第四話 新たな立ち位置
あの運命の分岐点とも言える惨劇から暫くの年月が経ち、私の取り巻く環境が劇的に変化した。
そう、この国に潜伏していると言うフェザーを名乗るテロリストの手によって。
その後、亡くなる前のニコラのコネで、とある特殊部隊に所属している紫電と言う人物の部下になる事となった。
だけどその時の私はニコラの死の影響が余りにも大きかった為、それを解決するべくしばらくの間、と言っても全力で能力を脳に行使し体感時間を加速させて自問自答を繰り返すと言う方法で、何とか会話を交わすだけの精神的な余裕を無理矢理確保。
体感時間は一週間位だったけど実際は一日程度の短い時間で済んだと考えれば、悪くない結果だと思った。
これまではニコラが私の面倒を見てくれていたけど、今は違う。
私から直接動かなければ、自分の立ち位置を確保する事が叶わない。
それは紫電の所属している【能力者部隊】と呼ばれる、様々な第七波動を持った能力者達による特殊部隊に私は所属する事となったからだ。
まずここでやらされたのは、当然能力の披露であった。
何しろここは能力者達の部隊だ。
何かしらの特技が無ければあっという間に爪弾きにされてしまうだろう。
だから私は、出し惜しみ無く今使える能力を行使する。
身体能力を強化したり、五感を強化するだけで無く、あの研究施設に居た日々の中で新たに得た生体電流の制御による自然治癒や、普段私が良くしている勉強法で使っているハッキング等も披露。
他には他者の生体電流を操作した全身マッサージであったり、あらゆる機械に互換性を持たせた規格の電気の発生等、今の私が出来る事をすべて出し切った。
その結果、私はこの特殊部隊における情報処理関係の仕事を始めとした後方支援がメインの立ち位置に定まる事となる。
とは言え、特殊部隊に所属している以上、最低限の訓練を受ける必要はあるのだけど。
でも私の中ではこの待遇は、正直意外な物であった。
何故ならば、能力者で構成されているとは言え特殊部隊と名乗っている、つまり荒事がメインだと私は考えていたからだ。
だけど私が言うのも違う気がするけど、能力者と言う者はどうにも若年層が多く、戦闘に特化した人達が多い傾向がある。
例えば、私の先輩の一人にあたる【イオタ】と言う、光子を操作する第七波動【
そういう訳もあり、情報処理に特化したような私の能力運用は紫電所か、他の能力者達からも諸手を上げた歓迎を受ける事となった。
特に、離れた場所同士を繋げる第七波動【
実際この部隊の情報処理は紫電とメラク、そして一部の知識人のみで回していた為、本来紫電がやりたかった本当の目的の為の足場固めが、順調とは言えなかったのだ。
これは恐らく能力者が嫌われているのが理由で、情報処理を専門とした人達がこの部隊に配属されなかったからだと私は予測している。
……私達の所属する能力者による特殊部隊を保有し、
そういう訳で、この部隊に入って一ヵ月位の時間経過の間に情報処理に関して言えばほぼ私の独壇場となった。
それもあり、メラクからは面倒な部分を私に押し付ける事も大幅に増える事となるのだが……。
とは言え、私の場合この作業が能力運用の習熟に役立っているし、彼は楽できるので両得な状況なので問題は無い……筈だ。
そのお陰で紫電も遠慮なく足場固めに動く事が出来、今現在は防衛部隊管理役にまで地位を向上させている。
その時に部隊の再編も行われ、その稼働率も前の時と比べ倍以上の結果を誇る結果となったのだ。
これは部隊再編に加え、私の情報処理と生体電流操作によるマッサージが部隊内で好評で、疲れが良く取れて万全な状態で能力を行使できる状態を維持した事も理由だと紫電は語っていた。
この技術は元々ニコラが研究レポートを纏め終わり、かなり疲れている表情をしていた為、本人に許可を取り試してみた事が始まりであった。
これにはニコラも「あ”あ”ぁぁぁ~~~~」と心地よさそうな声を上げながらリラックスしつつ疲れが取れたのを、科学的にも体感的にも把握出来た為この生体電流マッサージも日課に加わったのだ。
こうして私はこの部隊の中での居場所を確立する事となったのだけれど、逆に私自身の負担を心配する声が出始めていた。
「流石にさ、フェムトはいい加減休んだ方がいいと思うよ? いくら面倒事を押し付けるのが大好きなボクでも、多少の良心はあるんだよ?」
「ありがとうメラク。でも疲れは生体電流を操作すれば大丈夫だし、それに…休んでいると、ニコラの事、思い出しちゃってさ」
「私にも軍人時代に似たような事を経験した覚えがある。だが、その時は周りに居た仲間達が無理矢理私の事を休ませる為に骨を折る事となった。あの時は何故ここまでするのかと思った物だが……。こうして客観的に見れば、その理由も良く分かる」
「イオタ……」
「フェムト、お前はよくやってくれている。お前のお陰で、紫電殿の計画は当初の予定よりも大幅に早く進行しているからだ」
「だからよォ、お前はいい加減寝とけって。こっちからすれば突然ぶっ倒れる方が迷惑なんだ。ここは素直に好意に甘えておけよ」
私に寝とけと言う彼は、紫電がスカウトした能力者の一人。
私の後から皇神グループに所属した、熱エネルギーを操る【
言葉使いはどこかニコラを思わせる位に悪いけど、それでも外の世界における能力者の現実を知る、常識的な人でもある。
話を戻すがデイトナの言う通り、思い返してみればここ最近一週間に一度、それも四時間位しか休んでいない。
再編してからさらに忙しくなった部隊の仕事に加え、亡くなったニコラの研究を引き継いで自身の能力の研究等も進めているのだから、この結果は当然の帰結であった。
そう考えてみれば、確かに私はいい加減休んだ方がいいのだろう。
一応、私が居ない時のマニュアルは用意してあるし、この行為に甘えても……。
と気を緩めたその時、私の身体から力が抜け、そのまま床へと――。
「っと、危ねぇ危ねェ。全く、暫くゆっくり休んでろよな。この大馬鹿野郎が」
――倒れず、デイトナに支えられる事となった。
私は彼にお礼を言って立ち上がろうとしたのだが、どうにも体が素直に動かない。
これまでの無茶が祟ったのだろう。
仕方が無いので、このままデイトナに私の部屋まで運んでもらう様にお願いした。
デイトナはメラクに飛ばして貰えと言って断ろうとしたが、そんな面倒な事を、メラクがするはずも無い。
そして、イオタも既にこの場から居なくなっており、結局デイトナが引き受ける事となった。
そうして彼は私を抱え、少し遠い位置にある私室へと向かう事となる。
その道中の最中…。
「しっかしよォ、フェムト。お前その見た目何とかならねぇのか? これじゃあまるで、オレが女を背負ってるみたいじゃねェかよ」
「……? 私の何所が女なのですか? 良く分かりませんが? 少なくとも服装はよくある雑誌にありそうな男物のズボンにシャツで、その上に白衣を着てるだけで、女性に間違われる事何て無い筈ですが」
「んなもん! その喋り方に加えて声の高さ! それにオレらよりも低身長に加えてアホみたいに長い髪に複数の髪留め! お前の能力を補助する男物のアクセサリーや服装だけで、如何にかなる訳ねェだろうが!」
……この場所に来る前、私自身知らなかった事があった。
私はどうにも世間的な一般男性の外見をしておらず、女性の様な外見らしい。
思い返してみれば、ニコラも私の事をさり気無くデイトナと同じような事を言っていた事に気が付く。
低身長や声の高さは、正直仕方がない。
何しろそれは生まれつきや年齢と言う私自身ではどうしようもない要素だからだ。
喋り方も気が付いたらこんな感じであったし、ニコラもその辺り気にしてはいなかった。
そうなると、この見た目でネックなのは髪の長さ。
だけどこれは私の能力の出力を補助する重要な意味を持つ。
一度ニコラに髪を切ってから出力計測をした事が有り、その結果はやはりと言うべきか、能力の出力低下が確認された。
故に、それ以来私は髪を一度も切ってはいない。
ただ、これで問題となるのが視界が髪で隠れたり、腰所か背伸びした際の足のつま先よりも長い髪を如何束ねるのか。
この問題は私がここに来てから発生した物で、研究の最中にインターネットで髪型を検索し、それを独自に試行錯誤しながら解決する事となる。
その結果、今の私の髪型はポニーテールをベースにした髪型となった。
その際私の髪の性質を改めて調べ直し、髪留めに蓄電機能を持たせて能力の補助をすると言うアイデアが湧き採用できたのは棚からぼた餅と言える成果で、デイトナの言う男物のアクセサリーにも、その機能を持たせている。
これにより、出力の問題は多少はマシになった。
ただ、成功例の
まあそういう訳なので、デイトナの要望に私は答える事が出来ないのだ。
そうしてデイトナが文句を言いながらも私を抱えて進み、私の部屋の前まで差し掛かろうとしたその時、
その時の少女を目撃したデイトナは顔を真っ赤にしつつ、歩みも遅くなった。
そう、この少女は紫電が最近になって進めている計画である【
「……【シアン】ちゃんだ。おいフェムト見て見ろ、生シアンちゃんがいるぞ!」
「ああ、確かに、シアンが、居るね……」
「おぉ! シアンちゃんが笑顔でこっちに手を振ってくれたぞ! お前も見ただろ! なあおい!」
「デイトナ、返事を、したいけど、そろそろ、限界、かも……。っていうか、シアンとは、昨日も、一緒に、話をした、ばかり…………」
その子の名前はシアン。
私と同じ位の背丈で、ショートの少し淡い紫色の髪をした女の子。
計画の中心人物である以上、彼女も当然能力者だ。
彼女の持つ第七波動、その名は【
私が知る限りこの能力は前代未聞だ。
それは精神感応能力である事もそうだが、何よりも特筆すべきことは、
つまり、生きているのだ。
それ所か姿を現す事も出来、その見た目は私ですら知っている今をときめくバーチャルアイドル【モルフォ】の姿であり、本人だったりする。
そのお陰でこの能力を知った時、私の中で
そう言う意味では、彼女を知れた事に大いに感謝している。
そして私も、やはり情報処理と言う形でこの計画に関わっていた。
そんな立場を利用して彼女との会話を試み、以降それを積極的に行っている。
まあそれはさておき、シアンを見たデイトナのこの反応。
多分デイトナは、彼女の事が好きなのだろう。
ニコラとの雑談の際の、好きな女の子に対する男の手本とも言える反応だったからだ。
その事に関して私は応援しているので、デイトナとの会話の機会も設ける様に立ち回っている。
その際、何だかんだで私の前で微笑ましい会話を繰り広げている事もあり私は生温かくその様子を見守っている。
それらは私と会話をしている時と同じで、彼女の持つ不満等のストレスを発散させる意味もあった。
だけど、それ以上に積極的に会話をする大切な理由が、私の中にある。
それは、嘗て
ニコラが言うには、彼はあの計画の要だったと言うのに、何も知らされていなかったのだ。
その事を聞いた私は、もしこの施設から出て研究員となり、似たような状況の子が担当になったら、ニコラの様に力になろうと決意していた。
そしてシアンもあの時の彼と同様、計画について何も聞かされていない事が判明。
……今の私は研究員では無い。
だけど、それでも私はどうしても伝えたかった。
何故ならば、私はあの計画の事を知らされていたし、その結果力になろうと自発的に思えるようになったと言う経験があったからだ。
だから事前に紫電から許可を取りつつ、可能な範囲で計画の事を話し、柔らかく計画の協力の要請をしつつ、可能な限り力になると私はシアンに約束した。
そう、私はニコラの様になりたかったから。
そして、その際にある約束を交わす事となった。
この計画が終わったら、「外の世界で歌を歌いたい」と言う、シアンにとっての大切な約束を。
それを思い出しながら、私はこれまで蓄積された疲労による微睡の中に、身を委ねた。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
〇シアンとフェムトとの関係について
予め宣言しておきます。
私は基本ガンヴォルト×シアン派なので、この二次小説内でシアンがフェムトに対して恋心を抱く事など無く、フェムトもシアンに恋心を抱く事はありません。
そもそも、フェムトの見た目がこの話の中である様に、一部の人が倒錯する程アレな見た目なので、シアンはフェムトが男である事に気が付いていません。
なおモルフォにはバレており、シアンが気が付いていない事を面白がって黙っている模様。
じゃあデイトナはどうなのと言えば……ノーコメントで。