰まらせるが、シュンは笑顔で答える。

「もちろん。いつまでも何度でも、僕の愛情が欲しいのならいくらでも」

「ありがとう、シュン君」

「でも僕も委員長の愛を感じたいな、なんて」

「そ、それはもちろん返すから。もらった以上返すから」

「はは、ありがとう委員長」

 照れ隠しに杏奈はシュンの胸に顔を埋める。その隙にシュンは手元を操作し、パソコンをスリープ状態にする。

「さて、それじゃ寝ようか」

「え、ゲームの制作はいいの?」

「一応きりの良いところだったし、別に期限があるわけじゃないしね」

「……ありがとう」

「お礼のいることじゃないと思うけどね」

 そんなことを言いつつ、二人はベッドに横たわる。杏奈を覆うようにシュンが抱きしめ、その内から杏奈はシュンの身体に腕を巻きつけた。

「それじゃあ、おやすみシュン君」

「おやすみ、委員長」

 就寝の言葉を交わし、シュンが部屋の電気を切る。真っ暗な部屋を二人の寝息が支配するまで、それほど時間は掛からなかった。


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