ガンヴォルト 現地オリ主原作開始前スタート   作:琉土

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第五話 謡精のライバル? 隣の芝生は蒼く見える ベルレコにおける昆虫人(セクト)の立ち位置

 

 

 

 

謡精のライバル?

 

 

 

 

 私とGVが軽い談笑をしている時、動画を見ていたリトルが何やら慌ただしくシアンとモルフォを呼ぶ。

 

 

「シアン! モルフォ! 大変大変!!」

 

「どうしたの? リトルちゃん」

 

『アタシまで呼ぶなんて、何かあったの?』

 

「コレ! これ見て! ほら、GVもフェムトも!」

 

 

 そこに映っていたのは一人の女の子だった。

 

 別にそれが珍しいという訳では無いのだが、ただどうしてリトルが慌てたのかは理解できた。

 

 見た目は緑髪のショートで、活発な雰囲気を持った少女。

 

 背中にスピーカーと一体化した不死鳥の翼らしき物を背負っており、その背後には後光すら見えている。

 

 全体的にリトルが比較対象していると思われるモルフォとはある意味真逆な印象を受けるが、問題はそこでは無かった。

 

 

「モルフォとは違う、新しいバーチャルアイドル?」

 

「ん! モルフォと歌の雰囲気全然違うけど、()()()()()()()()()()()!! 何て言うか、【野生の電子の謡精(サイバーディーヴァ)】みたいって言えばいいと思う!」

 

「バーチャルアイドル自体は珍しいものって訳じゃあないんだけど……うん、とても良く出来てる。少なくとも他のバーチャルアイドルとは一線を画してる。断言してもいい。それだけの魅力がこの子には詰まってる。可能なら是非スカウトしたいのが正直な感想かな」

 

「二人が言う事も何となく分かるかもしれない。聞いていて、元気が出る感じがするよ。……ボクはそこまで歌に詳しい訳じゃ無いけどね」

 

「『…………』」

 

 

 私達三人はこんな感じに感想を言い合っていたのだがシアンとモルフォは食い入る様に動画を見ている。

 

 その様子は真剣そのもの。

 

 私達はそんな二人の雰囲気を察して、途中から黙って歌を聞く事に専念した。

 

 

『無くしたものなら すぐ側にあった それに気づかず泣いてた 過ぎた自分にさよなら ここで止まったら 何の意味もない 終わらない旅の途中 手探りでも掴んだら 最後まで行けるはずさ』

 

「「「「『…………』」」」」

 

 

 うーん、それにしてもよく出来てる。

 

 動画作りも振り付けなんかも私が見ても手馴れているし、長い時間投稿を続けた技術的な安心感すら感じるのはもはや奇跡と言ってもいい。

 

 正直この子が何で今まで埋もれていたのかさっぱり分からない位だ。

 

 そこでふと気になって私の方の端末でこの動画情報を閲覧してみたのだが……

 

 

(投稿日時が昨日? それに動画投稿数もこれが最初だ。……最近の生放送のアーカイブを調べてもこの子らしき姿は影も形も無い。なら数年前位遡って……いや、そもそもそれだけ前にこの子が居たら相応に話題になった筈。なんだろう? この、突然パッと出て来たかのようなこの違和感は)

 

 

 こうして調べている間にこの動画の再生数は私が見た中でも信じられないような速度でうなぎ上りに増えて行く。

 

 コメント欄でも「期待の新人バーチャルアイドル」「皇神グループ秘蔵の新人さんとか?」「モルフォと雰囲気違って明るくて活発そうなのいい……」みたいなコメントが多い。

 

 そんな事を私が調べている間に彼女の歌は終わり、最後にはこの動画をロケしていたであろう砂漠をバックに終わりを迎えた。

 

 

「……フェムト、皇神広報部の人達、今すぐ集めて」

 

 

 私が今まで聞いた事が無い強い口調でシアンがそう言い放った。

 

 

「……え?」

 

『何を呆けてるのフェムト! これはアレよ! アレ! そう、アタシに強力なライバルが現れたのよ! こうしちゃいられないわ!』

 

 

 そう言いながらシアンは私の手をこれまでの彼女からは考えられない力で引っ張られながら強制的にこの場から連れ出されてしまう。

 

 

「え? え? ちょっと待ってよ二人共!」

 

「……私達も行こうGV。このままじゃ置いてかれちゃうよ」

 

「了解……【希望の歌姫】か。案外二人にはいい刺激になったかもしれないね。この子は」

 

 

 この後モルフォの新衣装を考えたりこれまでに無い歌のバリエーションを増やす様々な事が行われる等、珍しく皇神広報部の人達を率いてシアンが主導でアレコレする様になるのであった。

 

 

 

 

隣の芝生は蒼く見える

 

 

 

 

「蒼き雷霆と青き交流って、基本的に出来る事はある程度は共通してるけど、具体的にどんな違いがあるの?」

 

 

 と言うシアンの言動が発端となり、私とGVは互いの第七波動の違いを比べてみようと言う流れになった。

 

 昔の私だったらかなり複雑な心境になっていたけど、今ではそんなに気にしてない。

 

 むしろ私所かリトルもGVも気になるみたいなので、ここで改めて比べてみる事となった。

 

 

「まず共通している部分から纏めようか」

 

「EPを扱う、身体強化、ハッキング、電磁結界(カゲロウ)、電力をEPに変換する、EPの貯蔵、ノーマルスキル……この辺りは共通してるかな」

 

「二人のやれる事って結構被ってるんだね」

 

「フェムトの青き交流はボクの蒼き雷霆から派生した能力だからね」

 

「そう言う事です。じゃあ次は、それぞれ出来る事を纏めてみましょう」

 

 

 先ずは蒼き雷霆。

 

 その代表的な物と言えば【雷撃麟*1】、【チャージ*2】、【空中における高機動(エアダッシュと空中ジャンプ)】、スペシャルスキル、そして他の第七波動とは一線を画す出力辺りになるだろう。

 

 こうして改めて蒼き雷霆で出来る事をパッと並べて見ると凄まじいの一言に尽きる。

 

 紫電からも最強の能力者の一角と言われる所以がとても良く分かる。

 

 では、青き交流の方はと言うと……

 

 

「端末の持つ演算能力を私の物として扱う、EPを各機械に対応した電力、電圧に変換する、【生体ハッキング】できる位ですかね」

 

「……生体ハッキング? 随分と物々しい響きに聞こえるけど」

 

「ええ。実際私にとって一部嫌な使い方……直接的な洗脳なんかも出来てしまいます。元々はEPを利用した【生体マッサージ】だったのですが、それがこう言った形で発展してしまったみたいで」

 

「フェムトの生体マッサージ、わたしも体験した事あるけど体の疲れとかすっかり取れて気分爽快になるんだよね」

 

「実際この生体マッサージからスキルに昇華してキュアーヴォルトが出来た事を考えると喜ばしい事ではあるんだけど、洗脳まで出来てしまうとちょっと私自身の倫理的には複雑な感じなんです」

 

「……フェムトがそう言った認識を持ってて安心したよ」

 

「ん。だから私もフェムトに力を貸すの」

 

「で、話を戻すけど……見た感じ、役割分担は出来てる感じはしますね」

 

「そうだね。GVは戦闘系、フェムトはサポート系って感じでちゃんと分かれてる」

 

「でも、私の方がちょっと見劣りする感じかな……」

 

 

 こうして並べてみると役割分担は出来てる様に見えるが、リトルも言っている様に私の方が見劣りしているのは否定できない所だろう。

 

 

「……そんなことはないんじゃないかな。直接戦場に立つ立場から言わせてもらうと、フェムトの力は正直かなり凄く感じるよ。ボクの力はあくまで傷つける事、破壊する事に特化している。一応傷も治す事とかも出来るけど、それはあくまでボク自身だけなんだ」

 

「GV……」

 

「フェムトの力は他の人を癒したり助けたりすることが出来る。それはボクにとって、とても羨ましい事なんだ」

 

 

 ああそうか、つまりこういう事だ。

 

 

「つまり、隣の芝生は青いって事?」

 

「……そう言う事だよ。シアン」

 

「ん! ありがとう、GV! そう言ってくれるととっても嬉しい!」

 

 

 こうして羨ましかったのはお互い様だった事が分かり、また一つGVと心を通わせることが出来たと確信できたと思ったのであった。

 

 

 

 

ベルレコにおける昆虫人(セクト)の立ち位置

 

 

 

 

「へぇ……シアンがベルレコに興味を、ですか」

 

「ええ。その時は学校の友達に誘われて、みたいな感じだったかな」

 

 

 リトルがおやつを夢中で食べる姿を背景に、GVの拠点でシアンがどのように過ごしていたのかを話題に始まり、今はシアンがネットゲームをしていた話へと移行していた。

 

 そう言えば、あの時期は初心者を誘うと貰える特殊なアイテムを配布するキャンペーンをやっていた筈。

 

 シアンの友達である旗乃さんはGVの話を聞く限り熟練プレイヤーだろうから誘ったのだろう。

 

 

「それでシアンは種族を何にしてました?」

 

「【エルフ】でしたね。ボクとしてはシアンは初心者だから【昆虫人】を勧めていたんだけど」

 

『むぅ……あの時も言ったけどGVってば、アタシの事考えて昆虫人を勧めたのよ! フェムトもヒドイって思わない?』

 

「そうだよ! モルフォは虫じゃないもん! 妖精さんだもん! サイバーなエルフさんだもん!」

 

「…………」

 

 

 GVが眼をそらしている。

 

 以前の事を思い出して少し気不味そうだ。

 

 が、ちょっと待って欲しい。

 

 確かに昆虫人は見た目がグロテスクで()()()()()不人気だったのは事実なのだけれど。

 

 

「確かあの時期、昆虫人は既にアップデートがされてた筈です」

 

「……アップデート?」

 

「ええ。その見た目がグロテスクなのが不評なのに初心者向けだなんて銘打っちゃっていたので、私がその辺手直ししたんです」

 

「え? フェムトってベルレコの開発者さんだったの?」

 

「途中参戦でしたけどね。当初は能力者を探し出す為のゲームでしたけど、私の手が届く様になったので色々と利益の出る様手直ししたんです。シアンが居なくなっても普通にゲームが出来る様にしたりとかもしてますよ」

 

「……そういえばジーn……ボクの仲間がベルレコの事絶賛してたっけ。今でもプレイしてるみたいだけど」

 

「あぁなるほど、()()からソナー機能に足がついちゃったって感じですか。まあでも好評いただけたようで何よりです。今は唯のゲームですしね」

 

「でも、【旗乃さん】……はたちゃんから見せて貰った昆虫人、かなりグロい感じだったけど……」

 

「その昆虫人はかなりコアなプレイヤーだと思いますよ。あのアップデート前の姿は設定から警告表示も見つつ変更しないといけないんで初心者にはハードルが高い筈です。お友達もかなりコアなプレイヤーみたいですね。あの状態の昆虫人、設定を弄らないとデフォルメ設定になる筈なんですよ。まあそれよりも……」

 

 

 そう言いながら私が持つ携帯端末からベルレコを起動し、キャラ作成の画面へと変える。

 

 そこに映っていたのは、私が手直しした昆虫人の姿。

 

 

『あれ……? 思ったよりもグロくない?』

 

「ええ、いきなりあのグロテスクな姿を見せるのは初心者にはマズイです。ああいったのは一部の上級者向けにするのがセオリーなんですよ。そう言った層には意外と需要、あったりしますし」

 

「へぇ、デフォルメ感が強い感じでちょっとカワイイかも……だけど、やっぱりモルフォとはイメージが遠いよ」

 

「ちなみにベルレコは性別の選択も出来るのですが……」

 

 

 そうして映し出したのは、明らかにモルフォを意識したデザインの姿な昆虫人。

 

 ベルレコの設定レベルまで弄って女性の性別の昆虫人は人型の外見に蝶の羽を持っている姿とした事で実現したこの姿を作るのは大分苦労させられた。

 

 

「ちなみに羽の色や形も変更可能だったりします。中にはモルフォを忠実に再現したキャラクターデザインを作ったプレイヤーもいたりするんですよ」

 

『わぁ……エルフに負けない位キレイ』

 

「これは……随分気合を入れて作ったんだね、フェムト」

 

「ええ。初心者向けだからこそ気合を入れないとお客様は呼び込めませんからね。実際このデザインに変更したら売り上げが伸びましたよ。ちなみに最近始まったVR版でも人気が高いですね。昆虫人の女性は初心者向けで尚且つ初期から空が飛べるアドバンテージがありますので」

 

「うーん、これなら昆虫人を選んでも良かったかも……ああでも選んじゃったらモルフォが虫扱いになるって認めちゃう事になるんじゃ……うぅ、悩ましい」

 

 

 その後、シアンがベルレコに対して電子の謡精を持ち込んでゲーム禁止令が出てしまったり、それがダメ押しの決定打となってGVの拠点の居所が判明した話だったり、このデータを観測できたお陰で歌姫(ディーヴァ)プロジェクトにおいて改良点が見つかったと言った話も出たが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

*1
GVの持つ(ダートリーダー)弾丸(ダート)に誘導する強力な雷撃と共に雷撃のバリアを展開する攻防一体の主力攻撃。空中で使用するとホバリング出来るし、暗い所もバリア範囲内なら照らす事も出来るし、バリアを経由したハッキングも可能。これだけでもう強い。

*2
EPを全回復する特殊な型。精神集中する為の自己暗示みたいなものらしい。別名カッコイイポーズ。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。




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