亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第11話 虎は死して皮を留め

Sideカルデア

 

ジャガーマンとの決着をつけたエミヤオルタ。

ジャガーマンも自分の中の何かと折り合いをつけ、これにて一件落着。――かに思われたが、この特異点を作った犯人は彼女ではなかった。

 

「きっかけは、やっぱり虎聖杯だったんだと思います」

 

そして、今。

ジャガーマンの協力者と名乗る間桐桜から、この事件の全容が口にされる。

 

「元々、この街では虎聖杯の力によって藤丸さんたちのような別の世界の方がやってくる事例が多発していました」

 

「改めて無茶苦茶な世界だ……」

 

「まったくです……」

 

その説明を受けながら 藤丸が思わず呟き、間桐さんも心底呆れた様子で頷いた。彼女もこちらの騒動に余程苦労していたのだろう。

 

「そんな状況なので、誰が呼び出したのかまでは分かりません。……でも、多分彼も虎聖杯によって呼ばれた別世界の住民の1人だったんでしょう。――ある時、その人がこの街に召喚されました」

 

本来、召喚されるはずのない異物。

――それが、この特異点の生まれた最初のif。

 

「死んでしまった方やif世界の住民。魔法少女に果てはインベーダーまで、色々な方がいるこの街ですが、虎聖杯のおかげか、これまでは深刻な事態にならずに済んでいたんです。ただ――その人は違いました」

 

恐らく、本来の持ち主の影響なのだろう。――頭の悪い結界。殺し合いを容認しないルール。虎聖杯はどこまでも安全安心設計だ。だから、滅茶苦茶なのにどこか笑える。その程度のモノだった。

しかし、その力は本物だ。

もしも、誰かが意図的に。それを悪意あるものとして使ったなら――世界なんてひとたまりもないはずだ。

そして、どんな偶然か。あるいは何らかの不具合か。そんな使用者が現われてしまった。

虎聖杯は万人の願いを叶える。

故に、当然その人物も聖杯にたどり着く。

 

「そこで何を願ったのかも、私たちには分かりません。けど、その結果、衛宮先輩がこの街から姿を消しました」

 

それが、この特異点の楔。

 

「……なるほどな。虎聖杯とやらを扱っているのは藤村大河だ。そして、彼女を止めるのは小僧の役目。しかし――」

 

「止めるはずの衛宮って人がいなくなってしまった。だから特異点化した。――ん? エミヤ?」

 

「今、そこは気にしなくていい。マスター」

 

首を傾げる藤丸に、空かさずエミヤオルタが突っ込んだ。――いや、絶対スルーしちゃいけないワードだと思うんだけど。

しかし、そんな藤丸を他所に間桐さんが話を本題に戻す。

 

「また同時期に、並行してあなたたちも現われました。だから、ジャガーマンさんに相談したんです。……実はこちらの世界の藤村先生も少し前から行方不明でして……」

 

「おい」

 

「まあ、先生の行方不明は心配ないというか……この件とはまったく別問題だと思いますが……」

 

街が異常事態だというのに肝心の時にいない虎。その事態に桜も呆れた様子であいまいに笑う。

そんな中、別世界の同一人物は空気を読まず、なぜか自信満々に胸を張った。

 

「うむ。それは私が保証するニャ! ――なんだか、どこかの宇宙(ソラ)でポリスなキャットとスペースオペラを繰り広げている気配を感じる!!」

 

「よしんば無事であったとして、そんな珍事件があってたまるか」

 

となると、本来のオーナーの不在というのも原因の1つだったのかもしれない。

結果として、ここは特異点と化してしまった。

 

「どうすればいいの?」

 

「簡単です。虎聖杯は平等。どんな人にも門を開き、参加者と勝負する過程でその願いを叶える」

 

尋ねる藤丸へ、間桐さんが答える。

 

「すでに、あなたたちはこの道中で私たちと戦い、一定数の勝利を収めています。なので、求めればコロシアムまでの道が開くはずです。だから――」

 

「コロシアムって所へ行って聖杯を確保。そこにいるはずの『その人』を止める」

 

カルデアが聖杯を回収すれば、特異点での異常は白紙に戻る。

 

「はい。部外者であるあなた方にこんなお願いをするのは大変心苦しいのですが……」

 

「――勿論、引き受けるよ」

 

頭を下げる間桐さんへ向け、藤丸は何でもないことのように即断する。

結局、やることはいつもと変わらない。

元凶に会って、聖杯を確保する。

そのまぶしさにか、間桐さんも微笑む。

 

「ありがとうございます。今、コロシアムが出現しているのは、おそらく大空洞です」

 

そうと決まれば、あとは行って聖杯を回収するだけだ。

善は急げと言わんばかりに、藤丸は踵を返し――

 

「あっ――ちょっと待って」

 

その背中をジャガーマンが引き留めた。

 

「なんだ、まだ何か――」

 

流石に嫌気がさしたのか、露骨に顔をしかめるエミヤオルタ。

そんなエミヤオルタへ、

 

「――行ってらっしゃい」

 

ただ、一言。

ジャガーマンは微笑んだ。

何でもない、ただの挨拶。

いつも、交わしていた――。

――いつか、違えてしまった。

再会の約束。

エミヤオルタはその言葉に、動きを止めて――。

 

「…………ああ」

 

小さく。

でも、確かに。

その言葉に頷いた。

……それで十分。

 

「マスターちゃんも、気を付けてね」

 

「うん」

 

こちらにも微笑むジャガーマンへ、藤丸も確かに答える。

 

「――行ってきます」

 

自らのサーヴァントの手に取って、必ず帰ると約束する。

――さあ、向かうは大空洞。

マスターとサーヴァントは、コロシアムへと堕ちていく。

そして、

 

――

――――

―――――――

 

~~ 一方その頃 ~~

Side間桐桜

 

「……行っちゃった?」

 

「ええ」

 

校庭に残ったジャガーマンと桜の2人。

2人は藤丸とエミヤオルタの背中が見えなくなるまで見送って、

 

「じゃあ――」

 

「はい、私たちは彼らの行く道を守りましょう」

 

――彼女らも彼女らの戦場に身を投じた。

武器を取り、今まさに迫ろうとしている背後の脅威を睨む。

 

「■■■■――――!」

 

――それは影。

何千、何万にもなる影の大群が、2人を呑むように押し寄せる。

……実は、彼らには伝えなかった異常がもう1つあった。

それが――謎のシャドウサーヴァントの出現。

この特異点では、死に至る傷を負っても自動的に回復する。故に虎聖杯戦争で死者は出ない。

――しかし、これは元々の虎聖杯にはなかった機能だ。

同時に出現したのがシャドウサーヴァント。

彼らはコロシアムへ向かおうとすると現われる。――まるで、自らの消滅を防ぐかのように、虎聖杯を守り続ける。

影にやられれば復活し、また影が増える。

気付いた時には最早手遅れ。今の冬木に、自らの影のいない者は存在しない。

だからこそ、彼女たちはカルデアに頼るしかなかった。

……それでも。

 

「ここは私たちの街です。藤丸さんたちばかりに頼る訳には行きません。私たちの街は――私の家は私が守ります」

 

同時、それを察知したかのように、校庭一杯に影が迫る。

彼らは皆、一様に同じほうを向いている。

それは藤丸たちが向かった場所。聖杯の眠る地、大空洞。

意思を持たない化け物故に、その狙いは単純明快。藤丸たちの阻止だろう。

――そんなことはさせないと。間桐桜は弓掛を嵌めた左手を構える。

そんな頼もしい桜の姿に、ジャガーマンは少しだけ目を細め、

 

「じゃあ、私も一肌脱いじゃうおっかなー」

 

静かな怒りを滾らせながら、これまでの胴着姿から霊基チェンジ。カルデアでの正装、ジャガーウェアへ。

 

「……実際、この街を好き勝手されていい気分でもないし」

 

かつての妹分に背中を預けながら。

 

「――私たちも、1発ブチかましてやろうじゃない」

 

今、再び。冬木の虎が吠える。

 

 

Sideジェームズ・モリアーティ

 

更にもう1人。この事態を予見していた者がいた。

 

「来たね。――諸君、準備はいいかい?」

 

ジャガーマンたちが撃ち漏らし、主の元へ迫る影を補足しつつ、ジェームズ・モリアーティは手元の通信機へ話しかける。

そこから、各地に散らばったカルデア中のサーヴァントの声が響いた。

 

『勿論です。このガウェイン、騎士の誓いに賭けて。民家は必ず死守します』

 

『スカサハだ。バカ弟子共々港は任せろ』

 

『こちらイシュタル。郊外の方も準備OK! ――って、きゃあ! こんの土人形! 遂に壊れたのかしら!? こんな時まで突っかかって――――』

 

『あー、同じく郊外。城周りはオレとヘラクレスに任せとけ。――なあ、ヘラクレス!』

 

『わたしたちも準備おっけーだよ! ホントはもうちょっと遊んでたかったけどね』

 

『プールはまた今度一緒に行きましょう、ジャック。――さあ、楽しいお茶会の時間だわ』

 

『カルデア側も問題ありません。万が一の際の退避と守りは任せてください』

 

……なんだか1つ、気になるチームもあるが。とりあえず、準備は万端。

各地に出現したシャドウサーヴァント。彼らはコロシアムへ至るもののみを襲う。

天草くんが予想したその発生条件は――サーヴァントがこの特異点で死亡した時。まるで、生贄のように。死んだサーヴァントと入れ替わる形でその影は出現する。

今、この特異点は聖杯戦争中。そして、カルデアのサーヴァントが各地に出現している。もしも、この条件が正しければ――シャドウサーヴァントの数は優に千、場合によっては万を超えるだろう。

事実、ダ・ヴィンチ氏が調査したところ、天草四郎のシャドウサーヴァントだけでも2桁近くいることが確認されている。

故に、モリアーティ教授は水面下で準備を進めてた。

 

「……まあ、半分我々のせいみたいなところもあるしネ」

 

モリアーティがカルデア一斉避難訓練なんてしなければ、ここまでシャドウサーヴァントが増えることもなかっただろう。

聖杯が回収できても、修繕前に特異点の住民はシャドウサーヴァントに殺されてしまいました――では、マスターに示しがつかない。

だから、備えた。

来るべきこの時の為に、各地へカルデア全てのサーヴァントを配置し、万全の守りを固める。

そう――全てはこの時のために。

 

「さて、準備は万端。あっちはエミヤオルタ君に任せて――」

 

幾重もの糸を張り巡らせた旧き蜘蛛は巣の中央でほくそ笑み、

 

「私たちは、あの子の露払いをするとしよう」

 

自らも棺桶を構えて、目の前の影へ立ちはだかる。

 

 

Sideラムダ

 

「……来たわね」

 

「ああ、君の予想通りだ」

 

そしてもう1組。大空洞へ向かう彼らを守護するのは彼らだけでなかった。

その1人、赤い外套のアーチャー、エミヤは決戦前に相方、

 

「それにしても意外だな。君がこんな雑事で身をやつすとは。……いや、与えることこそ、君の本質だったかな? ――快楽のアルターエゴ、メルトリリス」

 

「気やすく話しかけないでくれる? あと、私はラムダ。まったく、何度言えばわかるの?」

 

ラムダリリスへ声をかけ、当の彼女はそうエミヤを睨みつける。

 

「いい? 私はプロフェッショナルだから依頼されて、仕方なく、あなたとタッグを組んでいるの。雑事ですって? ――その通りよ! まったく、マスターもマスターね。あなたといい、あの男といい……あんなつまらない男のどこがいいんだか……」

 

「…………」

 

不満そうに独り言ちるラムダの背中を、『君が言うな』とでも言いたげに、エミヤは黙って見つつ、

 

「……まあ、あんなつまらない男のどこがいいんだ、という意見には概ね同意だ。……まったく、二丁拳銃だと? ――そんなもの誰が使ってもかっこいいに決まっている!」

 

こっちはこっちで羨ましそうに、そう叫ぶ。

それはそれとして、

 

「まあ、しかし――」

 

「ええ、今回ばかりは許してあげる。――あの黒いのには、私も少し借りがあるもの」

 

それは誰も覚えていない。虚数の海での話。

自分ですらない、別の人物の記録。

 

「それにしても、あのドンファン似の男を救おうなんて、とんだ傲慢。なんて勘違い。けど――」

 

そんなマスターだからこそ、あの虚数の海を越えたのだろう。

その結末を思い、メルトリリスは静かに微笑む。

 

「――だから、邪魔をしてはダメよ、BB。それと……ステッキさん?」

 

「冤罪です! ブーブー! 今回BBちゃんは本当に何もしてないよーだ!」

 

「そうです! そうです! いくら面白――大変な状況だからって、抜け駆けなんてしませんよ、プンプン! 早くイリヤさんのところに返してください! それはそれとして、あなた魔法少女に興味とか――」

 

「はいはい」

 

と、騒ぐ2人(?)の口を塞ぐラムダリリス。

そう、彼女らが教授に依頼された本来の仕事は、BB含めた不安要素の抑止だった。カルデアには天草四郎を筆頭に、虎聖杯を使って悪事を働こうとする輩が何騎かいる。

教授はそんなサーヴァントたちにも自身の糸を手繰り、対抗策を用意していたのだ。

今も各地で、各サーヴァントが敵性エネミーと戦いつつ、反乱分子を抑止しているはずだ。

 

「…………」

 

……とまあ、ここまではいい。

実際、彼らが野放しではマスターにも危害が及ぶ。報酬もしっかりもらう予定だし、僅か程度であれば手を貸してもいい個人的な理由(モチベーション)もある。あるが……。

 

「なんでこのドンファンと一緒なのよ……」

 

小さな声で、不満を漏らす。

 

「……ん? 今何か――」

 

「何でもない! 何でもないわよ! そうよね! あなたってそういう人だわ!」

 

叫ぶラムダと、何が何だかわからない、といった顔で首をかしげるエミヤ。

そういうところまで大変腹立たしい。

 

「まったく、早く終わらせるわよ!」

 

だから、ラムダは腹立たし気に声を上げ、

 

「――――」

 

一転。いつの間にか目前まで迫ってきていた影の大群を冷たく睨む。

彼女はスタァ。

どんな環境。どんな仕事であれ、プロフェッショナルとして完璧に熟す。

だから、

 

「――さあ、融けるように踊りましょう」

 

奈落へ落ちる弾丸を眺めながら、空へ羽ばたいた白鳥は再び戦場を舞う。

 

 

――――――

――――

――

 

Sideエミヤオルタ

 

そんな裏で総力戦が繰り広げられているなど露知らず。皆の援護を受け、無事エミヤオルタたちはコロシアムへとたどり着く。

 

「…………」

 

――エミヤオルタは事の顛末を理解していた。

これは、かつての己の過ちが生んだ特異点だ。

花札。

料理。

スポーツ。

そして、剣道。

どれも、衛宮士郎が藤村大河と競ったものであり、2人だけの楽しい思い出だった。

ジャガーマンは、そんな自分の幻影を代弁したに過ぎない。

何故なら、恐らくこの先にいる人物は――。

……見慣れた悪夢だ。

 

――――ならば、正さなければならない。

 

もうすぐ夜が明ける。

楽しかった夢も、もうおしまい。

そろそろ、目を覚ます時だ。

 

だから――何度だって、その終わりを見届けよう。




なおご存じの通り、どこぞのステッキは冤罪ではなく100%ギルティです。
奴を野放しにしてはいけない……。
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