ガンヴォルト 現地オリ主原作開始前スタート   作:琉土

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第三話 運命の分岐点

 

 

 

 

 漠然とした嫌な予感を僅かに感じる日々を、蒼き雷霆(アームドブルー)の別の可能性を模索する研究に費やしていく私達。

 

 そんなある日の出来事。

 

 定期的に提出する事が決められていた研究レポートを出しに行ったニコラが戻って来たのだが、どうにも様子がおかしい。 

 

 その表情は、まるで苦虫を噛み潰したかのような表情だったからだ。

 

 その理由を私は尋ねたのだが、その理由をニコラは話してくれた。

 

 あの計画(プロジェクト・ガンヴォルト)の成功例、その被検体の実験に立ち会う事を許可されたからだ。

 

 それも、私も含めて。

 

 曰く「あいつらの性根を考えると正直嫌な予感しかしねぇ。って言うか、俺らの努力は無駄だと間接的に言いながらマウント取って来る魂胆が見え見えなのに腹が立つ!」のだとか。

 

 そういう訳で、少々異例である他者の研究の実験に立ち会う事をニコラのおこぼれと言う形でその権利を得ることが出来た。

 

 その実験に立ち会う場所へと向かう道中、私は成功例の彼の事を考えていた。

 

 一体どんな人なんだろう?

 

 仲良くなれるのだろうか?

 

 そもそも被検体同士で話すことが出来るのだろうかと、その時は実に楽観的なおのぼりさん的な気分であった。

 

 一緒に歩いているニコラの顔が、これまでに見た事が無い程に歪んでいるのを、下から見上げる事で確認する時までは。

 

 そんなニコラの顔を見てしまってからと言う物、私は彼の手を強く握りながら身を縮める様に歩く事しか出来なかった。

 

 そうしてたどり着くまでに何人かの知らない研究員とすれ違ったが、彼らがどんな表情をしていたのかはまるで分らない。

 

 ただ、私の方に視線を感じる事は無かった為、少なくとも相手にされていない事は何となく分かったのは幸いではあった。

 

 そして遂に成功例の彼が居る専用の研究室へと、ニコラと共に足を運んだ。

 

 そこで待っていたのはこれまで私とニコラがしてきた和気藹々とした実験風景などでは無かった。

 

 話には聞いていた。

 

 研究員は被検体に対して好き勝手出来るという事を。

 

 だから私も相応の覚悟でこの場所に足を踏み入れたつもりであった。

 

 だけどそんな覚悟は一瞬の内に砕け散り、塵となって消えてしまったのだ。

 

 ニコラとは違う、冷たい印象しか残らない無表情の研究員達の姿、そして……。

 

 憔悴しきり、この世の全てを恨んでいるかの様な表情をした、成功例の彼を姿を見た事で。

 

 この時、私は彼と目が合った。

 

 その目の輝きはニコラは愚か、この場に居る研究員達と比べても明らかに曇り切っており、まるで先の見えない闇が広がっているかの様な錯覚を、私は感じ取る。

 

 その瞳はまるで、私の事を恨んでいるかのように見え……。

 

 

ひっ……!

 

フェムト落ち着け……そうだ、落ち着いて俺の手にしがみ付け。怖がる必要は無い。何かあったら、俺が守ってやるから安心しろ

 

 

 小声で優しく話しかけるニコラの言う通り、私は通路を歩いていた時よりも強く彼の手に強くしがみ付き、落ち着きを取り戻した。

 

 そうして改めて周囲を見回してみる。

 

 この研究室は、明らかにここは私達が普段使っている研究室とは広さも質も段違いだ。

 

 見た事も無い様な大型の機械に加え、何やら沢山の薬が入った瓶が一杯、棚に並べられているのをガラス越しに確認出来る。

 

 他にも用途不明の機材が色々とあったけど、この研究室で何よりも異質だと思ったのは、中央の、何やら人が仰向けに寝てられるほどに広い台だ。

 

 何故私がそう思ったのか?

 

 それは、見る限り明らかに逃げるのを防止する為の拘束具がセットになっていたからだ。

 

 そんな私の思いを無視するかのように、この研究室での実験が始まった。

 

 私もこんな風に扱われる可能性のあった、余りにも残酷な実験が。

 

 

「何……これ……」

 

「…………」

 

 

 これは、何だ?

 

 私は今、何を見せられている?

 

 成功例の彼は何故中央の台で拘束され、大きな悲鳴を上げながら苦しめられている?

 

 そんな彼を研究員達は、まるで無関心と言ってもいい無表情でデータを計測している。

 

 こんな光景、余りにも酷すぎる。

 

 見ているだけで頭がおかしくなりそうだ。

 

 こんなの、私の知る実験等では無い。

 

 

「うああああああああああああ!!!!」

 

「おい! あの子は大丈夫なのか!? アレはどう見てもやり過ぎにしか見えねぇぞ!」

 

 

 成功例の彼の悲鳴と、ニコラの強い怒気が籠った言葉が研究室に響き渡った。

 

 だけど、ニコラの質問に答える研究員は、目の前で繰り広げられている惨劇を前に「問題ありません」と言い切る。

 

 この言葉に、私はここに居る研究員達には血が通っていないのかと思う事しか出来なかった。

 

 そうして今私の目の前で繰り広げられている惨劇は能力を無理矢理引き出し、その出力を計測すると言う実験だ。

 

 この実験そのものは、私もニコラの主導の元で何度かやった事はある。

 

 だけど、ニコラはちゃんと事前に警告してくれたし、危険だと判断したらすぐに止める事も約束してくれ、私は安心してこの実験に挑むことが出来た。

 

 私の場合、成功例の彼みたいに悲鳴を上げる程に強い出力が引き出される事は無かったが、回数を重ねる毎に出力は少しづつ増える発見をした事で、失敗作であると言われた私にも成長性が確認出来たのだ。

 

 そうしてこの実験は、終わった後に貰ったご褒美の羊羹も含め、私達の研究を進める有意義な物となった。

 

 なる筈だったのだ。

 

 この悍ましい実験を見るまでは。

 

 話を戻すが、そんな成功例の彼が命を振り絞って悲鳴を上げながら能力を無理矢理引き出されている際の出力は、私達のそんななけなしの自尊心を木っ端微塵に打ち砕くのに十分な破壊力を秘めていた。

 

 その出力は私と比べるのも烏滸がましい程に高く、それこそ私が出した最高記録なぞ砂粒に過ぎないと、目の前の、成功例の彼が指し示す数字は流暢に物語る。

 

 更に追い打ちをかけるかのように、あの数字はこれまで出た出力の中で最高記録であり、私と同じように成長性がある事が判明した。

 

 この事を彼の出力計測を担当している研究員の口から語られる事で、私の中で残っていた僅かに有利だと思っていた成長性と言う希望を、無機質な言葉と共に容易く踏みにじった。

 

 そしてトドメと言わんが如く、今回の成長率だけで私の出した総出力を越えているデータを、残酷なまでに突きつけられたのだ。

 

 そう、上には上が居る。

 

 文字にすれば簡単な言葉の意味を、私は魂の底まで刻み付けられる。

 

 そしてこの実験が切欠で私は、納得がいかない事も、曲がった事が嫌だった事も、どうしようもないの一言で割り切る事が出来る様になった。

 

 なってしまった。

 

 あんな圧倒的な光景を見せつけられて、そう思わない方がどうかしている。

 

 私の持つ劣等感を、全力で直接ぶん殴ると言う行為を、受けてしまったのだから。

 

 

「…………」

 

 

 そんな二重の意味で悲惨で悍ましい実験が終わり、私達は自分たちの研究室へと戻る。

 

 あの研究室とは違い小さくて簡単な機材しか無いけど、何処か温かみのある、私達の居場所へと。

 

 そんな研究室で私が初めてここに来た時と同じ様に、ニコラは怒鳴り声を張り上げる。

 

 

「……人間発電所なんて物を本気で創ろうとするんだったら、アレ位の出力は出せねぇと話にならねぇよなぁ!! 糞ったれめ!! ああそうだよな。確かに結果は出てるだろうさ。だがな、このままじゃあの子は持たねぇ! 折角の成功例である彼が、このままでは奴らの際限の無い暴挙の如き研究で台無しになっちまう!」

 

「……ニコラ」

 

「……すまん、フェムト。あん時みたいに怒鳴り声上げちまって」

 

 

 私も、同じ被検体としての格差を思い知らされ、最初にこの研究室に来た時と同じ様に、床に膝を抱えて座り込む事しか出来なかった。

 

 あの研究員達は私達を特に気にする様子は無く、正しく眼中にないと言わんが如くデータを淡々と読み進めていた。

 

 何故ならばそれだけで私達を絶望の淵に叩き落すのに、十分な破壊力があるから。

 

 ただいつもやっていると予想されるデータ取りを見せつけるだけで良かったからだ。

 

 そしてこの日を境にニコラはこの研究室を留守にする機会が増え、逆に彼と顔を合わせる機会が減り続け、過ぎ行く日々の中、遂に彼と話をする所か、顔を合わせる機会すらほぼ無くなってしまった。

 

 私はニコラの居ない日、彼が残したメモによる実験を繰り返すようにと言う指示に従うだけの人形に成り果てている。

 

 こうして狭くて少し窮屈だったけど、それでも居心地の良い世界は音を立てて崩れ去った。

 

 そうして出来た残骸の世界で、ニコラのメモの内容を淡々とこなしながら私は思う。

 

 あの成功例の彼は、無事なのだろうかと。

 

 被検体としての性能は、それこそ比べる事も烏滸がましい程の差があったのは事実だ。

 

 ニコラが留守気味になった理由も、あの実験が切欠なのは間違い無い。

 

 悔しいと思う気持ちも、寂しいと思う気持ちも、当然ある。

 

 だけど名前も知らない彼はこの瞬間も苦しみ続けているのだ。

 

 あの時の悲鳴が夢に出てくる事も珍しくない。

 

 だから私は時々考える事がある。

 

 私は失敗作だったけど人の温かさを知り、幻ではあったかもしれないけど可能性と言う物をニコラと共に日々追及する事が出来た。

 

 それに対して彼は成功者だったけど、あの計画の犠牲者と明確に言える程に、あの大勢の、血も涙も通っていないような研究員達に弄ばれ、辛く厳しい日々を今も過ごしている。

 

 だから、彼は私を恨んでいるのではないか、と。

 

 そう考えていた時であった。

 

 これまで感じた事の無い大きな音と振動がこの研究室、いやこの研究施設全てを襲ったのだ。

 

 それが鳴りやんだ後、扉からこれまで留守になりがちだったニコラが現れ、慌てて私の元へと駆け寄り、何があったのかも語らぬまま私の手を引き、研究室を後にした。

 

 

「ニコラ! これ! どうなってるの!?」

 

「俺にもわからん!! お前をこの研究施設から出す為にコネを最大限利用して受け入れ先を漸く探し出して戻ってきた途端これだったんだ!! 把握何て出来る訳ねぇだろ!!」

 

「ニコラ……! それって!」

 

「お前! 前から言ってたよな!! この場所は窮屈だってよ!! だから!! 俺は探してたのさ!! お前を受け入れてくれる場所を!! 何しろあいつら、完全にお前の事眼中になかったからなぁ!! だから、思ったよりも時間が掛からず上手く見つける事が、出来たのさ!!」

 

 

 この研究施設を衝撃と爆音が襲う中、私達は駆け抜ける。

 

 そして、何が起きたのかを知らせる、機械的な警告音声が響き渡った。

 

 

『警告。現在この研究施設は、テロリストと思われる武装集団により攻撃を受けています。配置についている警備員は、速やかに研究施設内に居る研究員を脱出させてください。繰り返します。現在…』

 

「テロリストだと!? となると、【フェザー】の連中か!! 全く、なんてタイミングで来やがる!!」

 

「フェザーって! ニコラが話してくれた! 能力者の自由を掲げてる! 人達だって聞いたけど!」

 

「あいつらの言い分ではそうだがな!! 世間一般では!! レジスタンスと称したテロリストなのさ!! とりあえず走れ!! いいか!? 良く聞け!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! この通路を出れれば外に出られる!! 後はそのまま真っすぐ行けば迎えが居るはずだ!! 気張れよ、フェムト!! ここがお前の、【運命の分岐点】って奴なんだからな!!」

 

「分かってるよ!! ニコラも遅れない様に、ちゃんと付いて来てよね!!」

 

「当り前の事を言うなよ!! こちとら()()()()から生き残った!! 曰く付きの研究員なんだからなぁ!! それと!! お前の新しい場所の上司の名前、教えておくぞ!! 【月読紫電】!! 月読紫電って言ういけ好かないガキだ!! 覚えとけよ、フェムト!!」

 

 この爆音でも声が響く様に、私達は途切れ途切れになりながらも大きな声で会話を続けながら、出口であろう場所へと全力で走っている。

 

 私達が今現在進行形で走っているその通路は、既に多くの残骸と火の手が回っており、早く脱出しないと崩壊するのは私の目で見ても明らかであった。

 

 そんな通路を走りながら私は考えていた。

 

 この施設がフェザーに狙われたその目的は、恐らく成功例の彼。

 

 何処からかこの研究施設の情報が洩れ、彼らはこの施設を襲ったのだ。

 

 そう考えれば、彼の安全は保障されたと考えてもいいだろう。

 

 では、私はどうだろうか?

 

 ……無理だ。

 

 私は弱い。

 

 仮に私がフェザーに行ったとしても、そこには私の居場所は無いだろう。

 

 何故なら、そこには私の完全上位互換である彼が居るのだから。

 

 迷う事は無い。

 

 私はニコラを信じて付いて行くだけ。

 

 ニコラは私に居場所を与える為に、コネを総動員して居場所を用意してくれた。

 

 だから絶対にこの手は離さない。

 

 ……っ!

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう思っている内に、私達は外に出ることが出来た。

 

 後は真っ直ぐ向かうだけだ!

 

 それにしても、()()()()()()()()()()()

 

 もっとこう、重みがある筈なのに。

 

 そう思いながら横を見た私は……。

 

 

「え? ニコラ? ……嘘、だよね? どうして!? だって、私はちゃんとニコラと手を繋いで……!?」

 

 

 これまで順調であった研究。

 

 それを打ち壊され、それでも私の為に居場所を外に創ろうとしてくれたニコラ。

 

 そんな彼はもう、この世には居ない。

 

 その居なくなった証である私が繋いだ筈の、ニコラの手だけを残して。

 

 それをハッキリ認識した時、私はただ大粒の涙を零し、彼が残した手を抱きしめながら泣き叫ぶ事しか出来なかった。

 

 そんな私が、フェザーに見つからなかったのは奇跡と言ってもいいだろう。

 

 そんな奇跡が実現したのはフェザーよりも先に私を見つけてくれた人物が居たからだ。

 

 そんな人物が泣き叫んでいた私に対して、こう話しかけてきた。

 

 不思議な事に、まだ爆音や私の鳴き声が響き渡っていたにもかかわらず、その声は私の耳に何も障害が無いかの様に響いた。

 

「君があの計画の移植実験に成功した、ニコラが自慢していたフェムトだね?」

 

「う……、うぁ……」

 

「無理に話そうとしなくていい。……ニコラは、君の特徴をよく話していたからね。こっちでちゃんと把握しているよ」

 

 

 私は何とか涙を拭い去り、此方に手を差し伸べている少年を見た。

 

 その姿は私よりも背は高いけど、ニコラの言う通り私と同じでまだ子供。

 

 黒髪に一部、その中央に白い髪を持ち、全体的にとがった様な髪型しており、その姿は何やら特徴的な防護服を身に纏っていた。

 

 私は何処か捉え所の無い、不思議な雰囲気を放っているそんな彼に対して手を伸ばし、名前を尋ねた。

 

 

「ん? ボクの名前かい? ……ボクの名前は月読紫電。ちょっとした特殊部隊に所属しているんだ。それでこれから、君の上司となる者でもある」

 

 

 そう、これがニコラの言っていた運命の分岐点であり、長い付き合いとなる、紫電との出会いだった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。


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