亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第8話 魚心あれば虎心あり 中編

Sideカルデア

 

待ち構えていたアラフィフの卑劣な罠にハマり、藤丸が捕らわれ、『水着7番勝負』なるゲームへ挑むことになってしまったエミヤオルタ。

そんなエミヤオルタへ、アラフィフが説明を始める。

 

「『7番勝負』読んで字の如くだね。――ルールは簡単。ここにいる我々と7回勝負をしてもらう。4回勝てば君たちの勝利だ」

 

「勝負方法は?」

 

「無論、その都度変わる。詳しくは対戦相手に聞いてネ。――というわけで、対戦相手のみんな! よろしく!」

 

「「「はーい!!!」」」

 

と、教授の紹介と共に、エミヤオルタの前へチョコチョコとナーサリー、ジャック、ジャンヌオルタリリィの3人が元気よく現われた。

3人を代表してジャックが名乗りを上げる。

 

「はじめの相手はー、わたしたち!」

 

「ルールは――」

 

「――かくれんぼだよ」

 

「………………なんだと?」

 

「かくれんぼ!」

 

若干の沈黙と共に曖昧な表情で尋ねるエミヤオルタへジャックが元気よく答え、ナーサリーが続ける。

 

「黒いエミヤおじさまが鬼よ。30数えて捕まえるの」

 

「捕まらなかったら、わたしたちの勝ちー!」

 

「私たちが隠れる範囲はこのプールの敷地内。制限時間は10分です」

 

「無論。審判はこの私が勤めよう。ちなみに、他の勝負も同様だ。公平な判断を約束するヨ」

 

と、これはジャンヌオルタリリィと教授。

本来なら、仕掛けた側が審判なんて如何なものか? と、突っ込むべきなのだろうが、思惑もわかっているので特に異論はない。

パラソルの下、椅子に縛られたまま藤丸はその様子を黙って見守り、教授も承知したとばかりに頷く。

 

「よし! マスター君からの質問もないようだし。早速始めるとしよう」

 

「いや、オレはまだ――」

 

「よーい……始め!」

 

「わーい」

 

「隠れるのだわ。隠れるのよ」

 

「が、頑張ります!」

 

と、瞬く間に隠れる子どもたち。子どもと言ってもサーヴァントだ、3人は藤丸たちの前から一瞬で姿を消した。

対して、

 

「…………」

 

付き合うとは決めたものの、まさかいきなり子どもの相手をさせられるとは思っていなかったのだろう。スタート地点では、エミヤオルタがため息を吐きながら天を仰いでいる。

流石に見かねて藤丸が声をかける。

 

「……変わろうか?」

 

「…………くだらない」

 

が、それだけ呟くとエミヤオルタも動き出す。

こうして、ジャガーマンの思惑通り、エミヤオルタのプール対決が始まった。

 

――

――――

――――――

 

10分後。

 

「楽しかったわ。楽しかったの」

 

「ありがとうございました」

 

「じゃあねー」

 

「まったく……」

 

1回戦目のかくれんぼ対決。気配遮断と変化の凶悪スキルコンボを全力で使う子どもたちに対して、エミヤオルタもレンジャー顔負けの探索技術で応戦。

――見事エミヤオルタが勝利した!

そして、次の相手は……。

 

「よう、デミヤ! そっちのご主人も奇遇だな!」

 

「お前は……」

 

「キャット!」

 

タマモキャットが現われた。

新たなナマモノの出現に対し、露骨に嫌な顔をするエミヤオルタにキャットが語る。

 

「おっと、大分お疲れだなデトロイトよ。わかるぞ、此度は宴。あっちもこっちも庭駆けまわり、ネコはコタツで丸くなる。かく言う私もgood night ネコの手も借りたいとはこのことダ。――というわけで、勝負だワン!」

 

「…………」

 

「エミヤオルタ、ステイステイ」

 

やはり、ネコ科とエミヤオルタの相性は悪いのだろう。遠くから藤丸が慌ててなだめると、仕方なく、と言った様子でエミヤオルタが話を進める。

 

「勝負方法は――聞くまでもないな」

 

「無論、ネコといえば玉ねぎ! キャットといえば料理! 厨房という名の戦場で背中を預け合ったかつての友――によく似た男よ。今こそ雌雄を決する時ダ! 空前絶後! 唯一無二のクッキングバトルを目に焼き付けロ! ご主人の食事を作るのはこのアタシダ!」

 

つまり、キャットはエミヤオルタと料理対決がしたいらしい。

しかし、対するエミヤオルタは、

 

「――オレの負けでいい」

 

と、真顔で即答した。

エミヤオルタの棄権を受け、キャットが宇宙的なものを背景にしたような惚け顔で口を開く。

 

「…………Why?」

 

「オレの負けでいい――次だ」

 

「ま、待て、デミヤ! 共にご主人に忠義を尽くす者よ! アタシも貴様に――デミヤ!? デミヤーーーーー!」

 

と、エミヤオルタはそそくさとその場を後にし、キャットが叫びながら後を追う。

……何はともあれ、2戦目はエミヤオルタの不戦敗。

 

――――――

 

続いては、

 

「やあ、ますたー」

 

「お疲れ様。相変わらず、大変だね」

 

「ボイジャーにエリセ!」

 

と、フードコートのテーブル席に縛られている藤丸のところへ、ボイジャーとエリセがやってきた。

彼らが次の相手なのだろう。

 

「来てくれたんだね」

 

「うん。一応あの人には借りがあるしね」

 

藤丸の言葉に頷くエリセ。

エミヤオルタのことだろう。エリセと出会った特異点にエミヤオルタも関わっていた。

しかし、

 

「――なんのことだ?」

 

「はあ……とぼけてるんだか、いないんだか……」

 

と、キャットから逃げまわっていた当の本人は、近づいてくるなり遠慮なく眉を潜めた。エリセがため息をつく。

 

「……まあ、あなたならそう言うだろうとも思った。――だから、私はいいって言ったんだけど……。ボイジャーが」

 

「うん。また、いっしょにあそぼう?」

 

そう、ボイジャーはテーブルの上に大きな紙といくつかの小道具を広げた。

それにサイコロを振って、出た目の数だけ駒を進めて遊ぶ盤上遊戯――スゴロクだった。

 

「…………」

 

対するエミヤオルタは、ボイジャーの用意したボードゲームを見て黙ったまま目を細め、

 

「……ああ、構わないさ」

 

そう、僅かに口角を上げ、サイコロを振るう。

 

――――――――

 

「ふん、バカバカしい。あなたもそう思うでしょう?」

 

「ジャンヌオルタ!」

 

という訳で次の相手はジャンヌオルタ。

水着姿で現れた彼女に、エミヤオルタは露骨に眉を顰める。

 

「何しに来た暴走女?」

 

「決まってるでしょう!? リベンジよ! リベンジ! 新宿での借り。まさか忘れたとは言わせないわよ!」

 

ジャンヌオルタはそう威勢良く吠えるが、多分エミヤオルタは忘れているし、普段なら歯牙にもかけないだろう。

しかし、珍しくこの挑発にエミヤオルタは銃をもって答えた。

 

「気が合うな暴走女。小悪党は分かりやすくて助かる。こちらもちょうど憂さ晴らしがしたかった所だ」

 

「はっ! 晴らすのはこっちよ! 精々アンタはそのまま焦げ付いてなさい!」

 

「ちょっと、乱闘なら他所でやってくださーい」

 

藤丸が制止しようとするが遅く、銃を構えるエミヤオルタへ日本刀を構えたジャンヌオルタが豪快に爆炎を走らせながら突っかかる。

一瞬にしてプールサイドは業火に包まれた。

 

――――――

 

かくして、プールサイドの一角が戦場と化した。

――ゴウッ! と、ジャンヌの放った炎が勢いよく飛び、辺りは一瞬で水蒸気に包まれ、エミヤオルタがそれに乗じて弾丸を放つ。彼らのせいで、プールの一角がサウナのようだ。

しかし、幸いここにいるのは皆サーヴァント。この戦闘に巻き込まれるようなこともなく、むしろみんなショーでも見るように、2人の様子を眺めている。

戦う当人たちも楽しそうで、藤丸も頬を緩ませながらその様子を見守っていた。

そんな時、

 

「――マスター君。マスター君。ちょっといいかナ」

 

「…………」

 

「今のうちに情報交換をしておこう」

 

と、藤丸の耳元で教授が囁いた。

どうやら内緒話があるらしい、一応チラリとエミヤオルタの方を伺った後、藤丸は頷く。……丁度、こちらも教授に尋ねたいことがあった。

 

「うん。実は、こっちも教授に確認したいことがあったんだ」

 

「おや? 奇遇だね。いいよ、いいよ。オジサンになんでも聞いて」

 

話しやすいよう正面の席へ移動しながら胡散臭い口調で茶化すモリアーティへ、藤丸が尋ねる。

 

「今回、なんで教授はジャガーマンの味方をしているの? ――カルデアのサーヴァントをこっちに呼んだの、教授だよね?」

 

「おや、流石は私のマスター君。気づいていたのか」

 

「最初に気付いたのはエミヤオルタだけどね」

 

「……まあ、私がこっちサイドにいる時点で今更か」

 

そう、ずっとエミヤオルタが気にしていたことがあった。

それは――この事件の犯人は誰か? という謎だ。

藤丸は安直にジャガーマンだと決めつけていた。

でも、よく考えればそれはおかしい。エミヤオルタ以外のすべてのサーヴァントをマスターである藤丸へ気づかせることなくこの特異点へ転送する。そんな犯罪は、例え聖杯があったとしてもジャガーマンだけでは不可能だ。

しかし、教授が黒幕だと仮定すれば、辻褄が合う。

あっさりと自供した教授は、誤魔化すように顎を撫でながら問う。

 

「一応、採点しておこうかな。――何故、私だと?」

 

「単純な消去法だよ。こんなことできるサーヴァントはカルデアにもあんまりいないから」

 

聖杯でさえ不可能な大犯罪。

だから、発想が逆なのだ。

――この事件にはそもそも聖杯やスキルの類いが一切使用されていない。

カルデアは外部の攻撃には強いが、内部の謀略に弱い。巧みな話術、あるいは人脈を駆使して、サーヴァントたちをこの特異点へ誘導する。そんなことは、あの名探偵にすら証拠を掴ませない稀代の犯罪コンサルタントなら朝飯前だろう。

 

「勿論、決め手は教授がこのプールにいたことだけどね」

 

ジャガーマンサイドにいることからも、サーヴァント大量失踪の実行犯が教授なのは明白。

しかし、犯人が判明したところで、別の謎も浮上する。

 

「でも、どうして?」

 

それは動機。

この藤丸の問いにも、教授はあっさりと自白した。

 

「なに、単純な利害の一致だよ。ちょっとした予行演習――避難訓練みたいなものさ。少々この状況を作りたかったものでね」

 

「この状況? ……カルデアが孤立無援になること?」

 

「その通り。人理焼却中は問題なかっただろうが、今のカルデアは確固たる実態を以て存在している。それこそ、新宿の時のように、敵が直接君へ牙をむくときもあるだろう。我々がいつでも君たちを守れるとも限れない。故に、この状態の経験が必要だろうと思ってネ」

 

先ほど、藤丸が内心でも指摘した問題だ。――内部の裏切りに対する脆弱性。

これは、多くの他サーヴァントも問題視している。

今回の犯行は、その弱点を指摘するテストを兼ねていたのだろう。

そして、テストということは採点もしているはずだ。

 

「結果は?」

 

「――赤点だ。及第点すらあげられない」

 

と、自身のマスターへ教授は厳しく言い放つ。

事実、カルデアは完全に陥落し、エミヤオルタの救助がなければ藤丸は命を落とすところだった。

今回の敵はジャガーマンだったからよかったものの、もしもこれが本当に悪意を持った相手だったら……。

 

「でも、シャドウサーヴァントはやりすぎじゃない?」

 

危うく本当に死ぬところだった。

責める藤丸へ、教授が首を振る。

 

「ああ、それについては私と彼女の名誉のために訂正を。――実は私の用というはそのことについてだ」

 

そして、教授はその衝撃の事実を口に出す。

 

「天草君経由でシャドウサーヴァントについて聞いたよ。単刀直入に言おう。――私はその件に“心当たりがない”」

 

「――っ!」

 

教授の言葉の意味するところを察し、藤丸は息を呑む。

 

「君も察している通り、この事件はそこの冷徹漢を憂いたお嬢さんが発案し、我々が協力した共同犯罪だ。言わばマッチポンプだネ。けど――」

 

「――教授の計画にすらなかった乱入者が混ざっている」

 

「そういうことだ。――敵がいる。この特異点に。間違いなく、我々を狙っている」

 

「……気を付ける」

 

あの教授すら予想できなかったトラブル。ジャガーマンのことも含めて、やはりこの特異点には何かあるようだ。

気を引き締める自身のマスターの顔を見て、満足したように教授は頷く。

 

「グッド。私も天草君たちと協力して、可能な限りこの特異点の情報を集めよう。君たちはこのままジャガーマンを追ってくれ」

 

「いいの?」

 

「勿論だとも。元々、そちらが本題だ。面倒ごとはこちらに任せておきなさい」

 

尋ねる藤丸を安心させるように教授は微笑む。

しかし、すぐにその顔を今度は悲しそうにひそめ、もう1つの要件を切り出した。

 

「それともう1つ。――君が天草君に頼んだ調査結果も届いた」

 

「――!」

 

「随分用心深いじゃないか。――エミヤオルタ君の霊基グラフの再調査依頼、なんて」

 

「…………」

 

そう。実は、エミヤオルタには内緒で、天草四郎と別れる際、彼へ密かにあることを頼んでいた。それは――エミヤオルタの霊基グラフの再調査。

――体の調子が良い。これはエミヤオルタに限れば、好ましくない現象だ。

何故なら、彼の記憶は霊基が戦闘に特化すればするほど、ボロボロになっていくのだから。例えば、そう――『嗤う鉄心』が機能しないことにより、戦えば戦うほど。こちらが彼を気遣えば気遣うほど、追いつめられているのかも――。

思い出すのは先ほどの会話。

『演技だ』と、顔色の悪い彼は言った。しかし、演技で顔色まで変えられるものだろうか?

――もしも、その言葉こそが嘘だとしたら……。

 

「残念ながら、君の危惧した通りだったよ」

 

杞憂であってほしいと思っていたが、教授は神妙な顔のまま告げた。

 

「――エミヤオルタ君の霊器腐食が進んでいる」

 

「――っ!」

 

恐れていた事態に藤丸は言葉を失くし、教授は事実のみを淡々と口にした。

 

「この特異点の結界で表面上の症状は抑えられているが――彼の自我はもう、長くはもたないだろう」

 

「…………」

 

思わず、言葉を失う。

――しかし、この事態は初めから分かっていたことだ。

出発前によぎった自分の言葉が、再び脳裏を掠める。

 

『これが、このエミヤオルタとの最後のレイシフトになるだろう』

 

…………そうさ、だから。




ところで、皆さんに1つ謝らなければならないことがあります……。

ギャグといったな、あれは嘘だ。
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