亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

10 / 16
第7話 魚心あれば虎心あり 前編

Side???

 

男は歩く。

 

男は殺す。

 

かけがえのないモノを擦り減らしながら無関係の他人を救う。

 

顔も知らないその他大勢のために、親しい隣人を殺しつくす。

 

大切なものを失った。

大切なものをこの手で壊した。

 

それでも。

それ故に。

男はもう止まれない。

 

『無辜の民を救え』

 

それが唯一。

男の使命。

 

なのに――

 

歩いて歩いて歩いて歩いて。

 

「…………」

 

「やはり、屋上は景色がいいですね。あなたもそうは思いませんか?」

 

「――殺生院ッ」

 

たどり着いたのは焼け野原だった。

 

 

Sideカルデア

 

巨大な施設だった。

 

「うわあ! すごい大きいプールっ!」

 

入場すると同時に藤丸が声を上げる。

青い海。白い砂浜。ザザーン、と打ち寄せるさざ波の音が心地よく、照り付ける太陽――を思わせる照明が肌を焼く。その光景は真夏の高級リゾートビーチそのものであり、とても屋内だとは思えない。

 

『資料によれば――ヨーロッパの本格リゾートを思わせるゆったりとした空間が魅力的。水温は体温に近い30~34に保たれ、1年を通して楽しめる全天候型屋内ウォーターレジャーランド――とのことです、先輩!』

 

「解説ありがとう、マシュ。――ギルくんから少しだけ話は聞いていけど、こんなにすごいなんて…!」

 

そうここが、

 

「――遂に来た! わくわくざぶーん!!」

 

藤丸とエミヤオルタはジャガーマンの行方を追って、わくわくざぶーんへとやって来た。

夏だ! プールだ! バカンスだ!

しかも、

 

「――アイリさん! 早く早く~!」

 

「あらあら。慌てると危ないわよー」

 

「まったく、相変わらずおこちゃまなんだから……」

 

「楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

 

「わーい!」

 

「待ってくださいジャック、ナーサリー。ちゃんと準備運動を――」

 

「――みんないるね」

 

『はい、先輩。皆さんとても楽しそうです。――どうやら、本日は私たちの貸し切りのようですね』

 

「ギルくんの仕業かな?」

 

というわけで、わくわくざぶーん内はサーヴァントだらけだった。一般人のいないプールでカルデアのサーヴァントたちが、存分に羽目を外している。

人間離れした身体能力を思う存分発揮してスポーツに興じるものもいれば、中には施設の屋台を借りて、料理を振舞っている物好きなサーヴァントまでいる。マシュの言う通り、楽しそうで何よりだが、皆サーヴァントのスペックをフル活用して遊んでいるので、ざぶーん内は半ば異界と化していた。

今も、どこからともなく、

 

「あたーっく」

 

「にゃんと!」

 

と、はしゃぐサーヴァントたちの声が聞こえてくる。

楽しそうに羽を伸ばすサーヴァントたちを見て藤丸が微笑んでいると、

 

「コラコラ君たち、飛び込みは危ないよ。――と。おや、マスター君?」

 

「教授?」

 

聞こえてきた、年季のある落ち着いた渋い声に振り返る。

すると背後に、およそプールとは似ても似つかわしくない高級そうなスーツを纏った老紳士、新宿のアーチャーことジェイムズ・モリアーティの姿があった。

場所は屋台の並ぶフードコートエリア。木製の小上がりに並べられたパラソル付きのテーブルの上で、仲間たちと優雅にカードゲームに興じている。

モリアーティ教授と一緒に卓を囲う他の2人を眺めながら、マシュも声を上げる。

 

『エルキドゥさんとメフィストフェレスさんまで?』

 

「こんな所でなにやってるの?」

 

尋ねる藤丸に、教授は手元のトランプを掲げながら言う。

 

「何って、ポーカーだよ。あの子たちがここで遊びたいと駄々をこねてね。――うちの子も行きたいというので、代表して私が保護者役を買って出たわけさ」

 

「ぱぱー」

 

「うちの子サイコー!!!」

 

と、プールの中から手を振るフランに父親のように呼ばれ、本気でガッツポーズからの歓声を上げる教授。うちの子とはフランのことらしい。

ゴホン、と1度咳ばらいをして体裁を整えてから続ける。

 

「ただ、連れてきたはいいものの、ただ見ているだけではつまらない。ほら、公園で子どもが遊んでいる間、保護者は暇だろう? だから、こうして暇人同士で集まってカードゲームに興じているわけだ」

 

「いけない大人だ!」

 

『はい、先輩! 水場で子どもたちから注意を逸らすのは大変危険です!』

 

「むっ……そこを突かれると少々弱いネ……」

 

藤丸とマシュに注意されてたじろぐアラフィフ。水難事故、ダメ絶対。

 

「この際だ、固いことは気にせず――マスター君たちもどうだい?」

 

「残念だけど、先を急いでるんだ。早く、ジャガーマンを探さないとだから……」

 

折角のお誘いだが、藤丸は即座に首を振る。

そう。本来の目的はジャガーマンの探索だ。

本音を言えば、藤丸だって今すぐみんなとプールで遊びたい。とても遊びたい。

だが、これほど大きな施設だ。探すだけでかなりの時間を要するだろう。ただでさえ、セイバーオルタとの料理対決に時間を使いすぎている。

そもそも、ジャガーマンがまだここにいるかどうかも現状定かではない。むしろ、もうすでに別の場所に移動していると考えるほうが自然だろう。

なので、一刻も早くジャガーマンの手掛かりを見つけて、後を追わなければいけない。

……彼女の計画に乗って後を追うことが、きっとジャガーマンの望みでもあるはずだから。

 

「まあまあ、そう言わず」

 

しかし、教授は引き下がることなく、焦る藤丸を軽いノリで茶化しながら、

 

「確かに、急ぎのようだが休憩も大事だよ。――特にそこのヒットマン」

 

「――っ!」

 

そんなことを指摘した。

藤丸は慌てて振り返る。すると、そこには顔面蒼白のエミヤオルタの姿があった。

 

「――エミヤオルタ! 顔色が!」

 

「……気にするな、マスター。本来の機能(戦闘)に支障はない」

 

「っ! そういう問題じゃ――」

 

いつもの自虐的な笑みを浮かべるエミヤオルタに、藤丸は慌てて駆け寄った。

この特異点では記憶障害が解決するとはいえ――いや、解決するからこそ――無理をさせてしまっていたのだろう。

事前に気付かなかったのは、マスターとして明らかなミスだ。藤丸は苦虫を噛んだ。

 

「……確かに、ちょっと休憩しよう。――ごめん、教授。やっぱりお邪魔しても?」

 

「もちろん構わないとも。さあ、こっちこっち」

 

教授もエミヤオルタを気遣うようにパラソルの下へ手招きする。

そして――悪とは、往々にしてこちらが弱っている時にこそ牙をむく。

 

「ふふふ、座ったね? マスター君」

 

「――――え?」

 

その時。藤丸の視界が突如、反転。

足が地面から離れ、浮遊感と共に世界がぐるりと縦に回る。

同時に、抵抗する間もなく手首を背中へ回され、藤丸は瞬く間に拘束されてしまった。

咄嗟にエミヤオルタとアイコンタクトを取るがもう遅い。

お見通しとばかりに、その視線を遮りながらその人物は告げる。

 

「おっと、動くな」

 

「――っ」

 

完全な奇襲。

戦慄する藤丸を見て教授は胸を張る。

 

「ま、まさか!?」

 

「そのまさか、さ。よく来てくれた、我がマスター。――私だ」

 

「お前もかーー!!」

 

セイバーオルタと同じ。教授もジャガーマンの刺客だったのだ。

藤丸は叫ぶが、後の祭り。まんまと教授に捕まってしまった。椅子に縛られ、ここから逃げられそうにはない。

非常に悔しいが、完全敗北だ。本調子ではないとはいえ、あのエミヤオルタの目さえも搔い潜っての犯行。これには我がサーヴァントとして敵ながら見事だと頷かざるを得ない。

しかし、これにアラフィフは首を振る。

 

「お褒めに預かり光栄だが、彼の名誉のために言っておこう。私の目から見ても、今の彼はらしくない。私相手とは言え、こうも容易く背後を盗られるなんてネ――というより。分かってて見逃しただろう、君?」

 

「――え?」

 

エミヤオルタが奇襲を察知していたにも関わらず、黙認した? どうして?

疑問と共に視線を投げると、エミヤオルタは特に隠すでもなくあっさりと答えた。

 

「……どう動こうが茶番に巻き込まれるのは目に見えていたからな。手間を省いただけだ」

 

これに驚いた様子で目を丸くしたのはモリアーティ教授だ。

 

「おや、ついに観念したのかい?」

 

「ああ、善意なんてものは所詮はヤスリだ。せいぜいこの身を削ってやるさ」

 

「なんと、それは重畳。君がそんなに素直だったとは――。なら、人質は必要なかったカナー?」

 

しかし、答えの出る前に、空気を読んだのかオジサンの茶化した声が響き、当然のごとくエミヤオルタは無視をする。

そんなエミヤオルタに藤丸は問う。

 

「じゃあ、調子が悪そうだったのは――」

 

「…………演技だ。失望したか、マスター?」

 

自らを傷つけるような投げやりな笑み。

しかし、藤丸は、

 

「――なんだ……よかった…………」

 

「…………」

 

と、心の底から安堵し、胸をなでおろす。

そんなマスターの反応に何を思ったか、エミヤオルタは答えない。代わりに、これこそが自分の仕事だと主張するように、教授へ尋ねた。

 

「……要件はなんだ?」

 

「君も察している通りだ、ヒットマン――ゲームをしよう。君が勝てばマスターを開放すると約束しよう。ジャガーマンの居場所も教える。『ジャガーマンと戦いたくば、この私を倒してからにしろ!』というやつダ」

 

「あんたが勝ったら」

 

「……そうだね。この特異点のことは諦めてもらおうかな。丁度ここはプールだ。マスターと戯れながら事の成り行きを見守っているといい。君みたいなワーカーホリックには1番の薬だ」

 

「ハッ、ぬかせ」

 

つまり、教授もジャガーマンの思惑をすべて見抜いての行動ということだ。

――そして、エミヤオルタもそのことに気付いている。

気付いて、付き合ってくれている。

 

「…………」

 

どのような心境の変化か、藤丸にもエミヤオルタの真意を推し量るのは難しい。

それでも、賽は投げらた。引き返すことはできない。

――なら、マスターとして、自分も勝負するならここだろう。

 

「では、お楽しみの競技発表だよ!」

 

「誰の楽しみだ」

 

冷静なエミヤオルタのツッコミが飛びつつも、モリアーティ教授が元気よく宣言する。

そして、

 

「今度の競技は――ドキッ! 水着っぽいサーヴァントだらけのプールサイド7番勝負ぅぅぅ!」

 

「7番勝負?」

 

「「「「「いえーい!!!」」」

 

「――って! ここにいるみんなもグルか!?」

 

同時、いつの間にか集まってきていたプール中のサーヴァントたちが一斉に名乗りを上げる。

こうして火ぶたが切って落とされた。

三者三様の思惑が交差する、ジャガーの夏(延長戦)が始まる。




お久しぶりです! 大変……大変お待たせいたしました!

予告通り、ここからはラストまで毎日投稿していこうと思います。
今回含めて本編はあと5話。よろしければ、お付き合いいただけると幸いです。

どうぞよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。