艦これ0 RTA 0から1へ エンド 強化人間チャート   作:道長(最近灯に目覚めた)

7 / 21
前回に続いて警報あり。
大分キャラ付けが独特になっています。


ヒビキネキ 其の弐

「私が殿を務める。お前達は撤退して、味方と合流しろ」

「待ちなさい。隊長に殿させる部隊がどこにいるのよ。ここは五十鈴が引き受けるわ」

 

何とか深海棲艦を撒き、岩礁の影に隠れた私達だが、状況は依然悪いままだった。

 

「ご、ゴーヤのせいでち! だからゴーヤがやるでち」

「おいおい。お前じゃ目立たなすぎて殿にならんだろ。それと調子に乗るなよ。お前は責任を取れる立場じゃないんだからな。責任は任命した私にある。あとあるとすれば、ペアを組んでた吹雪」

 

こういう時くらい上司を頼ってくれと、隊長は笑っていた。

 

「誰だってミスはするのだから次に生かして欲しい。起きたことを悔やむよりな」

 

諭すようにゴーヤに語りかける。この人はいつもの調子を崩さない。あくまでも公平。こんな時でも調査部隊の任務を第一に考えている。その正しさが、私の神経を逆撫でする。

 

「そして私のデータは特殊過ぎて参考にならない。優先順位で言えば実戦配備が進んでいない潜水艦、次に軽巡洋艦、駆逐艦だ」

「だったら吹雪がいれば問題ない。私がやる。隊長は生き残らなくてはいけない。隊長がいれば第9はまた立て直せる」

「ちょっと響! あんたの砲塔、いつ暴発するか分からないでしょ!」

 

五十鈴の言うことはもっともだ。確かに白兵戦の影響で一部の砲塔が歪んでいる。発射はおろか、何かの拍子に弾薬に着火する恐れのある危険な状態だ。けれども、そんなことはどうでもよかった。

 

「落ち着け。私はこれ以上吹雪を曳航出来ん。ここからは五十鈴が曳航することになる。そうなると必然的に、私かお前になるわけだが、その砲塔で撹乱出来るほど砲弾を撃てるか?」

「撃てないなら殴ればいい!私だって第9の端くれだ。死んでもやり遂げてみせる! 最悪私達4隻が沈んでも隊長が無事ならいいんだよ!」

 

自分でも驚くくらい大きな声だ。どうしてか理解できないが、さっきから感情の抑えがきかない。呼吸が荒くなって、肩が上下する。自分でも分かるくらい、体温が上がってきた。

ただ間違ったことは言っていない。これはここにいる隊員全員の総意だと、胸を張って言えた。

しかし隊長はとても悲しそうな顔をして

 

「お前達全員が沈んでも……か。突然だが、私には友人と言えるような存在が居なくてな。いわゆるボッチというやつだ」

 

言葉通りの突然の告白に、一瞬、ここが戦場であることを忘れてしまった。そんな私達に隊長は話を続ける。

 

「ボッチなりに色々やって来たわけだが、あの日お前達と同じ部隊になった。初めて目的を共にする同僚が出来た」

 

生まれて初めての仲間だ。嬉しかったよ 。

 

呟いた隊長の清々しい微笑みに、何も言えなくなってしまった。

 

「こんなクソみたいな上からの命令で死ぬ気はない。けれども、同じ仲間のためになら、この命、惜しくはない」

 

そう言って岩陰から出ようとする隊長。理由は分かった。だからといって、こっちも「はい。そうですか」と従うわけにはいかない。誰もが待ったをかけようとする中で

 

「隊長。こっちに来てもらえますか?」

 

いち早く引き留めたのは、意識を失っていたはずの吹雪だった。

 

「吹雪、起きたのか。今は生き残ることだけを考えるんだ」

 

何時から起きていたのか、岩にもたれかかっていた彼女は薄く目を開けて隊長を見ている。

 

「最後のご挨拶です。動くのもキツいのでこっちに来ていただけませんか?」

「……ああ」

 

隊長が駆け寄る。それを見た吹雪は弱々しい笑みを浮かべて、

 

「もうちょっと寄っていただけません? ちょっと視界がボヤけてて」

「気をしっかりもて吹雪。帰ったらやることが山積みなんだからな」

 

遂に寄り添う形になった隊長と吹雪。

 

そこで突如、吹雪が隊長に覆い被さった。一瞬で体の位置を入れ換えて、隊長の唇を奪ったのだ。

 

「はぁ!?」

「でちっ!?」

блядь(ブリャーチ)

 

それだけではない。あれは完全に舌を入れている。聞こえてくる吐息と水音が生々しい。時間としては数秒だったのだろう。自分としては、尋問して極刑を下すくらいの時間はあった気もするが。隊長の喉が何かを嚥下したのが見えてから、それは終わった。

 

「隊長って結構純粋ですよね。私が言うのもなんですが、悪い女の人に捕まらないか心配です」

「吹雪……、 お前……!」

 

糸を引いた唇を人差し指で押さえながら、ウインクをする吹雪。そんな仕草と裏腹に、顔はイタズラが成功した童のような表情だった。

体の力が抜けた隊長を、吹雪が抱き抱える。

 

「だーれも私が救護係だったこと、覚えてないんですもん。睡眠薬はともかく、鎮静剤とか痛み止めの類いも使用期限ギリギリだったんですよ? 皆さん頑張り過ぎです」

 

ますます私の影が薄くなっちゃうじゃないですか。

 

そう言って五十鈴に隊長を押し付けた。

 

「隊長は差し上げるので、皆さんの弾薬を私にください。出来るだけ軽い方が燃料も持ちますし。……だから響さん。睨むのはやめてください」

「気のせいじゃない? 隊長を大人しくするにはそれしか無かっただろうから」

「そ、そうですか……。良かった……」

 

視線を外して隊長を見る。五十鈴に抱えられてる様は、先程まで命を張って私達を守ろうとした人間と同一人物とは思えない。

吹雪と繋がっていた唇を指先でなぞる。付着した唾液が不快感を加速させた。さっきまでの火のような怒りとは違う、徐々に沸騰するストーブの上のやかんみたいな苛立ちだった。しかも真夏の。なんでこの人は呑気に寝ているのだろう。

 

「今更清純気取ってるんじゃねぇぞこのアマ。なんて思ってないから」

「絶対怒ってる! 絶対に怒ってますよね!?」

「うるさい。このパンツ」

「それどういう意味ですか!?」

 

そう言って私は予備の弾丸を投げ渡す。吹雪は取り落としそうになりながらも受け取った。

 

「五十鈴も隊長の顔を見つめてないで、ほら。ゴーヤも魚雷残ってるよね? ごめんね。こんな痴女と組まされて大変だったね」

「寝顔なんて初めて見たからびっくりしただけよ! て言うか勝手に話を進めないでよ!」

「そ、そうでち! 吹雪さん、考え直してください!」

「うわ~。誰も痴女を否定してくれないのが地味にショック……。いや。隊長が眠ってる時点で、やること決まってるじゃないですか」

 

一度使ってみたかったんですよね。五十鈴さんのこれ。と言って、腰にかけてあった五十鈴の銃砲を取り上げた。五十鈴は渋い顔をするが、何も言わない。

 

「ゴーヤちゃんも先輩の言うことを聞いてください。そろそろ来ますよ。深海棲艦」

「ゴーヤ、ちょっとごめんね」

「は、放してくだち! 響さん!」

 

手足をバタバタさせるゴーヤを引っ張りあげ、吹雪が魚雷を抜き取る。

 

「これくらいですかね。生憎浮かぶのが精一杯なので、この岩礁を頼りに戦うことになります。なので早急に離れてください」

「了解。行くよ、皆。私が一番前だね」

「ゴーヤ。泣いてる暇はないわ、行くわよ」

「吹雪さぁん……、吹雪さぁん……」

 

泣きながらゴーヤはついてきた。背中越しに五十鈴を見ると、堪えるように唇を噛み締めて、隊長を抱き抱えている。私達とは違い、艤装が無い隊長なら、成人男性の体重+装備品の重さで済む。我々艦娘にとって、あってないような重量だ。

 

「隊長のことは任せました! 必ず生きて帰ってくださいね!」

 

吹雪の言葉には誰も返事が出来なかった。

 

 

 

何とか撤退に成功して3日後、深海棲艦の撃退に成功した本隊から報告があった。吹雪のものらしき大破した艤装は発見されたが、本人の遺体は見つからなかったそうだ。「作戦行動中行方不明」、所謂MIAという判断を下された。ただし状況的に、ほぼ戦死は間違いないと。

私達の処遇だったが、撤退行動前に本隊の迎撃準備が整っていたこと、それと吹雪の殿の件もあり、撤退の責任は不問とされた。

 

そしてそこから一週間が過ぎた。

吹雪の後釜は未だ決まらず、調査部隊としての業務は停止。

吹雪の戦死による事務処理こそあれど、一切そこから前に進めていない。そんな状態だった。

隊長とは、上層部からの通達を告示された時から会っていない。事務処理はもちろん、大本営への出向があり、そもそもここにいない方が多かったからだ。今日は久し振りに隊長が戻って来た日。だから顔を見ようと執務室に向かっていたその途中

 

「もういいわ! 吹雪の仇も打てないような、腑抜けの隊長についていく気なんて五十鈴には無いもの! 出てく!」

 

執務室の扉が猛然と開かれて、それを開けた時以上の勢いで閉める五十鈴をがいた。私と目が合った五十鈴は一瞬ばつが悪そうに目を背けると、鼻を鳴らして早足で通りすぎていく。

五十鈴の姿が見えなくなったあと、中の様子を伺うように控えめに扉を叩いた。「どうぞ」と言われたので中に入る。

 

「失礼する……。今、大丈夫かい?」

「響か……。五十鈴は見たか?」

 

執務机に腰かけていた隊長は苦笑いをしている。

ノッシノッシと、やたらと踏ん張って歩いていた五十鈴を嫌でも思い浮かべた。

 

「見るも何も、あれじゃあ嫌でも目に入る」

「不甲斐ないことに、五十鈴に叱られてしまった。隊長失格だ」

 

力の無い笑い声が漏れた。珍しいと思った。どんな困難な、それこそ先日の任務を受諾した時も、一切見せなかった弱気をさらけ出している。それがひどく気になった。

 

「五十鈴はなんて?」

「こんな私は見ていられないと言ってな。ここを出て、違う鎮守府で吹雪の仇を打つと言ってたよ」

「ふーん。ありじゃないかな? それが上に通ればだけど」

 

近寄って隊長の顔をうかがい見る。肌は土気色をしているくせに、目の回りだけやたらと厚ぼったい。憔悴、と言うのだろうか。涙も感情も枯れ果てて、脱け殻になってしまったようだ。

 

「上はともかく、横なら欲しがる所はいくらでもあるだろうな。あいつほど海図と現場の差異を理解してるヤツも中々いないだろう」

「……私は行かないよ。私までいなくなったら困るだろう」

 

今日初めて隊長が私の目を見た。そんな力なんてもう残って無いくせに、目線だけは鋭い。

 

「それは理屈か? 本心か? それとも……艦娘としての本能か?」

「それは……」

「教えてくれ。頼む」

 

すがるような声だった。何とか答えてあげたくて必死に考える。

 

「……分からないな。強いて言うなら全部だ」

 

たっぷり悩んだ末に出た答えがそれだった。そんなしょうもない答えに、隊長は「そうか……」と呟くと、それきり黙ってしまった。

 

「ご飯は食べてよ。倒れられたら困る」

 

これ以上何も言うことが出来なくて部屋を出る。ただ、扉を閉めようとした時に

 

「なぜだ。吹雪」

 

聞こえなかった振りをして扉を閉めた。

答えは出せ無かった。

 

そして今度は2日後。

 

「異動することになったわ。異動先は横須賀」

 

五十鈴の発言に、艤装を磨く手が止まる。ドックでいつもはしないようなチェックをしていたら、五十鈴が現れてそう言った。

 

「……хороший(ハラショー)。良かったじゃないか。栄転だ」

 

絞り出した声に「ありがと。あなた達のおかげよ」と返して、そのまま隣に座ってきた。横目で見た表情は穏やかそうに見えた。

 

「響。隊長を頼むわ。貴方、五十鈴と隊長の監視役だったんでしょ? せめて隊長1人の監視くらいしっかりしなさいよ」

「……気付いてたのかい? やってたのは最初の1ヶ月くらいで、あとはなし崩し的に、お役御免になったんだけど」

 

驚きはしたが、あまり動揺はしなかった。何となく、五十鈴なら気が付いていても、おかしくないと思ったからだ。

 

「半分は推測よ。五十鈴みたいな跳ねっ返りに首輪を着けない人はいないでしょう? でもこれでスッキリ」

 

うーんと、わざとらしく伸びをした五十鈴が、言葉とは真逆の憂いを帯びた表情を浮かべた。

 

「私が無茶を言えば、少しは調子を取り戻すかなって思ったけど、ダメだったみたい」

「あれはそういうことだったのか。道理で」

「もちろん本音もあったのよ? 仇討ちするくらいじゃないとアイツらとはやってられないわ。……でも一番は」

 

隊長のあんな顔、見てられなくなったの。

 

その言葉に心が泡立った。監視役であることがバレた時ですら、こんなに動揺しなかったのに、何故?

 

「なーんか、隊長にあんな顔させちゃったと思うと自分が情けなくって、副隊長失格よ、全く……。左遷のつもりで言い出したら、こんなことになっちゃって……。響、大丈夫?」

「私も同感だ。自分が情けない。すまない。少し思い出しちゃったんだ」

「……そうよね。ごめんなさい。吹雪が死んだって言うのに、自分はさっさと異動するなんて、とんだ冷血女よね」

 

そうだ。吹雪を失わせてしまったことが情けなくて仕方ない。吹雪を失ったことが悲しい。ここを去る五十鈴の方こそ冷たいヤツだ。

 

「さっきも言ったけど隊長の監視、お願いね。大淀さんと明石さんは、どうしても大本営からの出向だから私情は挟めない。ゴーヤには少なくとも今はムリ。隊長を見てあげられるのはアンタだけなんだから」

 

辛いだろうけど、あとは貴方に任せるわ。

五十鈴は心底申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「……ああ。任されたよ」

 

五十鈴がまもなく第9調査部隊をあとにして、そこから隊長の監視が始まった。

 

そして、しばらく隊長を観察……、特に時折見せる悲しげな表情をつぶさに見ている内に、1つの馬鹿らしい、けれども私にとっては重要な知的好奇心が首をもたげてくるのを自覚した。間違ってるとか、狂ってるとか、そんな理由で押さえつけても、どうしても妄想することが止められない。天龍さんと鳳翔さんが来て、最後に金剛さんが来ても、むしろ隊員が増える度に、それは肥大化していった。

 

もし、自分が隊長の目の前で沈んだら、この人はどんな顔をするのだろう、と。

 

要するに私は吹雪に嫉妬していた。隊長をここまで悲しませた吹雪に。

死人に嫉妬するなんて、救いようがない。ここまで非生産的な情動もないだろう。分かっている。受け入れてもいる。

ただ、隊長を見ていると思うのだ。この人はきっと吹雪のことを忘れない。生きている限り、心に刻みつけていく。いつも心のどこかで、吹雪のことを考えている。

 

それが羨ましかった。

これがイカれていると言われたら、素直に同意出来る。

 

私が沈んだ時、隊長が吹雪の時より悲しんでくれるということが分かれば、私を永遠に思い続けてくれると言うのなら、こんな妄想をしなくて済むのに。

 

けれども、どれだけ隊長を見ても、私が沈んだ時にするであろう表情は、想像できない。いや。あれ以上苦しむ隊長が、想像できないというのが正しいか。

 

私はおかしくなってしまったらしい。

あの時生き残ったのは吹雪で、壊れたのが私。

 

こんなことを考えているのは間違っている。だから早く解体処分を願いでなくてはならないと思った。しかし、そうなると壊れた()()()()()

あの人がより悲しんでくれる様に長く、されど慣れない内に早く沈まなくてはいけなかった。少なくとも、答えが出るまでは。

 

私は今日も隊長を監視する。今日こそ答えが出てくれることを祈りながら。




筆が乗った所もありましたが、基本絞り出すようにして書きました。今の私だとこれが精一杯……だと思います。途中辛くなって投げ出した所もしばしば。
こんなキャラにしてしまって申し訳ありません。

次はRTAパートの予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。