咲-Saki- 第三次麻雀大戦 PROLOGUE 作:新神 清
対局は異様な様相を見せていた。
現在、東一局十二本場が終わろうとしている。そして同時に、開局から二時間が経過しようとしていた。
基本的に半荘一回が四十分~一時間で終わることを考えれば、明らかに異常な時間だ。
「テンパ~イ」
「………ノーテン」
「………ノーテン」
「………ノーテン」
佐合 十三 61000
須賀 京太郎 13000
西尾 武 11000
岡田 英輔 12000
これが東一局十二本場終了時点での点数だ。これだけなら佐合十三の実力が他3人を凌駕していた、という話で終わるだろう。
だが、この卓において問題はそこではなかった。
誰一人として和了っていない。佐合十三はゴミ手すら和了ることなくこれだけの点棒を積み上げてきたのだ。
流局するまで自模り、裸単騎を倒した佐合に手牌を伏せた三人が千点棒を渡す。
これを十二回続けた結果、彼等の集中力はとうに尽きていた。
素人の京太郎ですら理解できる異常がこの卓では起きている。同卓者全員の顔を引きつらせる現象を、十三は引き起こしていた。
(なんだこれは、いったいどうなっている………!)
卓に着く内の一人、岡田英輔は目の前の非現実的な光景に正気を失いそうだった。
どれだけ前傾姿勢で足掻いても聴牌に辿り着けない。それは恐らく残り二人も同じだろう。
一般的な雀士の和了率は約20%である。確率論で言うなら5局打てば1回は和了できる計算だ。最も本人の技量や同卓者との実力差、時の運によって変動する不確定なものである為、そこまで単純な話でもない。それでも十二局打って和了どころか聴牌すらできないこの有様は偶然の一言で片づけられるものではないだろう。
親の十三がサイコロを回し東一局十三本場が始まる。ドラは{發}。
{125④⑥⑦⑨九九西西北北}
配牌は三向聴。全帯(チャンタ)を狙うにはうってつけだ。
決して悪いとは言えない手だがそれでも聴牌に至れる気がまるでしない。事実、配牌一向聴の時ですらずっと手が進まずに局が終わってしまったのだ。振り込み覚悟で危険牌を捨て、手を張り替えてもそれらの行為は全て徒労に終わってしまった。
こんなことはあり得ない。
英輔は去年、一年生ながら個人戦で全国への切符を手に入れた。全国の上位に名を連ねることは無かったが、それでも女子より狭き門である県予選を自分は潜り抜けたのだ。
あれから練習を積み、間違いなく自身の実力は去年より向上したと断言できる。
しかし今はどうだ。
積み上げてきた経験は意味をなさず、技術も役に立たない。無名の雀士に何もできず弄ばれている。
十三 打:{1}
京太郎 打:{七}
武 打:{白}
「ポン」
{白横白白}
十三 打:{東}
十三が武の捨てた牌を鳴いた。
素人目には特急券を手に入れることで早上がりを狙っているのだと思うだろう。しかし、同卓している自分にはそうでないとわかる。
京太郎 打:{⑧}
武 打:{①}
英輔 自摸:{9}
打:{5}
「チー」
{34横5}
十三 打:{赤5}
下家の十三に牌をまたも牌を食い取られた。この十二局で自分達は幾度となく彼に鳴かれ続けて、流局のたびに千点棒を支払い続けている。
今、十三は赤ドラを捨てた。それはミスでも何でもない。和了る気がないからだ。手牌を途中で倒さずとも点棒が手に入る。それを理解しているからこそこんな甚振るような麻雀を打っているのだろう。
そしてそのまま手が進むことなく、六巡目に入る。
不要牌を捨てたと思えば同じ牌を連続で自模り、一向に手が進まない。
京太郎 打:{九}
「ポン」
{九横九九}
対面が捨てた牌を半ば反射的に鳴く。
何か策があったわけではない。ただ、手を進めるために、誰かが{九}を捨てたら鳴こうとあらかじめ決めていただけだ。
これほどまでにつまらない麻雀は初めてだ。
ただ牌を自模って切る。振り込みを回避しつつ和了る。それが楽しいから自分は数年間も牌を握り続けていた。
しかし、これは何だ。どれだけ足掻いても、もがいても、一向に自分が牌を倒している光景が想像できない。
一局一局が信じられないほどに長い。全て流局までもつれ込んでいるのだから当然の話だが、それを踏まえても苦痛に感じる。このままのペースでいけば終わるのは一体いつの話だろうか。
現在、英輔の点数は12000。一局ずつ千点棒を払うなら十三局後、いや飛ばなければ試合は終わらないのだから十四局後だろうか。
英輔 打:{④}
十三 打:{②}
京太郎 打:{三}
武 打:{⑧}
「チー」
{横⑧⑦⑨}
上家の捨てた牌を食いとる。
もう勝利などいらない。なんでもいいから早く終わってほしい。
鳴くときに武の顔が視界に入った。
目からは光が消えて、集中力が途切れているのがはっきりと見て取れる。彼も心が折れたようだ。
英輔 打:{⑥}
{129西西北北}{九横九九}{横⑧⑦⑨}
これで一向聴。七巡目にして、一向聴。
ふと、思う。
この対局中ここまでスムーズに手が進んだのは初めてかもしれないと。
普段なら十巡目までには大体聴牌できていた。勿論配牌や自模にもよるが、基本的に面前で進めても和了れるだけの牌効率を英輔は持っている。去年もそのデジタル打ちで全国への門を潜り抜けたのだから。
しかし、それでも英輔の顔色は悪いままだ。
対局中、三、四回ほど一向聴に辿り着いたことはあったがそれでも聴牌には至らなかった。あと一歩がどうしても届かないのだ。
(せめて聴牌だけでも………………)
最早和了ることは諦めた。それでも罰符を支払うのはこりごりだ。
とても勝利を目指しているとは思えないほどに小さく、弱々しい望みは図らずも直ぐに叶うこととなった。
武 打:{3}
「ち、チー!」
{横312}
英輔 打:{9}
「ポ~ン」
{横999}
{西西北北}{九横九九}{横⑧⑦⑨}{横312}
これで聴牌。不可能と思われた和了が手の届くところまで来ている。捨てた牌を十三に食い取られたが些細なことだ。
そして、岡田英輔という打ち手はこの好機を逃すほど愚かではなかった。微塵も気を抜かず、踊りだしたくなる衝動を抑えて無表情を貫く。
{西}_{北}のシャボ待ち。これならば流局しても点数は増える。
しかし、なぜ急に聴牌できたのだろうか。この局とこれまでの局で明確な差異があるようには思えなかった。
決して当たり牌を見逃さないようにと河に注意を向けつつ思考の海へと潜る。
自身の考える最効率で進んでも、手を張り替えても、結局聴牌はできなかった。
何だ。一体自分は何をした。
成功した理由が分からなければ、この好機を生かせない。この局が終わるまでに答えを見つけなければ。
上家が{③}を自摸切りしたことを確認してから、山に手を伸ばす。
自模った牌はドラの{發}。上がり牌では無いので躊躇うことなく川に放り捨てる。
対面の京太郎が一瞬、鳴くような素振りを見せたが思い留まった。
どうやら、手牌に{發}が二枚あるらしい。それでも鳴かなかった理由は恐らく。
(チートイか………)
七対子。通称チートイ。
七組の対子で構成される特殊な役。当然鳴いたら成立しない。
面前手でしか完成しない役を目指しているからこそ鳴かなかったのだろう。
そこで英輔に不安がよぎる。それは自身の聴牌に浮ついた気持ちを地に落とすには十分すぎた。
即ち他家も聴牌しているのではないか、という普通なら当然思いつくであろう懸念だ。
この卓が異常すぎるのですっかり頭から抜け落ちていた。勝負の土俵に上がることすらできなかったが、もし自分と同じ様に二人が聴牌する条件を満たしていれば『他家はこれまで通り聴牌していない。だから、振り込む可能性はない』という前提が簡単に崩れ去る。
もし京太郎や武が聴牌して振り込んだ場合、英輔のラスはほぼ確定。十三に至っては言わずもがなだ。十二局連続で聴牌している彼に振り込まない保証などどこにもないのだから。
鳴いて手を狭めたことが完全に裏目に出た。
こんなことなら普段通り面前で手を進めれば―――――――――
(待て、鳴き? 面前?――――――――――――――――――そうか!)
正解が見える。同時にこの後悔が全て杞憂だとはっきり確信した。
岡田英輔という男は特筆することのないデジタル打ちである。しかし、あえて一つ個性を上げるのならば、鳴きに対して消極的であることだ。
鳴きに極力頼らない。基本は手なりで進めていく。勿論最初から選択肢を除外しているわけではない。逃げ切るための特急券として三元牌を鳴く。ドラの役牌をポン。そういった形で牌を食いとることはたまにある。
それでも普通のデジタル打ち、原村和や龍門渕透華といった女子のデジタル代表に比べれば鳴きに躊躇があるのは事実だ。
しかしこの局では三回も鳴いた。そして、鳴くたびに手が進んだ。
思い返せば一向聴まで行った時も鳴いていた気がする。
鳴けば役なしになってしまう。手が安くなる。手が狭まる。そういった理由で結局牌を倒すことは無かったのだが、今思えば勿体無いことをした。
この対局で聴牌する条件、それは鳴くことだ。
ポンでもチーでもいい。面子を他家の捨て牌で少しでも早く作り、聴牌に至る。それがこの卓においての必勝法だ。なんなら役なしでも構わない。
対面の京太郎はまだ聴牌していない。断言できる。
この卓で鳴かないものは決して和了れないからだ。
もし聴牌しているなら、{發}を鳴くかどうか迷ったりしない。せっかくの聴牌を崩す理由がないからだ。
チートイドラドラだが、聴牌はしていない。手牌の内二枚は{發}。今の一瞬でこれだけの情報が手に入った。
そしてこの局で彼が聴牌することは無い。少なくとも七対子にこだわり副露宣言をしない限りはだが。
おそらく、彼は初心者だろう。だから未だに最初に目指した役に執着し、さらす必要のない情報を敵に与えた。
英輔は対面の京太郎から興味を外し、残りの二人に注意を向ける。
最早彼は敵ではない。最下位は間違いなく須賀京太郎だ。
それよりも気になるのが残り二人。
西尾武と佐合十三。
武のことは同卓者の中では一番情報が集まっている。
長野の男子名門、城山商業のエースでありキャプテン。団体戦を生で見たからよくわかる。手牌読みが上手い堅実な打ち手だ。
対して十三の方は全くの無名。
背まで伸びた白髪に長い手足。顔面を覆うように付けた白い仮面が底知れぬ不気味さを与え、脳髄に纏わりつくような低い声は聞いているだけで負の感情を掻き立てる。
奇抜な見た目に違わず、その打ち筋までもが異様だ。彼以外の三人が聴牌すらできない一方で着々と点棒を増やし続けている。
間違いなくこの卓を支配しているのは彼だろう。
だが二位は自分のものだ。
個人戦は一度負けても終わりではない。大事なのは総合成績であって、次勝てばいいのだ。
そのためにもこの対局を確実に終わらせなければいけない。次の局も兎に角鳴こう。ひたすら鳴こう。
自身が毒されていることに気づかぬまま英輔は牌を握り続けるのだった。
『大変申し訳ありません。男子個人戦第二試合開始までもうしばらくお待ちください』
アナウンスが終わるとともに会場のざわめきが一層大きくなる。
例年通りならばこの時間帯には五試合目が確実に終わっている頃合いだ。だというのに他の卓では九十分以上前に一試合目が終わったにも関わらず、一向に次の試合が始まる気配がない。
原因は間違いなく目の前の対局だろう。
現在東一局十二本場。普通に考えればありえない場数である。
おかげでその他の試合時間まで調整せざるを得なくなっている様だ。暇で仕方がないのか、見物人も少しずつ増えている。
(あいつのことだし何か考えが………………あるのかねぇ)
自身の友人である十三の意図を汲み取ろうとするも、やめた。
享楽的なあの男ならただの趣味でこれだけの騒ぎを起こしても納得できる。役目自体は果たしている以上心配はいらないだろう。
佐合十三に鳴かれるたび相手の雀力が弱くなっていくのがはっきりわかる。
食らっているのだ。感知できる人間はほんの僅かで誤差の範囲でしかないが、他家の雀力が減ると同時に十三から漏れ出す雀力が膨れ上がっていく。
いつまで経っても彼以外の3人が聴牌すらできないのは、能力がどうとか、技量や打ち筋に問題があるわけではない。
単純に運がないのだ。麻雀にはどうあがいても聴牌できずに流局する局が往々にして存在する。それが延々と続くほど運が悪い。それだけなのだ。
もっとも麻雀という競技の都合上、手役はどうであれ四回鳴けば形聴は取れる。そうすれば、流局のたびに点棒を支払うことは無いのだが。
(まあいいか。一人にはもう完了しているみたいだし)
十三の上家に座る男の手牌を見る。三副露して{西}_{北}のシャボ待ちで聴牌。
次いで男の顔を見る。表情こそ隠しているが、光明を見つけたかのような雰囲気を抑えきれていない。
今後の局で彼はきっと鳴き続ける。それがこの対局における絶対の正解だと信じて疑わないだろう。
そう、さながら佐合十三のように。
牌と同時に雀力を食い潰すことはないが、出鱈目な鳴きはまさしく今の彼にそっくりだ。
それを何局も繰り返し続けたら、間違いなく雀士としての在り方は塗り替えられてしまうだろう。鮮烈な対局は彼の心を埋め尽くし、それまでの打ち筋を忘れ、佐合十三の劣化コピーへと成り下がる。
勿論、そんな素人以下の打ち筋がこの卓以外で成立するはずもない。本来の打ち筋を忘れて、勝てなくなった男の末路は決まっている。
麻雀を詰まらないと感じ、二度と牌に触れることは無いだろう。
寄生虫が寄生する一番の理由は子孫を増やすためだ。故にこそ彼は裏の界隈で『
他者の牌も雀力も人生も食い尽くし、自身の同類にした挙句、破滅させる悪逆非道な暴食の蟲。
それが佐合十三という男の真実だ。
(もっとも、まだ終わってないみたいだがな)
自分にとっての友人である京太郎はまだ十三に殆ど鳴かれていない。
正確には十三が意図的に鳴いていないのだが、現状和了れる可能性が存在するのは京太郎だけだ。実力的な意味でも、精神的な意味でも京太郎はまだ死んでいない。目には光が宿り、未だ足掻き続けている。経験者二人の心が折れている中、彼だけが諦めていない。
これは京太郎が初心者であるが故の結果だ。
あくまでも表の話だが、麻雀において男子と女子では女子の方が強い。麻雀で勝つうえで技量よりも重要度の高い雀力が男子と比べて女子の方が高いからだ。
故に同格相手にそこそこ勝ってきた英輔や武と格上相手に負け続けてきた京太郎とでは京太郎の方が逆境に強い。前者二人は女子の実力者と打ったことが一度もないのだから当然である。
京太郎にしてみれば、聴牌すらできないことなどいつものことだ。むしろ流局まで自模るチャンスがある分今の方が打ちやすいと思っているのだろう。
勝利を知らないというのは本来ならば不安要素だ。実力がはるか上の人間と打ち続けたところで強くなれるはずもない。聴牌すら取れないのが当たり前という狂った価値観は通常戦う上で確実に足を引っ張るだろう。
環境、経験、価値観。
通常ならマイナス要素にしかならないそれらが、この異常極まる卓においては全てプラスに働いている。
女子の試合を見ているというのも大きい。自分以外の二人も聴牌できないこの状況を何らかの法則が働いているものとみなし、対策を講じ続けている。
(それでも、まだ足りない)
佐合十三と同卓して和了るにはまだ条件が足りない。あとは京太郎自身が気づく必要がある。
果たして、彼は麻雀という競技の真実を理解できるのだろうか。
(自覚してくれよ、京太郎。このままだと俺たちにとってもまずいからな)
彼らにとってもこれは賭けだ。失敗すれば京太郎も自分達も終わる。
京太郎が同卓している他の二人と同じように雀士として死ねば、裏雀士も詰む。
清澄高校の学生服を着た少年は固唾を呑んで友人を見守るのだった。
「テンパ~イ」
「・・・ノーテン」
「・・・ノーテン」
「テンパイ!」
十三:{西西北北}{34横5}{白横白白}{横999}
英輔:{西西北北}{九横九九}{横⑧⑦⑨}{横312}
聴牌を宣言した二人が牌を倒す。
これまでと違う結果に京太郎と武が驚き英輔の牌姿に目を向けた。
彼も和了れこそしなかったがその顔は満足気だ。対局が始まってから初めて点棒を手に入れることができたのだから無理もない。
このままでは英輔が二位になるだろう。
京太郎:{68②②④一一四四發發中中}
チートイ一向聴の手を伏せ、自身の捨て牌に目を向ける。
手牌と捨て牌を合わせれば簡単に対子が七つ出来上がった。
最初は自分の牌効率が悪いせいかとも思ったが、他の二人も合わせてここまで聴牌できないのは異常だ。
だが、京太郎はこれと似たような現象を知っている。
先週の県予選決勝大将戦、自分の幼馴染も座っていたその卓で龍門渕以外の三校が流局寸前まで聴牌できないことが何度かあったのだ。最もあちらは流局することは一度としてなかったのだが。もし十三がこれまでの十三局全て海底で和了っていたら、とっくに他家はトんでいるだろう。
あえてセオリー外の打ち方をした理由は鶴賀の大将が七対子で和了っていたのが印象に残っていたことに加えて、解説のプロが国士無双と七対子以外で聴牌できない旨のことを言っていたのを思い出したからだ。
前局では手なりで進めず国士を目指したが不聴。そこでこの局では七対子を目指してみたのだがこれも失敗に終わってしまった。
だがこれが無駄だったかと聞かれれば彼の中ではそうではない。少なくとも龍門渕の大将が引き起こした異常とは全くの別種だとわかったからだ。
あちらは手牌と自模る牌を全て合わせても特殊な役以外では聴牌できない。
対して、目の前の男は手牌と自模る牌を合わせれば何とか和了れるようにはなっている。
しかし連続で無駄ヅモが続く、一巡前に捨てた牌を自模る、捨て牌が裏目に出る、それらが信じられない程に連続で続く。つまり途轍もなく運が悪くなっているということだ。
それならば勝機は十分に存在する。何せいつも部活で打つときと然程変わらないからだ。むしろ自分一人だけがそうでない分マシである。
東一局十四本場、ドラは{5}。
{3358②⑥⑨一四七北中發}
一周回って笑いがこみ上げてきそうな程に酷い手牌。だが、それでも京太郎は絶望しない。
十三 打:{北}
「ポン」
{北横北北}
武 打:{中}
前局の英輔から学んだのか武も鳴きを絡めてきた。その表情には僅かばかりの希望が浮かんでいる。
ここで彼らと同じ打ち筋をするのは簡単だ。
しかし、それでは二位が関の山。おまけに、初心者の自分が彼らと同じ条件で勝負して競り勝てるとも思えなかった。
「ポン」
{中中横中}
英輔 打:{1}
十三 打:{⑧}
何か、何かないのか。今までの経験で強くなる手掛かりは。
『集中力』『意志』『調子』『気合』『才能』
記憶の海を泳ぐ。この状況を打破する鍵を意識の底から拾い集めていくように。
『プラマイゼロで打てるか試してみたんです』
探す。
『東場では稼ぐけど南場では失速して弱くなるタイプみたいね』
探す。
『天才ですからねっ! 集中力が持続しないのだ』
探す。
『集中しろ。漫然と生きるな。そうすれば───』
そうか、あれだ。