ドレス姿の男の娘
ここはとあるパーティ会場の控室。
そのパーティが終わりを迎え私達は控室へと戻り、ようやく一息ついていた。
「やれやれ、やっと終わったみたいだね。……うん、もう大丈夫そうだ」
「……紫電、やっと終わったんですね」
「うん。お疲れ様フェムト。
「……おい紫電、もうそろそろ話してもいいんじゃねェのか?」
「ん? 何をだい? デイトナ」
「決まってんだろ!! 何で
「……紫電、キミの事だから多分事情があったんだと思うけど」
どうしてこのような事になってしまったのか。
それを遡る事数日前、紫電から富裕層をもてなすパーティに同席して欲しいと頼まれた事から始まった。
何でもその手のパーティに紫電が単独で居るとハニートラップ目的の女の人達が迫って来るのだと言う。
今まではパンテーラにそのお願いを頼んでいた為問題は無かったのだが、彼、或いは彼女はもう皇神に居ない為、私に白羽の矢が立ったのだと言う。
最初は他に適任者が居るのではと思い抵抗を試みたのだが、まずエリーゼやシアンをそう言った場に立たせるのは論外なので選択肢からは必然的に外れてしまう。
そして紫電と年が近く、尚且つパートナーだと思われている存在となると相当限られてくるのだ。
それに相手側も馬鹿では無い。
縁の薄い人に代役を頼んだ所で直ぐにそれを看破され、付け入る隙を逆に与えてしまう。
そうなるともう頼める相手が居なくなってしまい……
「……まあ、そういった事情があったんならしょうがねェけどよぉ」
『それにしてもフェムトってば、改めて見て見ても怖い位に合ってるわね……』
「何も知らなければ何処かの令嬢に見える様に仕立ててもらったからね。当然さ」
「その
「でも、フェムトには良く似合ってる。かわいい」
「何か、負けた気分……」
「リトル……それにシアンも」
ただまあ私からすれば今更と言えば今更の話だ。
私の容姿は私自身から見ても女の子にしか見えない。
それに皇神で仕事をしている時なんて巫女服姿な上、私自身も
ただ、気になる事が一つ。
エリーゼがそんな私をどう思うのかがものすっごく気がかりだった。
「……ねぇGV?」
「……ボクは嫌だからね?」
『まだ何も言って無いわよ? GVにドレス、絶対に似合うと思うのに……』
「なら二人共、どうしてそんなに期待した目でボクを見るの?」
「これに巻き込まれるのはヤッベェ気がする。今の内にスタコラサッサだぜ」
「同感だね。ボク達もお暇しよう」
「私もフェムトみたいなドレス、何時か着て見たいな~♪」
後にエリーゼにこの事態が発覚した時、彼女の目はとても輝いていたのはまた別の話。
無自覚のピンチ(倫理的な意味で)
とあるある日の夜。
リトルは何時もの様に私に声を掛けた。
「フェムト、そろそろお風呂の時間だよ」
「あ、もうそんな時間ですか?」
「……思ったよりも時間が経っていたんだね」
「そうだね。GV、そろそろ私達お暇しなきゃ」
『ほら、エリーゼも早く支度しましょう? もっと長く居たい気持ちは分かるけどね』
「うん……」
だがリトルの次の言葉で皆、時間が止まってしまった様に固まってしまう。
「早く早く!
「「「『…………え?』」」」
最初はどうして皆が固まってしまっていたのかを理解できていなかった。
と言うか、そう言った事をその瞬間私は察知する事が出来なかった。
だが後の事を思えばそれは正解であり、結果的に動揺する事無く私は何時も通りの言葉をリトルに還す。
「はいはい。ちゃんといつも通り水着を着るの、忘れない様にね」
「は~~い♪」
そんな私達のやり取りを聞いた後、皆はどこか胸を撫でおろしたかのようにホッとしていた。
そこまで見て私はどうして皆が一瞬固まってしまっていたのかをようやく理解した。
理解した上で、私は素知らぬ顔で皆に話しかけた。
「(危ない危ない。よく考えたらリトルは皆から見れば唯の女の子にしか見えないんだった)……皆、どうかしたの?」
『あ~~……えっとね、ちょっとその……ビックリしたと言うか……』
「フェムト君って、リトルちゃんといつもお風呂に入っていたって事実に驚いてたって言うか……」
「でもちゃんと水着を着せてたみたいでボクとしてはホッとしたと言うか……」
「でも実はほんの少しだけ、期待してたって言うか……」
「あぁ、驚かせてゴメン。リトルはヒューマノイドだけどお風呂が大好きでね。何でも、
『……なんとなく分かるような分からないような基準ねぇ』
「フェムト~~! 早く早く! お湯が冷めちゃうよ~!」
「待ってて! 今行くから!」
その後日、リトルが今度は皆とお風呂に入りたいと言い始めたので代わりに温水プールへと足を運ぶ事となり皆の、特にエリーゼの水着姿を見ることが出来たので何だかんだいい結果に終わったと私は思ったのであった。
神楽舞う
とあるモルフォのライブの最中。
『暗い夜も暗くないと 寒い冬も寒くないとほら 零れ咲く花片に 鮮烈の刻』
虹色に装飾された扇子を両手に、青色の蝶を引き連れながら装いを新たに神楽を舞うが如く華やかに飛ぶ電子の謡精。
その光景は何所か幻想的で、彼女の歌声も相まって会場は一体感に包まれている。
その様子を見ながらネットでの反応を見て見れば、衣装が変化している事も、舞い踊るモルフォの姿も好評一色に染まっている。
(舞の指導、頭領さんにお願いして良かった)
(ん。モルフォ、すっごくキレイ)
(例の野生の
(退院した直後に生配信しているモルフォを間近で見られるとはね。紫電には、感謝しないといけないな)
(小声で済みませんが、退院おめでとうございます、ストラトスさん)
(ありがとう、フェムト君)
この前日、ストラトスさんが無事退院して私達の所属する能力者部隊に合流。
リハビリも兼ねてGVと共に今日のライブの警備に回っている。
『探し続けて 求めて 辿り着く先の 降り注ぐ陽の光 桜の演舞
「ひゃっほぅ~~~! シアンちゃ~~~~ん!!」
デイトナ、凄い目立ってる……隣に居るイオタも、少し肩身が狭そうだ。
ストラトスさんもGVも、そんな彼の様子に気が付いたのか苦笑いをしている。
そして歌が終わると同時にライブ会場は観客の歓声で溢れかえり、一部のSNSでは今時珍しくサーバーがダウンすると言う形で歓声が巻き起こった。
そんな長い歓声が鳴りやむとともに何処か名残惜しそうにモルフォは観客の前から陽炎が如く蝶を残して姿を揺らめかせ、静かに消えて行った。
その蝶も
その静かな余韻に浸りながらライブは終わりを告げた。
「いやぁ~~今日のライブも最高だったぜ!」
「お疲れ様、シアン」
「すっごく綺麗だったよ、シアン!」
「練習の成果、ちゃんと発揮出来てましたね」
「ありがとうGV、リトルちゃん、フェムト。……それで、どうだったGV? モルフォのライブを間近で見てみて」
「正直、圧倒されたよ。画面越しで見る事はあったけど、直に見ると全然違うね。こう、ライブ全体の一体感に圧倒されたって言うか」
そうしてライブの感想を言い合っている間に、ネットで新たな動きが発生していた。
具体的には、例の野生の電子の謡精による新しい動画だ。
彼女は暫く様子を見て気が付いたのだが、どうも皆を集めてライブすると言った事はしないらしい。
だがその歌唱力や演技力はモルフォと比べても引けを取らない為、人気は徐々にではあるが、確実に伸ばしている。
『孤独 祓う
こちらの動画もやはりトレンドに上がる程話題となり、『電子の謡精vs希望の歌姫』と言うワードすら浮上。
流石にまだ本格的に論争が起こっている訳では無いが、そうなるのも時間の問題と言った所だ。
『……こうしちゃいられないわ! シアン、特訓よ! 特訓!』
「うん! 絶対に負けないんだから!」
「……やれやれ、ライブが終わった後だと言うのに、彼女は元気だね」
「あはは……引き続き護衛頑張りましょう、ストラトスさん」
ライブ直後だと言うのに特訓を開始するシアン達をどこか微笑ましそうに見守りながら、今日も夜は更けていく。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。