目覚めたら全身柱間細胞になってた   作:卑の意志を継ぐ者

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悪魔と相乗りする勇気……あるかな?



第七話︰いくぞ妖怪爺。蟲の貯蔵は十分か

薄暗い夜道、アスファルトを踏みしめるかのように歩く人影が一つ。その足音はまるで死地へ赴く覚悟を固めているかのような雰囲気を漂わせる。

 

人影──間桐雁夜の心に渦巻く思いはただ一つ、あの姉妹──凛と桜をもう一度笑い合えるようにしてあげたい、それだけだ。

 

「ああ、何だってやってやるさ」

 

誰に言うでもなく、吐き捨てるように彼は呟く。

血の滲むような修練だろうが、身体を蟲に蹂躙されようが構わない。

その結果道半ばで命を落とすとしても……彼がその歩みを止めることは無いだろう。

 

「本当に何だってやるのか?」

「誰だ!?」

 

誰が自分のか細い呟きを拾われると予見できるだろうか。

振り向いた雁夜は黒い外套を羽織った何かが値踏みをするかのような視線を向けているのを目撃する。

 

街灯程度しか光源のない中で雁夜がそれをしっかり視認できているのは外套の文様と妖しく光る眼、そしてそのフレンチクルーラーのような仮面に起因する。

外套には赤い雲取文様が描かれ、その目は暗がりにも関わらず爛々と紅い光をこちらに放っている。

何よりオレンジ色のグルグル仮面は無駄に光を反射していた。

 

「じゃあトビ、とでも名乗ろうか。まあ偽名だけど」

「何が目的だ?」

 

正直雁夜にはトビと名乗る者の目的が分からなかった。

魔術師目線から見れば自分はとっくの昔に間桐家から出奔した愚か者だ。コネクションどころか人質としての利用価値すらないと自負している。

 

ならば自分の魔術回路を狙った魔術師だろうか。

古ぼけた記憶の中で妖怪爺──間桐臓硯が鶴野よりはまだお前はマシな素養を持っているわと言っていた気がする。

だがこんなところで死ぬわけにはいかない。まだ自分にはやるべき事があるのだ。

 

「目的?あぁそいつは────君を殺すことだとも」

 

 

──マズい

 

 

雁夜の直感はそう訴えた。

コンクリの下から何かが地下を抉る轟音が足を通して伝わってくる。

逃げ切れるかはともかくとして逃げなくてはならない。

 

踵を返して駆け出すも雁夜は何かが自分の脚に巻き付いたことでその行動を停止されることを余儀なくされていた。

脚には葉っぱが生い茂った根のようなものが幾重にも雁夜を地の底へと引きずらんばかりに蠢いている。

払い除けようとするもただの植物にしては考えられない強靭な力で雁夜にへばりついてくるのだった。

 

「ク、クソォッ!!俺にはまだ────」

「あいあい。お疲れさん」

 

やるべきことが。そう言おうとした口に根っこを噛まされ、雁夜は植物と共に一気に地下へと下っていったのだった。

 

その光景を半目で見下ろしながらため息を着くフレンチクルーラー。

 

「柄ではないんだけどね」

 

おひねり感覚で聖杯をバーカウンターで滑らすグランドクソ野郎のような台詞を口にして指紋仮面もアスファルトに穿たれた穴の中に飛び込んでいった。

 

誰もいなくなった夜道でコンクリートの穴は逆再生のようにギュルギュルと巻き戻る。夜道はつかの間の平穏を取り戻したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐっ」

 

身体が軋むような感覚が身を刺し雁夜の目が覚めた。

動かない頭に火を灯して身体を起こす。

見回す限りここは和室のようだ。

新緑色の畳からはほのかにイグサの匂いが漂い、近くには湯のみと急須とお茶請けの三色団子が──

 

「いや違うだろ」

 

問題はそこではない。

自分はトビとかいうやつに殺害されたのではなかったか。

もしくは殺害は他の魔術師に自分を諦めさせるためのブラフで、本当は何か恐ろしい実験の材料やら触媒やらにされてしまうのではないかと雁夜は考える。

 

「だとしてもな……」

 

自分が死ぬ間際だと仮定してもこの待遇はおかしい。

希望を持たせて絶望に叩き落とすのが趣味な倒錯した魔術師なのかもしれないが……。

 

ふと、雁夜の目にお茶請けの近くに置いてある紙が目に入る。

 

『お茶を飲んで団子食べて元気になったらそこのドアから出てきてください』

 

グウ、と雁夜の腹が鳴る。

確かにここ最近の彼はあまりものを食べていなかった。

自責の念やこれからどうすべきかについて悩み尽くしていたので食欲不振になっても仕方ない。

 

毒物とか魔術的な工作とかそういうことを雁夜は一瞬だけ忘れてしまった。

敵の陣地のはずだが何故か雁夜の荒んだ心は一時の落ち着きを取り戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局彼は団子もお茶も飲んだ。

無駄に美味かったのは何故だろう。

空腹感だけではないような気がする。

 

ガチャリと意を決してドアを開けるとまた同じような部屋だった。少し広めで床の間と掛け軸があるくらいしか違いが見当たらない。

 

その部屋には立て看板のようなものが中央に設置してある。彼は怪訝な表情でそこに記された文字をよんでいく。

 

『汚れたパーカーやズボンを脱いでバスケットへ。その後戸棚にある和服にお着替ください。こちらの不手際ですのでどうかお許しを』

 

見れば確かに自分の衣服は汚れていた。

大量の植物に絡まれながら地下へと進行していったのだ。土埃などがついても当然だろう。

 

至れり尽くせりな現在の自分に違和感とどっかでこれ見たことあるようなという既視感を感じつつも雁夜は看板の文字通りにいそいそと服を脱ぎ、灰色の着流しと少し長めの薄紺色の羽織に袖を通す。

 

置いてあった姿見で自分を見てみるとなかなかどうして似合っていた。一瞬だけ臓硯の姿を幻視したのは多分気のせいである。

 

 

次の部屋もまた同じ内装だ。違うところは立て看板の内容くらいしかない。

 

『これで最後です。一歩だけ足を進めてくださいな』

 

先ほどとは違う筆跡のような気がする。

特にそれを不審に思うことなく雁夜はその足を踏み出した。

 

「おわぁっ!!?」

 

瞬間、床の畳が忍者屋敷の如くどんでん返り、雁夜はその中に足を滑らす。

暗闇の中無駄に長いヒノキの香りがする滑り台をジェットコースターの如き勢いで駆け抜ける雁夜。

最終的に終着点で特大クッションの中へときりもみ回転をしながら軟着した。

 

「きゅう……」

「この方はジェットコースターなるものは苦手だったのかしら?」

「多分誰だってこうなると思うが……イタズラにしては手が込みすぎてるんじゃないですか皇女様」

「やるからには徹底的に、よ」

「OK、マム。だからヴィイの眼を光らせるのはやめてくれないか?」

 

 

▼ かりやは こんらん している !

 

▼ かりやは めのまえが まっくらに なった !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちのキャスターがほんとすみません……あ、でも3部屋の内2部屋の管轄は俺です」

「あぁうん。分かった。君が苦労しているのよくは分かったから……なんて?」

 

御所か金閣寺に匹敵するレベルの畳が敷き詰められた部屋に雁夜は通された。

現在クウマが使い魔の不手際とそれを止められなかった自分について雁夜に土下座している。

雁夜はその使い魔について詳しく話を聞こうかと思ったが面倒くさそうだったのでやめた。

ちなみに件の使い魔は近くの部屋でハーゲン〇ッツを美味しそうに頬張っている。

 

 

「えっと……君が俺を拉致した犯人ってことでいいのかな?」

「ええ、相違ないです。あ、さっきはトビって言いましたけど俺は千手クウマと言います」

「千手……?ああ、うん。俺は間桐雁夜だ」

 

「……時間がない、というか身が持たないので単刀直入に言います。雁夜さん、遠坂 桜を守るために俺に力を貸して頂きたい」

「桜ちゃんを知ってるのか!!?」

 

雁夜の顔が驚愕に染まるが対するクウマは特に表情は変えずに淡々と話を続ける。

 

「ええ、知っています。雁夜さんなら今彼女がとても危険な状態にあることはご存知のはず」

「ああ、嫌ってほど分かってる。だから俺が聖杯戦争で……」

「それもあまり望みがないことは分かっているはずです」

 

雁夜は口を噤んだ。

その通りだ。今から一年ちょっとで自分が聖杯戦争への切符を手にできるかも分からない上、よしんば参加できたとしても急造品が長年研鑽を続けてきた魔術師に勝てるかと問われれば否である。たとえそこに才能があったとしても。

 

そしてあの外道に堕ちた妖怪爺が律儀に約束を守るような性格をしていないこともよく知っていた。

 

だが何もアクションを起こさなければ桜を救うことができる可能性はゼロ。彼女が間桐に蹂躙されるのを傍観できるような性根を雁夜は持ち合わせていなかった。

 

「これ、計画の要項です。とりあえず目を通してもらえればなと」

「色々と苦労を強いると思いますけど、雁夜さんをこれに組み込めたらだいぶ楽になります。この手は悪魔のように見えるかもしれませんが……相乗りしてくれませんか?」

 

雁夜はクウマの手の紙束を見つめ、そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某夜、間桐邸の前に臓硯と雁夜が相対する。

 

 

「ほう、よく来た雁夜。その服を見るに……形から入ろうとでもしたか?」

「そんな気は毛ほどもないけどな。臓硯、俺が来た理由は分かるだろ」

「ああ、手に取るように分かるぞ。大方桜を解放しろ、とかそんなところじゃろう」

 

「そこまで分かってんなら話は早い」

 

雁夜は羽織を脱ぎ捨てファイティングポーズを取る。

臓硯は少し面食らったような表情からみるみるうちに愉悦ここに極まれりといった顔へと変貌した。

 

 

 

「聖杯戦争なんてやってる暇はない。今ここでお前に勝てたら、桜ちゃんを解放しろ!」

 

 

 




「マスター、ミヤ〇ワ ケンジって知ってる?」
「知ってるけど……」

雁夜おじさん︰Fate/ZEROの幸薄枠。多分次回で一番身体を張ることになる人。デスクワークによる疲れと出奔した結果巻き起こった事態への自責の念、最後に栄養不足気味が重なりクウマに確認しなければならないことを諸々忘れている模様。
例えば何でコイツが桜ちゃんのこと知ってるのとか、要項に書いてある情報とか。
クウマが立案した計画の詳細は次回!

雁夜おじさんが通された場所の看板とかその他︰元ネタは注文の多い料理店。各部屋のどうでもいい情報は以下3つとなります。

①木遁産お茶っ葉に木遁の葉っぱを練りこんだお団子。多分これのせいで精神が病みかけおじさんは美味いと感じてた。

②和装の資金は木遁の術の角材や木を売った。木遁産の木はめちゃくちゃ質がいいらしい。
クウマ容疑者は和装雁夜おじさんがどうしても見たかったなどと供述しており――

③マスター!テレビで騙してやった特賞っていう番組があるのですよね?ね?



現在の時系列について︰前話から5ヶ月ちょい過ぎて1991年の春と夏の間に突入。

雁夜おじさんが通された部屋︰冬から春にかけてはクウマは土遁と木遁で冬木市に地下大迷宮を作ってた。一応理由はある。まだそこまで広くはない。おじさんが通されたのはその一室。

大迷宮なんて作ったら流石に感づくのでは?︰今の冬木は魔力が濃すぎるためにちょっとやそっとの魔術行使は大海に真水を一滴落とすかの如く他の魔術師に気づかれることは無い。
だから大迷宮作っても誰も気が付くことはないんだ!ないったらないんだ!(強弁)

フレンチクルーラー
①︰シュー生地を揚げたドーナツ。螺旋的な形状が特徴的。

②︰犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな。NARUTOの登場人物であるトビ及び彼がつけているお面のこと。今回は木遁変化の術でトビに変装していた。

悪魔と相乗りする勇気……あるかな?︰仮面ライダーWの主人公の片割れであるフィリップの台詞。至言。
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