※眠くてもサクッと読める作品です。
ヴァーノン・ロッシュの仕事はテロリストを殺すことだ。そこに洞察はなく、目的を達成することだけが全てだった。その点にかけて彼は優秀な軍人であった。しかし、一つ欠点があった。衝動的で考える前に体が動いてしまうことだ。

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ロッシュは怒りに我を忘れ彼に飛びかかった。

 ロッシュはメイスを投げ飛ばした。すると、弓を構えていたエルフの頭はトマトのように激しく潰れ、あたり一面に血と肉が飛び散った。他の刺青隊隊員もそれに負けじと残虐にスコイアテルを殺していた。刺青隊は潜伏しながら間合いをつめ、近距離となったところで奇襲する作戦が得意だった。潜伏中に見つからなければ弓を主な武器として使うエルフは簡単に殺せた。勇ましく斧で戦うドワーフも少数いたが、選び抜かれた戦士である刺青隊相手ではなす術もなかった。

 勝機がないと悟ったスコイアテルの生き残りたちは武器を捨て両手を上げた。刺青隊の隊員たちはロッシュの指示のもと、その降伏者たちの後ろ手を結び、大通りまで連行した。そして、ロッシュは次の指示を出した。後ろ手を結ばれた彼らはそれを聞いて動揺した。だが、その運命に抗うことは出来なかった。

 こうして多くの者が行き交う大通りに、吊るされたスコイアテルの死体が増えた。

 

 ロッシュは戦場以外の場所でも敵だらけだった。とりわけ由緒ある名家の者からは蛇のごとく嫌われていた。品のない赤ら顔にボロボロの服、そして騎士道やノブレス・オブリージュといった高貴ある者なら誰もが持っている精神をロッシュは全く持っていなかった。何より、その軽蔑に値する兵卒上がりのヤカラが王の右腕として抜擢されたことが心の底から気に食わなかった。

 だが、ほんの一部の者たちはロッシュに好意的だった。そして、彼が王の右腕として君臨している理由をよく理解していた。その理解者たちはロッシュが『何者なのか』『どこからやってきたのか』『どんな精神を持っているのか』には全く興味を持っていなかった。ただ、この瞬間に『役に立つか否か』だけで彼を評価していた。ロッシュもそれを知って知らずかその評価に見合う仕事をした。

 彼はとても優秀だった。

 

 ロッシュはスコイアテルたちを全て吊るし終わったのを確認すると時計を見た。情報提供者と密会する予定があったが、アンブッシュを避ける為にも約束の時間の一時間前には到着しておきたかった。部下たちに自由時間を与えるとロッシュは走り去った。彼は馬に乗ることを嫌った。

 情報提供者はハウガーと呼ばれる武器商人で、彼らは金のためならスコイアテルとも国家専属の特務隊とも取引をした。このような者はただ大金を与えれば誰の味方にもなる。他の心ある人間より扱いやすかった。

 そのテメリアを中心として活動しているハウガーのリーダーとはヴィジマの酒場1階で落ちあった。こういった人の目が多いところで密会した方がお互いに裏をかきづらい。だからロッシュはよくここに来ていた。

 無事約束の一時間前に到着したロッシュは酒場のドアから中を慎重に見回した。昼間にも関わらず罵声を上げながら飲んだくれている者、狭い空間で殴り合いをして周りの物をめちゃくちゃにしている者、勝手にナイフ投げを楽しみ店の備品を穴だらけにしている者。何一つ異質なところがない、いつも通りの光景だった。

 ロッシュは安心して店内に入るとフードを被った男を見つけた。どうやら密会相手は更に早く来ていたようだった。2人は目配せでお互いを確認し、向かい合って座った。周囲の人間は目の前の荒事に気を取られ、2人のことは全く眼中に入っていないようだった。

「あの隻眼の男はどこにいる?」

ロッシュは簡潔に聞いた。これ以外の情報は必要としていなかった。

「東だ」

向かいに座っている男はそう答えた。これはあまりにも簡潔すぎた。

「東のどこだ」

「テメリアの東だ」

「俺は言葉遊びをするために来た訳じゃない」

ロッシュの急かす態度をよそに、ハウガーの男は目の前にあるレダニアの蒸留酒を一口飲んだ。

「ここから先は約束した『寄附金』をもらってからでないと思い出せないな」

ロッシュは彼を睨みつけると、鞄から小切手を取り出し数字を乱雑に書いた。そして彼に渡した。ハウガーの男はその小切手をじっくりと読み込んだ。しばらくすると、それが本物であると判断したようで懐へしまった。

「ホワイトオーチャードで見かけたそうだ。ヴィジマの近くだな」

そう言うとハウガーの男はゆっくりと立ち上がり、優雅に立ち去った。ロッシュも立ち去ろうとした。だが、目の前に一人の女が立ち塞がった。

「注文は?」

ロッシュは仕方なくエールを頼んだ。

 

 ホワイトオーチャードはのどかな村だった。つまり、スコイアテルが潜伏するにはもってこいの場所だった。だが、あまりにも田舎で刺青隊全員で駐留するには目立ちすぎた。そこで他の隊員たちは少し離れた場所で野営させ、ロッシュは一人で情報収集することにした。

 ロッシュは情報収集法のセオリーに従って酒場へ入ると、ジッと他の者たちの会話に耳を傾けた。ふと、周辺を見ると柱にテメリアの盾が取り付けられていた。無意識のうちに口元がほころんだ。だがその時、複数のエルフたちが酒場へ入ってきた。カタギのエルフとは違い、表情は引き締まっていて体格も良かった。彼らはロッシュとは離れた席に座り、何かを小さな声で話し合っていた。全く聞き取れなかった。だが、疑惑を持つには十分な理由だった。しばらくするとそのエルフたちは店主の女性から大量に食料を買って外へ出て行った。ロッシュは彼らが『クロ』だと決めるとその集団を追跡しようと立ち上がった。だが、店主の女が大声で彼を呼び止めた。

「注文は?」

ロッシュは仕方なくまたエールを頼んだ。

 

 ロッシュはエルフたちを追って村から離れた木々が生茂る場所へやってきていた。頼んだエールをすぐに近くの者へ押し付け飛び出したものの、かなり出遅れたようで彼らを尾行することは困難を極めた。木々が生い茂っていただけの平原は、いつの間にか枝葉で太陽が隠れる森林となっていた。

 突然、笛の音があたりにこだました。あのハウガーの情報は正しかった。だが、ロッシュは嵌められたと思った。自分の向こう見ずな行動は結論を出すための要因には入っていなかった。ロッシュは森林から脱出しようと真正面へと全力で走った。すぐにそのエルフたちが得意とするテリトリーから抜け出せた。

 だが、森の出口にはイオルヴェスがいた。そこは岩や崖だらけで、彼の得意とするアンブッシュを行うにはもってこいの場所だった。遠距離から矢を放ち、反撃させる手段を与えず敵を串刺しにする。ロッシュはこの卑怯な戦法によって何度も冷飯を食わされていた。

「イオルヴェス!卑怯で残酷なテロリスト!」

ロッシュは彼を指差しながら叫んだ。

「この前は俺たちの仲間が随分とお世話になったようだな。おまけに死体を辱めてくれたようで……俺たちは随分と怒り狂っている」

イオルヴェスは腕を組みながら言った。

「知ったことか、これは戦争だ」

ロッシュはそう言い捨てた。

「何が戦争だ!彼ら一人一人に名前があった。人生があった。高潔な精神があった!だが、二度と彼らは戻ってこない!お前が!お前らドゥオインが殺したからだ!」

「ターゲットを殺して何が悪い。これが俺の仕事だ!」

「心のない冷血なドゥオイン、ロッシュ!お前の死体は蟲穴に投げ入れてやろう。何もかもこの世から消しさってやる!」

「やれるもんならやってみろ!」

「おい、この状況でなぜそんなことが言える!」

ペースを崩され罵倒の応酬をしていたイオルヴェスは、弓を構え待機している部下たちの視線に気付いた。彼は自分のなすべきことを思い出し、すっと手を挙げた。それに気付いたロッシュは勢いよく前転して近くの茂みに飛び込んだ。そこは高い崖だった。前転の勢いによって、彼は音もなく落ちていった。

 エルフたちはお互いの顔や崖の方を見つめていたが、しばらくすると再びイオルヴェスの方を見た。彼はいつも通り冷静沈着だった。イオルヴェスはポーカーフェイスを保つことに長けていた。

 

 ロッシュが目を覚ますと、どこかの岸に流れていていた。体はずぶ濡れで冷えており、早急に温める必要があった。彼は枝を集めながら火を起こせそうな場所を探した。川辺にある多くの洞窟から最も広く湿気が少ないものを選ぶと、ロッシュは中へ入っていった。

 ロッシュが焚き火に手を当てながら装備の点検をしていると、洞窟の奥から物音がした。モンスターがいるのかもしれないと思い、安全を確認するため中腰でゆっくりとそちらへ近づきながら耳を済ませた。距離を詰めていくと、その物音は聞き覚えのある人間の声となった。

 その物音の震源へたどり着くと、予想通りかつてヴィジマの酒場でロッシュへ多額の報酬と引き換えに情報を売ったハウガーの男が武器に囲まれパイプを吸っていた。ここは彼の武器庫として使われているようだった。

「おい、また会ったな!」

ロッシュはすぐに挨拶した。

「はぁ?」

ハウガーの男は突然の出来事に思わずパイプを落とした。

「この二枚舌が……許さんぞ!」

ロッシュは怒りに我を忘れ彼に飛びかかった。

「いったい何を言っている!?」

「金のためなら何でもすんのか!この守銭奴が!」

「だからお前に情報を売ったんだろ!」

ハウガーの男はヴィジマの酒場で見せた冷静さを失っていた。あまりにも予想外で、言いがかりだったからだ。

 勝敗はすぐに決した。ロッシュの重い拳と頭突きを食らったハウガーの男はすぐに地面から動けなくなった。身悶えしている彼をロッシュは連行するため引きずっていたが、突然足を止めた。

「これは今回のお礼だ」

ロッシュはそう言うと、近くにあった洞穴へその哀れな男を投げ込んだ。想像以上の深さであったらしく、飛鳴はしばらく残響していた。

 ロッシュは実に気分が良かった。これまでの『犬の糞を踏んだような出来事』はどうでもよくなっていた。

 突然、彼を祝うかのようにそこへ日がさし込んだ。近くに出入り口があることに気付くと、彼は生乾きの衣服に身を包んだまま外へ歩き出した。そこは草原で、周辺には刺青隊の部下たちが散らばっていた。どうやらロッシュを捜索していたようだった。ヴェスは真っ先にロッシュを見つけると、彼の元へ駆け寄った。だが、彼の身なりの残状と何故かイキイキとしている表情に気付いて額に手を添えた。そして、呆れたような言い草でその再会を祝った。

「お帰りなさい、ロッシュ」

 

 




【あとがき】
 ヴァーノン・ロッシュ率いる刺青隊の血生臭いサイコパスな日常を想像して書きました。これにカテゴリー名をつけるとしたら『シュールコメディ戦記』となるのでしょうか。
 刺青隊ほか、レイラ率いるエイダーンの特務隊やその他の国の特務隊の活躍が見てみたいです。彼らは徹底的なまでに結果主義です。ですから手段を選びません。そこが最高にイケてるのです。そこに人種性別年齢といった概念はありません。テロリストを殺した数が人格となるのです。
 ウィッチャーには『目的が手段を正当化する』というフレーズがよく出てきます。実際、みんな目的のためにエゲツないことやりたい放題です。
 しかし、そこがウィッチャーに現実感や深みを付与しているのだと思います。つまり、人生の酸いも甘いも知ってしまった捻くれジジイババアでも楽しめる素晴らしいファンタジーなのです!本当におすすめの作品です。

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