養われるGV?
リトルが目を瞑り、日向ぼっこをして気持ちよさそうに窓際で座っている横で、私はシアンに今月分の報酬の一部を口座に移した事を伝えていた。
「シアン、今月分振り込んでおいたよ」
「あ、フェムト。いつもありがとう」
「…………」
「……? どうしたのGV?」
「……ちゃんと報酬を受け取ってるんだなって思ってね」
シアンは今をときめくバーチャルアイドル、モルフォでもある。
なのでこれまでの活動による報酬が貰えるのは普通に考えれば当然と言えば当然と言えるだろう。
「GVが懸念するのは分かりますよ。シアンに対する報酬の話は機密等の問題云々とか言って無しって話に初期の頃はなりかけてましたからね」
「えぇ!? そうなの?」
「ええ。しかもその報酬、その意見を言った人に最終的に行く形になっててね……。明らかに着服する気だったし、その人は皇神でも問題児扱いされていたので最終的には紫電が直々に
「そっかぁ……良かったぁ」
『言ってみれば、アタシ達の頑張りの結果だもの。横取りなんてされたらたまらないわ』
それで話が終わるかに思えたのだが、ここで私達と一緒に話を聞いていたデイトナが疑問を投げかける。
「そういえばよォ。シアンちゃんってどんくらい給料もらってンの?」
「デイトナ……それを聞くのはどうかなって、ボクは思うんだけど」
「ぁ……。いやいや、気になるのは仕方がねェだろうガンヴォルト。今の話を聞いたらよォ。受け取ってる報酬が不当だって可能性もあンだからよ」
「それは確かにそうだけど……」
「そう言えば……わたしいつも報酬の一部をフェムトから受け取ってる感じで実際に貰ってる報酬の事、あんまり把握してなかったけど」
「実際、シアンの報酬は私が管理してますね。何しろ額が額ですので」
「なんでェ、フェムトが管理してたのか。チッ、余計な心配しちまったぜ」
『で、結局アタシってどの位報酬受け取ってるのかしら?』
モルフォからも催促が出たので私は今のシアンの口座を確認。
……改めて、凄い数字が並んでいる。
「えっとですね……もう十一桁は突破してますね」
「十一桁を突破って……」
「オイオイちょっと待て! 桁が違いすぎンだろ!」
「この位当たり前ですよ。モルフォは今復活した勢いもあって更にブームが加速してるんです。近い内に十二桁位到達しても不思議では無いですね」
「……わたしって、そんなに凄かったんだ」
『フフフ♪ やったわねシアン! これで最悪GVが皇神から契約切られちゃっても、アタシ達で養ってあげられるわ!』
モルフォから凄い発言が飛び出し、デイトナとGVが固まってしまった。
……まあ、気持ちは分からない訳では無いけど。
「……フェムト」
「大丈夫です。現時点でGVとの契約を皇神側が切る事はありえません。ありえませんが……盤石にしたいのなら、皇神に入社する事をお勧めします。無理にとは言いませんが」
「……善処、するよ」
私の答えに辛うじて絞り出したかのような声でGVが返事をしたのを最後に、盛り上がるシアン達とは対象にデイトナとGVは沈黙すると言う何とも言えない空気が構築されるのであった。
乙女たちの恋愛模様
リトルと共に一緒に買い物を終え私の施設にある客向けの部屋の一つへと足を運ぼうとした際、女性陣による話し声が聞こえて来た。
話しているのは主にシアン、モルフォ、エリーゼの様だ。
(このメンバーで話が盛り上がっているのは珍し……くはないか)
最近ではGV達も私を通じて有力な皇神能力者でもある皆とも交流があり、今日は別の部屋でGV、デイトナ、イオタ、カレラの四人で話が盛り上がっている。
なのでその邪魔をしてはいけないと私の部屋へと戻ろうとした時、丁度私やGVの話題になった為つい立ち聞きをする事となった。
ただ、問題なのはその内容が……その……。
「それでね、フェムトくんってカワイイけど凄く頼りになってくれるんです。わたしなんかの為に色々と手続きをしてくれたり、矢面に立たされそうになると何処からともなく出て来て助けてくれますし」
「エリーゼにとってはフェムトはヒーローなんですね」
「はい♪ でも、最近は、何て言うかこう、なるべく表には出さない様にはしてるんだけど」
『あ~~……。なるほどね。何となく察したわ。つまり、エリーゼはフェムトの事が好きなんでしょ?』
「モッ、モルフォさん!? そんなにハッキリ言われると恥ずかしいです……」
つまりこういう事である。
……私としては非情に喜ばしい事ではあります。
何しろ私自身見た目が完全に女の子の姿ですので、恋愛的な好意を持ってくれるヒトなんて貴重です。
(フェムト、なんだかうれしそう)
(……ええ。珍しく舞い上がってしまう気分です。私自身そういった恋愛なんて遠い場所の話だって思ってましたから。)
あぁ、なるほど。
世の男性が求めてやまぬその理由を体感出来たかもしれません。
確かにこれは良いものだ。
「そっ、そう言うモルフォさんだってGVさんの事大好きじゃないですか!? わたしはまだ自覚したばかりですが、そちらの方は結構時間、立ってますよね。……何か進展はあったんですか?」
『それがねぇ……シアンってば何だかんだで奥手だから、なかなか進展しないのよ。GVは自分からグイグイ来るわけじゃ無いからアタシ達の方からアプローチしなきゃいけないってのに』
「あ! モルフォったらズルい!! そう言うモルフォだって肝心な時は引っ込んでるだけのヘタレ
『あの時の二人きりの旅行は確かにそうだったけど、恋愛的な意味ではほとんど変化なかったわよね!? それに、あの時はアタシが空気を読んだだけなんだから! ヘタレ妖精なんかじゃ、ないんだから!!』
「あっ、あわわ……二人共落ち着いて下さい! 今のはわたしの話題のふり方が悪かったですから!」
……これ以上立ち聞きするのは野暮と言う物だろう。
私とリトルはこの場から離れ買い物の荷物を整頓した後部屋へと戻り、考え込んだ。
「それにしてもどうしてエリーゼは私の事をそう思ってくれたんだろう? あの場には紫電もいたし、紫電の方に行きそうな物だと思ったんだけど」
「ん~~……。紫電、いつも忙しいからってフェムトにエリーゼの事をお願いされたからじゃないかな」
紫電は相も変わらず多忙を極めている。
私に休暇を与えていると言うのに紫電は何かと理由をつけて形式的には休暇を利用してるけど、その時間を根回し辺りに利用したりしているし。
だからこそ紫電は名義上はエリーゼの身分を保証しているが、細かい面倒なんかはあの場に居た私が請け負っている形となっている。
まあでも紫電も紫電で
まあそんな訳でこういった理由を当てはめて考えると、まあ、確かに? エリーゼがそう思ってくれた理由も納得できる。
……いけない。
多分、今の私の顔は凄く真っ赤になってると思う。
リトルもちょっと心配してるし、切り替えないと……。
そう思いつつ、何とか表情を表に出さない様に私は四苦八苦する事になるのであった。
意外な人選による共通の話題
今日は紫電の休暇が私と被った為珍しく、本当に珍しく紫電は休暇を取り私の居る施設へとやってきていた。
「ここの所本当に忙しかったけど漸く一段落ついたよ。全く、こう言った面倒事も小切手で解決できれば楽なんだけどね」
「紫電はもう何だかんだで副社長に上り詰めた身だからね。それにそう言った相手は基本的にお金には困って無さそうだし、小切手が通じないのは分かるけど」
そうお互い話しながらリトルが用意してくれたコーヒーを私達は飲んで一息入れる。
「ふぅ……。リトルも随分、感情が豊かになったね。初期の頃とは大違いだ」
「ん。色んな人達とお話しできたから、色々覚えることが出来たよ」
「リトルの初期の頃を知ってる紫電が言うと、感慨深い感じがするよ」
「何だかんだでフェムトとボクは付き合いが長いからね。今でも思っているんだよ? 君を皇神グループに加えて良かったってね」
そんな風に穏やかな時間が過ぎ、その話題はニコラの事にシフトした。
紫電は私が皇神グループに加入する前からニコラとも付き合いは合った。
実際ニコラから紫電へと話を通してくれていたのもあり、私は皇神グループへ入社することが出来る様になっていたのだから。
「昔のボクとしては、ニコラの話は非情に興味深かったよ」
「ええ。ニコラってぶっきらぼうな所が前面に出がちですけど、しれっと為になる話を聞かせてくれるんですよね」
「本当にさり気無く、だけどね。……その中でもボクが印象に残った話があってね」
「……どんな話ですか?」
「要約すれば、『悪を一番求めているのは正義を掲げる人達』だって話さ。……当時のボクには図星、いや、核心に迫られた話だったよ」
「それ、私も聞かされた事あります。その話って、何も無い所から悪を見出して、そんなでっち上げられた悪をしゃぶりつくす連中が本当の悪人、みたいな話でしたよね」
こんな感じにニコラは研究に関係の無い話題を振る事も多い。
「他には『異性にモテたきゃ暴力性を身に纏え、相手に選択肢を与えるな』とか」
「『怠ける努力を全力でやれ。そうすりゃ怠けた分のリソースを上手く使えるからな』みたいな」
「『人間は基本怠ける生き物だ。そして、人間は環境に大きく影響を受ける。だから仕事を捗らせたいときは環境構築には気を遣え』なんて事も聞いたかな」
「『努力は基本裏切られる物だ。だからこそ努力は続けなければならない。なぜならば、その過程で得た物は自身の糧となるし、実際努力に裏切られた時は進路が予測不可能、かつ未知数で、混沌渦巻いている。だがその混沌にこそ希望はある』みたいな事も聞きましたね」
「フフ……」
「なんかいいですね。こうやって話すのは」
「ん。私の知らないニコラの話を聞けるの、嬉しいなぁ」
「何て言うか、彼はいい意味で科学者らしくない。そうは思わないかい? フェムト」
「全くですよ。紫電」
そうやってニコラの話をしていたら、GVとシアンが訪ねてきて……その結果、GVもニコラと面識があったこともあって私達の談義に加わる事となった。
その後、この話で盛り上がりGVと紫電も何だかんだで打ち解けて話せるようになっていた。
……紫電はGVに密かなコンプレックスがあった。
だが今はもう、その影は完全に払拭されている。
(この光景は、もしかしたら奇跡的な光景なのかもしれませんね)
そう思いながら、私達は会話を続けるのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。