目覚めたら全身柱間細胞になってた   作:卑の意志を継ぐ者

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第六話︰覚醒

柱間細胞によって強化されたシバリング*1で復帰を果たしたマスターは追加で繰り出されるヴィイによる氷結攻撃を難なく躱し続け、木遁・黙殺縛りの術でアナスタシアを緩めに縛ることで何とか落ち着かせることができた。大したやつである。

 

「……どういう手品だったか教えてもらえるかしら?」

「仰せのままに皇女殿下」

 

クウマの身体からせり出てくる木分身にアナスタシアは驚愕の表情を垣間見せた。

分身が木遁変化の術で作成したドスで実演をする頃には彼女は皇女然とした顔に戻っていたが。

おそろしく速い切り替え、写輪眼でなきゃ見逃しちゃうね。

 

「マスターは人間をご卒業に?」

「まだれっきとした人間だぞ!?……常人の枠からは外れてるとは思うが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ改めて自己紹介。今回貴方のマスターとなった千手クウマだ」

「サーヴァント、キャスター。アナスタシアよ。ええ、よろしくね。意地悪なマスターさん」

「人のこと言えないのでは……?」

「じゃあお互い様、ということで」

 

口元を隠して微笑するアナスタシア。

その姿は可愛らしいのだが彼女はコタツムリになっているので皇女然とした威厳はまるで見当たらなかった。

 

「さて、では第一回今後の方針を決める会を始めます。俺の方針は『無辜の人々を可能な限り聖杯戦争の被害に巻き込まない』ことだ」

 

彼は転生してからずっと考えていたことがある。

それは曖昧かつ漠然としたものだったがアナスタシアの憤りがパスを通じて届いた時、彼の心に形を持って現れた。

 

 

 

────自分はこの世界で何をしたらいいのだろうか

 

 

 

今彼が自らの死を恐れて何処かへ隠遁しても後ろ指を指されることはない。

本当の意味で彼を知る人はこの世界には一人もいない故に。

 

残り二年弱で始まる聖杯戦争は多くの無辜の人々が死の危機に晒される。

自分に何の力も無いならば、尻尾を巻いて逃げ出しても長く悔恨は続きはしないだろう。

 

しかし彼は持っている、持ってしまっている。

人並み外れた力をその身に宿してしまっている。それがたとえ彼が望まざる力だったとしても。

 

彼は一昔前に見た気がする赤い蜘蛛男の映画のセリフを思い出した。

 

 

『大いなる力には、大いなる責任が伴う』

 

 

そのフレーズにクウマは薄く笑った。

何だ、やるべき事はすぐそこにあったじゃないか。

 

「皇女様、確かに俺は貴方を喚んだ時は何も考えてなかった。漠然としたものはあったけど……まともな指針がなくて、俺自身何をしたいのかも全然分かんなくて」

 

クウマは『死にたくない』と思っている。

彼に刻まれた起源がその考えに拍車をかけているのもあるが、それでも嘘偽りない彼の気持ちだ。

 

その乾いた渇望はマッケンジー夫妻や深谷町の人々と交流を深めていく過程を経て鮮やかに『成長』した。

 

 

死にたくない(死への忌避)』は『生きたい(生への渇望)』に。

 

生きたい(生への渇望)』は『生きて欲しい(生存への祈念)』へとその形を変える。

 

 

「だからちゃんと考えた。俺はみんなに『生きて欲しい』。グレンさんにマーサさん、深谷町の人たち、もちろんアナスタシアにも」

 

「全部を救うことはできないかもしれないけど、頑張ってみようと思うんだ。掴める手が、伸ばせる腕があるのに、結局黙って見過ごしたら死んでも後悔するような気がして」

 

「アナスタシア。俺は君が聖杯に何を望むのか俺には点で分からない。だけどその途中、ちょっとだけでいいから俺に力を貸してくれないか?」

 

アナスタシアの瞳に仰天とまでいかなくとも驚きの色が差した。

瞬き一つでそれを消すとまた柔和な微笑みを浮かべ、偶然面白いものを見つけた子どものように笑い始める。実際彼女は子どもといっても差し支えない享年なので比喩でも何でもないのだが。

 

「マスター、貴方わたくしを必要とする理由を作ろうとしていたでしょう?」

「ギクッ」

 

図星だった。

確かにクウマはアナスタシアの思いを払拭したいのもあって今回の方針へ思い至った。

ただそれは決して口をついて出たものではなく、十分に考えた上で出した結論ではあるのだが。

 

「いえ、別にいいのです。マスターがちゃんと考えていただけでも。加点1」

「1かぁ……」

「もっと欲しければ精進なさいな、マスター。期待していなくはなくってよ?」

 

そう言うとのっそりとコタツムリから元のアナスタシアへと進化した彼女は胸元のヴィイをきゅっと抱きしめた。

 

「ええ、マスターの方針にわたくしも乗りましょう。たまには民を守る役割を演じるのも悪くないかもしれないわ」

 

 

▼ キャスターの  アナスタシアが  なかまになった !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで……」

「どうしたのですかマスター?」

「どうして俺は締め出されてるんだ?」

 

マッケンジー宅二階のドアに二人で身を預け壁越しで作戦を練り練りする二名。

先ほどまでは同室にいたはずなのだが何故かクウマはいい笑顔のアナスタシアによって外へと追い出されている。

 

「壁越し会話でも十分意思疎通は可能ですが?」

「うーん……まぁいいか」

 

寒くなったら階を揺らす程度のシバリングで暖をとればいいやと半ば投げやりに今の状況を自分に納得させたクウマはドアの隙間からノートから破った紙を一枚差し込んだ。

 

「これは……」

「今後聖杯戦争の被害を被るかもしれない人達のリストだ。これから忙しくなるぜ、皇女様」

 

アナスタシアのほっそりとした指先がつう、とそのリストをなぞる。

 

ピタリと止まったその先には濃い文字で『遠坂 桜』と書かれていた。

 

 

*1
体温が低下した時に筋肉を動かすことによる熱の発生で体温を保とうとする生理現象。クウマは柱間細胞(偽)のおかげで人知を超越したシバリングが可能となっている。




生きて欲しい(ただし状態の是非は問わず)

やっぱり(別な意味で)ガンギマリマスターだったよ……。


「貴方分身して人海戦術もできるわよね?」
「解術フィードバックが辛い」


『成長』の起源が『生存』の起源に作用にし、『活性』の起源がそれらを後押しした結果『ちょっとのお金と明日のパンツがあればいい』人路線へと向かっていく主人公。
恐竜メダル?知らない子ですね。


『大いなる力には大いなる責任が伴う』︰スパイダーマンの登場人物であるベンおじさんの台詞。至言。

『遠坂 桜』︰現在1990年の年越し辺り。なのでまだ桜は間桐の養子ではないし、法治国家でやってはいけないことをほぼ完遂おじさんも蟲蔵実家に帰っていない。故に遠坂姓なのである。

クウマの令呪︰柳洞寺付近で発動した木遁の根がまさかまさかの大聖杯に直で接続。システムを拡張するという形で『成長』と『活性』の起源が発現してしまったため預託令呪と増えた鯖枠がクウマへと配布された。もちろん本人は気がついていない。
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