目覚めたら全身柱間細胞になってた 作:卑の意志を継ぐ者
九畳間の和室に朝を迎えたことを知らせるベルがけたましく鳴り響く。
三つ巴柄の布団にくるまった男はしかめっ面を浮かべ乱雑にスヌーズのスイッチを叩いた。
「後5分……」
目覚めし時計の頑張りも虚しくその男はふいと時計に背を向けてまたスヤスヤと寝息を立て始めようとした。
彼はどこにでもいる普通の大学生。
強いて違うところを挙げるならサブカルが人一倍好きということくらいか。特にFate関連。
「……は?」
何か信じられないものを見たような顔で男は布団を蹴りだす。
そして時計の時刻……否、西暦を確認する。『1990年』と表示されているそれに文字通り頭を抱えた。
「夢でも見てんのか、俺は」
試しに頬をつねる。
彼の五感は正常に機能していたのか、すぐに手を離す。
彼の記憶が確かならば現在は『2019年』の年の暮れだった。何度確認してもそれは1990年を示したままである。
電波をしっかり受信しなくなったのだろう、そう結論付けようとした彼の頭が何者かに殴打されたようにブレた。もちろん物理でぶっ叩かれたわけではない。
自身が視た、さりとて信じ難い記憶が脳内を蹂躙するように蘇る衝撃が彼の頭に伝播したのである。
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『クモ膜下出血で死んじゃったけど何に転生したい?』
「柱間ァ!!……むにゃむにゃ」
『お主前世はクレイジーサイコホモじゃったりせんよな?ま、よいよい。では柱間細胞と……これとこれでよいか。で、どこに転生したい?』
「九州」
『おk。おもしろそうだから冬木市な』
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「何言ってんだ俺ぇぇぇぇ!!!??」
あんた死んだけど何になってどこに転生したい?と夢占いの人でも困惑しそうなアホらしい光景を夢だと思った彼は目の前に相対した人物に脊髄対話を試みた。
結果はご覧の通り神(暫定)に(ふざけて口にした願いも添えて)転生させられたのである。
その事実を認識してしまった彼はSANチェック……ではなくあらん限りの力を振り絞って叫んだ。
どうして一度死んだにも関わらず死地に飛ばされなければならないのか。
今まで受験直前の初詣の時くらいしか超自然的存在を信じていなかった彼だがその認識は改めなければと心に決めた。
そして彼は神に祈る代わりに中指を立てた。いっそ清々しいほどの笑顔である。
感謝はするが敬いはしない。自分をこんな人外魔境に転生させた神様なら笑って許してくれる。
彼がブチ切れ気味になるのは当然のことだろう。
むしろこの状況で反骨心を抱けるとは……大した奴だ。やはり天才か。
神(暫定)の言葉が正しければここはFate/stay nightの第五次聖杯戦争、Fate/ZEROの第四次及び第一〜三次の開催地である聖杯戦争御用達都市の冬木市だ。
モブはもちろんメインにも厳しい(生存率的な意味で)ことで有名である。常人が生きるのには壊滅的に向いてない。
「いやそもそも此処はど「お前誰だ!?俺の布団で何してんだァ!!?」ほわあぁぁぁあ!!!?す、すみませんでしたーーー!!!」
ちなみにだが神(暫定)は彼の身体を死亡時の年齢に合わせて製造した時点で力尽きている(精根的な意味で)。
今生の彼はナナシ、親ナシ、戸籍ナシのナイナイ尽くし。平たく言えばこの世界に彼の存在していたという証明はZero。
現在の身体の状況も加味すれば今彼が魔術師に見つかるとデッドエンドルート確定である。
そして今の今まで彼が寝ていた部屋は神(暫定)が適当に見繕った家である。もっとも、赤の他人の家なのだが。
そんなところで見知らぬ人物が魂を込めた雄叫びを上げれば不審に思った家主が突撃してくるのは当然の帰結。
とっ捕まえようとする家主(目視30代)の組み付きロールを彼は股下スライディングで回避。
そのまま勢い余って壁に衝突したが即座に立ち上がり寝巻着のまま廊下を走る。
玄関らしきドアを乱雑にこじ開けて外へ脱出。彼は昼下がりの街を半狂乱になりながら裸足で駆けて行った。
後ろから男の怒号が聞こえるが気のせいだろう。
白昼堂々住宅に不法侵入した青年が冬木市のニュースで取り上げられたのはまた別のお話。
彼︰本SSの主人公。前世は大学生。
〆切三日前のレポートをZEROから三徹で完成させようとした無理が祟って死亡した。
危機的状況でも楽観視を忘れないため度々ガバをやらかす。
転生特典その①
柱間細胞(偽)︰柱間細胞に極めてよく似た何か。
転生したら全身これになってたよ。怖いね。