目覚めたら全身柱間細胞になってた   作:卑の意志を継ぐ者

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第二話︰拾われた男

時刻は既に午後七時を回った。

残念ながら男の手元やその周辺に時計は無いため体内時計換算だが。

あれから彼は市街地を抜けた先の森の中にじっと身を潜めていた。

枯葉が大量に降り積もりその下にはダンゴムシやムカデが湧いている。今から市街地へと突貫するような無謀さは彼にはない。

現在の彼の立場は要保護青年か不法侵入者かの二つに一つ。

もしかすると周辺では警官の巡回が強化されているかもしれない。

 

ナナシ親ナシ一文ナシの彼が今捕まるわけにはいかなかった。

後ろ盾ゼロのヤベー特性持ちの子どもなんて魔術協会が嬉々としてホルマリン漬けにしようとするに違いない。

いや、生きたまま礼装にされてしまうなんてことも……。

今は捕まった場合のことは考えないことにした。

 

悲観的観測を取りやめた彼はほとぼりが冷めるまで今身を寄せている木の洞で待機することにした。

 

 

そういえば転生してからろくに食事をしていない。

場所が場所だったので仕方ないといえばそれまでなのだが。

意を決して昆虫でも食おうかと思ったが頭に間桐の刻印虫の姿が過ぎったせいで一瞬美味しそう見えたコオロギが醜悪に見えるようになってしまった。

 

雲間から差す星の光を虚ろな瞳で眺めながらまともに回らない頭で彼は考える。

 

柱間細胞。NARUTO疾風伝に登場する木ノ葉の里初代火影『千手柱間』の細胞のことだ。

とんでもない量の生命エネルギーの塊であり、それを移植したものにはチャクラ量の増加や木遁の行使などの様々な恩恵を与えてくれる。無論、それ相応のリスクも存在するが。

夢で対話(とは到底言えたものではないが)した神の言を真実とすれば彼の身体は千手柱間本人ないしは柱間細胞に準ずるものに置換された何かになったのだろう。

現在彼は自分の姿を知り得ていないが正解は後者である。

 

原作(NARUTO)中の白ゼツと呼ばれる存在は食事や排泄――う○こをしない。彼らは柱間細胞を元に作られているとされるため自分も食事は必要ないのでは……と考えたがすぐにその考えをふるい落とした。

原作終盤で白ゼツは無限月読によって神樹と呼ばれる樹に取り込まれた人々の成れの果てであることが判明している。神樹の末端とでも言うべき彼らに食事や排泄が必要ないのは自然なことだ。

 

飢餓感を感じるということは彼の身体がゼツに類似したものではなくあくまでも人の体だということを物語っている。それにしても規格外な存在には変わりないのだが。

 

「……腹、減ったなぁ」

 

今日一日くらいなら持つだろうが明日はどうだろうか。

空腹が引き寄せてきたのか彼はこっくりこっくりと船を漕ぎ始める。人間の三大欲求は仲良しなのかもしれない。

ああそうだ、夢で神様出てきたら文句のひとつでも言ってやろう。おい神様、不法侵入者になっちまったんだが。

 

そのまま彼は目を閉じる。もう色々と限界だった。

 

「――――?――、―――!――!――――――!!」

 

何やら近くで声が聞こえる。

声は近づいて来ているようだが彼の耳はそれを超える速さで遠く離れていく。もはや何を口にしているのかさっぱり分からない。

視界に声の主かと思われる老人が目に入ったところで彼の意識は部屋の灯りを消すようにブツリと切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

最初に目に入ったのは知らない天井だった。

彼の顔に向かって朝日が差している。眩しかったのか昨日と同じようにふいと目を背けた。

彼は初めての使徒戦の後病院で起床したシンジくんの気持ちを想像する。目覚めていきなり知らない場所だというのは存外不安な気持ちになるものだった。そもそも現在の彼の居場所は無いにも等しいのだが。

 

白昼堂々の逃亡虚しく捕縛されたと考えるには些か待遇が良すぎる。しかしふかふかのベッドで見知らぬ人間を寝かせる人間なんているのだろうか。

 

 

――では誰が?

 

 

そう考えたところで不意にガチャリとドアが開いた。

即座に上体を起こして目の前の人物を注視する。

白い髭を貯えた優しげな瞳の老人だった。

彼はその人に見覚えがある。無論画面越しに、だが。

 

「マッケンジー、さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレン・マッケンジー、70歳。

彼は最近の趣味である夜の散歩を楽しんでいた。

夜空の煌めきを阻害されない深夜は彼にとって何ものにも変え難い幸福であった。本当は孫と共にこの星を眺めたいと思っているがここ5年程音沙汰がない。

 

いつも踵を返して家へ向かう地点である森の近辺まで差し掛かったところだった。

唐突にここで引き返すと取り返しのつかないことが起こるような気がした。その感覚は生まれてこの方感じたことの無いもの――例えるならば啓示のような――だったが、その時のグレンは少々躊躇いながらもそれに従うことにした。

 

草の根木の根をかき分けて直感が導く先へとたどり着く。

視線の先には年端もいかない青年が木の洞の中でうずくまっていた。

思わず彼に声をかけたが薄く目を開けただけで他はピクリともしない。

脈は正常に機能しているようだが体温が異常に低く感じられた。

彼を低体温症と推定したグレンは彼をおぶって自宅へと向かう。

彼がどういった理由であの場所にいたのかは分からない。しかしグレンは寒さに凍えている彼を見捨てるようなまねはできなかったのだ。

 

帰宅後、彼はマーサ・マッケンジーに「子犬を拾ってくるのとはわけが違うのよ」と諭された。その割には少しだけ嬉しそうに彼の目には写ったが。

見捨てられなかったんだと取り成して彼を空き部屋に寝かしつけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、何から何まで。見ず知らずの俺を」

「いやなに、これはワシの勝手だ。ばあさんには小言を言われてしまったがな」

 

グレンは呵々と頬を緩ませた。つられて彼も笑う。

ひとしきり笑った後、グレンはずいと顔を近づけて彼を見つめた。グレンの眉間のシワがほんの少しだけ寄ったように彼の目に映った。

 

「だがお前さんはあんなところにいたんだ?家出ってやつか?ま、話しにくいなら話さなくてもいいんだが」

「そう、ですね」

 

彼は口ごもった。

転生したんです!と言えば精神科を紹介されるか痛い子扱いされるのが関の山だ。

できるだけ悲劇的なヒロインのような振る舞いをするように意識する。

自分はウェイバーみたいな暗示の魔術は使えない。

恐らく第四次聖杯戦争のセーフエリアとも呼べるここを自ら離れる選択肢は彼には考えられなかった。

 

「俺は、少し記憶が朧気です。何かから逃げてきたことだけは覚えているんですが……」

「確か、忌み子と言われていたような気がします。どんな理由だったのかは、ちょっと」

 

土壇場ででっち上げたストーリーだ。

こうして働かない脳を回しているのが非常に辛いが、努めて悲痛な顔をして同情を湧かせるように彼は話しかける。

 

グレンは少し考える素振りをした後彼の目を覗くようにして尋ねた。

 

「忌み子と呼ばれたのは……その目が原因か?」

「目?」

 

思わず怪訝な表情をして聞き返してしまった。

少し顔をしかめたがグレンはそれに気づく様子もなく近くにある鏡を指さして「見てみろ」と一言。

 

彼は言われた通りに鏡中の自分に目をやった。

 

彼は転生してから飢餓、これからの身の振り、間桐の刻印虫の想起、自分が魔術師に捕まった想定、などなどをろくに回らない頭で必死に考えていた。その結果彼の脳には多大なストレスがのしかかっていた。

 

故にそれは必定というものだ。

神(暫定)が授けた素養がこんなにも短期間で芽吹いてしまったのは。これには予想外と笑っているに違いない。

 

彼の瞳は陽だまりの中でも淡く紅い光を放つ。瞳孔の周囲には黒い巴が二つ浮かび上がっている。

 

間違いない。この目は――――

 

「写輪、眼」

 

 




マッケンジー宅︰Fate/Zeroにおけるウェイバーの下宿先。今作における主人公の拠点とも言うべき場所。そのうち魔境と化す予定。


転生特典その②

言語理解︰主人公が前世で見知った範囲の言語を読み書き会話できる。高校の歴史の資料集とかでちらっと見たシュメール語も対応範囲内。
間違っても統一言語(Master of Babel)偽神の書(Godot Word)の類いではない。

転生特典その③

写輪眼︰みんな知ってるうちは一族の瞳。
現代人が直面するには世知辛すぎる環境によるストレスで開眼した。万華鏡にはまだまだ遠い。
神(暫定)はそれを開眼しうる素養のようなものを与えていたがこの早さで成し得るとは予想していなかった模様。写輪眼開眼RTAなら多分最速。
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