家の自慢の
私はとある病室の特殊な隔離施設に居る。
その目的は紫電が皇神の改革に本格的に乗り出す前にあった不祥事による実験、その犠牲者となっていたとある人物のお見舞いだ。
「こんにちは。具合はどうですか? 【ストラトス】さん」
「あぁ、久しく空腹感が無い。本当に久しく、満たされた気分だよ。……こうして正気で会うのは初めてだね。フェムト君」
「ええ、私からも改めて……初めまして」
彼の名前はストラトス。
彼は紫電の管轄外の能力者であったが為に非人道的な実験を繰り返され、最終的には【皇神薬理研究所】と呼ばれる場所で生成された【S.E.E.D】と呼ばれる抗ストレス剤を用いて制御するしかない程に壊されてしまっていた。
だけど、シアンが居なくなっている間に皇神の本格的な改革に乗り出した際に、紫電が合法ギリギリの範囲内ではあるが強引にストラトスの管轄を得て、本格的な治療が始まった。
その治療の際、歌姫プロジェクト後にスカウトした【植物を操る能力者】の第七波動によって生成された植物を元に生み出された薬が完治させる際の決定打となり、今に至る。
「君の声を聞く様になって、少しづつではあったが飢餓感が減っていくのを感じたよ。まだ正気では無かったにもかかわらずね。本当に、何と礼を言えばよいのか」
「いえ、私がやったのは声掛けと、グチャグチャになっていたストラトスさんの断片化した精神状態を最適化しただけです。貴方をこちらに引き込んだのは紫電ですし、薬はまた別の人達の力を借りています。私だけの力ではありませんよ」
「知っているさ。だけど、フェムトは私の持つ暴走しかかった能力の根本を矯正する切欠を与えてくれた。……正直、驚いたよ。第七波動【
「その子は、どんな感じでしたか?」
「……一言で言えば、無垢だったよ。ただ只管に、私の願いを叶える為に一生懸命だった」
第七波動とは基本的に無垢な存在だ。
こちらが彼、或いは彼女達を認識しない限り。
だが彼らを認識し、互いにコミュニケーションをするようになると話は変わる。
「今では私の話す外の世界に興味が沸いているみたいでね。退院したら是非見せてやりたいと思っているんだよ」
「いいですね。私の方は最近では『ご飯食べたい』がまず第一声で耳に飛び込んできますよ」
「それはまた、随分と可愛らしい
「それはお互い様ですよ」
「そうだな……ああ、まったく、その通りだ」
こうして私達は、お互いが持つ
戦士の休息
私とリトルは今、イオタと共にとあるお店に向かっていた。
「こんな横道に、こんな
「ああ、ここは約一年前だったか……とある能力者のテロに巻き込まれそうになった所を助けた事が切欠で私に贔屓してくれるようになってな。機会があれば、是非フェムト達をつれて行きたいと思っていたのだ」
この場所の事件の事は後にデイトナからも話を聞いていたのである程度は把握していた。
それは歌姫プロジェクトが発動する一週間前辺りだろうか、今私の居るこの区画で、突如として能力を用いたテロが発生。
その緊急性の高さと脅威度、及びメラクがその時手が離せない状況になっていた事からイオタが担当となり、彼の能力を用いて文字通り光の速さで現場に急行し、これを収めたのだ。
恐らくこの事が切欠で、今紹介されているこのお店との結びつきができたのだろう。
「何て言うか、どこか落ち着いた雰囲気のあったお店ですね」
「うむ、秋になれば庭にある紅葉の色どりも良くなってより落ち着いた雰囲気を楽しめるぞ。それでいてメニューのレパートリーも豊富だ。きっと食べ盛りのリトルも満足してくれるだろう」
「フェムト! イオタ! 早くお店に入ろうよ! 早くご飯食べたいよぉ!」
「リトル、そんなに急かさなくてもご飯は逃げないよ」
「それだけ待ち遠しいのだろう。さあ、我々も行くとしよう」
そうして私達はこのお店で料理を満喫する事となった。
普段は常に気を張り詰めているイオタも珍しく穏やかな表情をしている。
ようやく歌姫プロジェクト、及び後始末にも一段落ついたお陰で余裕を持つことが出来る様になったのも要因だろう。
「ふぅ……こうして平和な時が続くと、気が緩んでしまいそうになる。私はこの国の護国の為に身を捧げていると言うのに」
「人間である以上、常に気を張り巡らせたりするのは無理ですよ」
「ん。イオタは自分に厳しすぎ。
「むぅ……だがこれが私の性分なのでな。なかなか直ぐには直らぬよ」
そう言った会話を繰り広げながら私達は落ち着いたこのお店と料理を堪能するのであった。
本人の口ぶりとは裏腹に、珍しく少しだけ気を緩めたイオタと共に。
一つの恋の終わり
今、私の目の前で一つの恋が終わりを迎えた。
そう、デイトナが遂に心の準備を頑張って終わらせ、勇気を振り絞ってシアンに告白をして……振られたのだ。
もう既にこの場にはシアンは居ない。
それ所かもう振られてシアンが居なくなってから既に三十分位経っている筈なのに、デイトナは動く気配が無い。
なので私は恐る恐る声を掛ける事にした。
「デイトナ……」
「……フェムトか。ハハッ! 情けねェぜ。自分でもうっすらとわかっちゃあいたんだがな。いざ振られてみればこのザマよ」
「デイトナは頑張ったと思うよ。シアンと初めて会った日から色々と気に掛けたりアプローチしてたし」
「何がいけなかったんだろうなァ……」
「何って……私からは二つ原因があると思ってるけど」
「っておい! フェムトから見ても二つもあんのか! オレは一つしか思い浮かばなかったぞ!」
その要因の一つはGVの存在だろう。
私も彼と仕事、または友達として付き合う様になって暫く経ったので彼の人となりや性格をある程度把握出来る様になったのだが、仕事には誠実だし意外と細かい所にも気を使ってくれる優しい一面もある。
それでいて彼はどこか天才肌な所もあり、何でもそつなくこなせる所も大きい。
見た目も容姿端麗、美形であるのは間違いないし年齢以上に大人びた雰囲気もあるのだ。
その事をデイトナに指摘すると彼も納得をしていた。
どうやらこの事は分かっていたみたいだ。
「ああそうだな。悔しいが、ガンヴォルトのヤロウが原因なのは間違いねェ。オレはアイツの事は紫電と同じように気に喰わねェと思ってるが、その実力は確かだ。それに、直感的に信用できるヤツだって思えちまうしな。敵だと厄介極まりなかったが、味方になると途端に頼もしく見えちまう」
「ですね」
「だがよフェムト、お前はもう一つ原因があるって言ってたよな? それって何なんだ? オレにはサッパリ分かんねェぞ」
「あ、これはデイトナは把握して無いと思いますよ。ある意味突発的な事故みたいな物ですから」
「事故だァ?」
「ええ。……覚えていますか?
「すまん、あんまし覚えてねェ。……ちょっと待て。オレもしかしてそこでシアンちゃんになんかやらかしたってのか!?」
そう、デイトナはやらかしていた。
宝剣による
その欠点は、変身現象によって能力を行使しやすくなる身体に再構成する事でエゴが増大しやすくなる事。
簡単に言えば。
つまり……
「うっ嘘だ……そんなセリフをシアンちゃんに聞かれてただなんて、そんなの……そんなの嘘だァァァァァ!!!」
「あぁ!! デイトナッ!! ……行っちゃった。でも、デイトナがああなっちゃうのも無理は無いかな。何しろ……」
何しろ聞かれた内容が『機械に繋がれたシアンちゃんはなッ!! サイコーに胸キュンなんだよッ!!!』と言うデイトナ本人から見ても倒錯したセリフだったのだから。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。