目覚めたら全身柱間細胞になってた   作:卑の意志を継ぐ者

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「知ってるか?草タイプは蟲タイプに弱いんだ」
「知っているかしら?蟲タイプは氷タイプに弱いそうよ」

「え、嘘?でもサーヴァントは幽霊のようなものですし、アレの攻撃に『効果はいまひとつのようだ』ってできるわよね?」


第七話︰慢心爺は蠱毒の夢を見るか?

「ちょっと待て!臓硯とタイマンバトルってどういうことだ!?」

「言葉通りですけど……?」

「いや首を傾げるなよ!こっちは魔術のまの字すらかじってない一般人だぞ!どうやって戦えってんだ!?」

 

別室で作戦要項をしげしげと眺めていた雁夜はある項目が見えた際にクウマが待機していた部屋へと突撃した。

おかしい、明らかにおかしい。

何故こいつは一般人と化け物を戦わせるようなことをするのか。

 

「これが一番生存率が高いからです」

「確かに臓硯は俺を弄ぶかもしれないが……いやそれでもこれは……」

「ああ、生存率っていうのは蟲爺のですよ?もちろん雁夜さんも含めてますが」

「は?」

 

雁夜は目の前のクウマという人物が得体の知れない化け物に見え、戦慄した。

生存率?臓硯の?全く何を言っているのか分からなかった。いや、理解を拒んだという方が正しいか。

 

「大丈夫です。勝算はあります。絶対に誰も死なせません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雁夜は何度も練習した通り指を規定の形に動かす。

果たしてこれで放つことができるのかという疑念が生じるが、自分が纏うこれを信用する他ない。

 

雁夜は自身の背に滾り迸る『何か』が身体の中央に向かって収束していく感触を覚える。

その『何か』を口から弾のように吐き出すイメージで一気に放出した。

 

「火遁 豪火球の術!」

 

雁夜の口から吹き出る特大の火球が四散しようとする臓硯を巻き込みながら闇を紅に染め上げた。

 

周囲に火の粉をまき散らした後、炎はゆっくりと収束する。

雁夜は初めて煙草を銜えたかのようにゲホゲホと咳き込みながら術を停止させた。

 

「……でき、た」

 

ヒリヒリと痛む喉にゴクリと唾を飲みこんだ。

彼は臓硯とのタイマンバトル前の二週間、死に物狂いで『印』とその順番、繰り出される術のイメージを頭に叩き込んでいた。

雁夜の属性は火と水だったのでそれに合わせた印を咄嗟に出せるレベルにまでクウマの木分身とスパルタレッスンに取り組んだのだ。

 

魔力の適切な操作は半人前もいいところなのでその部分だけに関しては木遁変化の術でプロテクター状になった木分身が担当している。

 

「流石に肝を冷やしたぞ、雁夜。いつからそんな芸達者になっていた?」

「つい先週からだッ!」

 

雁夜もこれで倒したとは微塵も思わなかった。

何せ相手は500年モノの大妖怪だ。たかが炎での不意打ち、容易く躱してみせるだろう。

 

「カカカ!ワシも耄碌したものよ。お前がそんな才能を隠し持っていたとは夢にも思わんかった」

「間桐の魔術よりかはこっちのがマシだっただけだ。いくぞ臓硯、蟲の貯蔵は十分か!!」

「粋がることだけは一人前のようじゃな、雁夜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、二人が激突してる間に……」

 

土遁を使い間桐邸に忍び込んだクウマは蠱毒の坩堝と化した蟲の大海の中に浮かぶ木目模様の繭を発見する。

 

「やっと救出できるぜ……と、その前に。木遁 樹液林の術」

 

間桐家の蟲蔵には過去にクウマの木分身が放った木遁の根っこが地下から天井を穿つように峭立している。

そこに向かって新しく開発することができた術の一つである木遁 樹液林の術を発動する。

これは間桐キラーとして開発しておいた術であり、木遁で放った樹から吸着性の強い樹液を発生させる術である。

 

魔力の強いものに向かっていく習性のある間桐の蟲たちはこぞって樹液に向かっていきベチャベチャと狂ったように汁をすすり始める。

地脈から汲み上げている魔力なので質も人の由来のものとは比べ物にならないだろう。蟲たちが群がっていくのも自明の理である。

 

見るも無惨で醜悪な蟲タワーを形成していく様子を見届ける義理は無いので蟲の海から解放された木目模様の繭──変形した木分身に守らせていた桜を回収してクウマは地上へと脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カハッ!」

「一芸手に入れても所詮は童。それどうした、ワシに勝つんではなかったのか?」

 

臓硯が使役する大鎌のような脚の蟲からの攻撃に対し雁夜は火球を放とうとするも印が間に合わずモロに食らってしまう。

 

プロテクターがあるので深刻なまでのダメージとはいかないが、この衝撃を受け続けるのははばかられた。衝撃で骨や筋肉が軋むことは避けられないからだ。

 

「大見得を切ろうともやはりお前はお前のままだな雁夜よ。今ならまだ赦してやらんでもないぞ?」

「俺の知ってる臓硯は……そんなタマじゃない」

 

口から胃液を吐き出しながら雁夜は懸命に言葉を紡ぐ。にじり寄る臓硯に憎悪が揺らめく視線を向けるが妖怪爺が意に介すことはない。むしろそれすら楽しむように嗤っていた。

 

「カカ──本当だったんだがのう。では雁夜、おまえにはちとキツい灸を据えるとするか」

 

蟲が臓硯の周囲にとぐろを巻くかのように集結し始める。逆境であるのにも関わらず雁夜は奇しくも臓硯と似たような笑みを浮かべていた。

 

「気でも触れたか、雁夜」

「違うな、臓硯」

 

ノーモーションで雁夜の口から針のような飛沫が射出される。

 

天泣。印を結ばずに出せる水遁忍術。雁夜の奥の手だ。

しかし習熟度が低かったのか、勢いだけは良かったものの臓硯が避けるまでもない微量に魔力を含んだ水となってしまった。

これが雁夜の最後の悪足掻きだろう。臓硯の口はますます歪んでいく。

 

「虚仮威しか?では、覚悟せい」

「ああ、虚仮威しだ。どう背伸びしたって()()()()()()()()()ことは分かってた」

 

 

────ええ、だからわたくしがいるのです。

 

 

瞬間、周りに凍てつく冷気が吹き付ける。ある地点を中心に放射状に霜が広がっていく。ここが彼女の領域なのだと示すように。

今の季節は春と夏の狭間。目の前に雪がちらつくことなど日本に寒波でも来なければありえないことなのだ。

 

雁夜の後方からドレスを纏った白髪の少女がゆっくりと歩み寄り、目を合わせれば凍ってしまいそうな瞳を臓硯へと向ける。

背後にはアナスタシアを守護するようにモヤのような異形が佇んでいた。

 

「永遠に煩悶する彫像におなりなさい。と言いたいところだけど、マスターから一つオーダーを貰っているの。だから少し、ほんの少しだけ────手加減してあげるわ」

 

ヴィイの蒼白い双眸がゆっくりと見開かれる。

 

何の感情も籠らぬ怪異の瞳が醜悪な蟲群を視つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雁夜さん無事ですか〜?」

 

クウマが地上に脱出する途中空気が一気に冷え込んだのを感じとった。これは作戦通りに上手くいったのだろいか。

 

地上へ出て間桐邸の門へ向かうとそこには蟲と氷のカーニバルな前衛芸術と化した臓硯、腰を降ろし肩で息をする雁夜、そして明後日の方向を眺めているアナスタシアがいた。こちら側は全員無事のようだ。

 

「クウマ君、桜ちゃんは!?」

「無事ですよ。でも眠っちゃってるんで……」

「そっか。あぁ、安心した」

 

クウマが背中におぶった彼女を見ると雁夜は糸が切れたように肩を落とした。そしてそのままくうくうと寝息をたて始める。

 

「あちゃあ。まぁそりゃそうか。アナスタシア、ちょっと二人を……OK。後で俺が二人とも抱えていくから」

「いえ、それには及びませんわマスター。その、桜はまだ子どもですので、早急に安全な場所に連れて行ってあげなくては」

 

彼女が何を思っているかクウマにはパスを通さなくとも分かった。

分かったがあえて地雷を踏み抜くマネをすることはなかった。たっぷり間を置いてクウマはGOサインを出す。

 

「分かった。任せるよ」

「ええ、お任せ下さいな」

 

アナスタシアは桜をゆっくりと抱え慈しむように見つめるとマッケンジー宅への道を辿って行った。

 

 

「……さてと。臓硯さん、起きてます?狸寝入りしてもいいことありませんよ?」

「────クカカカ。貴様が……キャスターのマスターか?」

「そうだ。ついでに雁夜さんに忍術の手ほどきをしたのも俺だ」

 

氷山の中で唯一半分だけ氷の中から身体を出した刻印虫がしゃがれた声で笑った。

 

「忍……?まあよい、ワシ相手に手加減とは間桐も舐められたものだな」

 

「勘違いしないでくれ、臓硯さん。アレは余裕からの手加減じゃない。俺は目の前で誰も死なせない。それ故の手加減だ。だから決して抜かりはしないよ」

 

「ははは、ははははは!なんと殊勝な男よ、死が見たくないからとこの老いぼれを生かすとは!……して、どう生かすつもりだ?既に風前の灯火となったこの臓硯を。もう四半刻もせずにおまえの目的は達成できなくなるぞ」

 

「それなら既に考えてある。やらかしたとしても今より蟲々感がアップするだけだから心配しないでくれ」

 

 




毎日書き溜めゼロからの更新も今回で止まります。そろそろお体に触りそうですから。


ここ数ヶ月のクウマの動向︰
冬木地下大迷宮を作るのと桜を守護するのに尽力していた。

予め蟲蔵に木分身を配置しておき、桜が放りこまれたところで臓硯に気が付かれないように保護。
木分身を通して桜の魔力を蟲に食わせているので臓硯が異常に気がつくことは無い。

臓硯は桜の身体の調整が終わるまでの必要最低限の栄養は蟲から分泌されるヤバそうな液体で賄うつもりだったらしい。
桜が自分にちょうどいい器になるまで臓硯の本体は臓硯を象っている蟲たちの中におり、桜の監視は蟲蔵の刻印虫に任せておくことにした。

木分身が変化した繭の中で桜は過ごしており、その中で食事的にはあれだが結構快適な生活をしていた模様。

木分身は蟲の蹂躙をその身に受けているのでそのフィードバックは全てが本体へと通じている。前話で身がもたないと話していたのはそのため。クウマの鋼の精神で発狂を防いでいた。


作戦詳細︰
クウマは皆に『生き残って欲しい』と思っているので敵味方問わず全員生存が勝利条件。

なので臓硯と戦うのがクウマだとニュータイプが如く目的に気がついた臓硯に桜を人質にされたり、最初からクライマックスになった奴さんに瞬殺されてしまう可能性があった。草タイプは蟲タイプに弱いのである。

その点雁夜おじさんは(言い方が悪いが)完全に臓硯に舐められており、ちょっとやそっとの足掻きで臓硯が息子(戸籍上)に止めを刺すことはなく、なおかつ本気を出してこない上に慢心してくれる。

雁夜おじさんが身体を張っている間にクウマは蟲蔵で桜を救出して妨害工作。とりあえずここまでいければ計画はほぼ成功といえる。

最後に臓硯を不意打ち水遁でずぶ濡れにしてアナスタシアにヴィイヴィイヴィイしてもらう、と大雑把にいえばこんな計画。


どうして臓硯おじいさん生き残ってるの?︰
ヴィイの弱点創出能力を使って臓硯本体がいる場所を指定。そこ以外の場所を凍結してもらうことで半死半生の臓硯氷像が完成する。

最初は乗り気でなかったアナスタシアだがバケツみたいな容器に入った特大ハーゲン〇ッツをプレゼントしたところ快く了承してくれた。

天泣︰二代目火影である卑劣様──千手扉間の忍術。低コストノーモーションで放てる不意打ち特化技。

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