咲-Saki- 第三次麻雀大戦 PROLOGUE   作:新神 清

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第八局 練習

『か…ッ、数え役満―――!! 県予選決勝戦二度目の数え役満! しかもまた嶺上開花! 県予選団体戦はこれで完全決着!! そして試合の最終結果は―――清澄高校の逆転優勝だー!』

 

 実況が清澄の勝利を高らかに宣言する。大将の咲が専売特許とも呼べる嶺上開花で全国進出を決めたのだ。

 優希は飛び跳ねながら和の手を握り、和とまこも嬉しそうにテレビ画面を見ている。この中で最年長の久も余裕を見せようとしているが、喜びが顔から滲み出ている。

 そして、京太郎はどこか冷めた目でこの光景を見ていることを自覚した。

 確かに清澄が優勝したことは嬉しい。だが、どうにも自分が当事者だという実感が薄いのだ。例えるなら、応援していた野球チームの優勝をテレビの向こうで眺めているような感覚。

 

『ああ、そっか。俺何もしてないんだ』

 

 自身の中に埋まっている疎外感を分析した結果、一つの事実に行き当たった。

 この勝利は戦った五人の手で掴んだものだ。自分は何一つとして貢献していない。

 仮に、女子部員が五人揃った時点で須賀京太郎が退部しても彼女達は順当に優勝していただろう。

 気が付けば京太郎はこんなことを口にしていた。皆の荷物は自分が見ているから咲のところに行けばいい、と。

 その言葉を聞いた和は勢い良く部屋を飛び出していった。彼女と手をつないでいた優希も引っ張られる形で部屋を出ていく。

 まこは開いたままのドアと京太郎の間で視線を彷徨わせた後『すまんのう』と言い、二人を追いかけた。恐らく先輩として二人を放置するわけにもいかないが、京太郎を一人で残すのも忍びないと思ったのだろう。

 最後に残った久も京太郎に向けて申し訳なさそうな顔をして控室を後にした。

 あれは部員皆で優勝の喜びを分かち合いたかったという顔だ。優しい彼女は京太郎を輪の中から外すことに罪の意識を感じているのだろう。

 そう考えると自己嫌悪の念が止まらない。そんな気遣いをされるほど自分は立派な人間ではないのだから。何もしていない人間があの中に入っていいわけないだろう。勝利に貢献せず大した実力もない上、人並みの努力もしていない癖に勝者のおこぼれに預かろうなど厚顔無恥にも程がある。

 だから自分だけ外様扱いは当然のことで何一つとして間違ってはいないのだ。

せめて控室に戻ってきた皆が早く帰れるようにと手持無沙汰な京太郎は一人部屋の掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 

 県予選決勝の翌日、教室に入った京太郎にいつもの三人がいつもと違った調子で詰め寄ってくる。どうしたのかと思い、混乱したが三人の言うことを聞いているうちに何となく事情が呑み込めた。どうやら麻雀部が優勝したことが学校中のニュースになっているらしい。

 

「マジでうちの麻雀部優勝したのか!? すげえじゃん京太郎! 」

「俺は何もしてねえって」

 

 興奮して、肩を何度も叩いてくる呉仁を京太郎は宥める。

 実際に戦ったのはあの五人で、自分が何もしていないというのはただの事実だ。謙遜でも何でもない。

 

「お前ら、どこでそんなこと聞いたんだよ」

 

 困惑の落ち着いてきた京太郎が尋ねた。

 昨日の今日でここまで情報が広まるのはいくらなんでも早すぎると思う。

 

「昨日試合見た人が言ったってよ。俺たちも又聞きだからよく知らねーけど」

「この学校そういうのないからな」

 

 平二と誠の言葉で得心した。

 清澄高校は至って普通の高校だ。学力や部活動の成績で何か目立つものがあるわけではない。だからこそ麻雀部が県大会で優勝したことがここまで大きな騒ぎになったのだろうか。

 

「確か今週の土日も大会だろ? もし個人戦でも誰か全国行けば大変だな」

「えっ、お前も参加するのか? 」

「おっしゃ! チャンスだぞ、京太郎。この流れに乗っちまえよ! 」

「待て待て待て待て待て待て!」

 

 当事者である京太郎を置いてどんどん盛り上がる三人を制止させる。

 呉仁の言っていることはいい。五日後の個人戦で清澄の中から上位入賞者が出れば、しばらく校内ではその話題で持ちきりになるだろう。

 誠の言う通り自分も男子の部で参加する。

 だが、平二よ。お前はなんだ?

 なぜ、京太郎が優勝する可能性を現実的なものとしているのか。

 軽く調べたところによると男子の部は女子の部よりも人数が多い。倍率だけで言うならより狭き門だ。その中にも、昨日の試合に出たような確立を超越した麻雀を打つ雀士がいると考えれば、京太郎が勝ち上がり上位に食い込むのは不可能だろう。

 もっともそんなことを言っても一笑に付されて終わりだ。だから、京太郎はある程度現実的な意見で納得させようとした。

 

「俺麻雀始めたばっかだって言ったよな?」

「初心者でもプロを負かすことがあるらしいし、可能性はゼロじゃないだろ」

 

 平二の言ってることは正しく聞こえる。

 麻雀は運の要素が強く、プロでも十回打って三回トップを取れれば強いほう、というのが一般的な触れ込みだ。以前優希が似たようなことを言っていたので良く覚えている。

 ただしそれは他に確定事項が無ければの話だ。

 特定の牌が集まりやすい、相手の手の進みが遅くなる、特定の待ちで和了りやすくなる。

 そういった確立を歪める事実があるとすれば、その前提は簡単に崩れ去るだろう。

 ただ何も知らない人間にそんなことを言っても鼻で笑われるだけだから黙っておくが。

 

「週末暇だし俺観に行くよ」

「いやいいって」

 

 そんな風に期待されてもつらいだけだ。彼には悪いが、正直放っておいてほしい。

 

「何言ってんだ、観るのは女子の方に決まってんだろ」

 

…………………………

 

「そしてこれを機に俺のナンパテクニックで念願の彼女をゲットしてみせる!」

 

…………………………

 

「なんだよその顔は。あっ! もしかして俺がお前の試合観るためにわざわざ電車賃払うとか思ってたのか。冗談よせよそんな―――――――――」

「京太郎パーンチ!!」

「スガっ!?」

 

 奇妙な悲鳴を上げて、吹っ飛ぶ平二を三人は眺めていた。

 

「何しやがる! 」

「いや、なんとなく」

 

 なんかこう張り倒したいという衝動を抑えきれなかったのだ。

 

「大体俺が行ったら、お前俺のことで頭いっぱいになって集中できないだろ?」

「……うわー」

「……えぇー」

「………………………ごめんな、今のはガチでキモかったわ」

「そこはノっておけよ!」

 

 あまりの気持ち悪さで特に非がないのに謝ってしまった。

 誠と呉仁もドン引きしている。

 

「まぁ、冗談はともかく」

「本当に冗談か?」

「冗談はともかく!」

 

 誠の軽口を強引に流した平二が続ける。

 

「お前が初心者だってことは知ってるし、別に期待してねーよ」

「…おう」

 

 京太郎は安心して、頬を緩めた。

 真実を理解している人間がいるというのはそれだけで気が楽になる。

 

「っと、もうこんな時間か」

 

 その言葉で三人が京太郎から離れて、各々の席へと戻っていく。時計を見ると、確かにホームルームの時間が迫っていた。少し経った後に担任教師が教室に入ってくる。

 彼らは京太郎が弱いことを理解していたが、そうでない観客がたくさんいる筈だ。

 そして彼らは揃ってこう思うのだろう。

 五人だけの部活で全国行きを決めたのなら清澄は男子も強いのだろう、と。

 そんなもの知るか、と言いたいところだが言ったところでどうにもならないのは百も承知だ。

 麻雀部の優勝を嬉しそうに語っている教師の話を聞き流しながら、京太郎はぼんやりとそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 全国大会出場を決めた二日後、麻雀部ではいつも通り、否いつも以上に練習に励んでいた。

 ただ一人、須賀京太郎を除いて。

 これは京太郎が怠慢だったというわけではない。彼は五人に率先して練習してもらうためにたった一人部の雑用を行っていたのだ。

 自分が一週間気合を入れて練習したところで全国に行ける見込みは薄い。それよりも全国レベルの実力を持つ皆に練習してもらった方が清澄の誰かが上位に入る公算は遥かに高い。

 

『須賀君の特訓はないわ』

『わりゃあ覚えたてで手のつけようがないけんねえ』

 

 合宿の時部長と先輩に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。言われたときはショックだったが冷静になってみれば受け入れられる。自分は麻雀について知らなすぎるのだ。一年生には個別のメニューがある、と言われて内心ぬか喜びした自分が恥ずかしい。

 少し考えてみれば初心者の自分が期待されるわけがないとわかるだろうに。

 とはいえそれは部活内での話だ。事情を知らない連中はきっと自分の活躍を当然のものとするのだろう。

 だからというわけではないが、皆の練習時間を削らないように自分も練習しなければいけない。その結果、優勝とまではいかなくとも二日目の本戦に参加できれば、面目も保たれるだろう。

 部活動の終わった放課後、他の部員たちは皆下校した。だが京太郎にまだ帰宅するつもりはない。彼の練習は今から始まるのだから。

 片付けが終わっていないと言って残らせてもらったのだ。この少ない時間を無駄にするつもりはない。

 手早く部室の掃除をして牌を洗牌、山を作って四人分の手牌を作る。

 このまま一人で四人分打ち、一局ごとにどう打つのが最善だったか振り返るというやり方。

この上なく寂しい練習法だが、自宅に雀卓がない以上これでもましな方だ。

 顔も知らない他人の期待に応えるつもりは毛頭ないが、清澄の名に泥を塗るわけにはいかないのだから。

 通常の部活時間は雑用に専念し、それ以外の時間で邪魔にならないように自分の練習に打ち込む。個人戦までの五日間、そんな日々が続いた。

 

 

 




今更ながら、友人達3人の人物像でも軽く紹介したいと思います。

高久田誠…4人の中で一番身長の高い一番の常識人。喧嘩が苦手な平和主義者。
宇野平治…少しイタイ所のあるリア充志望。
山王院呉仁…フレンドリーな天然陽キャ。


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