サイドストーリー |
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話は歌姫プロジェクトが発動した直後に加え、パンテーラが一度アキュラに撃退されて失踪する前まで遡る。
この計画によって我が国に存在する第七波動能力者による暴走及び悪用を大幅に抑える事に成功している。
これは治安維持的に考えて実に革命的な事で、能力者に対する不安を払拭する極めて重要な一手となった。
しかし、これ以上に重要な情報もこの計画によってもたらされる。
それは
この情報が何を意味するのか。
それは
人類史において、数は力だと言われている。
それを踏まえて考えれば、この事実はボク達能力者にとって重大な一つの節目と言えるだろう。
とまあ大袈裟に言うが、これだけならば我が国の話の中だけで納まる話だ。
だが、何処から聞きつけたのか様々な各国の外交筋からある依頼が殺到する事となる。
その内容は言葉を濁しているが、要約するとこんな感じだ。
「我が国の能力者の発生がどの程度なのかを知りたい」
この情報を調べる事は、やろうと思えば出来る。
要は歌の範囲を拡大すればよいのだから。
しかしそれは依頼した外国から見れば、我が国に対して情報を売り渡す行為でもあるのだ。
下手をすれば売国行為と取られかねない。
そんなリスクを飲み込んででも能力者の発生を知ると言うのは、依頼した国にとって極めて重要度が高いという事なのだろう。
そういう訳で、定期的に行っているモルフォライブに合わせてその調査もする事となった。
あくまで能力者の発生を調べるだけならば負担はそう変わらない。
歌の影響範囲を調整すればよいだけの話なのだから。
そうして調べ上げた結果はやはりと言うべきか、依頼したどの外国でも我が国の物と同じ割合の結果となった。
一応地球上全ての人口を調べ上げた訳では無いので確定した訳では無いが、これによって能力者は無能力者と人口が逆転したと言う説が現実味を帯びる事となる。
後にこの出来事は【
そして、この事実によって大きな不利益を被る名を馳せた国際組織が大きく分けて二つ存在する。
一つ目は我が国でも
この組織は海外のとある人権団体のメンバーが中核となり組織されたレジスタンスグループで、能力者の自由の名の元に皇神に対してテロ行為をしていた存在だ。
元々歌姫プロジェクトはこう言った能力者を抱えるテロ組織に対抗する意味もあった為、彼らが我が国で活動出来なくなり、弱体化するのは予想出来ていた。
それに加え、メラクの策として能力者に対する融和を掲げ、フェザーから
よって、どう転んでもフェザーは皇神に対してほぼ手出し出来ず、資金や物資を提供している
我が国に居たフェザーはテロによる経験を生かす形で警備会社を立ち上げており、後にこの警備会社は監視目的も兼ねて皇神グループの傘下に入る事となるのはまた別の話だ。
そして海外のフェザーも似たような末路を辿っており、それぞれの現地の国で会社を興している。
そしてもう一つの組織である多国籍能力者連合エデン。
彼らもまたこの出来事で大きな不利益を被った組織の一つ……の筈だ。
何故このように言い淀んでいるのかと言えば、目の前に居るエデンに所属していると思われるパンテーラが余りにも不利益に対して無自覚だったからだ。
彼、或いは彼女はボクと並ぶ程の能力者でスパイをしている以上、エデンにおいて
それなのにも関わらず極めて楽観視していたのだからボクは別の意味で心配になってしまった程だ。
全く、情報の最前線に居るであろうパンテーラがこの調子では、エデン構成員の思考はもっとヒドイ物なのだと想像してしまい、頭を抱えそうになってしまう。
まあパンテーラの正体を後に知った後ならば、この楽観視も年相応の純粋さなのだと考えると納得がいったのだが……
当時のボクはそんな事等知る筈も無く、副社長室で二人きりになった時にそれと無く話をする事にしたのだ。
エデンが将来どうなってしまうのかを。
ボクを副社長まで導いてくれた個人的な恩義を返す事も兼ね……いや、この動機は地獄への道は善意で舗装されている事と同じになりかねない。
なのでまずは冷静に、皇神の利益を考える。
……うん、仮に拒絶されてしまっても、直ぐに不利益を被る事は無いだろう。
むしろ利益を考えるならば拒絶されて居なくなってくれた方が良いまである。
「ねぇパンテーラ、キミはこのままここに居て大丈夫なのかい?」
「紫電はもうワタシは用済みって言いたいのかしら? ワタシはまだ愛を振りまき足りないと言うのに」
「そういう訳じゃ無いさ。ボク個人としてはこのままで居て貰ってもやぶさかじゃあ無いんだけどね。これはキミが
「忠告?」
「今更だけどさ、キミはエデンから来たスパイだよね?」
「さて、どうかしら?」
「(流石にはぐらかすか)今から話す事はキミがそうであると言う前提の話。もし違うのならコレはボクの勘違い。聞かなかった事にしてくれればいい」
「…………」
「ボクはね、エデンの事は海外の能力者達の受け皿として期待していた。ボクの手は国内で精一杯だったからね。……古今東西、過激派と呼ばれる組織は結束力が高いと言われているが実際は違う。その逆で、実に脆いんだ。一応「敵」が存在するならば、むしろその攻撃性は頼もしく見えるだろう。だけどね、その攻撃性故に所属している人間は
「……それが、ワタシに何の関係があるのかしら?」
「エデンの「敵」は無能力者だ。強大な
「…………」
「それを回避するなら「敵」を新たに作るしかないんだけどさ、皇神は能力者に対して融和的姿勢を持つようになった。能力者差別を悪だと認めた。能力者を優遇するようになった。これはキミも知っている筈だ。何しろそうなるようにボク達は暗躍していたのだから」
「……ならば逆に問うわ。紫電、どうしてアナタは
「そうだね。今ならやろうと思えば出来ない事も無いだろうね。だけどボクは少なくとも
「無能力者はワタシ達の愛を受け取る価値も無い存在。歌によってワタシ達は誰が能力者で、誰が無能力者なのかがハッキリと分かる以上、殲滅するのは理にかなった行為ではないかしら? 紫電も無能力者に対して思う所はあるでしょう? 今まで散々醜い所を
パンテーラがボクを睨みつけると同時に問いただす。
ここまでエデンの事を酷く言われた以上、もう隠す気は無いのだろう。
だけどねパンテーラ、ボクからすればそれこそが甘い考えであると言わざるを得ないんだ。
「パンテーラはさ、現在進行形で能力者の出生率が増え続けているのは知ってるよね?」
「ええ。ワタシ達の愛を受け取れる人達が増えるのはとても喜ばしい事よ」
「そして、現時点で能力者は無能力者と人口が逆転している。これらが何を意味するのかと言えば、
「……! だけどその間に無能力者によって犠牲となる能力者も出て来るわ! 流暢に待ってなんかいられない。今すぐにでも殲滅する為の行動に移すべきよ! その様な慈悲、彼らには与える価値も無いのだから」
「慈悲? ボクはそんなものを彼らに掛けた覚えは無いよ? ……まあ、キミの言い分も一理ある。確かにそう言った犠牲が出るのは確かさ。だけどね、
「しなければならない事ですって……ワタシ達が犠牲になる事以上に重要な事なんて、存在する筈が……」
「あるんだよパンテーラ。悲しい事だけどね。……それが何なのかを分かってないから、ボクはキミの事が心配なのさ」
「では! 紫電の言うしなければならない事とは一体何なのですか!
「それはね、
「え……何を、言って、いるのですか……その様な事、起こる筈が……」
あぁやはり、パンテーラは甘い。
無能力者が居なくなれば平和になるだなんてあり得ない事を考えている。
そう、
今はまだ
しかし彼らが力を本格的に失い、衰退していけばソレは表面化する。
例えば能力の強弱による格差であるとか、気に喰わない能力を持つ者を差別する等と言う形で。
そうなってしまえば、待っているのは目を覆わんばかりの新たな地獄。
能力者同士で殺し合う、見るに堪えない光景を目に焼き付ける事となってしまうだろう。
だからこそ、
「それが起こりえるのさパンテーラ。エデンやフェザーの様に正義を掲げる人達と言うのはね、「敵」と呼ばれる物が存在しなくなると新たに「敵」を作り出そうとするのさ。実際、フェザーなんて物資と資金を提供していた人権団体と実行部隊と呼べる元テロリスト側とで対立が発生してしまっている。損切りされた恨みと言うヤツだね。幸い我が国のフェザーの実行部隊は大人しく皇神グループの傘下に加わってくれそうだけど、外国ではそうはいかない。足場固めが終わったら報復に出る所もあるだろうね」
「そんな……」
「キミもフェザーに対してやり方が甘いなんてボクに話した事があったけど、そんな甘いとされる彼らですらご覧のあり様だ。より過激な主張をしているエデンがどうなるかなんて火を見るより明らかさ」
「その様な事は……!」
「まさか私達は大丈夫なんてお花畑な事、言わないよね? 歴史を紐解けばこう言った過激派の末路は決まっている。このままでは確実にエデンは碌な末路を辿らない。ボクはそれを分かっているから今も全力で様々な事に取り組んでいるのさ。例えばそうだね。今やろうとしている事の一つを紹介しようか」
話が変わるが、そもそも能力と言うのは狙って自分の都合のいい物を得られるなんて事は無い。
何故ならば、彼ら
ではそもそもの話になるが、何故相性などと言う物が存在するのだろうか?
それを調べて行く内に、面白い事が分かったのだ。
それはまだ能力が発現していない人達が持つ能力因子を採取する事で判明したのだが、彼らは発現してい無い間何をしているのかと言えば、
そうして調べ上げたデータを元に彼らは自身を組み換え、
これによって能力発現のタイムラグに関しては寄生先の人間のデータを調べ上げたり、自身を組み替えたりする速度で上下する事が判明した。
但し、まだ能力の強弱等を始めとした検証は終わっていない為、能力発現の詳細な条件はまだ分かってはいないのだが……
よって、ボクらが相性と称していた事は実は間違いであり、彼らの方が人間に対してより強く結びつく為に自身を組み替えていた事が原因で、他の人間への移植が無理であったという訳なのだ。
言わば宿主に対して完全適合する為に自身を組み替えているのだから、移植しても成功率が稀であると言うのは当たり前の事だった。
さて、ここまで話すと疑問に思う事が出てくると思う。
それはまだ自身を組み替えていない第七波動、さしずめ【無色の第七波動】達の移植は如何なのだろうかと言う疑問だ。
その答えはやはりと言うべきか、協力してもらった被験者全員が暴走等の副作用無しで適応した。
つまり、能力を発現していない能力者を人工的に、かつ安全に作り出す事に成功したという事になる。
……では、話を戻そう。
ボクがやろうとしている事、それは
流石にいきなり実は君達は病気だったんだ、何て言うのは無理な話だが、能力者が多数派になった場合はまた別の話。
今はまだ能力に対する理解が浅いのもありこの様な事は不可能ではあるが、将来はワクチンと称して無色の第七波動達を無能力者達に投与する制度を導入する予定だ。
共同体に属する人間と言う物は、本能的に仲間外れになる事を嫌う。
それは仲間外れにされ、一人になってしまうと生きていく事が難しくなるからだ。
……今の時代、物理的な意味では
しかし、それでも人は群れる事を辞めなかった。
何故なのか?
それは一人で居る事は心を蝕み、精神を摩耗してやがて自死へと至るからであり、本当の意味で一人で生きられる存在と言うのは驚くほどに少ないのだ。
そんな人としての性質を利用し、この制度で誘導すれば
「アナタと言う人は……何故そこまで無能力者に慈悲を、愛を与える事が出来るのですか!? 彼らがわたし達にどれ程の殺戮と迫害をして来たか、分からない貴方では無い筈!」
「慈悲だなんてとんでもない。これは我が国の治安を守る為に必要な事の一環さ。ましてや愛を与えたつもり何てこれっぽっちも無いさ。あくまで無能力者が自発的に滅びるのは結果であり、本命はまた別さ」
「まだ何かあると言うのですか!?」
「では、無能力者がほぼ居なくなった世界のエデンで能力者同士の夫婦が居るとしよう。二人は仲睦まじく、幸せな日々を送り、遂に子供も授かる事となった。だけどそんな彼らは悲劇に見舞われる。そう、
「……っ!!」
「そして、周りの人達はそんな子供に対して嫌悪の感情を抱く。それはそうだろう。自分とは違う存在であり、憎むべき対象である無能力者が居るのだから。……さて、パンテーラ。能力者の夫婦から生まれた無能力者であるこの子供をどうする?」
「ぇ……そ、それは……」
「エデンは無能力者の殲滅を掲げている以上、例え能力者同士から生まれた子供でも無能力者ならば殺すしかない。そうしないとエデンにおける秩序は保てないからだ。そして、子供の両親はエデンに対して表面上は賛同するかもしれないけど、内心はどう思っているだろうね? 大切な子供が殺されたんだ。恨まないはずが無い」
嫌な例を出して悪いねパンテーラ。
だけどスパイであるキミはこの事を、責任を持ってエデンの盟主へと伝える必要があるんだ。
エデンの方針を転換してもらう為にね。
「キミも知ってると思うけど、
「…………」
「こうした未来の事に想いを馳せ、先手先手を打って政策や制度を打ち出す。これが今ボクが全力で取り組み始めている事さ。そして、この政策も一つの事例に過ぎない。まだまだ問題は山積みで、それらを把握したり何とかする為の政策や制度を作る為には多くの時間とリソースが必要になる。……きっとボクがこうやって四苦八苦しても沢山必要な政策や制度は抜け落ちるだろうし、悲劇を無くすことは出来はしないだろう。だけど、少しでも減らす事は出来るはずだ。だからハッキリと言わせてもらうよパンテーラ。とてもではないが、
「無能力者の殲滅が……お遊び?」
「無能力者が覇権を握っているならばいざ知らず、これからは能力者が覇権を握る時代だ。それなのにこんな甘ったれた事を言っているんだから心配もするさ。……この情報は表に出ている物では無い。だからこそ、今が方針を転換するチャンスであるとも言えるんだ。このアドバンテージを活用しない手は無いだろう? キミだけでもいい。いい加減、目を覚ましてくれ。そして、無能力者を滅ぼせば世界は平和になるだなんて言うナイーブな考えは捨てるんだ」
「……っ!」
パンテーラはまるでボクから逃げるように、鏡を利用したテレポートを用いて姿を消してしまった。
はぁ……これは嫌われてしまったかな。
あえて嫌われる言い方をしちゃったけど、本当はキミに嫌われるのは避けたかったんだけどね。
まあ最後の言葉は少し言い過ぎだったかもしれないけど、この事はどうしてもエデンの盟主に伝えて貰わなければならないんだ。
彼らにはボクの手では届かない海外の能力者達の居場所となって貰いたいし、彼らの居所へと直接向かってこの事を伝える何て出来ないのだから。
全く……本当に、ままならない。
まず私が行ったのは、GM権限を利用した隔離部屋への転移だ。
何しろ真夜中である事を差し引いても平原の真っただ中で様子のおかしいTSOドラゴンが鎮座していると言う光景は余りにも目立ちすぎる。
それに、ああいったプレイヤーが移動できる場所と言うのはログ取りが義務付けられている為、機密的な話をする事は適さない。
なので、この部屋に転移したという訳だ。
「ここは私が使っている専用の隔離部屋です。主に違反者相手に使うのがメインなのですが、こう言った内緒話をする時にも使えるんですよ」
『GMも内緒話なんてする事あるんスね』
「ええ、それはもう。では詳しく話を……その前に自己紹介をしましょうか。何だかんだお互い名前も知らないのですから」
『では先ずはテセオさんからで。改めましてどもども。【テセオさん】でーすw エデンって言うホームで諜報活動やってまーすw そこんとこよろしこwww』
「……私はフェムト。皇神では情報関連の仕事をしている身です」
自己紹介の時点で極めて重要な情報が飛び込んで来た。
それは目の前に居るテセオと呼ばれる存在が海外の多国籍の能力者達を束ねる組織、エデンに所属していたという事だ。
TSOドラゴンが出現していたのはもう随分と前の話だったので、最低でもその時点で探りを入れられていた事になる。
それなのにも関わらず私達に捕捉される事無く今まで過ごしていたのだから、ネットにおいて彼の持つ力は相当な物なのだろう。
言動は少しおかしいが、実力は確かである為油断は出来ない。
『いやぁ~まさかテセオさんがGM相手にガチ相談する事になるなんて、人生分からないもんっスねぇ』
「世の中そんなものですよ。一部を除いた人の先を見通す力なんてたかが知れてますし。……ですがどうしてこのような相談を私の様なGMなんかに?」
『とぼけなくていいッスよw GMは皇神のトップにすっごいコネがあるのは
「それなら話は早いですね。……では改めて聞きましょう。外部の人間にまで頼らなければならなかったあなたの話を」
テセオの話を要約すると、今エデンは三つの派閥に分断されているのだと言う。
一つ目は従来の無能力者の殲滅を掲げる【エデン過激派】。
二つ目は従来の方針を転換して無能力者の殲滅を取りやめ、その代わりに能力者達が安心して暮らせる為の政策や制度を作るべきだと主張する【エデン穏健派】。
最後は双方の立場を取らず、様子見に徹している【エデン中立派】の三つの派閥が存在しているのだと言う。
一見するとエデンと言う組織の性質上対立する理由は無さそうに見えるこの三派閥。
主に何に対して互いに反発しているのかと言えば、時間とリソースの使い方だ。
エデン過激派は主に無能力者の殲滅にリソースを割くべきだと主張し、エデン穏健派は武力は自衛に回して制度作りにリソースを回すべきだと主張している。
ここまで説明してからドラゴン姿で居るのはマズイと思ったのか、ドラゴンの姿がブレると同時に緑髪の少年が姿を現す。
どうやらこの姿がテセオの本当の姿なのだろう。
ならば相手なりの誠意に応え、GMの姿から本来の姿へと戻る。
そうなると、対話に必要なテーブルや椅子も必要になると踏み、私は即座に私達に合わせた椅子とテーブル、飲み物なんかを用意。
更に周囲の景色を芝生とある程度の木々に囲まれた感じの状態に変化させ、落ち着いた状態で会話出来る様にセッティングする。
人は環境によって様々な影響を受けるので、先ずは環境構築が重要になる。
その為、VRにおいてゲーム内ではフレーバー程度の意味しか無かった装飾品やマイホームのバリエーション等には数字には見えない格差が存在しているのだ。
「お、気が利くッスねぇ」
「この位は当然です」
「……それにしても」
「?」
「いやホント、ちっさいッスねぇその姿はw テセオさん、【ジブリール】ちゃんより小さい
「生憎ですが、私は男ですよ?」
「ちょ……え゛、それマジ? リアル男の娘なん? その姿アバターとか偽装じゃないのん?」
「ええ。こんな見た目ですが、アバター等ではありませんよ」
……話が脱線してしまったので軌道修正をしつつ戻すが、今はまだ直接的な衝突はしていないと言うが、それもテセオから見るに秒読み段階と言った所なのだそうだ。
切欠は皇神でスパイをしていたエデンの盟主であるパンテーラが持ち帰った情報にあった。
私としてはあのパンテーラがエデンを束ねる存在である事に驚いた物だが、エデンにはエデンなりのやり方と言う物があるのだろう。
そんなパンテーラが持ち帰った情報の内容は色々とあり、その中で特にきっかけと言える物は、能力者が無能力者よりも人口が上回り、能力者達が覇権を獲得したと言う情報だ。
この情報がもたらされた時、初期の頃はエデンに居るほぼ全ての構成員が沸き立った。
知らぬ間に無能力者達は能力者達に人口を逆転されていたのだから、エデンからすれば当然の話だと言えよう。
更に皇神特有の技術に加え、
「皇神をも越える技術……そんな物を一体どこで」
『なんでも一度戻る前に目茶苦茶嫌な事があったらしくてその数日後に一人で散策してたらしいんスケド、突然
このテセオの発言を受け、私は思い当たる節があった。
それは
この世界のアキュラはパンテーラに返り討ちにあい、そこを助けたのが別の世界から来たアキュラであった。
そして、怪我はもう治っているが今でも眠りについていると言う彼が目を覚まさない理由もこの時の会話で察しがついた。
つまり、パンテーラによって彼の頭の中に眠る技術を吸い出された事が原因で目を覚まさないのだろう。
……話を戻すが、戦力を蓄えたエデンはいよいよもって皇神が存在する我が国へと侵攻しようと計画を立てようとした所、待ったをかける人物がいた。
皇神グループへスパイを行った張本人、エデンの巫女であるパンテーラ本人が。
エデンからすれば当たり前の話だが、その時は何故止めるのかと【グリモワルドセブン】、通称G7のメンバーの大半の人間が憤りを露わにしていた。
いよいよ面白くなってきたと言うのに待ったが掛かった為、その時はテセオも不満を露わにしていたようだ。
「最初はテセオさんもハァ? って思ったッスケド、話を聞いて納得はしたッスね。確かに考えてみれば何もしなくても滅びる
「だけど、他の人達はそうでは無かったと」
「その通りッス。特に今で言う過激派メンバーの【アスロック】、ジブリールちゃんはガチギレしてたッスねぇ。あの二人はG7メンバーの中で無能力者相手に相当ヒドイ目にあったみたいッスから。ただ同じくらいひどい目に合ってたらしい【テンジアン】は意外に冷静だったッスね。でもパンテーラ率いる穏健派じゃなくて中立派に居るんだから思う所はあるんだと思うんスケド」
「ふむ……」
「他には【ガウリ】ってユカイなヤツは中立派で、占星術なんて胡散臭い事が得意なニケーが穏健派ッスね。後意外に思ったのが【ニムロド】なんスよね。アイツはてっきり中立派か穏健派辺りだと思ってたんスケド、過激派なんスよねぇ~」
「そんなに意外な人なんですか?」
「ニムロドって言わば陽キャなヤツなんスよね。テセオさん程じゃ無いケド結構エデンで人気もあって「アニキ」なんて言われて慕われてるトコありますしおすし。それに、ニムロドってエデンと【環境保護団体】を掛け持ちしてるんスよねぇ~。だからあんまし悪い印象を持たない感じッスね」
「あ~……」
「どしたのん?」
「環境保護団体と聞いて納得しました」
「それ納得する要素なんスか?」
「彼らは大抵環境保護を歌いながらその実やってる事は企業の手先ですからね。しかも手先にされてる事に無自覚なのが本当に質が悪い。そのくせ海の生態系を守る所か逆に荒らしまわるんで、私の中では本当にもう悪い印象しか無いんですよね。その手の連中に対しては」
「目茶苦茶辛辣っスねぇ。何か恨みでもあったり?」
「……あの手の連中の度を越えた勘違いなクレームで皇神で働いていた優秀な人達が何人も病んで退職している光景を見て来たんです。しかもその中には私と同期の人も居たんですよ。年上のお兄さんみたいな優しい人だったんですけど……日に日に病んでいってしまって、そのまま……」
「oh……テセオさん、思わぬ情報を知ってしまったんですケド……」
この手の事は興味があったり直接関わったりしない限り調べようとは思わない情報なので、テセオみたいに興味の無い事はスルーしそうな人には分からない物だと思う。
まあ、話が逸れたので軌道修正も兼ねお茶に手を付ける。
温かく、ほのかな甘みと苦みでホッとする味だ。
……気を取り直し、カップを置いた後、テセオに話を続けるように促す。
「あ、因みにテセオさんは穏健派ッスよw テセオさんは基本面白ければ何でもいい訳なんスケド、勝負の決まりきった虐殺何て面白くも何とも無いんスよねぇ。何て言うか、動画投稿者である以上取れ高に期待したい所、ありますし?w その取れ高もこのゲームで暴れてた方が沢山取れるワケでw いやぁ~あのガチギレしたプレイヤー達の姿は最高なんですケドww 目茶苦茶悔しがる所がいいんスよww ……ハァ」
「……?」
「今は取れ高イイ動画が作れても、今の【エデン公式チャンネル】では見向きもされないッス。穏健派は臆病風に吹かれてるだの過激派は間違ってるだのの応酬で、動画内容も互いの派閥のバッシングばかりで……テセオさん渾身のサイトがオワコン化しちゃってるんスよねぇ……」
しかし、テセオの話を聞いて疑問に思う所がある。
何故今になって盟主であるパンテーラはこの様な悪手を打ってしまったのだろうか?
「あ~~……一度帰ってきた後直ぐにニケーに相談してたんスよね」
「相談ですか?」
「ニケーの場合占星術なんてオカルトが扱えるんで、良くパンテーラの相談役になったりするんス。因みにテセオさんの場合は派閥が出来てしばらく後になってからだったッス。相談内容はシミュレーションの依頼だったッスね」
そのシミュレーションの内容は穏健派の路線で行くか、過激派の路線で行くかのどちらがエデンをより存続させることが出来るのかと言う物だ。
テセオの持つ能力である【ワールドハック】と呼ばれる力はこう言った事をするのに適している為これを受け入れ、早速試してみたのだそうだ。
その結果は順当に穏健派の方がより長くエデンを存続させる事に成功している。
因みにだが、ニケーの占星術でも同じような結果を出していたようだ。
……彼女の扱う占星術とやらは、強力なオカルト技術の一種だと考えた方が良いだろう。
「因みにその時は何も知らずに一丸となって攻め込むシミュレーションもしたッスね。結果は過激派の主張と同じように全滅だったッス。……フェムトの居る国ヤバ杉で草生えるんですケドww」
「日々努力してますからね。簡単には攻め落とさせませんよ」
他にはアスロックのフォーチューンクッキー占いだとか、兄であるテンジアンに相談していたりとか、情報を知らせた後エデン構成員の【ポーン】達の様子を調べていたりなど、様々な事をしていたらしい。
その上で出した結論が、攻撃に待ったをかけると言う物だったのだろう。
「とまあ、前置きはこの位にしてっと……それじゃあ早速本命ッスケド、しばらくテセオさん達穏健派メンバーをソッチの国に移したいんスよ」
「過激派と距離を置くという事ですか?」
「そう言うコトっスね。この衝突するまで秒読みな状況を何とかするなら距離を置くのが確実ッス。ちなみにですケド、中立派が残るのは過激派を抑える為でもあるッス」
「う~ん……この案件は紫電に回さないとダメですね。私だけでは権限がありません」
「それで十分ッスよw」
「ちなみにですが、拠点は大丈夫なんですか?」
「モチのロンで大丈夫なんでスケドww テセオさんがちょちょいと改z……ゲフンゲフン、合法的に用意していますっつって~www」
……時間があったら色々と調べ直そう。
そう思いながらテセオの話を了承し、これで解散する事に……ならなかった。
「そういえばフェム㌧。ちょいと気になる事があるんスケド」
「何ですか? 改まって」
「
「黒い……蝶!?」
私は即座に現実でも扱っている鉄扇を顕現させ、戦闘態勢へと移行しつつテセオの言う黒い蝶を視界に収める。
見た所本当にただの黒色の蝶に見えるが、VRベルレコで黒い蝶等実装されていない。
それに私がここで環境構築をした時、虫なんかの生き物を用意した訳でも無いのだ。
……電子の謡精は蒼き雷霆よりも繊細なハッキングが可能なのだと言う。
ならば、電子の謡精のなれの果てだと思われる彼女もまた、同じような事が出来ても不思議では無い。
『あらら、バレちゃった』
「やはり貴女ですか、ペスニア」
「え? 何? フェム㌧ってば、この昆虫とお知り合いだったり?www」
「ええ。敵と言う形で、ですが……」
『どうかしら? この優雅に舞うわたしの姿は。ヒラヒラ飛ぶの、結構好きなのよ』
黒い蝶の姿のまま、私が使っていたティーカップの淵に向かって紫色の光を儚く散らしながら飛ぶペスニア。
そして、そこに止まりゆっくりと羽を動かしながらこちらに対し改めて話しかけて来る。
モルフォとは違い虫扱いされてもまるで動じていない辺り、謡精としての気質の違いを感じさせた。
「それよりも、何故貴女がここに」
『いいじゃない別に。わたしの世界には
この言葉を聞いた途端、嫌な予感が頭を過った。
……分かっていた筈だ。
いつか彼女は見つかってしまうのだと。
そうであって欲しくはない。
しかし私のこの手の勘は、嫌になる程当たってしまう。
「…………何を、見つけたのですか?」
『【
ペスニアが言い終わる前に、私は鉄扇の突きを黒い蝶の彼女に放っていた。
だが、私の攻撃は当然
『わお! すっごい剣幕! ……フフ。今までで見た事も無い様な顔してる。男の子って感じ。好きなのね。彼女の事が』
「ええ。生きるも死ぬも一緒だと誓い合い、身も心も重ね合った間柄です」
『え……? いや、ちょっと待って! 貴方達、
「ええ、それはもう」
『昔の子ってこんなに進んでたの!? もっとこう、顔を赤らめながらも気丈に振舞うみたいなカワイイ感じの答えが返って来るかと思ったのに……』
「……なんか、目茶苦茶落ち込んでるッスね。この蝶」
『……オホン。ま、まあそれは置いておくわ。とにかく、わたしが探してたエリーゼが見つかったのよ。
「エリーゼを、どうするつもりです?」
『
その言葉を最後に、ペスニアは姿を消した。
その後、テセオとの会話を終わらせた私は紫電に今回の会話の内容をメールを送りながらマイホームへと転移。
慌てて扉を開けてエリーゼの安否を確認したのだが、彼女は特に何かされた様子も無く、私を出迎えてくれた。
どうやら、ペスニアは嘘を言って無い様だ。
しかし今回の件で、また一つ謎が浮かび上がった。
彼女はどうしてエリーゼを必要としていたのだろうか……と。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
〇無能力者と能力者の数が逆転している件について
紫電達の居る国以外の国も逆転していることが発覚。
これで明確に能力者の方が人口を上回る事になった。
ただし、発現していない能力者の割合が大半である。
〇セブンスショックについて
上記の出来事を切欠に、世界各国の国々で凄まじい未曽有の大混乱に見舞われた出来事の事。
この大混乱が発生したお陰で皇神、序にエデンも力を付ける絶好の機会となった。
別名、能力者が覇権を得た日。
〇紫電くんのマジレスについて
目茶苦茶パンテーラに対して厳しい事を言っているが、これは中の人が11歳の女の子である事を把握していないが為に起こった悲劇。
知っていたらラーメンハゲみたいな事を言わずにもっと言葉を選んで優しく諭していた。
実はパンテーラの口調が途中から素になっていたのだが、紫電くんまさかのスルーをしてしまう。
因みに本編二十五話でパンテーラの事を滅茶苦茶気にしていたのはこの事も理由の一つだったりする。
〇無色の第七波動について
発現していない能力者達が持つ能力因子。
宿主の人間を魂を含めて解析しつつ、その人間が望む能力を発現するように己を再構築する性質がある。
逆に、既に能力が発現している第七波動は【色の付いた第七波動】と呼ばれる。
拒絶反応は色の付いた第七波動のみ発生する。
〇能力者と能力者の夫婦から無能力者の子供が生まれる件について
無能力者同士の夫婦から能力者が生まれるなんて事が普通なら、逆に能力者同士の夫婦から無能力者が生まれるなんて事があっても良いだろうという訳で出来た設定。
〇派閥の詳細について
過激派:従来のエデンの掲げる無能力者の殲滅に力を入れる派閥。
主に明確に無能力者達に迫害を受けた層で構成されており、一部を除き理性よりも感情が先立っている所がある。
中立派:主に過激派を抑えるのが役割の派閥だが、過激派と穏健派に当てはまらない狭間の人達を纏める役割もある。
迫害を受けてはいるが何かしらのストッパーがある、或いは直接的な迫害では無く間接的な迫害を受けた経験のある層で構成されており、何らかの形で双方に理解があるが故に板挟みな所がある。
穏健派:来るべき将来に備えて能力者達の為に制度等を整備し、より足場固めを重視する派閥。
理性の強い人達、或いは迫害を受けた経験が無い人達で構成されており、迫害された経験を知らないが故に理性が働いている人達も多く、そこが過激派との対立を深める理由の一つとなっている。
〇エデンの各派閥のメンバーについて
簡単に纏めると
エデン過激派:アスロック ジブリール ニムロド
エデン中立派:テンジアン ガウリ
エデン穏健派:パンテーラ ニケー テセオ
と言った感じ。
それぞれ理由も記載すると
アスロック:家族を無能力者による家の放火によって亡くしてしまっている為。
ジブリール:娘が能力者である事で病んだ父親が母親を
ニムロド:人口を手っ取り早く減らせる派閥がここだから。
テンジアン:理性がパンテーラの成長に喜んでいる反面、感情が無能力者を許せないと言う板挟み状態なのが理由。
ガウリ:原作のGV編で、何だかんだであのアキュラに対して気を使える聖人っぷりが理由の一つ。
でもスケートの道を能力者だからと阻まれ、ダンスの道も同様に阻まれている為、穏健派かと聞かれると微妙な所。
パンテーラ:原作では無能力者を殲滅すると言う結論を出しているが、本小説内ではそれさえも甘いと紫電から断じられる事で精神的に成長を遂げる事となり、穏健派を立ち上げる。
ニケー:大体占星術で占ったで済むと思います(真顔)
テセオさん:楽しければ大体おkな人だと思うのと、クソザコと化した無能力者相手では取れ高が取れないのでは? と言うのが理由。
〇皇神をも越える技術について
フェムト世界のアキュラくん最大のやらかし&大功績。
パンテーラに敗北した事で幻覚を精神に作用させる部分を応用され頭の中に眠っている技術の大半を幻術を応用したコピペで回収される事に。
これが最大のやらかし。
技術序に龍放射の情報も吸い出してしまい、この事が決定打となって穏健派を立ち上げる決断をパンテーラにさせたのが大功績。
〇フェム㌧について
テセオさんの友達判定をクリアした為、あだ名で呼ばれるようになった。
誤字じゃ無いです。
サイドストーリー |
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今日は週に一度の楽しい時間。
【歌のお姉さん】が私の前に出て来る日。
「離れてい~たか~らこそ 分かったことがあるの~♪ ……早く来ないかなぁ。歌のお姉さん」
いつもこの日にビビビって不思議な感じがした後に姿を現してくれる歌のお姉さんは、とっても歌が上手で、私の大切な楽しみの一つ。
そろそろ、ビビビって来る筈なんだけど……
そう思っていると、
何て言えばいいのか、こっちのビビビはなんだか悲しそうな感じがする。
そう思っていたら、
いつもの歌のお姉さんとは違って、
『え……オルガおばあちゃん?』
オトナっぽい歌のお姉さんはいつもの歌のお姉さんと違って、私に何か話しかけて来てくれた。
最初の言葉はザザーって音と一緒だったから良く聞こえなかったけど、私にとっても優しくしてくれたんだ。
歌のお姉さんも知らない新しいお歌も教えて貰えて、とっても嬉しかったなぁ♪
だけど、ちょっと気になる事もある。
どうして私の顔を見て、泣いちゃいそうな顔をしていたんだろう?
泣いてなんか無いって黒いお姉さんは言ってたけど……私の気のせいだったのかな?
「今を越~えてく 繰り返してく 葬礼にはまだ早い 閉ざ~された回廊 堰を切って~ 駆け抜け~た♪」
でもでも、新しいお歌を教えて貰えて、とっても嬉しかったなぁ♪
黒いお姉さんが言うには、この歌はお友達から教わったって私は聞いている。
でも、そのお友達は
なんでも色々あって……
『ごめんね【オルガ】、わたしそろそろ行かなくちゃ』
「え……もう行っちゃうの?」
『ええ。ちょっとここに……【ベラデン】に居る人達に用事があるの』
「そうなんだ……」
『……大丈夫。また会えるわ』
「ほんとう?」
『本当よ』
「約束だからね! 嘘ついたらイヤなんだからね!」
『ええ。約束よ』
――――ゴメンね。その約束、守れそうもない。
黒いお姉さんはその言葉を最後に、歌のお姉さんと入れ替わるように姿を消した。