戦の始まりの予感
トレーニングルームにて場違いだと思われる程の華やかな二人の舞が繰り広げられる。
一人はポニーテールの金色の髪を靡かせながら対峙する相手と演舞が如く肉薄する私。
そしてもう一人は青みがかった銀色の長髪を靡かせ、私と鏡合わせの如く同じ動きを以て相殺するリトル。
今行われているのは互いの動きの最適化。
互いに切り結ぶ回数が増える程にその動きに無駄が無くなり、洗練される。
動きに迷いが無くなり、セーブされていた速さが増していく。
甲高い金属音の鳴り響く音の速さが加速する。
「「…………」」
私の頬を、汗が伝う。
紙一重に見える攻防の緊張感が、どこまでも駆け上がれる高揚感と呼べる物が心地よい。
しかし、この楽しい時間はそろそろ終幕を迎える。
私達の演舞を見ていた人達の視線を感じる事で。
「ぁ……終わっちゃった」
「前にも見せて貰ったけど、改めて見ると随分と本格的だね」
「あ~あ、もっと見たかったなぁ」
「エリーゼ、それにGVにシアンも」
「みんな来てたんだ」
「ボクらだけじゃないよ。ほら、周りを見て」
GVに促されるように周りを見て見ると同じトレーニングルームで訓練していたであろう人達が私達を取り囲んでいた。
感心している人、恍惚としている人、驚きを隠せない人等、色んな表情を私達に送り届ける。
「うちの
「
……どうやら私の部署の部下まで来ていたらしい。
それに意外な人達の反応もある。
「……へぇ、何だかんだ紫電様のお気に入りって言われるだけの理由はあるって事か」
「いっ意外とやるじゃねぇか……」
その人達とは能力者部隊の人達だ。
私はデイトナ達や大多数の人達とは比較的仲は良好ではあるのだが、一部の人達からはあまり良く思われていない所があったりする。
この部隊は元々戦い的な意味で実力主義的な所が部隊の性質上存在しており、不当な特別扱いなんかを嫌う傾向にある。
つまりそう言った人達にとって後方支援に専念している私はどうにも快く思われていなかったのだ。
……そう言えばこの訓練をここでやるようになった切欠は紫電が作ってくれた物だった気がする。
だとしたらその時点で
「うーん……」
「どうしたんですか? フェムト君」
「私も近い内に前線に出る機会があるのかなって考えてたんです」
「フェムトを戦いに出すのってどう考えてもおかしいってわたしでも思うんだけど」
「普通に考えたら確かにそうだけど……紫電の事だ、何か事情があるんだろう。フェムトに実戦を積ませなければならない事情がね」
「その通りさ、ガンヴォルト」
いつの間にか紫電が私の横におり、周りに居た人達もいつの間にか居なくなっていた。
「フェムトはボクら皇神グループから見ても物凄く貴重な人材で、替えの効かない存在だ。その重要度は君達が思っているよりもずっと高いのさ。……だからこそ、フェムトの重要性に外部の連中が勘付いた。今はまだフェムトに守りを付けてあげられるけど、いつまでもそういう訳にはいかない」
「……最近外国で問題になってる、
「【多国籍能力者連合エデン】……ここに居る皆も何かしらの情報媒体で聞いた事がある筈だ。彼らは前からボクらの国にもちょっかいを掛けててね。今はまだ散発的な物だけど、いつ本格化しても不思議じゃない。もちろんフェムトには最低限の守りは確保出来るようにはしているけど、最低限である以上絶対では無い」
「だからこそフェムトにも実戦経験を積ませて、自分の身は自分で守れるようにする、と言った所かな?」
「そう言う事。元々フェムトの下地は十分すぎる程整っているからね。実戦をいくつか経験すれば相応に自衛出来るはずさ」
つまり今回の
この事を知った私は、遂にGVやデイトナ達の領域である戦いに身を投じる可能性を感じずにはいられなかったのであった。
不安を感じるリトル
リトルが何やら真剣にネット検索をしている。
何を調べているのかと横から見たら、その内容は発電についてだった。
「……電気を作るのって、無駄になっちゃう部分が多いんだよね」
今リトルが見ているのは『発電端熱効率』と呼ばれる項目だ。
簡潔に言うと発電機の発電電力量と燃料の発生熱量との比率の事を指す。
昨今でエネルギー問題が叫ばれる中、新たな発電方法が模索されるのはこれも関係していると私は考えている。
「……これを考えるだけでもGVが、
「ん。あの子は
ここが蒼き雷霆が次世代のエネルギーとして注目された理由だ。
燃料を始めとした外部要因が不要。
ただあるだけで
正しく次世代のエネルギーとしては理想と言える物なのかもしれない。
だからこそ、別の問題も孕んでいるのだが……
「火力、水力、原子力、核融合……こうして発電の種類を見ると人類が如何にエネルギー問題に四苦八苦してるかが良く分かるよ。……そういえば、どうしてリトルは今更発電について調べてるの? あの時一度この手の電気に関わる内容は一通り調べたと思うけど」
「……わたしの進む
あぁ、なるほど。
リトルは不安なんだ。
第七波動も生き物で、感情がある以上自分の進む先に疑問を持って当然だ。
「……ごめんね。フェムトといっぱい考えて決めた事なのに」
「大丈夫。どんな結果であれ私は受け入れるよ」
そう言いながらリトルのサラサラな髪の毛を撫でる。
リトルはそんな私に背を預けながら、心地よさそうに目を瞑る。
……こうして見ると、とても宝剣にもヒューマノイドにも見えない。
れっきとした生身の人間だと錯覚してしまいそうになる。
そう思っていると、リトルのお腹からご飯の催促の要求の声が聞こえた。
「安心したら、お腹空いちゃった」
「じゃあそろそろご飯を造ろうか。確か今日はデイトナ達が来る筈だしね」
「ん! 私、頑張る!」
……お腹が空く様になったのも次の段階の影響だったりするのだろうか?
あれから暫く経ったけど、明確な変化が起こったのはこれが一番最初だった。
そんな時、玄関からチャイムが鳴った。
なのでふと頭から出て来た疑問を片隅へと置いて、私達はデイトナ達を招き入れ、夕食の支度を始めるのだった。
許されざる罪
「ねぇ聞いてよフェムト! GVったらヒドイのよ!」
珍しくシアンが一人で私とリトル、エリーゼの居る部屋へとやって来てGVに対して不満をあらわにしていた。
「シアンさん落ち着いて下さい。何かあったんですか?」
「シアン、そんなに怒るの珍しい」
「ですね。……良かったら、話してもらえませんか?」
シアンが怒っているその内容とは私からすれば余りにしょうもない内容だった。
「GVったら、たこ焼きの事を『ボール状のお好み焼き』だなんて言ったんだよ!」
……はい?
私は表に出さない様に内心呆れていると、何故かエリーゼとリトルが同調してしまった。
「な……なんて罰当たりな」
「許せない! たこ焼きの事馬鹿にしてる!」
(えぇ……二人共どうしてそこで同調するんですか?)
『フェムトもそう思うわよね!?』
(ひぇ……!)
突然のモルフォに私は悲鳴を押し殺すのに必死だった。
……一体どうしてたこ焼きとお好み焼きの違いでここまで怒れるんだろう。
どうして……落ち付こう、私。
こういった時の対処法はニコラがサラッと話してくれていた筈。
確か『相手は「答え」を求めているのではなく、「同意」を求めているから取り合えず合わせとけ。但し、躊躇ったり少し考える素振りを見せたらアウトだから即応しろ』って感じの内容だった。
なので、私はニコラのアドバイスに従い、モルフォの同意に間髪入れずに同意する事で何とかこの場を切り抜けることが出来た。
そうしてこの場に居る女性陣の怒りが収まり、話は別の物へと変化。
その間私は折角なのでたこ焼きとお好み焼きの違いを調べてみる事に。
(えっと、何々……なるほど、粉が違う感じなんですね。粉末醤油が入っている場合が多いのがたこ焼き粉で、ほとんど入っていないのがお好み焼き粉と……)
それに焼き上がりの状態も結構違いがあるらしく、たこ焼きの生地は表面はカリッと焼き上がって中がとろりとした食感となり、お好み焼きはもっちり焼き上がってふんわりとした食感となる様だ。
……折角だし、今度ホットプレートとタコ焼き機を買って振舞ってみよう。
そう思いながら良く分からない理由でシアンに怒られたであろうGVに静かな黙祷を捧げるのであった。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
次のお話はちょっと色々な意味で別視点のお話になります。
その次で休暇編を締めるエピローグ的な話をした後に、改めて本編に戻る形となります。
だが、その羽搏きによって不利益を被った事例もまた、当然存在する。
同じ物事には常に別の側面がある。
宝剣を持つ皇神の能力者は第七波動の本質を理解し、その力を更に高めた。
当然その中には
ならば、
故に……