刀使ノ巫女RTA 綾小路武芸学舎フリーエディットAny%   作:滑落車博士

8 / 9
難産でしたが、狙っていた地点まで書けたので初投稿です。
経験値が稼げると思った私は悪くない。

ステンバーイ...
ステンバーイ...





第八話

 時系列計算に必死になるRTA、はーじまーるよー。

 

 さて、本来ならばホモちゃんも京都に呼び戻される日がやってまいりました。ここは本編準拠ルートを走る走者にとって頭を悩ませるポイントです。何とかあと一日だけ滞在期間を延ばせればいいのですが、ここで走者が採れる方法は何通りか存在します。

 

 まず、一番簡単に採用できるルートを、仮に『出奔』ルートと呼称します。これは、『帰ってきて♡』→『嫌です…』とばかりに自由行動を取るルートです。青春の無軌道な暴走というヤツですね。俺たちに明日はない的なサムシングです(適当) これは通常の綾小路代表の場合は割と使うルートですね。色々とデメリットはあるのですが、実行条件が緩いので簡単に採用することができます。

 

 次によく使われるのが、『舞草』ルート(仮称) これは、アプリ版での調査隊に近いムーブですね。それぞれ所属の学長経由で、『云々という理由で滞在すべしor活動せよ』という言質を引き出し、学校に戻ることなく活動をするルートです。これは、長船や美濃関を出身校にしていると便利なルートです。どちらも学長が裏で舞草側と足並みを揃えていますからね。平城学館でも、意味深な台詞を伝えられはしますが、まぁ可能です。ただし、名目によっては御刀捜索や二人の追跡など、余計なイベントが挟まってしまうのがデメリットです。一応、メリットとして某所にいるスルガさんに会いに行ったりとか、その辺りのイベントを消化するのに向いていると思います。

 

 あとは…親衛隊に協力的に振る舞っていると、そのまま追跡班として活動続行できる『親衛隊』ルートとか。実は今回のホモちゃんはやろうと思えば親衛隊ルートに入れたのですが、ほぼ確実に伊豆山狩りに連れて行かれてしまうのと、そこから舞草側に離反するタイミングが難しいこと、主要キャラと一時的に敵対してしまうため好感度が下がってしまうのが美味しくないので採用していません。濃厚なまきすず成分を摂取したい方にはオススメしておきます。

 

 

 ……他にも色々選択肢はあるようですが、主なルートとしてはこのあたりでしょうか? 今回は『出奔』ルートに多少アレンジが入ったものを選んでいます。

 

 具体的には、コネクション:柳瀬グループを使用します。「またか!」と思われる視聴者の方もいるでしょう。実際これはかなりイレギュラーなムーブなので、たぶん走者多しといえどもこんなにコネクション:柳瀬グループを使い倒してる走者は私くらいなんじゃないですかね? 多くの場合、舞草や折神家、親衛隊、あるいは日本政府や米軍といった組織のコネクションを利用するのがドラマチックな動きができて面白いのですが、今回は柳瀬パパの資金(たま)弱点(あな)もしゃぶり尽くしてやります。

 

 まず前提として、コネクションは所有しているとサブイベントを見ることができたり、組織経由で本筋とは関係無い依頼を受注することができます。いわゆるオープンワールド系のゲームでいう「おつかい」イベントですね。

 

 所属が親衛隊だったら各キャラクターとの心温まる日常交流イベントを見ることができたり、アプリ版の調査隊にコネクションがあったら、南无薬師景光捜索やスルガさんを倒しに行くイベントに関与できたり。政府や軍にコネがあると、荒魂事件の裏側で蠢く様々な思惑の中で暗躍…など、本編ストーリーと同時進行で別視点を見ることができるのですね。これによって、刀使ノ巫女世界の断片を多視点から垣間見ることができます。

 

 

 ですが、組織にも大小があり、例えば特別祭祀機動隊(綾小路武芸学舎)作戦本部とかにコネクションを持つと、ほぼ参謀である水科絹香お姉さま関連のイベントが中心になります。まあ私は別のキャラで走った時に、お姉さまの右腕として当然イベントはコンプリートしましたが(唐突な自分語り)

 

 大組織だと大きな動乱や陰謀に間接的に関与できるのですが、比較的小さい組織、または人数の限られた組織だと発生イベントが限定的になってしまいます。絹香お姉さま関連のイベントだと、妹さんである綿花ちゃんにあげるプレゼント選びに付き合ったり綿花ちゃんに着せる服を一緒に選んだり綿花ちゃんの誕生日を一緒に祝ったり、そんな微笑ましいサブイベントばっかりですからね。

 時々、荒魂退治をしたり、部隊長をしてた木寅ミルヤお姉さまと話したりもしましたが…絹香お姉さまがシスコン拗らせてるのを眺める以上に萌えるイベントは無かったので…(性癖吐露)

 

 閑話休題。

 

 所属する組織、関係している組織によって発生するイベント、受注可能な依頼が異なる、というところまで説明をしました。

 では、今回、ホモちゃんがコネクションを所有している『柳瀬グループ』はどういった組織なのでしょうか?

 

 ここで、昨晩確認した依頼のリストを眺めてみましょう!

 

 

・依頼1『柳瀬舞衣の動向調査』

 依頼主:柳瀬孝則

 内容:柳瀬の娘である柳瀬舞衣が家に帰ってこない。刀使としての守秘義務があるとは承知しているが、無事でいるのか、元気にしているのかを確認してほしい。

 

・依頼2『柳瀬舞衣の安全確保』

 依頼主:柳瀬孝則

 内容:執事の柴田から伝え聞いているが、鎌倉の折神家で事件があったそうだな。それに関して、娘があらぬ疑いをかけられていると聞く。柳瀬の娘に万一があってはいけない。身の安全を確保することは当然だが、事実無根の疑いを晴らすよう手を回して欲しい。

 

・依頼3『柳瀬舞衣の身辺護衛』

 依頼主:柳瀬孝則

 内容:舞衣が荒魂と交戦したそうだな。滅多に我儘を言わない愛娘の願いとはいえ、危険な任務に就くこともある刀使になることを許してしまったのは…いや、それは言うべきではないか。だが、親としては心配なのだ。それとなく護衛し、危険が迫る前に対処してほしい。

 

 

 ーーーはい。どう見ても親馬鹿です。本当にありがとうございました(生暖かい微笑み)

 

 時々、政財界の大物の護衛任務や、明らかにブラックな依頼が舞い込むこともあるのですが……少なくとも、このタイミング(舞衣ちゃんが鎌倉から戻ってこない)では、ほぼ100%で舞衣ちゃん関連の依頼が発生してくれます。……親馬鹿かな?

 

 なーのーでー、ここで任務受注をしておくことで、鎌倉から京都に帰還しない理由を作ることができるんですねー。ほら! うちって柳瀬グループの傘下だから! あたしが断ったらパパとママが困っちゃうから! だから仕方ないの!

 

 ーーー余談ですが、柳瀬グループ関連の依頼は、総じて報酬がかなり良いので金策としてはオススメです。純粋な刀使としては御刀の拵えを奢るくらいにしか使い道のないお金ですが、覚えておいて損は無いかもしれません。

 

 さて、これでホモちゃんは依頼名目で鎌倉に残留することができた訳です(無敗) 各校で試走を繰り返して見つけた柳瀬グループルートなのですが、これはコネクションさえ所持して依頼受注しておけば安定するのでうま味です。強いて言うなら、今夜から折神屋敷に宿泊することができなくなりますが、どうせ明日夜には鎌倉を脱出するので問題ありません。駅前の安ホテルでも確保しておきましょう。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「それじゃあ、結局、岩倉さ…じゃない、早苗ちゃんも帰っちゃうんだねぇ」

 

「うん…。本当は待ちたかったんだけど。でも、こうなったら先に帰って、十条さんが戻ってきたときに迎えてあげられたらな、って思って」

 

 鎌倉駅までの道すがら、いくつかの制服が混じり合う中を歩いていく。紅葉は、岩倉さんと距離を縮めるのに成功したようで、いつの間にか呼称も変えているようだった。互いが同級生だと判ったのも大きかったらしい。どことなく幼げな印象になってしまう平城の制服姿と、白系で統一された綾小路の制服。身長差も相まって、遠目では同級生に見えないだろう。尤も内面は、紅葉はフランクというか砕けた喋り方をするし、岩倉さんは柔和さと気丈さの両方を持っているから、岩倉さんのほうが大人びているけれど。

 

「葉菜は…何だっけ。学長からの呼び出し? だっけ?」

 

「それは本来、紅葉も一緒なんだけどね。戻ってくるように、って話は来ていたんだろう?」

 

「あ、あはは…。そこは、うちの家の事情というヤツなんだよぅ…」

 

 目を逸し、言葉を濁す紅葉の姿に、僕は嘆息した。

 

 お互いの秘密や、隠していたことを打ち明けあった夜から、『そういったこと』については隠さないようにしようと、僕と紅葉は決めていた。言えないことについては、『それは言えない』ってちゃんと伝えること。でも、嘘は吐かないようにしよう…それは、親友の間で結ばれた小さな約束だった。

 

 隣で「家の事情…?」と、きょとんとしてしまった岩倉さんを見て、僕は顔に薄い笑顔を浮かべる。

 

「ほら、綾小路(うち)は伍箇伝の中だとそれなりに歴史があるから、割といいとこの子息や令嬢も比較的多いだろう? 紅葉も、そういった『家』の色々があるらしくてね」

 

「いやぁ、えっと…。それで、ちょっと、ね」

 

 ぎこちなく笑みを浮かべる紅葉に、僕はニヤリと表情を作ってみせる。

 

「なんだい、他人を『お嬢様』呼びして揶揄う癖に、自分が言われるのは嫌なのかな?」

 

「もう…。あたしはお嬢様って柄じゃないもん」

 

 口先を尖らす紅葉に、僕はごめんと笑いかける。……これくらいを誤魔化すには、別に嘘なんて必要ない。紅葉がそれなりの家の令嬢なのも真実、その関係で一緒に京都へ帰れないのも本当。学長から帰還するよう言われていたのも確かだし、今の数言に偽りは何一つ無い。ただ、全てを岩倉さんに話してはいないだけだ。

 きっと、むくれてしまった親友は、少しも気づいていないのだろうけれど。

 

 

 

「ーーーじゃあ、一緒にいれるのもここまで、かなぁ」

 

 鎌倉駅の改札前。

 そこまで辿り着くと、紅葉はくるりと回ってこちらに向き直った。彼女は感情表現が素直だ。楽しかったら笑うし、不機嫌になったら頬を膨らます。だから、別れる段になって急に寂しくなったのも見て取れた。

 

「あ、そうだっ! 早苗ちゃんも連絡先、交換しよっ! こっちで何か判ったら連絡したいしっ、そうじゃなくてもLain(ライン)するからっ」

 

 思いついたようにスマートフォンを取り出す姿に、僕と岩倉さんは顔を見合わせて、そして笑ってしまった。ここ数日、非日常的な出来事が多かったからか、紅葉のあまりに日常じみた言動が微笑ましかった。

 

「……うーん。あとは、沙耶香ちゃんかー…。沙耶香ちゃん、ちゃんとスマホ持ってるのかなぁ…」

 

「あれ? 柳瀬さんとは昨日交換したんですか?」

 

「うんにゃ、舞衣ちゃんのは元から知ってたからねぇ…」

 

 ぶつぶつと呟きながらスマホを凄まじい速度で叩いていく紅葉を、岩倉さんが不思議そうに眺めていた。ついで、というのも変だけれど、僕も話の流れに沿って連絡先を交換する。…学生としての身分で持っている私用のスマートフォン、つまり任務で使っている物とは別の連絡先になってしまうけれど。

 

 

「ーーーそれじゃ、またねっ! 何かあったら連絡するからっ!」

 

 大げさに手を振る紅葉に背を向けて、僕は京都への帰路に就くことになった。……また会える、そう言っていたものの、再会が予想外の場所と時になってしまうことを、この時の僕らは想像もしていなかったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

はい、葉菜ちゃんと岩倉さんを鎌倉駅で送り出しました。今回は岩倉さんを残留させることができなかったので、それによる変動ポインヨを思考しながら、とりあえずコンビニに直行します。

 

 購入するのは「ユンユン刀帝ローヤル(栄養ドリンク)」「カロリーフレンド(シナモン味)」です。ここから丸一日半、ホモちゃんの食事はこの二種類だけです。購入したら鎌倉駅前のホテルに直行します。ホテルは、旅館、ビジネスホテルと選べるのですが、今回はラブホテルに向かいます。

 

 ……あ、訂正です。今回の環境は「PC版(全年齢ver)」なので、正確には「怪しい格安ホテル」ですね。

 

 流れるような移動で格安ホテル()に入り、最上階の部屋を確保します。無意味に高い場所を確保した訳ではありません。一応理由はあります。

 

 部屋に入ったら、速攻でステータス画面を開きます。限りなく地味ですが、順序よくテンポ良くボタンを押していきましょう。完了した依頼の報告、食事、テレビを見る、等、とにかく時間を先に進めるイベントを発生させます。この時、時間帯によっては非常階段を調べると「屋上に登ってみる?」と選択肢が出ます。夕方、夜、朝、昼と鎌倉の街並みをいつもと違う視点で見下ろすことができます。少し遠くに折神屋敷があるのも視認できますね。はぇ~すっごいおっきい…これは立派なお屋敷だぁ…。

 

 茶番をしている時間はないので、屋上から降りて部屋に戻ったら、時間をスキップするためにあちこちを調べます。部屋の中にある大きなベッドを調べると、「運動」と「休憩する」のコマンドを選べます。あとゲーム内で24時間ほど進めないとイケないので、とりあえずホモちゃんには上限の六時間ほど運動して貰います。

 

 ……刀使饅頭少女運動中……

 

 あ、筋トレの結果、筋力が少しだけ上がってくれたようです。ここで実行できる運動は、武道場や模擬戦に比べると経験値の獲得量が少ないのですが、無為に時間を潰すよりは有用です。

 

 さて、あとは似たような動作の繰り返しになります。ホテルの一室で食事して運動して寝て休憩して、時々屋上に登ったり、テレビを見たり。夜が明けたら葉菜ちゃんに電話してみたり、そういった行動で時間を進めます。大きなイベントはありませんが、ステータスウィンドウの操作ミス等をすると「短縮できたのに…!」みたいな悔しさに包まれるパートなので、慌てず冷静にボタンをポチポチしましょう。ボタン押し間違えをしてしまっても、ロスは大きくないので焦らない精神が大切です。(21敗)

 

 翌日夕方になるまでは加速です。(15倍速)

 

 はい。再び動き出す直前に、ユンユン刀帝ローヤル(栄養ドリンク)を飲んでおきます。部屋を出たら、屋上に登り、すぐ戻って非常階段を駆け下りてホテル外へ向かいます。一度屋上に出るのは、「鎌倉市街マップ(夜)」を読み込ませるためです。これにより、「沙耶香ちゃん出奔」の関連イベント…アニメ本編でいう第七話後半に突入します。

 

 

 

 ーーーさて、視聴者の皆様には「なんでこんな面倒な時間調整したの? 本編イベントに関与して進めればええやん! まいさや成分が足らん!」とお怒りの方もいらっしゃるでしょう。まま落ち着いて、アイスティーでも飲んでください。

 

 ここで面倒な時間調整を入れたのは、何度か過去の動画でも存在を匂わせていた『経験値大量獲得ポイント』が存在するからです。ここで経験値を獲得するには、舞衣ちゃんと沙耶香ちゃんに接近しすぎてもダメ、しかし鎌倉市内に留まっていて、アニメ7話でのイベントを発生させる必要があります。

 本走で採用したチャートは、ある意味で極めて汎用性の無いルートです。本編準拠シナリオなのに汎用性が無い? そうです、これは誰でもチャートに組み込めるような短縮要素ではなく、「この短縮要素を採用したいのでチャートを1から考える」といった類のモノになります。

 

 わかりやすく書くと、「舞衣ちゃん沙耶香ちゃんが結芽ちゃんに敗北し、高津学長が神社エリアに移動した瞬間にプレイヤーが介入する」 アニメのセリフでいうと、高津のおばちゃんが『何をしている、結芽ッ!』と怒声を上げる瞬間を狙います。ここのタイミングで乱入します。与えられた猶予は、結芽ちゃんの『はいはい、わかりましたー」の台詞が表示されるまでの間です。

 この瞬間だけ、経験値を一瞬で稼ぐことができます。

 

 

 

 さて、ここで問題です。

 

 現在のホモちゃんの状態は、スキル込みで接近していったため『隠密』状態です。

 目の前には、背中を向けた鎌府のモブ刀使(5名)がいます。

 ちなみに、ホモちゃんが今まで取得したスキルは『抜刀術』『暗札剣』『隠密剣』です。

 

 

 はい、答えは簡単ですね!

 

 モ ブ を 斬 っ て 経 験 値 に し ま す

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 それは、時間にすれば数秒の出来事だった。

 

 糸見沙耶香の追跡に動員された鎌府の刀使達は、決して練度の低い人員では無かった。必要であれば武力で沙耶香を捕縛することも想定し、各員は一定水準以上の技術と連携を身につけていたのである。御刀こそ抜いていないものの、写シを身に纏った臨戦態勢であった。ーーー故に、彼女らが不覚をとった理由は、あまりにもその一撃が予想外の方向から飛んできたという事実に尽きるだろう。

 

「ーーーな…っ!?」

 

 最初に倒れた隊員は、自分が背後から突き刺されたのだと理解しないまま意識を失った。次に倒れたのは、その隊員が突然崩れ落ちるのを視認し、けれど脳が認識せずに身動き一つ取れなかった隊員だ。背後からの刺突、闇を滑るような逆手袈裟斬り、斬り降ろしの体勢から更に斬り上げて…これで三人倒れた。

 

 残りの二名は、事態は呑み込めないまでも咄嗟の判断で御刀を抜いた。そこまでの判断は正しかった。だが、抜いた刀を向ける敵を見失っている。

 あらぬ虚空に突き出しただけの剣尖は、奇襲者にとって何の障害にもならない。己の身を守りたいならば、正面に構えるのではなく、背後に振り向いて切り払わねばならなかっただろう。結果、抜いた刀は一度も振るわれることはなく、二名とも背中から斬られ昏倒した。

 

「おっそいなぁ」

 

 薄闇の中から、声がした。

 声は女のものだ。少女と呼んで差し支えない、稚気の残る声色。だが、口振りからは苛立ちが漏れていた。

 

 遅い、遅い、と。

 

「ーーー本当に、自分の動きが遅くて嫌になっちゃうねぇ。こういう大事になる前に先に動くのが仕事なのに、結局は後手になっちゃうんだよねぇ。…仕方ないっちゃ、仕方ないんだけどさぁ…」

 

「貴様…! 本多、紅葉…ッ!」

 

 一人だけ無傷のまま放置された高津学長が、憎々しげに吐き捨てる。目の前には、白と灰色を基調とした綾小路武芸学舎の制服姿がある。

 手に握られているのは鬼神大王波平行安。刃長は三尺余、柄が一尺三寸。大太刀にも近い拵えの御刀であるが、持ち主である刀使の長身によって、不思議と長さを感じさせない。

 刀の担い手は、五人を斬った後とは思えない平然とした表情で口を開いた。

 

「どうも、一日ぶりだねぇ。……まさか、こんなことになるとは思わなかったけど。 大丈夫? 舞衣ちゃんと…沙耶香ちゃん」

 

 紅葉は、背に二人を庇うように構える。

 

 柳瀬舞衣と糸見沙耶香は、紅葉が乱入する前の戦いで消耗しており、石畳の上に崩折れたままだ。このまま戦いとなれば、守り通すのは至難だろう。増して、目の前に残っている戦力は、生半可な刀使などでは無くーーー。

 

「なぁんだ。おねーさん、今まで本気出してなかったんだ?」

 

「いやぁ、折神の屋敷で本気で斬り合う訳にもいかないでしょ。任務でもないのに刀を抜くほど、あたしはバトルジャンキーじゃあ無いし」

 

 折神家親衛隊、第四席。燕結芽。

 その目が、隠しきれぬ戦意に爛々と輝いている。神社の境内の暗闇を、隅々まで射抜く燃える瞳。燃えているのは好奇の色、宿るのは危ういまでの無邪気さ。目の前に蝶々が飛び込んできた虎のように、燕結芽は再び刀を抜こうとする。

 

 

「くっ…」

 

 瞬間、結芽の表情が僅かに歪んだ。

 柄を握ろうとしていた右手が、反射的に左胸に伸びる。宿痾となった息苦しさと疼痛が、これ以上は身体を動かせないと知らせていた。

 もちろん、動くことはできるだろう。己の命を燃やし尽くして、結芽は身体を動かすことができる。肉体が悲鳴を上げても、それを捩じ伏せて刀を振るうことはできる…でも…。

 

「ーーー守りながらじゃ、おねーさんも本気で戦えないでしょ?」

 

 こちらも不調だが、あちらも万全では無い。

 結芽が望むのは一対一の真剣勝負、本気の死合いであって、足手まといを庇いながらの戦いなどではないのだ。それに…今まで手の内を見せずにのらりくらりと躱してきた相手が、素直にこの状況で立ち合いに応じるとも思えなかった。大方、二人を逃がすための時間稼ぎだとか、途中で逃走に切り替えるだとか…そういった、酷く詰まらない展開になってしまうことだろう。

 

 だから、結芽は言う。

 見逃してあげる、と。

 

 高津学長が煩く喚いていたが、結芽にとってはそんなことはどうでもよかった。ただ、今戦っても何の意味も無い。結芽には、無駄なことをしている時間も余裕も無いのだ。次の機会、そう次があれば、その時は…。

 

「ーーー次は、本気で戦ってよね?」

 

 ああ、自分の身体が保つうちに、早く次の機会が来てほしい。そう、結芽は心の裡で呟いた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。