亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第9話 魚心あれば虎心あり 後編

Sideエミヤオルタ

 

藤丸がアラフィフと情報交換していた頃。

ジャンヌオルタと勝負のついたエミヤオルタの前に次の対戦相手が姿を見せる。

現れたのは白髪の美女。

 

「次は私たちね」

 

「…………アイリスフィール、だったか」

 

生前ですら面識はない。

しかし、その顔を見れば一目瞭然だ。

彼女は――イリヤスフィールの親族。

そして、

 

「それと――」

 

「はい! 私たちです!」

 

「よろしくね、お兄ちゃん♪」

 

「……イリヤ」

 

その本人――によく似た少女2人も姿を見せる。

小学生のイリヤスフィール。それと、彼女に瓜二つなクロエ。

彼女たちは並行世界の住民のため、エミヤオルタの知るイリヤとはほとんど別人のような存在だがそれでも……。

エミヤオルタは頭を振る。

 

「ルールは?」

 

「私たちと10分間お茶をしましょう。10分経ったらあなたの勝ち。香りのいい紅茶を用意したの。折角だから、マスターさんと一緒にいただきましょう」

 

「もはや、対決ですらないな」

 

微笑むアイリに、エミヤオルタはいつもの自虐的な笑みで答えた。

ここまで直接的に来るといっそ清々しい。

ジャンヌオルタとの戦闘で、気づけば随分ざぶーんの端まで来ていたらしい。アイリたちとマスターがいるフードコートエリアまで歩きつつ、エミヤオルタは皮肉を返す。

 

「あのお人よしも、オレをぬるま湯へ浸けたがっているらしい。まったく、いい迷惑だ」

 

「……ごめんなさい。辛い思いをさせてしまっているわよね」

 

対するアイリは困った様子で頭を下げた。どうやら、あちら側も自覚はあるらしい。

謝りながらアイリスフィールはエミヤオルタへ親愛とも、哀愁ともつかない、複雑な眼差しを向ける。

 

「あなたは――あの人とよく似てるから」

 

「…………」

 

世の中には、幸せであることに苦痛を感じる人間も存在する。

その言葉の指す人物に思い当たったエミヤオルタは僅かに眉をひそめ、それに気づいたアイリが補足する。

 

「大丈夫、ここにはいないわ。――お察しの通り、実はあの人も誘ったのだけど、逃げられてしまったわ」

 

「だろうな」

 

彼なら、こんな茶番に付き合うはずがない。

生前、エミヤオルタが追い求めた義理の父親。

追い求め、追いすがり。遂に、自分も同じものに成り下がってしまった。

……いや、同じではないか。

腐った鉄などと同じなんて、本人が聞いたら憤慨ものだろう。

 

「――今回はこんな強引な手段を使っちゃって本当にごめんなさい」

 

と、物思いにふけるエミヤオルタへ、アイリスフィールは再び頭を下げる。

 

「でも、あなたが孤独を求めるのと同じくらい。私たちもあなたともっとお話がしたいの。みんな薄々気づいているのよ。――これが、あなたと話す最後の機会だって」

 

「…………」

 

「だから、今回だけはもう少しだけ我がままを言わせて頂戴。できれば。ほんの少しだけでいいから、ジャガーマンさんとお話しをしてあげて欲しいの。……きっと、彼女もそれを望んでいると思うから」

 

エミヤオルタは答えない。

アイリスフィールたちも気を使ったのか、それから何も言うことはなかった。

4人はフードコートへ向け、静かに歩みを進める。

そして、

 

「あれ? エミヤオルタ?」

 

到着と同時に、とぼけた様子で藤丸が彼らを出迎えた。

どうやら、マスターの方もエミヤオルタのいない間、モリアーティと何やら話していたらしい様子だが、それも丁度終わったようだ。

藤丸はエミヤオルタを見て、少しだけ俯き、

 

「……おかえり!」

 

すぐにそう、笑顔で迎える。

 

「どうしたの?」

 

「…………いや」

 

いつもと変わらぬ、その笑顔に安堵した――そんな自分にどうしようもない嫌悪感を抱きつつ、エミヤオルタも頬を吊り上げた。

 

「――なんでもないさ」

 

 

Sideカルデア

 

フードコートエリアでのお茶会は終始穏やかに進んだ。

アイリスフィールと藤丸が紅茶を飲みつつ笑顔で話し、若干空回りした様子のイリヤをクロエが茶化す。

エミヤオルタはただ黙ってそれを見守っており、彼女らもそれ以上のことは望まなかった。

夢のような10分があっという間に過ぎ、アイリたちが何事もなかったかのようにこの場を後にする。

そして――

 

「さて、ここまで5戦が終わったわけだが……」

 

と、そのお茶会にしれっと混ざっていた教授が、紅茶を啜りながらこれまでの戦績をまとめる。

 

「なんと! エミヤオルタ君の3勝2敗! 7戦目を待たずにリーチと来た」

 

エミヤオルタは次に勝てば勝負が決まる。

逆に、教授側はもう1戦も落とせない。故に、

 

「では、そろそろ私が出ようカナ」

 

満を持して、モリアーティ教授が名乗りを上げる。

 

「ルールは?」

 

「せっかくカードがあるんだ。ポーカーをしよう。ディーラーは……エルキドゥ()頼めるかな?」

 

「ああ、構わないよ」

 

と、近くにいたエルキドゥがトランプを受け取りながら答えた。

これに対して、やはり同じく開幕からずっと教授と暇つぶしをしていたカードゲーム仲間のメフィストフェレスが不満を訴えるように笑いながら首を傾げる。

 

「おや、(わたくし)は~?」

 

「君はお休みだ。だって君、息を吸うようにバレバレなイカサマをするからネ」

 

「ナントォ!?」

 

「――待て」

 

教授とメッフィーの寸劇に流されず、エミヤオルタがカードをシャッフルするエルキドゥを指さす。

 

「そこにいるのもアンタの身内だろう? イカサマをしない保証は?」

 

「おや? 信用できないと? 大丈夫サ。エルキドゥ()“は”私がどうこうできるタマじゃない。公平性は保証しよう」

 

「…………」

 

「疑い深いネ。……では、こうしよう。ディーラーの不正が判明した場合、私の失格で構わん」

 

「…………いいだろう」

 

実際、彼以外にディーラーが務まりそうな人物がいないのも事実。この提案で、エミヤオルタは妥協する。

続いて『今、思いついた』と、でも言いたげな惚け顔で、教授がこんなことを提案した。

 

「そうダ。それと並行して、宝具やスキルの使用も禁止しよう。君の宝具は厄介そうだ。――こちらも使用が判明した場合は即失格 敗北とする」

 

「判明した場合……な」

 

「クククッ、その通り。せいぜい足らぬ知恵を巡らせたまえ」

 

その意味を察したエミヤオルタが指摘すると、教授は楽しそうに笑う。

そして、準備が整った。

エルキドゥが流れる動作でカードを配り、最初のゲームがスタートする。

教授が慣れた手つきでチェンジを宣言しながら、エミヤオルタを挑発する。

 

「一応、尋ねるがルールは大丈夫かナ?」

 

「……こちらも2枚だ」

 

「グッド」

 

この挑発を無視し、エミヤオルタもチェンジを要求。教授は満足げに頷いた。

こうして、ゲームは淡々と進み――

 

――

――――

――――――

 

圧倒的だった。

 

「――ハイ、フルハウス」

 

「…………」

 

「惜しかったねー。その3がキングだったら君の勝ちだった」

 

……惜しいものか。

藤丸は余裕綽々な教授を睨みながら、これまでの戦績を思い起こす。

フォールドを含めて、これでエミヤオルタの5連敗。開始からずっと、教授は降りることもなく勝ち続けている。そんなことはポーカーではあり得ない。

挑発しているのだ。間違いなく、教授はイカサマを――

 

「――違う、マスター」

 

と、モリアーティを探る藤丸の視線を察したのか、エミヤオルタがその間違いを指摘する。

 

「――ディーラーだ」

 

「――っ!」

 

言われ、思わずディーラーエルキドゥの方を向く。

対し、疑いの眼差しを向けられたエルキドゥはどこ吹く風、いつもの穏やかな微笑みを称え静かに見つめ返してきた。

 

「…………」

 

藤丸が監視する中、そのまま次のゲームへ。

流れるような動作でカードを配り――。

 

「ストレートフラッシュ。こんなに強い役が揃うなんて、珍しいことがあるものダ」

 

「…………」

 

教授の6連勝。事前に用意した、エミヤオルタのチップは残り僅かだ。

ゲームの後、エミヤオルタがこちらへ目配せをしてくるが、それに対して藤丸は黙ったまま首を振る。――とてもじゃないが、素人の自分には見抜けない。

それにしても、疑いをかけた直後に平然とイカサマをぶち込んでくるとは。強かというか、面の皮が厚いというか……。

エルキドゥもいつの間にあんな技憶えたんだろう?

何はともあれ、ディーラーの不正を見破り指摘しない限り、エミヤオルタの勝利はないだろう。

エミヤオルタも険しい表情でエルキドゥを睨む。

 

「そういえば、まだあんたがここにいる理由は聞いてなかったな」

 

教授に加担するということは、彼もまたジャガーマンの仲間ということだ。

――しかし、何故彼がエミヤオルタにちょっかいをかけるのか? 普段の彼ならエミヤオルタなんて歯牙にもかけないはずだ。

この疑問を察してか、エルキドゥは頷く。

 

「うん。実は、僕自身君に興味がない。でも、ある人に頼まれてね。少し尋ねてもいいかい?」

 

「なんだ?」

 

「――世界の掃除屋なんてものを進んで背負った君の生涯に、一体何の意味が残ったのかな?」

 

「――っ」

 

息を呑んだのは藤丸だ。

明確な地雷。それでも、ウルクの切れた斧は止まらない。

 

「君は自分の望みを通り行動し、すべてを失った。何もかも失って、それで君は救われたのかな? 残ったものはなんだろう?」

 

遠慮のかけらもないエルキドゥの問いに、エミヤオルタは……。

 

「…………どいつもこいつも」

 

限界だったのだろう。

深いため息と、明確な苛立ちをもって答える。

 

「仲良しごっこはさぞ楽しいだろうさ」

 

「――っ」

 

強烈な拒絶。

エミヤオルタはエルキドゥを睨んでいるが――間違いなく、藤丸へも向けられた言葉だ。

 

「だが、あいにくと俺はサーヴァントであり、ただの兵器だ。――言ったはずだぞ? そう扱えと」

 

「…………」

 

そう。エミヤオルタは初めから自分の望みを口にしていた。

人としてでなく、兵器として扱えと。

分かっていた。

こんな茶番も。

自分を人として扱う環境も。

エミヤオルタは望んでいない。

 

謂れのない慚愧が悪であるように、謂れのない憐憫もまた――

 

尋ねているのはエルキドゥだ。

それでも、きっと。否定されているのはマスターである藤丸。そして、今も奮闘しているジャガーマンだった。

ずっと見ないようにしていた現実を突きつけられる。

だから、

 

「ごめ――」

 

藤丸が挫けそうになった(楽になろうとした)時、

 

「――いいえ、それは無理な相談よ」

 

相手の切り込みが唐突だったように。

援軍も、思わぬところからやってきた。

 

「えっ、ナーサリー…………?」

 

いつからいたのか。いつの間にか、プールで遊んでいたはずのナーサリーが藤丸たちと同じ卓に座り、ゲームを鑑賞していた。

子どもたちの英雄は、迷い子へ囁くように言葉を紡ぐ。

 

「だって道具に恋をする人がいるんだもの、道具だって恋をするわ。少なくとわたしたちのマスターはわたしたちをそんなふうには扱わない。――そうでしょう?」

 

「…………そうだね」

 

ナーサリーの微笑みに、藤丸もゆっくりと頷く。

カルデアには多種多様なサーヴァントがいる。

化け物だからといって拒絶しない。

不可解だからといって諦めない。

そうして、藤丸は歩いてきた。

――例え、それを。彼自身が望んでいなくても。

 

「……エミヤオルタがどんな人だったかなんて知らない」

 

だから。

エミヤオルタの顔をしっかりと見据えて。

 

「それでも、見て見ぬふりなんてできない」

 

ただのこっちのわがままだ。

無理やりどうこうしようなんて、身勝手なことは言えない。

けれど、

それでも、

それだけの関係では、終わらせたくない。

結末も結果も、何も変わらなくとも、

 

「もっと知りたい。もっと一緒にいたい。だから――」

 

その果てで、エミヤオルタが幸せになれるならどんなに――――。

だが、

 

「…………やれやれ、とんだ勘違いだ」

 

やはり、エミヤオルタの答えは変わらない。

救いを求めていない者に、救いの手は届かない。

それでも、

 

「オレはとっくに……」

 

――淡く微笑む。

その言葉に、どんな意味はあったのか。

 

「…………ああ、なるほど。そういうことか」

 

「えっ……」

 

そのささやかな変化に藤丸が気づく前に、エミヤオルタが視線をテーブルへと戻した。

そして、

 

「エミヤオルタ!?」

 

ディーラーへ向け、投影した己の銃を突きつけた。

驚きから藤丸は悲鳴を上げ、教授も訝し気に眉を顰める。

 

「どういうつもりかね? 宝具の使用は――」

 

「ああ、禁止だ。だが生憎と俺は勝負師じゃない。――どいつもこいつも、酷い勘違いだ」

 

と、銃を構えながらエミヤオルタは藤丸の方をチラリと伺う。

まるで、間違いを諭すように。

まるで、迷い子を安心させるように。

 

「問題点が違う。――はなからカード勝負で勝てるわけがない。そう、カード勝負ではな。いい加減正体を表せ」

 

「えっ?」

 

エミヤオルタの前半の言葉。それはどういう……。

と、藤丸が思い当たるよりも先に、ポーカーの決着を告げる声がディーラーから漏れる。

 

「――あーあ、バレちまったか」

 

姿形はエルキドゥ。しかし、決して彼の口からは漏れないであろう言葉遣いと声色。

エルキドゥに化けていたディーラー――新宿のアサシンこと、燕青は素直に両手を挙げて降参する。

 

「エ、エルキドゥじゃない!?」

 

「勿論だとも。エルキドゥ()がこのような茶番に付き合ってくるれるはずがないだろう?」

 

驚く藤丸に、教授は惚けた顔で平然と呟く。

 

「そう。こいつはただの影武者だ。そして――スキルの使用は即失格。だったな?」

 

「あっ!」

 

カードとチップも、あからさまなイカサマをしていたのも、すべてフェイク。

この勝負の本質はまったくの別。

――スキルで紛れた偽物を見つけること。

これがこの勝負の勝利条件だった。

看破したエミヤオルタを称えるように、モリアーティ教授は悪党顔でニヤリと笑う。

 

「グッド。合格だ」

 

「どうして。こんな回りくどい真似を……」

 

困惑する藤丸。

対する、教授はマジシャンのようにカードを弄びながら手の内を明かした。

 

「言っただろうマスター君。――テストだよ。エミヤオルタ君を助けたい、というのがジャガーマン嬢の願いだが……私はそれが疑問でね。まあ、最も。彼女はそこまで織り込み済みで強硬策に打って出ているようだが」

 

「…………」

 

「だから君にも、彼女に会う前に考えてほしかったのさ。――悪党の幸せというものを」

 

「余計なお世話だ」

 

「だったようだネ」

 

冷たく言い放つエミヤオルタに、素直に頷く教授。

何が、正解か。

本人が望むまま、破滅させることか。

本人の意思を殺して、苦しめることか。

あの神殿で藤丸が願ったのは、どちらだったか。

憐憫か? それとも――。

 

「…………」

 

だから、この問題にマスターである藤丸は初めから意見をする権利を持っていない。

――それでも。と、強引に止められる人物がいるとすれば……。

 

「彼女は穂群原という学園で君たちを待っている。そこが、我々の用意したゴールだ」

 

「…………わかった」

 

「――私ができるのはここまでだ。後のことは頼んだよ」

 

「うん、ありがとう」

 

険しい表情で後を託す教授に、藤丸は頷く。

向かうは穂群原。きっと、そこがジャガーマンの用意した終着点だ。

そこに行けば、きっと――。

 

「……行こう、エミヤオルタ」

 

「ああ」

 

ブレることのない鋭い眼差しでエミヤオルタも頷き。

藤丸たちは、ジャガーマンの元へと向かう。

 

 

Sideモリアーティ

 

エミヤオルタとマスターたちが穂群原へ向かって程なく。

 

「……まったく、世話の焼ける」

 

その背中を見守りながら、モリアーティはやれやれと肩を竦める。

 

「それにしても、エミヤオルタ君。――彼はサンプルケースとして大変興味深い存在だ」

 

カルデアの召喚式はマスターとサーヴァント相互の同意がなければ召喚されない仕組みになっている。

だから、藤丸と意見の合わないサーヴァントや相容れないサーヴァントが召喚されにくい。

そう――エミヤオルタは、そんな数少ない例外的なサーヴァントの1人だ。

エミヤオルタはマスターに何も望まず、マスターにも何も求めないことを望んでいるが……。

恐らく、彼は根本的にカルデアのシステムと相容れない。

 

「さて、我がマスターはそんな悪性サーヴァントと付き合い、その最期を看取る時、どんな反応を示すのか……」

 

この先のことを思い、教授は思わずほくそ笑む。

 

「自らの手で崩壊を促進し、その最期に手を貸せぬ状況……。もしかしたら、エミヤオルタ君との関係こそ、今後の良い訓練に――ん?」

 

と、途中で電子音が鳴り響き、思考を中断して通信機を起動する。

――どうやら、仕事の時間のようだ。

 

「私だ。……ああ。予定通り、マスター君たちを彼女の元へ誘導した。無論、私たちはこのまま――次の仕事へ取り掛かろう」

 

あらゆるものを背負い、あらゆる悪を目の当たりにし、それでも善性から目を背けない我がマスター。

そんな前途多難なマスターの期待を背負い、今日もモリアーティ教授は暗躍する。




例えどんな未来を歩もうと藤丸立香は純粋な悪人とは契約しない。
だから、彼/彼女の召喚したサーヴァントならどうあれ信用できる。

――と、太鼓判を押してくれた人がいたなぁ……。
なんてことを思い出し、しんみりしながら書いていたらリンボが実装されました。
藤丸立香……お前……。

あと、なんかカッコつけているアラフィフですが、その暗躍の結果マスターが死にかけているので、後日キッチリみんなに絞られました。
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