環境は人を変える
私は今エリーゼを連れて街を歩いている。
エリーゼとはあの時紫電の管轄下に入った際、あの恐ろしい二つの植え付けられた人格を私の能力によって完全に消去し、本人の人格へ影響が出ない様に統合した事を切欠に、私とエリーゼはそれなりに話せる間柄になっていた。
「あの……フェムト君」
「? どうかしましたか、エリーゼ」
「わたし、こんな街中に出ても大丈夫なのでしょうか……?」
「ええ、大丈夫ですよ。ちゃんと紫電からも許可はとりましたので。それに、護衛もちゃんと付いていますので」
「エリーゼ、フェムト、早く早く! あそこのお店のケーキ、売り切れちゃう!」
「あ、リトルちゃん! そんなに急がなくてもケーキは逃げないですよ!」
彼女は皇神に関わる前に居た女子高では本人の押しの弱さと、当時は強かった能力者に対する差別もあり、陰湿ないじめに会っていた。
そのせいであんなに弱気になってしまい、それが原因で無理矢理二つの人格を植え付けられたのだ。
だけど今はその二つの人格は排除され、私と、紫電と、デイトナと、イオタと、リトルと……色んな人達との触れ合いによって、初対面だった際のあの怯えも含まれたであろう弱気な所が大分緩和されている。
……とある学者の論文によると、環境は人を変えるものだと言う。
「リトルはケーキの味を覚えてからいつもあんな調子なんですよ」
「……フフ」
「? どうかしましたか、エリーゼ」
ならば、私達はエリーゼに対して良い影響を与える環境を与えることが出来たと胸を張って言えるだろう。
「わたし、こんな風に誰かと一緒に出歩けるようになれた事が、今でも信じられなくて……以前のわたしだったら、差し伸べられた手に対しても、怯えていたのに」
「……大丈夫ですよ。今は信じられないかもしれませんが、必ずいつか当たり前に変化するはずです」
「……ありがとう。わたし、フェムト君より年上なのに、いつも励まされてばっかりだね」
「年齢は関係ありませんよ。それに、切欠は何であれ私も紫電と一緒にあの場に居た当事者ですし、拾った責任もあります」
「フェムト君……」
「わぁ! ケーキ屋さん発見! ケーキ! ケーキ!」
「あ、リトルちゃん! そんなに走っちゃ危ないよ!」
何故ならばエリーゼは私とリトルに今、屈託の無い笑顔を見せてくれているのだから。
新たなる戦場
「んと……よし。終わりましたよ、カレラ」
「うむ。フェムト坊、休暇中だと言うのにかたじけない。……小生はこのような作業は得意では無くてな」
私は今、カレラの任務におけるレポートの作成の補助及び編集を行っており、たった今終わった所だ。
カレラは元
その実力はカレラの第七波動
ただし、そんなカレラにも弱点は存在する。
こう言ったミッションレポートを纏める事も含めた情報処理全般だ。
「いえいえ、こう言ったミッションレポートの処理は私の得意分野ですから。適材適所と言う奴です」
「そうであるな。……小生は、ただ己が強ければよいと思っていた。
「道場破りなんてやってたんですか……」
「うむ。……だが、ここに来て思わぬ難敵が立ち塞がったのだ」
「レポート提出を始めとした情報処理、ですね」
「そうだ。この分野において小生は無力であった。能力者狩り部隊に居た時は完全に小生は戦いを任されていたが故に。そう、戦場の無い小生は無力だ」
「カレラ……」
カレラの言う戦場と言うのは、
そう、
これは即ちカレラが力を振るう場が激減していると言う事であり、更に宝剣の副作用も無くなった事で、従来よりもただ強さを求めると言った事も無くなってしまい……故にカレラはここの所心、ここにあらずと言ったあり様となってしまっている。
そんなカレラにリトルが声を掛ける。
「そんな事無いよ。だって、カレラが居ると皆安心するもん」
「安心……でござるか?」
「ん。カレラは戦いで強いから。同じミッションに参加しているのなら皆は成功を確信する。違っていても、何かあった時には心強い救援が控えているって安心する」
「……!」
「そうですね。強い人が一緒だったり控えに回っているのなら、これほど心強い事は無いですね」
「なる程……リトル嬢、感謝するでござる。小生は新たな戦場を見出したで候」
カレラの瞳に力が戻る。
そこには新たな戦いに心を燃やしその為の力を求める漢がいた。
お騒がせなハッカー
私は今メラクと共に遂に発売されたVR版ベルレコを楽しんでいた……のだが。
「また来た……全く、しつこいったら無いよ」
「よりにもよって、プライベートで楽しんでいる時に来ますか」
私達がうんざりしているのは、VR版では無かった頃からベルレコに
しかもまだこのVR版ベルレコで未実装の
おまけに、ご丁寧に無敵化コードを引っ提げて。
何しろこのハッカー、ベルレコの初期から現れており、HPの減らないモンスターをプレイヤーに嗾けたりする愉快犯であると同時に常習犯。
しかも、私以上に能力を用いたハッキングに精通しているらしく、発信源を追跡しきれないのだ。
『ち~~~~すwwwww VR版が出たと聞いて文字通り飛んできましたwwwww 詳細ヨロww つってwww』
「……フェムト、
「了解」
メラクが珍しく怒っている。
メラク待望の新作を楽しんでいたら悪質ハッカーに邪魔されたのだから当然と言えば当然か。
後普段の口癖である「めんどくさい」が抜けている為割と本気っぽい。
まあでもあのハッカーが常習犯と呼ばれる程こちらにハッキングしている以上、こちらもその対処法を確立している。
まず有無を言わずに追い出そうとするとはダメだ。
可能か不可能かで言えば可能ではあるのだが相手の方が能力が高い為、追い払うのに時間が掛かるし被害も大きくなる。
なので様々な試行錯誤がされたのだが……
『ちょwwww コード速攻で剥がさ始めたんですケドwwwww このゲームでもあのGMいるのwww 続投乙wwwww』
「あ、こっちでも居るのか【TSOドラゴン】! 皆! こいつは暫くの間はHPは減らないけど
「こっちでもあの良イベあるってマジ? じゃあデスペナ無視してでも参加しねぇとな!」
その結果、追い出すまでの間は
ちなみにプレイヤーに好評な理由は報酬が参加するだけで物凄く美味しいからだ。
何しろ相手はコードで超強化している状態で相手をして貰っており、実質クソゲーを強要しているような物であり私達の尻拭いまでさせているのだから、せめて報酬は良くしようと思うのは当然の帰結であった。
「おら! とっとと沈め糞ドラゴン!!」
「俺達の金と経験値、そしてガチャ石と化せ!!」
『うはwwww こいつら相変わらず必死すぎwwwww ワロスwwwwww とりま、ブレスいきますね~~~~wwwww』
「げっ! 開幕クソ範囲ブレスすんなし!!!」
「こっちでもそれかよコンチキショウ!! まだ序盤なのもあって装備揃ってねぇんだぞ!!」
『アレ?wwww 一発で消し飛ぶとかザコすぎるんですケドwwww 弱すぎっつってwwwwww』
「こ、このクソドラゴン……!!」
……プレイヤーが楽しんでいるのはまだ納得出来るけど、あのハッカーも楽しんでいるのが何とも言えない。
しかしあのハッカー、まだ
……っと、準備完了。
プレイヤーの皆、後はよろしく。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 超バフktkr!!!」
「これで勝つる!!!」
『うはwwwww コード剥がされたwwww ちょwww おまwwww 弱体効果多すぎwwww しかも永続wwww テラヒドスwwwwwww』
「「「「俺達の報酬と化せ! クソドラゴン!!!!」」」」
結局、この一連のどんちゃん騒ぎもベルレコから引き継がれてしまった。
(まあでも皆楽しそうだしいい……訳無いよなぁ。いい加減、なにかしら対処はしたいんだけども)
そうしてしばらく時間が経ち……
「……あ~くそ! またロストした! 今回はいけるかと思ったのに!」
メラクの悔しそうな声と共に、
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。