サイドストーリー |
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ライブ会場に見立てた舞台が展開されるその場所は人工島【オノゴロフロート】と呼ばれる場所に建てられた軌道エレベーター【アメノサカホコ】の先にある【アメノウキハシ】と呼ばれる衛星拠点。
見上げれば満天の星空と大きな青き地球を同時に見る事の出来る、地上では動画越しでしか拝めない大迫力な光景と呼べる場所。
そこでは今、二つのある計画……事前に説明のあった
例えば、テロへの警戒も含めた不測の事態の際の各スタッフの動きの確認だとか、モルフォの動きに合わせた照明や大規模なAR技術を利用した立体映像等の外部エフェクトの微調整等だ。
それらの計画でボクはシアンの護衛と言う形で皇神のマークが背に描かれている専用の防護服を身に纏い、シアンと共に専門のスタッフの人達と打ち合わせに参加していた。
この二つの計画、当初打ち上げられた時は両方を実現するのは不可能に近い環境にあり、特にモルフォ復帰記念ライブは計画すら立てられておらず、今の様な真っ当な空気を持った計画では無かったと言う。
その理由は、シアンの事を実験体扱いしかしない心無い科学者達であったり、能力者達に対する皇神社内の差別的な風潮。
更に歌姫プロジェクトは当初、全世界の能力者達を洗脳すると言う後ろめたい非道な、誇れるものでは無い計画。
そんな計画な物だから、真っ当なスタッフを始めとする関係者は日に日に病んで行き、精神に支障をきたし……簡潔に言えば、空気が最悪に近い状態だった。
これを何とかしたのが僕を護衛と言う形で依頼をして来たフェムトと、彼の上司であり、歌姫プロジェクトの責任者であった紫電を始めとした皇神所属の能力者達の努力だった。
特に、僕がシアンを連れ去った事が切欠でそれ等の問題を何とかする事が出来たのだそうだ。
その方法の詳細はフェムトが言うには禁じ手を使ったり、ボクがシアンと共に逃げた事に対する責任を合法的に押し付けて地位を高めたり等、真っ当な方法では無かったらしい。
まあそんな訳で、シアンは再び戻った当初、以前の皇神グループ内の雰囲気が各段に柔らかくなっている事に驚いていた。
これらの事を振り返りつつ護衛を続けていた僕の目の前で、シアンは
「じゃあ、最後に腕輪着用時の動作の最終チェックをしよう」
「はい! ……モルフォ、お願い!」
『任せなさい、シアン。GVや私の帰りを待ってくれた沢山のファンの皆の為、失敗は出来ないもの』
シアンが受け取り身に付けている腕輪は、フェムトが言うには彼女が持つ
この様な形となった背景には歌姫プロジェクトの大幅な見直し、つまり今の仕様に変更する際の大改装の序に行われた事が上げられる。
当初はシアンをコアと言う形で直接機械に接続すると言う物であったのだが、
その結果、アメノウキハシ内で専用の腕輪を身に付け、腕輪の接続先の機械が埋め込まれた専用の舞台でモルフォを歌わせれば、一週間はシアンが居なくても効力を発揮するようになったのだ。
因みにフェムト曰く、シアンが戻って来る直前まで安全性重点に力を入れ過ぎた結果デスマーチが続いていたと、その当時を思い出したかのように死人の様な顔でボクに話をしていたのであった。
……モルフォが舞台の上で軽やかな動きを見せている。
その動きは一部の仕事の終わったスタッフも見惚れる程に美しい物だ。
曰く、以前のモルフォと比べて動きはあまり変化は無い物の、感情表現に関しては格段に良くなっているとの事。
その感情表現は人によって様々な意見がある。
例えば、表情や身振り手振りがより人間らしくなったとか、恋を覚えた少女の様な雰囲気を纏う様になったとか、歌い方が変化した等、他にも様々な意見が噴出していた。
そんな風に意見がバラバラでも、共通している事もある。
少なくとも、以前のモルフォよりもずっと魅力的になったという事だ。
そんなモルフォを、何処か怪し気に見つめる存在がボクの視界に収まって……いや、意図的に外さない様に視界に収めた人が一人。
その人の名前はパンテーラ。
フェムトが言うには、彼は電子の謡精の情報を調べていた形跡があった為、何処かの組織のスパイなのではと疑われている。
そう、彼はフェムトがボクにシアンの護衛を依頼する切欠とも言える存在だ。
そんな彼が何故この場に居るのかと言えば、リスク的に計画から外して目を離す方が危険であると判断された為。
……彼は何処か焦がれるような視線でモルフォを見つめている。
少なくともモルフォに対して関心は高いのは確かなようだ。
そして、
実はフェザーのメンバーの一部、具体的に言えばチームシープスの皆が、ボクが事前に送っていた施設の構造の情報を元に潜入していた。
彼らは人気の無い場所で待機しており、退路を確保した上で僕の持つレンズと指輪を経由してこの会場内の様子を見て、聞いている。
このレンズと指輪のアイディアと作成には、アシモフの古い知り合いのとある人物の力によって実現した物だ。
生体電流を利用した思考による通信を始めとした機能も、ボクの
その筈なのだけれど……どうにも皇神側に意図的に見逃されている可能性が高いと僕は感じている。
何故ならば、このアメノウキハシの施設内部の全てが、フェムトの
こんな風にスルーされてしまうと、逆に動くに動けない。
無警戒なのか、そうで無いのか。
その見極めが難しくなった為、結果としてアシモフ達は何かあった時、即座に退却する事を前提で動かざるを得ないし、ボクも相手が皇神とは言え護衛の依頼を引き受けた以上、もしアシモフ達が見つかったら形だけの形式とは言え応戦せざるを得ない。
しかもこのまま何も対策しないまま滞在していた場合、ソナー機能によって捕捉され、能力の封印までされてしまうだろう。
それでも尚ここにアシモフ達が居るのは、無策で突入したからでは断じて無い。
(……皆、どうやら最終リハーサルが終わったみたいだ。これから歌姫プロジェクトが始まるから、注意して欲しい)
《了解だ、GV。しかしまあ、見事にオレら、釣られちまったな》
《ええ……》
《だが、電子の謡精によるソナー機能が起点であったのが幸いしたな。お陰で、私の古き友人が用意してくれた妨害装置が役に立つ。備えあればと言う奴だ》
《だけどよ、何でオレらは見逃されてるんだろうな?》
《GVの情報が正しければ、私達はもうとっくに捕捉されている筈よ》
(……将来的に、ボクを起点にフェザーを取り込もうと考えているのかもしれません)
《おいおい……いくら何でもそりゃあ無いんじゃねぇの? もしそうなら、甘ちゃん所か下手したら害悪扱いされても不思議じゃねぇぞ》
《本当にGVの言う通りならば、実に甘いと言わざるを得ないが……》
《……これまでGVから得た皇神の内部情報だけど、ビックリする程能力者達の待遇が良くなっていたわね》
《それだけでは無く、最近のメディア関係で経由される情報も、徐々にではあるが能力者達に関してポジティブな物に変化しつつある。そしてそれは、皇神の内部における技術的革命が起きたとされる日を起点に発生している》
《技術的革命ねぇ……まあ確かに、GVが調べてくれた日を起点に皇神の奴らの装備や宝剣持ちの能力者も洒落にならねぇ勢いで強化されてるもんなぁ。オレ達チームシープスは兎も角、フェザー全体で見りゃあ苦戦や敗走する事も増えてきちまってるしよ》
(皇神はボクが持つこれまでの情報を合わせると、能力者達に対して大幅な歩み寄りを見せているとしか言いようが無い)
《客観的に見れば、我々フェザーの主張を徐々に受け入れている様にも見える……か。なるほど。このままでは近い未来、私達フェザーは能力者達からも切り捨てられ、孤立する事になる可能性が高い。実に巧妙な手口だ》
《つまりよ、今までオレ達は知らない内に外堀を埋められていたって事なのか?》
《……このまま私達が戦い続ければ、無関係な人達から見ればフェザーは歩み寄ろうとしている皇神を拒んでいる様に見えてしまうわ》
《そしてフェザーを支援しているスポンサーも大義名分をやがて失い、旗色が悪くなり……我々は最終的に切り捨てられデッドエンド……そう言う事だろう》
つまり、皇神からすればフェザーを排除するにしろ取り込むにしろどちらでも良いと言う、アシモフ達からすれば積みの状況に追いやられてしまったのだ。
このシナリオを描いた人物は、恐らくフェムトでは無く別の存在だ。
彼はこれまでの付き合いで、少なくとも嘘を付いたり誰かを騙せるような性格をしている様には見えない。
では、誰がこのシナリオを構築したのか?
そう考えている内に、遂にモルフォ復帰記念ライブも兼ねた歌姫プロジェクトが始まり……フェザーはその後、新たな事実を突きつけられる事で、大義名分を将来必ず無くす事が確定する事実が発覚するのであった。
GVとの交渉を終えた後の流れは比較的穏やかだった。
フェザーがGVを通じて情報収集に集中して潜伏するようになった事で表立った直接的なテロが大幅に減った事に加え、シアンが戻ってきた事で計画されていた
当初の案では世界中の国に居る能力者全員を洗脳すると言う過激な案であった歌姫プロジェクト。
これが今の様に比較的落ち着いた案になった背景には様々な要因が存在している。
それは世界中の能力者を洗脳した場合、それを理由に各国がこの国に対してヘイトを稼ぐ要因になるのではないかと言う物。
他には世界中の能力者達を収容する施設の確保や維持、そして決定的だったのが、この計画を維持するのに一人の能力者であるシアンに対して恒久的に依存しなければならないと言う冗長性の無さが致命的だった。
だけど、そんな穴だらけの案なのにも関わらず通さなければならない程、世界中の情勢は何が起きても不思議では無い酷い物であり、それは現在でも変わりは無い。
そんな中、
代表的なのが、既存の装備の拡張パーツとして理論上誰でも使える宝剣とか、シアンの能力を拡大させる機械の大幅な改良辺りだ。
こんな風に技術的な革命が続いた為、歌姫プロジェクトは今の様な形に至る事となった。
それと同時にモルフォ復帰記念ライブも行われ、それは凄まじいと言う言葉では表せない程強い熱気を持った大勢の人達によって諸手を上げて再び歓迎される事となる。
そう、帰って来た国民的バーチャルアイドル、平和の象徴として。
それはまあさて置き、歌姫プロジェクトが発動して仮初の平和を手に入れてから一ヵ月が経過した。
「現段階のこの国に居る能力者達の収容率は一割程度か……まだまだ、先は長いね」
「歌姫プロジェクトが実施されてから一ヵ月程度しか経ってないし、まだまだノウハウが最適化されてない状態で一割は上等だと私は思うけどね、紫電」
「って言うかよ、オレ達能力者がこの国にどれだけ居るのかちゃんと分かるようになったってのは、大きな進歩だろ?」
「確かに、デイトナとフェムトの言う通りなんだけど……しかし、ここまで能力者の発生が広がっていたなんて想定外もいい所だよ」
「
歌姫プロジェクトを発動させた際、アメノウキハシにある会議室にてイオタが言う様にこの国の七割の人達が既に能力者だという事が発覚した時、あの場に居た計画の要であったシアンとその護衛であるGV、そしてスパイ疑惑のあるパンテーラも含めた私達全員が、その余りの結果に茫然としてしまった。
いやまあ、潜在的な能力者はそれなりに居るだろうとは思っていたけれど、それでも七割は多すぎる。
ここまで詳細に調べることが出来た理由は、範囲を限定した上で電子の謡精の力の増幅率が、当初の目的に必要な出力と安定性を改善前よりも大幅に増した事で、モルフォの歌を聞いて具合が悪くなる人達を無くしつつ、より潜在的な能力者の割り出しが可能になったからだ。
念の為潜在的な能力者と既に発現している能力者との区別が出来る様にした事は実に不幸中の幸いであり、優先順位をハッキリ出来たのは私達皇神グループの負担軽減に大いに貢献してくれた。
流石にここまでの大人数を優先順位が不明慮なままで管理するのは物理的に不可能であり、非現実的と言わざるを得ない。
そう考えると、あの時GVがシアンを連れ去った事は危険思想持ちの研究員の
因みに紫電の言う一割と言うのは、現段階で能力が具体的に発現した能力者達の割合だ。
「一応歌姫プロジェクトその物の方はシアン無しでも
「それはボクも分かってるつもりだよフェムト。だけどこのあり様では当面の間はこの計画に依存せざるを得ないのが実情だね。まあ少なくともこの問題を何とかする時間は稼げたし、悪い話ばかりじゃないさ。例えばストラトス……例の薬物の依存を許してしまった彼の治癒の活路に、最近スカウトした植物を操る能力者の力を借りたりしてね」
「あの人の能力の強さその物はアサガオを咲かせるくらいでしたけど、能力因子を培養して誰でも使えるようにした事で、品種改良が物凄く捗って好評であると試験を担当している現場では喜んでいますよ」
「あの能力、上手く使えば今ある環境問題や食料問題にも本格的に着手出来そうなのが大きい。間違い無く将来、わが国の大きな礎の一つとなるでしょう」
「ま、将来的な問題は今じゃどうしようもねェもんなぁ。今のオレ達に出来るのは、コツコツと出来る事を積み上げていく事だけだしな。オレの能力の
「だけど、実際に現段階で民間での運用ができるようになるまでにはまだまだ総合的にノウハウを積み上げて、無人戦車を始めとした軍隊装備の更新がしばらくは続く事になると思うけどね。夢が広がったのは嬉しいけど、民間利用にはまだまだ研究も積み重ねも足りないと言わざるを得ない」
とまあ、こんな風に能力者を能動的に効率よく探せるようになったお陰で恩恵を受けている面もあるので将来的には絶望よりも希望の方が大きい。
ただそうやって第七波動に依存すると、別の問題が浮上して来る。
例えば、能力者に対して敵意を持っていたりする差別者等だ。
これに関してはこの国の外では物凄く深刻で致命的な問題となっており、心無い発言や行動で能力者達を激怒させ、致命的な問題を起こすと言う流れがあちこちで発生しまくっているお陰で中には国を維持できない状態にまで追いつめられた地域も数多く存在していると言う。
そうなると能力者側も自衛せざるを得ず、最終的に出来上がったのが多国籍能力者連合エデンやフェザー等の組織だ。
ただ、これらの組織に関しては歌姫プロジェクトのお陰でこの国での第七波動を用いたテロ行為が未然に防がれているので実害は計画発動前に比べて大幅に低下した。
特にフェザーに関しては、
その詳細を後で聞いた時、実にメラクらしい方法と言えた。
何しろ自分達は動かなくても勝手に相手は崩壊するか軍門に下るかの二択を強要させたのだから。
人は正義を掲げられればテロ行為だって容易く行える。
しかし、もしもその正義が取り上げられてしまったらどうなるか?
その答えが、今のフェザーの状態なのだろう。
なので、現在では能力者の差別を煽っている勢力をどう叩き出すかが課題となっていたのだが、それについては私達の中では余り問題視していない。
何故ならば、一度第七波動を用いた生活用品が将来的に普及して生活水準が上がってしまえばそれから抜け出す事は困難である事。
そして自身も潜在的な能力者である可能性が極めて高く、現状でもこの国の能力者の割合が約七割である事。
他にもこの一ヵ月間でのデータを纏めただけでも、将来的にこの割合は上昇を続ける事が確認出来る位に上昇している為、どう足掻いても近い未来、彼らの主張は必ず矛盾し、破綻するからだ。
故に、これらの主張は今はまだ幅を利かせるかもしれないが、将来的には確実に消えてなくなる。
……と、これ等に関して喜んでいられたのは連絡要員の皇神兵の報告を聞くまでだったのだけれども。
「……パンテーラがやられただって?
「ハッ!
「……フェザーの活動も今は抑えられているこの状況で彼がやられるなんて、よほどの事が無い限りありえない。何か情報は残っていないかい?」
「それに関してなのですが、パンテーラがやられた情報が入る直前に紅白の
「……なるほど、彼ですか。報告ありがとう。持ち場に戻っていいよ」
「ハッ! それでは、失礼しました!」
「……知ってるの? 紫電」
「パンテーラを倒した相手は恐らく神園博士の息子、【アキュラ】で間違い無いだろうね」
「アキュラ?」
「……彼は私怨で動いている
「おいおいマジかよ。あのパンテーラの野郎はいけ好かない野郎だが、お前とタメ張れる位には強かった筈だぜ。そんな奴がただの人間相手に不覚を取るなんてあり得るのかよ?」
「それがあり得るのさ、デイトナ。……世の中には居るんだよ。ごく稀に、本物の天才って言うのがさ」
「……ねぇ紫電。彼は私怨で動いているって言うけど、それは何故?」
「……そうだね。フェムトもある意味関係者だ。知る資格はある。でも、あまりいい話じゃ無いよ?」
「…………」
「まあ、もし知りたければ後でボクの部屋に来て欲しい。この話はあまり大っぴらにしたくは無いからね」
そうしてこの場の話は終わり、一旦この場は皆解散し、その後私は紫電の部屋へと赴き、その事情を聞く事となった。
その内容は紫電が客観的に集めた情報を見た上での予測も含まれるが、彼の私怨の根底には皇神グループによる神園博士の死の隠蔽と博士本人が主張していた能力者の危険性が関連しているらしい。
彼は第七波動を制御する様々な技術の根幹を開発した科学者であり、その分野は霊的遺物も含めたオカルトすらも含まれていると言う。
実際、紫電やデイトナ達の持つ宝剣はその技術が使われており、私の持つ自立型の宝剣よりも強い力の制御、封印措置を可能としている。
但し皇神側からしてみれば、あまり融通の利かない性格を持った人との認識もあったようだ。
例えば、言動も能力者の事を「バケモノ」と言い嫌悪する様子もあり、人工的に能力者を作る事にも非常に強い嫌悪感を持っていたり、再三に渡って能力者に対する危険性について上層部に説いていたりと言った感じにだ。
他にも、神園博士の娘である【ミチル】と呼ばれる少女が持っていた、今ではシアンが持つ第七波動である電子の謡精の能力因子を摘出したり等もしていたらしい。
そして、そんな彼の死因は当時のプロジェクト・ガンヴォルトの被験者であった
その結果研究施設は消滅し、皇神は世間的に公表するのはマズイとして
「とまあ、神園博士についてはこんな感じだよ。……正直な話、君はどう思った?」
「……仕方がないと思う一面もありますが、自業自得な一面もあると言うのが率直な感想です。恐らくですが、第七波動を激しく嫌悪した背景には研究データと、娘であるミチルさんが第七波動で苦しんでいた事だと私は考えています。そして、アキュラはそんな彼の影響を多大に受けていると考えるのは自然な流れだと思っています」
「その通り。それが理由でアキュラは僕達能力者の声に耳を貸す事は無い。仮にボク達が隠蔽した事実を公表しようとしても、彼は耳を貸さないだろう。それこそ、
「だけど、彼を放っておくのは私達から見れば危険な行為だよ。何か手を打たないと不味いと思う」
「実際、表面的には発覚してないけど彼の暗躍によってパンテーラ以外、襲われている能力者が居るのは事実だ。……一応、手は打ってある。少し前に皇神の機密情報……主に神園博士関連のセキュリティに関する情報をこっそり神園家の関係者に流す事でね。そうすれば嫌でも裏取りしてくれるだろうし」
「……どうしてそんな回りくどい事を?」
「自分の身内が手に入れた情報って、赤の他人に聞かされるよりも信用できると思わないかい?」
「……言われてみれば確かに」
「こういう面倒な事も、皇神グループに所属している内にすっかり慣れてしまったよ。……話を戻そう。まあそういう訳で、ボク達が出来るのはこうして向こう側がしっかり情報を集めてくれるのを待つしか無い」
「……紫電、神園博士の研究データの中に、第七波動は群体生物であるって情報、含まれていると思う?」
「……分からない。神園博士は皇神にも残していない研究データもあったらしいって言う話も
「そう考えると神園博士の研究データそのものには含まれては居ない可能性は高いけど……だけど彼は、アキュラは紫電も認める程の人物だ。神園博士から引き継いだ研究データを元に私達と同じ様に、第七波動に対して同じ結論に至る可能性はある筈だよ」
「彼に対して皇神の技術的アドバンテージは無い、若しくは下回っている可能性も考慮に入れる必要があるか……まあ彼は天才であるとは言え所詮は個人で動く人さ。少し前のフェザー程優先するべき相手じゃない。まあ取り合えず話はここで終わり……いや、そう言えばもう一つ用事があったのを忘れてたよ。確かこの辺りに……はいこれ。この手紙を君に渡すようにガンヴォルト経由で渡されたんだ」
「GV経由で……? 直接私に渡せばいいのにどうして?」
「仕事の関係上君とすれ違っちゃったみたいでね。ボクが代わりに預かっていたのさ。君の手が空いた時に渡して欲しいってね。ここ最近君はずっとシステム構築を始め、様々な仕事が重なってデスマーチに近い状態だったからね。落ち着くのを待っていたんだ」
こうして私は紫電経由でGVからの手紙を受け取り、その後部屋に戻って読む事になったのだが……
まだ研究施設に居た頃に見た覚えのある筆跡。
そう、この手紙は私が死んだと思い諦めていた彼からの手紙。
その事実を知った時、彼が生きていた事が、肝心の手紙の内容が頭に入らない位嬉しく、僕の中に居る
私は、そんな歓喜の感情に包まれた後、改めて手紙の内容を読み直すのであった。
そう、本人の持つぶっきらぼうな性格を隠そうともしない筆跡で綴られた、ニコラから贈られた手紙を。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
それと、投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。