『こうして手紙を直接書く何て今のご時世には合わんが、俺はもう公式的には死んじまってるからな。メールを始めとしたデータのやり取り等から足が着いて実は生きていた何て痕跡を残す訳にはいかん。だからこんな風にGV経由で手紙を贈る事にしたって訳だ。ま、大昔のアナログなやり取りはこういう時に便利だから覚えとくといいぜ』
前置きに悪知恵を教えてくれるあたり、相変わらず本人は元気でやっているのがこの手紙からは伝わって来る。
今私が読んでいるニコラの手紙に書かれている通り、彼はこの国や皇神内部において公式的に
その理由なのだが、当時似たような立場であった私の場合はニコラが事前に紫電経由でスカウトした能力者と言う筋書きが用意されていた為問題は無かったのだが、彼の場合は神園博士の時とある意味同じ理由……簡潔に言えば「人体実験をしていた研究所を公表するのは世間体に良くない」からだ。
『そんな前置きはここまでにして……俺はあの後フェザーに拾われてな、結構長い時間昏睡しちまってたんだ。おまけにあの時の爆発で左手が捥げちまってるし、散々だったぜ。まあ、フェザーはテロ組織だけあって義手なんかの用意もばっちりだったお陰で生活には支障はねぇけどな。そんな訳で今はフェザーの技術者紛いな事をやってるぜ』
……あの時潜入していた
実は
それは監視網がある事を彼らが潜入し、ある程度深くまで潜り込んだのを確認した後GV経由で情報を流し、あえてこちらから直接手を出さない事で深く内部まで潜入させて退路を引き延ばしつつ、迂闊に動けなくすると言った感じだ。
この時、取れる選択肢は三つ。
一つ目は即時撤退する事。
二つ目はこちらの出方を伺う為に身動きを取らずに様子見に徹する事。
三つ目は追いつめられたと判断して玉砕覚悟で私達の居る舞台へ突入する事。
突入している人達の練度はデイトナやイオタが監視網経由で見る限り、素早さと慎重さが合わさった、文句無しの精鋭チームと呼べる物。
よって三つ目の選択肢はあり得ず、即時撤退するか様子見に徹する二択に絞る事で、どう転んでも戦闘を発生させないようにする状況を作り出す事が出来た。
後は歌姫プロジェクトを成功させれば相手が即時撤退しようが様子見に徹しようが増幅された謡精の歌で無力化出来る。
その当時の私達はそう考えていたのだが……。
ニコラは神園博士と一緒に研究していた人だから、電子の謡精の事を知っていて、その対策も出来る技術力を持っていても不思議じゃない。
そう考えれば、歌の影響下で動けてた理由も十分説明できる。
あの時は歌姫プロジェクトの安定化や、戦闘による外部からの影響を避けたかったのもあり、結局彼らを取り逃がす結果となってしまった。
但し、この策はメラクにとってはお遊びであり、彼らが潜入する前にフェザーはどう転んでも最終的に
『しっかし驚いたぜ。GV引き抜いて、オマケにフェザーを活動停止に追い込んじまうなんてよ。お陰でもう皇神相手にテロは出来なくなっちまったから戦力を海外に移すだの、一部ではフェザーを解散する話にまで進展しちまってるんだぜ? まあ解散に関しては頭目である
……歌姫プロジェクトの方針転換と私達の努力は実を結んだ。
これまでは調整に次ぐ調整や合間を縫ってその他諸々の雑事のお陰でデスマーチ状態で、これまで私はこの事を実感している暇が無かった。
だけど、こうしてゆっくりニコラの手紙をここまで読んで初めて今、私は実感する。
この結果は私達の努力を始めとした様々な要因が複雑に絡み合って出来た物だと。
そう、胸を張って誇れる事を成したと。
仮にだけど、もしどれか一つ……例えば、GVがフェザーに居たままだとか、歌姫プロジェクトの方針転換が無かったとか、努力を怠っていたとかの様々な要素が含まれていたら、ここまで上手くいかなかっただろう。
そう考えると、私の歩みは決して無駄じゃ無かった事を実感出来き、皆の事も誇りに思うと同時に、改めて私とリトルの力に自信を持つことが出来る。
この時を以て私は、自分の頑張りは勿論、何よりも皆の助けによって確たる自信を得ることが出来たのだ。
『まあ何にせよ、お前も俺の手から離れて随分と成長して、GVもテロリストから足を洗うことが出来た。もう俺が思い残す事はねぇ……と言いたい所だがフェムト、俺の勘が正しければ皇神入ってからずっと仕事漬けなんじゃないかと予測してあえて書いておくが、偶には休んで外に出ておくのを勧めるぜ。自分が何を成したのかが良く実感出来るはずだ。友達だってお前の人柄ならもう何人か出来てるだろうし、誘ってみるのもいいと思うぞ』
……ニコラはどうして私が仕事漬けなのを察することが出来たのだろうか?
まあそれは置いといて、そう言えば皇神に入社してから外に出たのは仕事の時位で、移動中も車内で携帯端末の画面と睨めっこをしてたから、街並みを始めとした外の景色等を気にした事も無かった。
基本私は物心ついた時から施設の中で過ごしていたし、私の能力も社内で使うのが効率的で、情報を集めるのだってネットがあるし、ハッキリ言って引きこもってばかりだった。
ただ、皇神に初めて入社する際は、初めてあの施設の外から出られたと言う体感を得られた貴重な機会ではあったのだけれど……経緯が経緯な上に、入って早々事務作業等の戦力として扱われた。
そしてある程度慣れてきたら開発部等にお邪魔するようになったりと、初期の頃は自分から仕事を増やしていた事もあり、外を気にする余裕なんて欠片も無かったのだ。
これを機に、外に出てみるのもいいかもしれない。
歌姫プロジェクトを始めとした大きな仕事は一段落したし、その過程で私の能力を用いた時と同じような情報処理が出来る設備と人材も大分整ったお陰で、今では私が居ないと無理な案件は無いと言っても良いのだから。
それに、現行のプロジェクトはもう私が居なくても継続は出来る様になっているし、最近紫電を始めとした一部の人達…あろう事か、あのメラクからも有給を取るようにと言われてしまっている有様だ。
皇神はこの国が誇るトップの大企業であり、基本的に表面上、即ち第七波動に関わっていない企業の大部分がホワイトな企業だ。
……逆に言えば、第七波動に関わっている企業や能力者達は例外という事でもある。
但し、今は能力者の扱いが皇神内で急速に改善された事、第七波動の正体が群体生物であると判明した事、そして何より、歌姫プロジェクトが完遂出来た事が決定的となりこの例外の部分が大幅に緩和され、私達能力者のホワイト化も急速に進んでいる。
つまり有給を取るように言われているのは、そのあおりを受けているからである。
そう考えつつ、手紙をゆっくりと読み進める。
『まあ未練と呼べる物を敢えて言うなら……プロジェクト・ガンヴォルトは
(ニコラ……)
この人口調整等の話はネットの一部ではひと昔辺りから話題となっており、皇神専用の閉ざされたSNS内でもこれに関する活発な議論が進んでいる。
そもそも、何故ここまでエネルギー問題云々が言われるようになったのか。
それはこの近未来、私のような雷撃能力者、特にGVの
つまり今の時代は
だからこそ私はニコラの未練を解消したいと思った。
電気に依存しているという事は、それだけ有利に動けると言う私自身の生存戦略的な意味も勿論ある。
だが、それ以上に私はニコラに恩を返したかった。
今の私が形作られたのは……そして、私がここに今立っているのは間違い無くニコラのお陰なのだから、そう思うのは当然だ。
それにリトルもニコラにお礼がしたいのだ。
そう、リトルの意思と呼べる物はあの研究所に居た時からあった。
故に、自分を捨てず、可能性を見出してくれたニコラに感謝している。
(ん。ニコラにお礼する。頑張ろうね、フェムト)
(リトルもニコラにお礼がしたいんだね。 ……なら、やってみよう。私もニコラが生きていたと分かってから、お礼がしたいって思ったからね)
(うん!)
リトルも随分感情を表に出すようになった。
最初の頃は何となく嬉しいとか悲しいとかが分かる位だったけど、途中から言葉も理解できるようになり、今ではもう頼れる相棒と言っても良い。
そう思いながら読み進めていたら、気になる記述があった。
『後は……そうだな。最近一部で能力者達が狩られているって情報は知っているか? 正確にはフェザーとは違う別の裏組織の能力者達の話なんだが』
能力者が狩られている?
今日紫電から聞かされた話と似ている気がするけど……裏組織に居る能力者と言う情報は入ってなかった筈だ。
『歌姫プロジェクトが発動して以来、少しづつだがそう言った報告がフェザーの諜報部から流れて来てな。まあそいつらは所謂質の悪いヤクザ、或いはマフィアみたいな連中だから潰れてくれるのは別に構わんのだが、目撃情報でちと厄介な事を思い出してな。……まあ結論を言えば、これをやったのは神園博士ん所の糞ガキだ。全く、妹の嬢ちゃん方はあんなに可愛いのに、兄の方はどうしてここまで捻くれちまったんだか』
神園博士ん所の糞ガキって……これは多分紫電が話してくれたアキュラの事だろう。
……ニコラなら、彼との面識があっても不思議じゃ無いのか。
『報告内容を見る限りどうにも倒され方がバラバラなんだよな。炎で焼かれた物だったり、何かに喰われたような跡があったりって感じでな。んで、目撃情報では何でも白い鎧にデカイ盾、それに
紫電から聞かされた機密情報に近い内容が軽い感じに書かれている辺り、流石はニコラだと思うのと同時に、今回の件は予想以上に厄介な事になりそうだと思った。
一先ずこれらの事は纏めて、基地内に居る紫電にメールとして送って……と。
よし、後は紫電が何とかしてくれるだろう。
私は情報を纏めたり調べたりするのは得意だけど、戦闘に関してはリトルマンティスに乗って無いとからっきしな上、乗っていても皇神の戦闘部隊やデイトナ達が相手だとトレーニングの相手になるのが精々と言った所なのだ。
まあそもそも私は戦闘要員では無く、情報処理等の後方支援要員なのだから当然と言えば当然であり、訓練に参加するのは体に血を巡らせる事も兼ねた気分転換なのと、リトルとのコミュニケーション等の意味合い、そして最低限の自己防衛をする為の鍛錬もある。
餅は餅屋、戦いの経験の無い私が直接戦場に出向く何て事態は、それこそGVと対峙した時やエリーゼの時みたいに時間や戦力等が逼迫する事態にでもならないとあり得ない。
『あいつは能力者を神園博士の影響で恨んではいるが世間に迷惑を掛ける位ならそれなりに我慢できる程度には自制出来る……いや、正確には自制出来る様にしたんだ。俺とメイドの二人掛りでな。何しろ父親譲りの頑固さと、母親譲りの影響の受けやすさを持ってたからな。あのまま放っておいたら間違い無く今頃大っぴらに「セブンススレイヤー」なんて呼ばれるくらい大暴れしててもおかしくないぜ?』
セブンススレイヤーって……いやまあ確かにこれまで調べた情報を知るに、そうなっても何ら不思議じゃ無いのは分かるんだけども。
『まあ、今回の件は本来なら止める筈のメイドもあの嬢ちゃんがらみになると話は別だ。あの糞ガキと利害が一致して協力したとしても不思議じゃねぇ。 ……まあそういう訳だ、GVにも知らせてあるがシアンの嬢ちゃんは間違いなく狙われるから、そっちでもマジで気を付けとけよ? ま、今は言いたい事はこんなもんだ。後もし俺に返事したかったらGVを経由してくれ。手紙の返事位なら紫電も大目に見てくれるだろうさ。二重スパイだとかそう言う名目でって感じでな。……ああそうだ、お前に
ちょいと物騒な土産って……少なくとも手紙には何か仕込まれた形跡はないのは確認済みだ。
紫電は何も言っていなかったから、多分ソレはGVが預かっているのだろう。
『まずは【鉄扇】。まあ所謂、ちょっとした護身具さ。 ……大昔の言葉で言えば、暗器とも言うがな。フェザーが俺達の居た研究所を襲った際に一緒にくすねた【ヒヒイロカネ片】を使った特殊合金で出来ててな、広げた後に少量の電流を流すと特殊な防御フィールドを展開してくれる優れものさ。これがヒヒイロカネの力ってやつさ。凄いだろ? お前用に調整してあるから、殺傷力よりも自衛力を重視してある。展開していれば、前面の攻撃限定だが防げない物はほとんど無い筈だ。後、閉じたまま電流を流すと防御フィールドが棒状に収束する。リーチや破壊力を伸ばす際に便利だが、守りが疎かになるから自衛する際はあまりお勧めはしないな。ま、ヒヒイロカネの特殊合金で出来てるだけあって防御フィールドだけじゃ無く、本体の鉄扇もすこぶる頑丈だ。そこは保障するぜ』
ちょっと待って、鉄扇?
一応皆から、特にデイトナには「外に出る際は何かしら身を守る手段を持って行った方が良いぜ」とは聞いてはいたけども、これはどうなんだろう。
まあ外では社内に居た時の様に宝剣を常時展開する訳にもいかないし、手に入るタイミングも含めてありがたいのは確かだけど。
……鉄扇の使い方、いつも私の訓練相手をしてくれてる
『それと、GVが付けているのとおそろいの【ペンダント】だ。こいつは所謂【
電磁結界……そう言えば戦闘データ経由で見せて貰った事がある。
それは自身の身体を電子に変換して攻撃を無効化すると言う反則に近い結界の類で、発動時はまるで天使の羽が舞い散るような現象を引き起こしながら体を電子に変換し、攻撃をすり抜けると言う物。
GVが扱える力を最低でも二、三回だけとは言え使えるのなら大いに助かる。
ペンダントと言う形も、普段から持ち歩くのも違和感ないだろうし。
『後は【ワイヤーガン】だな。これはGVの持つ【ダートリーダー】って言う雷撃誘導をする為の弾丸を発射する銃にあったオプションパーツを元に作った物でな。GVの奴、身体能力が高すぎるからかああいったオプションを全然使わねぇんだ。だから、折角だから再利用してやったぜ。発射する原理はGVの持つヤツと同じだ。あいつの持つ銃は本人が電源になっているからお前が扱うにはちと厳しいが、外部のバッテリーを外付け出来る様にした上で機能制限で軽量化もしてあるから、予め充填しておけばお前でも十分扱えるはずだ。それに、少なくともパワーは大の大人が引っ張られるくらいにはあるぞ』
(ワイヤーガンって……これは流石に普段から持ち歩くのはどうかと思うよニコラ……)
(ん~……これを経由すれば、リトルも電撃流せるかな?)
(出来るとは思うけど……GVみたいにはいかないと思うよ? それに多分、これは私が逃げるのに使う物だと思うし)
(そっかぁ……残念)
『……まあぶっちゃけ、その銃と鉄扇については俺のシュミみたいなもんで、本命はペンダントだ。その二つは適当に部屋に転がしといて構わんぞ。鉄扇は兎も角、銃なんぞ普段から持ち歩くわけにもいかんだろうしな。後、それらの装備はGVから貰ってくれ。流石に紫電に手紙と一緒に渡すと苦笑いされちまいそうだしな。 ……ま、次があるかは分からんが、少なくとも今は暫くの間はサヨナラだ。じゃあなフェムト。
手紙の内容は、ここで終わっていた。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。