亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第10話 かわいい虎には旅をさせよ

Side???

 

男の決断は世界を救った。

 

それ故に――今、男の目の前で無辜の民が死んでいく。

 

最愛の人を殺した。

かけがえのない家族を失った。

全てを捨てて、脅威となりうる悪の芽を摘んだ。

 

その結果が目の前の焼野原なのだとしたら――。

……じゃあ、いったい何のために。

 

全てを切り捨て、全てを失い。

手に入れたのは人殺しの技術と――誰も救えなかった、という事実のみ。

 

首謀者は自ら身を投げ、それ故に守りたかった民が死んでいく。

虚ろな眼差しで生存者を探すが、そんなものがいるはずもなく――。

 

再び、男は彷徨う。

地獄を歩く。

無数の瓦礫の中から、居もしない生存者を探す。

 

探し、

歩き、

彷徨い、

 

そして――――

 

 

Sideカルデア

 

ジャガーマンは穂群原学園へ向かったという情報を入手した藤丸たち。

プールのあった都市から橋を渡り、住宅街を抜け、山の中腹にあるというその学園を目指す。

歩く度に遠退く住宅街を見下ろしながら坂を上り、これまでの軌跡に思いを馳せる。

街はずれの教会付近からスタートし、気づけば街を横断していたらしい。

――特異点F。本人は言及しないが、ここがエミヤオルタの生まれ育った街なのは間違いないだろう。

なら、今目指している学園というのも……。

自然と視線が前を向き、一歩一歩を踏みしめる。

ジャガーマンは、そんな学園の校門の前に仁王立ちし、登校する生徒を見守る先生のようにこちらを待ち構えていた。

 

「わっはっは、遅かったにゃ戦士たちよ!」

 

坂を上り切った藤丸たちを、まるで歴戦の勇者のように高笑いを浮かべながら迎え、

 

「ホント……ホントに……遅かったニャ……。わたしはここでずっとスタンバってて……てっきり忘れられちゃったのかニャ、と……若干不安になってたりしました!」

 

と、一転。遅刻を責める先生のように、涙ながらにぶっちゃけた。

 

「まあ、結構色々あったからね」

 

料理にプールと、ここに来るまで結構時間がかかった。まさか、その間ずっとこの学園で待っていたのだろうか?

若干弱った様子のジャガーに対し、藤丸はちょっと申し訳ない気持ちで頬を掻いたが、

 

「ふっ……宮本武蔵戦法とはやるニャ、マスター」

 

「いや、勝手に自爆しただけだよね?」

 

「そもそも、待つくらいなら逃げるな」

 

それは勘違いだったようだ。

何故かキザ口調で呟くジャガーマンの言葉を、エミヤオルタも無慈悲に切り捨てる。

が、お道化ジャガーは止まらない。

 

「それはそれ。撤退戦はボス戦の肝でしょう? 私はボス! 故に咎なし! 罪もなし!」

 

「アンタが撤退してどうする」

 

「黙らっしゃい! それよりも――さあ、マスターちゃん! よくぞ来た! まずはここまで来たことを誉めてやるニャ! そして、我が軍門に下れば世界の半分を――って」

 

と、ここまでいつものようにハイテンションで捲し立てた後、『おや~?』と顔を赤くしながら首を傾げた。

 

「――もしかして、もうそんな雰囲気でもない感じかなー……?」

 

「…………ああ」

 

「…………」

 

エミヤオルタはただ静かに頷き、藤丸はそんな2人の様子を黙って見守った。

こちらの真剣な眼差しにジャガーマンもすべてを察して、しんみりと呟く。

 

「そっか、気づいちゃったか」

 

「あれで隠しているつもりなのは、どこぞのバカとそこお人よしだけだ」

 

「うっ……」

 

「わっはっは、まったく返す言葉もございませーん」

 

冷たいエミヤオルタの言葉が藤丸にも容赦なく刺さる。

対して、驚きつつも笑顔でそう受け流しているジャガーマン。やはり全てを察して、それでも事に及んでいたのだろう。……少し。ほんの少しだけ、目の前のふざけたサーヴァントを見直す。

それはエミヤオルタも同じだったのだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

辛そうに。本当に辛そうに。しかめっ面をするエミヤオルタと、それをただ見守るジャガーマン。

……そうして、どれくらいの時が流れただろう。

 

「――オレは」

 

エミヤオルタが、何かを決意したかのように重い口を開く。

まるで、罪を告白する聖人のように。

身を切るように。それでいて頑なに。

そのエミヤオルタの言葉を、

 

「オレは生前、あんたとあんたの――――」

 

「――待った」

 

寸前で、ジャガーマンが手で制した。

俯くエミヤオルタへ、ジャガーマンは申し訳なさそうに顔を歪める。

 

「折角話そうとしてくれたのに、ごめんなさい。でも……私にもわからないけど……。その言葉は、多分違うと思うの。黒いアーチャーさん。……だって……それは、きっと難しい問題でしょ?」

 

「…………」

 

押し黙るエミヤオルタへ、ジャガーマンは優しくも、儚い表情で頬笑みかける。

 

「多分、あなたが私を通して見てる私は、この私じゃない。――同じように、私があなたを通して責任を感じているあなたも、今のあなたじゃない。そうでしょう?」

 

所詮サーヴァントは影法師。

エミヤオルタの世界の藤村大河と、ジャガーマンとなっている藤村大河が別人なように。

ジャガーマンが責任を感じている人物も、きっとエミヤオルタ本人ではない。

けれど、

 

「それでも、お互いに止められない。私があなたを構うように。きっと、あなたも私に感じる何かがあるのよね?」

 

「…………ああ」

 

悲しそうに笑うジャガーマンの言葉に、エミヤオルタはただ頷く。

別人だとはわかっている。

それでも、譲れないもののためにジャガーマンはエミヤオルタを救い。

そして、エミヤオルタもまた、自分の譲れないもののためにそれを拒み続ける。

割り切るには近すぎて。

伝えるには遠すぎる。

絶望的な結論に、それでもジャガーマンは微笑む。

 

「それが確認できただけでも良かったわ。……私の中のあなたとあなたの中の私のことは、きっとここで何をやっても解決しない」

 

カルデアにも、生前の遺恨を残すサーヴァントたちが多数在籍している。

『生前の諍いも、確執も、それは生きた者たちだけのもの』とは、誰の言葉だったか。

エミヤオルタと藤村大河、そして衛宮士郎とジャガーマンの問題は何をやっても解決しない。

しかし、

 

「だから、ここにいる私とあなたは――」

 

エミヤオルタとジャガーマン。

2人は今、こうしてここにいる。

話もできるし、手も届く。

なら、

 

「――これで決着をつけるニャ!」

 

決意と共に。

彼女は藤村大河としての顔を隠し、ジャガーマンとしていつものように面白おかしくふざけた笑みを浮かべながら、懐から何かを取り出した。

受け取りながら、エミヤオルタは目を見張り、藤丸が首を傾げる。

 

「これは……」

 

「竹刀?」

 

それは、剣道に使用する2本の竹刀だった。

どこにでもある、ありふれた竹刀のようだが、何故か片方には虎のストラップがついている。

驚くエミヤオルタへ、ジャガーマンは不敵に笑う。

 

「もちろん、憶えてるわよね?」

 

「…………ああ」

 

「……よかった」

 

その一言に、どれだけの感情が詰まっていたのだろう。

頷くエミヤオルタに藤村大河はゆっくりと微笑み、

 

「――ルールはシンプルに一本勝負で行くニャ!」

 

すぐに、ジャガーマンとして叫ぶ。

 

「私が勝ったらデミヤんは私の子分! 絶対服従! 弟分としてこき使うから覚悟するニャ!」

 

「……ああ、非常に貴方らしい。……シンプルで分かりやすい答えだ」

 

まるで、曇り空が晴れたように。

エミヤオルタも、呆れたような――それでいて嬉しそうな――苦笑いを浮かべながら、竹刀を構えた。

スキルも宝具もなしの剣道勝負。

これほど分かりやすい決着もないだろう。

ジャガーマンも、そんなエミヤオルタの表情を見て微笑み、

 

「――合図はマスターちゃんがお願い」

 

自身も真剣な面持ちで竹刀を構える。そこにおふざけジャガーは存在しない。

 

「…………」

 

大役を任され、藤丸は息を呑む。

ジャガーマンの構えは中段。最も基本的な構えであるものの、切っ先の一切ブレないその様子から、剣豪サーヴァントたちにも負けぬ確かな凄みが感じられる。

それに倣ってか、対するエミヤオルタも得意の二刀流を捨て竹刀を中段に構えている。誇りもなにもない、と嗤う普段の彼とは一線を期す。まるで、童心に帰ったかのように。そこには1人の剣士がいた。

両者はすでに開始の間合い。あとは、藤丸の掛け声一つで試合が始まる。

 

「…………」

 

「…………」

 

――空気が張り詰める。

真剣な眼差しで互いを見つめる両者。

そして、

 

「――始め!」

 

「――――ヤッ!」

 

「…………っ」

 

竹刀がぶつかる。

先に仕掛けたのはジャガーマンだった。

彼女はただ、まっすぐに。エミヤオルタのガードをものともせず、鋭く飛び込み――。

――寸前で、エミヤオルタがそれを防ぐ。

ジャガーマンの猛攻は続く。

 

「――ハッ!」

 

「くっ……」

 

見事な連撃。

やはり、こと剣道に限ればジャガーマンの方が優位か。息つく暇も与えず攻め続ける。

対する、エミヤオルタは防戦一方。戦場とは違う、慣れぬ形式というのもあるのだろう。ジャガーマンと比べ、やはり竹刀さばきがどこかたどたどしい。

それでも……。

 

「――――」

 

……その表情に、仄かな歓喜を見出すのはこちらのエゴだろうか。

花札の時にも垣間見た、かつての少年を思わせる夢中な表情。

そんなエミヤオルタの顔を見て、ジャガーマンも嬉しそうに。本当に嬉しそうに笑い――。

遂に、その時が訪れた。

 

「――ッ!」

 

ジャガーマンの猛攻に耐えられず、遂にエミヤオルタのガードが崩れる。

達人でも見出せるかどうかという僅かな隙。

しかし――それを見逃すジャガーマンではない。

 

「――貰った!」

 

再び鋭く飛び込む。

確かな達人の踏み込み。

間違いなく、必殺必中の一撃。

ジャガーマン――藤村大河の剣の腕は確かなものだ。剣術ならともかく、剣道で彼女に敵う者は現代にまずいないだろう。才能にも恵まれた、まごうことなき最高峰の実力。

対して、エミヤオルタ――衛宮士郎の剣の才は凡人の域を出ない。無論、才がないわけではない。しかし、それはセイバーやアサシンなど、剣の英傑たちとは比べるべくもない。

だからこそ、

 

「――――ふっ」

 

――エミヤオルタは修練を重ね、愚直な努力と技術のみでここまで戦い抜いてきた。

わざとその隙を作ったエミヤオルタは、僅かに身を引くことでジャガーマンの飛び込みを回避する。

 

「なっ――――」

 

瞬間、ジャガーマンは驚愕し、己の失策に気付くがもう遅い。

勝利を確信し、飛び込んだジャガーマン胴はがら空きだ。

そこへ、

 

「――――ハッ!」

 

エミヤオルタの竹刀が突き刺さる。

その寸前。

お互いの体が交差する間際。

自らの負けを悟ったジャガーマンはエミヤオルタの耳元で、

 

「――強くなったね、士郎」

 

そんなことを囁いた。

 

「藤――――」

 

しかし、エミヤオルタはそれ以上答えない。

これは、虎聖杯を巡る戦いであり、それ以上でもそれ以下でもない。

だから、

 

「――勝負あり!」

 

藤丸の言葉が校庭に響く。

ジャガーマンが負けて、エミヤオルタが勝った。

これで決着し、

 

「…………」

 

「…………」

 

きっと、同時に。2人の間の何かが終わった。

――そして、それは同時にマスターである藤丸の結論でもある。

負けたジャガーマンは、吹っ切れた顔で笑う。

 

「あー! 負けた! 負けた!」

 

「……気は済んだか?」

 

「うーん? 本音を言えば、まだまだ未練も後悔もグズグズだけど」

 

尋ねるエミヤオルタへ、ジャガーマンは困ったように、

 

「――スッキリはしたわ」

 

晴れやかに。心底安心した様子で、にへら、と笑った。

それを見たエミヤオルタも、

 

「……そうかい。それはなにより」

 

小さく。本当に小さく。そう微笑んだ。

だから、後腐れなく。

 

「――なら、さっさと聖杯を渡せ」

 

いつもの仏頂面に戻って、カルデアのサーヴァントとして本来の職務を全うする。

しかし、

 

「――えー、それは無理よ」

 

「なっ――」

 

軽いノリで、再び聖杯の引き渡しを拒否するジャガーマン。

話が違うとでも言いたげにエミヤオルタは眉を顰め、抗議しようと口を開くが、それよりも早くジャガーマンがその事実を口にした。

 

「だって私――――持ってないもん」

 

「…………は?」

 

「えっ…………?」

 

予想外の答えに、エミヤオルタと藤丸が揃って固まる。

しかし、同時に藤丸の脳裏にあることが思い起こされる。

それは、ここへ来てすぐのエミヤオルタの忠告と、先ほど聞いた教授の情報。

 

『敵がいる』

 

つまり、

 

「…………この特異点を作った犯人は別にいる?」

 

その藤丸の言葉に、頷く影があった。

 

「――はい、その通りです。カルデアのマスター」

 

「――っ!」

 

「故に、私たちはジャガーマンさんに協力してきました」

 

いつからいたのか。

ジャガーマンの背後から現れたその影はカルデアにいるパールヴァティーやカーマによく似た少女だった。

 

「あなたは?」

 

「初めまして、カルデアのマスター。そして、ごめんなさい。私は、間桐桜っていいます。一応、この街のマスターの1人で、今はジャガーマンさんの協力者です」

 

尋ねる藤丸へ少女――間桐桜は名乗りを上げ、ジャガーマンの方を向いて悲しそうに呟いた。

 

「…………失敗してしまったんですね、先生……」

 

「うん、ごめんねー。あなたにも大分気を使わせちゃったのに」

 

「……いいえ、仕方がありません。簡単に止まる人じゃないのは、私もよく知っていますし……」

 

「…………」

 

願いと諦めの混ざったような複雑な笑み。彼女もまた、エミヤオルタの関係者の1人だったのだろう。

――しかし、それも一瞬。

 

「けど――」

 

「はい。私の、私たちの目的に失敗は許されません。だからこそ、あなたに協力を要請しました」

 

ジャガーマンは困り顔で呟き、間桐桜もすぐに引き締まった顔で頷く。

そして、

 

「――カルデアのマスター。図々しいことは百も承知で、お願いします」

 

と、頭を下げて、その内容を口にした。

 

「どうか、どうか私たちの先輩を助けてください」

 

 

Side???→エミヤオルタ(特異点)

 

男は虚ろな眼差しで、焼野原を彷徨う。

生存者の誰もいない荒野。

その結果を招いた自分を呪い。

そして――

 

「じゃあ、その願い。私が叶えてあげましょー」

 

…………やけにマジカルな。人型なら割烹着の似合いそうな少女の声が男に届いた。




ホロウアタラクシアの藤ねえの進路相談エピソードが滅茶苦茶好きです
合わせて、タイガーころしあむのEDテーマ「SAYONARAじゃない。」も是非

次回は最終更新
最後ということで、前後編とエピローグの3本立てとなりますのでご注意ください
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