亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第1話 虎も歩けば棒に当たる

Sideカルデア

 

謎の攻撃を受けたカルデア。

姿を消すサーヴァント。

戦力はエミヤオルタただ1人。

敵戦力。敵目的。ともに不明。

突如、未知の脅威に晒されたカルデアは、考えうる限り最悪の状況に立たされていた。

しかし、そんな状況でも人類最後のマスターは挫けない。

捕らわれたと推測されるサーヴァントたちを取り戻すべく、満身創痍のエミヤオルタと共にレイシフトを実行。

藤丸立花は敵地へと足を踏み入れた。

そして――――

 

直後、人類最後のマスターはその惨事を目撃し、あまりのやるせなさに咆哮する。

 

「ジャガーマンの――仕業だーーーーーー!!!」

 

誰が予想しよう。

壊滅的な打撃を与えた敵の本拠地と思しき特異点は――完璧なまでのギャグ空間だった!

藤丸は膝から崩れ落ちて拳で大地を叩く。

 

「返せ! こっちの覚悟とか緊張とかそういう純真を返せ!」

 

この現状には流石のエミヤオルタも思うところがあるのだろう。いつもはポーカーフェイスの彼も、目を見開いて唖然としている。

そんな2人の元に、ほどなくしてカルデアから通信が入った。

 

『――パイ――ンパイ――先輩! 聞こえますか!?』

 

「……マシュ」

 

切羽詰まった様子のマシュの声が、この現状ではすでに痛々しい。藤丸はやるせない気持ちでそう返す。

続いて、通信機越しにダ・ヴィンチちゃんの声が響いた。

 

『あーあーあー。うん、感度良好。どうやら通信は問題ないみたいだ』

 

サーヴァントが一斉に退去し、強制帰還さえ逆用される悲惨な状況だった。敵により通信妨害をされることも考慮していたんだろう。

しかし、

 

「――と言っても……」

 

『…………うん。言いたいことは分かる。どう見ても、今回の事件はチェイテやユニバース案件だ』

 

カルデアの方でもこちらの様子を視認できたのか、ダ・ヴィンチちゃんまで肩の力を抜いて、そうやるせない声を上げる。

状況は明白だ。これはジャガーマンによる何かしらの悪ふざけ(トラブル)。これまでの経験から推測するに恐らく危険度は低いだろう。良くて、ただの悪戯。悪くても、藤丸が精神的な傷を負う程度。カルデア壊滅の危機とは思えない。

故に、皆が脱力し、『あーあ、またそんな感じのイベントかぁ……』とため息をついていた時のこと。

――ただ1人、エミヤオルタが異議を唱えるように呆れた様子で首を振った。

 

「……やれやれ。どいつもこいつも雁首揃えて……」

 

「エミヤオルタ?」

 

この場でさえ緊張感を拭わないエミヤオルタに、藤丸は首を傾げながら呟く。

すると、エミヤオルタが諭すように嫌味たらしく言った。

 

「忘れたのか? それともあんたらはオレより記憶力がないのか? 特異点がどんな状況かなんて関係ない。事実として、オレたちは今――攻撃を受けているんだぞ」

 

「――っ!」

 

そうだ。忘れるはずもない。

藤丸はたった数分前に殺されかけたばかりだ。

その言葉に藤丸をはじめ、通信機越しのマシュたちも息を呑む。

 

「ここがどんな場所で相手がどんなバカでも、こちらの被害状況は何も変わらん。そもそも、この頭の痛くなる状況こそ、こちらを油断させる敵の罠かもしれん。忘れるな。今回の首謀者はこちらのサーヴァントを拘束し、あまつさえシャドウサーヴァントを送り付けてきた明確な『敵』だ」

 

「…………っ」

 

今度こそ、油断しないと決めたはずだった。

にも関わらず、この体たらく。

マスターの無様を非難するようにエミヤオルタは続ける。

 

「その上、容疑者第1号は腐っても神霊サーヴァント。まずは拘束されたこちらのサーヴァントたちを見つけ、戦力を補給するのがセオリーだろう」

 

今、1番の問題は戦力不足だ。

故に、まともな相手ならばまず間違いなく、徹底的にこちらの戦力を削ぐ。人質の開放がこちらの唯一の勝ち筋だというのなら、敵は全力でそれを阻止するだろう。

そう――。

 

「……まあ、と言っても相手だって馬鹿じゃない。そうそう大切な人質を見つけられるとは――」

 

「おう、マスターじゃねえか。こんなところで何してんだ?」

 

「あっ、クー・フーリンだ」

 

――――まともな相手ならば。

ごく普通に。ごくごく普通に。

日曜日にぶらっと街を散策するような気軽さで、いつもの青タイツを身に纏い赤い槍を携えたクー・フーリンが彼らの前に姿を現した。とても危機的状況に陥っているとは思えない。

クー・フーリンは、よっ、と片手をあげてこちらへ話しかけ、藤丸もしれっといつも通り応じる。そして、通信機越しにはマシュが嬉しそうな声を上げた。

 

『クー・フーリンさん! よかった無事だったんですね!』

 

「おお? 無事も何もピンピンしてるぜ」

 

『ちょっと待った藤丸くん。念のためバイタルチェック――良好だ。特に異常な点は見当たらない』

 

『はい。不審な点は見当たりません。そちらの方は正真正銘カルデアのクー・フーリンさんです』

 

ダ・ヴィンチちゃんに続き、マシュからもお墨付きをもらう。

皆が再開を喜ぶ中、

 

「……………………」

 

エミヤオルタだけが気まずそうにしかめっ面をしていた。

そんな彼へ、藤丸はニヤニヤしながら囁く。

 

「『やれやれ。どいつもこいつも雁首揃えて』」

 

「…………!」

 

いたずら心から藤丸がそう声をかけると、エミヤオルタは無言のまま、さっと目を逸らした。

いつも冷静に見えるエミヤオルタだが、流石にこの状況は恥ずかしいらしい。

藤丸はエミヤオルタのレア顔が見れた眼福にほくほくと、頬を緩ませる。……今だけはありがとうジャガーマン。

そんな2人の戯れを眺めながら、クー・フーリンが首を傾げた。

 

「しかし、マスターまでこっちに来るとはな……。なんかあったか?」

 

「実は――」

 

と、藤丸はこれまでの経緯を改めてクー・フーリンに説明する。

この特異点のこと。

カルデアの現状。

それらの問題を解決するために自分たちがレイシフトしたこと。

マスターの説明を受け、クー・フーリンはしたり顔で顎を撫でた。

 

「ははん……なるほどねえ。そういう状況か……」

 

納得した様子のクー・フーリンに今度はマシュと藤丸が尋ねる。

 

『クー・フーリンさんは何故この特異点へ?』

 

「ジャガーマンに無理やり連れてこられ……って様子ではないみたいだけど?」

 

「あー……まあ、ちょっとこっちも訳ありでな……」

 

「……?」

 

しかし、この問いに対してクー・フーリンはエミヤオルタの方をチラリと見た後、頬を掻きながらはぐらかした。いつも竹を割ったようにまっすぐな彼には珍しい返答に藤丸は首を傾げる。

続いて、クー・フーリンは俯きながら心底嫌そうな顔で小さく呟いた。

 

「――――峰の野郎……」

 

が、その言葉は誰の耳にも届かない。

 

「今、何か――」

 

と、藤丸が尋ねようとするものの、それよりも早く顔を上げたクー・フーリンはいつもの明るい口調に戻って仕切りなおす。

 

「まあ、こっちの事情はいいじゃねえか! それよりとっとと済ませようぜ」

 

この言葉の意味を『早くこの事件を解決しよう』と汲み取ったダ・ヴィンチは通信機越しに頷く。

 

『確かに、今はこの特異点の修復が先決だ。先ほどのエミヤオルタの意見も一理ある。どんな危険があるかわからない以上。早いに越したことはないだろう。悪いが、協力してくれ』

 

ダ・ヴィンチちゃんに続き、マシュも嬉しそうな声を上げる。

 

『はい! クー・フーリンさんの力を借りられれば百人力です! すぐにでもこの特異点を――』

 

――が、

 

「ん? いや? オレはお前らに協力なんざしないぞ?」

 

と、クー・フーリンはその申し出を断った。

まるで、それが当たり前であるかのように。

 

「え…………」

 

困惑する藤丸たち。

しかし、彼らの様子に気づかないのか、クー・フーリンはそのままの調子で当然のように槍を持ち直す。

そして、

 

「悪いがこっちにも事情があってね。お互いに名乗って、事情も理解した。ならやることは1つだろ? ――そろそろ死合おうぜ、マスター」

 

それは、どこまでもシンプルな。

暴力的なまでの宣戦布告だった。

 

「ルールはどうする? やっぱケルト式がいいか?」

 

ジリ……。と、手慣れた様子で槍を背中に構えながら、クー・フーリンはこちらへ歩み寄る。

突然の対戦ムードに藤丸は頭が追いつかない。

藤丸は悲鳴のような叫びをあげ、マシュも必死で訴える。

 

「ちょっと待ってちょっと待って! どうしてクー・フーリンと戦わなきゃならないんだ!」

 

『そうです! どうして私たちが――』

 

だが、クー・フーリンは止まらない。

 

「何故って――」

 

マシュたちの問いに彼は不思議そうに首を傾げ、その決定的な単語を口にした。

 

「当然だろう――聖杯戦争なんだから」

 

「――聖杯」

 

『戦争……』

 

何度となく聞いたその言葉が今、宣戦布告と共に槍兵の口から洩れる。

この場は聖杯戦争。

ならば、サーヴァント同士が出会えば、やることはただ1つ。

 

「待った!」

 

信頼から、なお藤丸はクー・フーリンに対話を要求する。

しかし、

 

「待ったなし。他にないならこのまま始めるぜ」

 

彼は戦士。

戦場においていかなる場合でも私情は挟まない。

例え、自らの主が相手であっても、この誇り高き番犬は決して手を抜かない。

 

「ちょっ――」

 

藤丸は慌てて礼装を構える。――が、もう遅い。

ゆっくりと、しかし着実に歩み寄って来たクー・フーリンは、マスターの目の前で立ち止まり、高々と朱色の槍を掲げた。

 

「じゃあな、マスター。オレもこれでようやく7人目。まあ、今回は運がなかったと思って次回頑張ってくれ。んじゃ――その心臓、貰い受ける」

 

狙うは心臓。

ただ上げて、振り下ろす。

それだけの動作だが、相手はサーヴァント。

ならばその槍は藤丸にとって必中であることに変わりはない。

その後の結末は決まっている。

紅い棘は吸い込まれるように藤丸の心臓へ向けて振り下ろされ――

 

「ふん……だから油断するなと言っただろう? マスター」

 

「エミヤオルタ!」

 

マスターをかばうように、藤丸と槍兵の間に割って入った漆黒の弓兵によって防がれた。

 

「…………」

 

「…………」

 

結末は決まっていた。

これが聖杯戦争だというのなら、サーヴァントがマスターを襲うのは道理であり、サーヴァントがマスターを守るのもまた必定だ。

激突した因縁の2人は静かに睨み合い、その間に藤丸は両者の邪魔にならないよう後退する。

至近距離で朱色の槍とモノクロの双銃が鍔ぜり合う緊迫の最中。

それでもエミヤオルタは頬を吊り上げ、詰まらなそうに皮肉った。

 

「敵に情けをかけるとは余裕だな、クランの猛犬。オレ如き、隙を突く必要すらないか?」

 

「あん? 意地汚いお前と一緒にするな弓兵。黒くてもその減らず口は相変わらずだな。お前との戦闘にマスター巻き込む訳ねえだろ」

 

「ふん。その割にさっきは随分な態度だったが」

 

「それはそれ。勝負に私情を挟むほど鈍っちゃ――」

 

同時。2人はマスターが安全圏まで離脱したのを確認した。

瞬間、

 

「――――いねえよ!」

 

「――――っ!」

 

閃光と共に両者が弾けた。

クー・フーリンは自身の槍の間合いへ。エミヤオルタはその1歩後ろへそれぞれ後退。

 

「はっ――!」

 

息つく暇も与えず、ランサーの朱槍が猛威を振るう。

最速の槍兵の攻撃は、エミヤオルタを以てしても捉えることができない。

認識できないのであれば、それは防げないのと変わりない。

故に、本来はこれで終わり。

両者には明確なスペック差と、覆せぬ相性差がある。

対クー・フーリンにおいて、エミヤオルタは不利と言わざるを得ない。

あっけなく、最速の槍は無防備なエミヤオルタの胸を捉え――

 

「ふっ――――!」

 

しかし、確実に心臓を貫くはずだった不可避の一撃は、如何な奇跡か双銃によって弾かれる。

 

「――――しっ!」

 

続けて2撃。

構えの甘い脇と、防御の薄い左頭上へ。

クー・フーリンの槍は正確無慈悲にエミヤオルタの隙を突く。

どちらも必殺の威力を誇る渾身の2連撃。

相手の隙をついた会心の攻撃だ。

が……。

 

「――――――っ!」

 

まるで初めからそこに槍が来ることを予期していたかのように、再び据え置かれた銃型の夫婦刀が必殺であるはずの刺突を阻む。

更に続けて、3撃。4撃。

しかし、結果は変わらない。

――それは奇妙な攻防だった。

圧倒的に優勢なのはクーフーリンだ。

エミヤオルタの防御が僅かでも遅れれば即致命傷。その瞬間勝負は決定するだろう。

なのに、その時は一向に訪れない。

エミヤオルタは紙一重でクーフーリンの攻撃を避け続ける。

故に無傷。

これこそ弓兵の心眼。鍛錬のみにより至る、剣撃の極地。

皮肉にも、どれほど記憶を失っても。どれほど体が崩れても。男の体に刻み込まれた戦闘技術は色あせない。

本来、防げぬはずの1撃が防がれ続ける。

そのあり得ない――いつも通りの――事態にクー・フーリンは嫌そうに眉を顰める。

このままでは埒が明かないと判断したのだろう。

 

「ふっ――――!」

 

先に切り札を切ったのはクーフーリンだった。

クー・フーリンの構えが普段より一層低くなる。

同時に、朱色の槍を中心に暴力的な量の魔力が渦となって逆巻荒れる。

クー・フーリンが宝具を使用しようとしているのは一目瞭然だ。

そして、エミヤオルタはその構えを知っている。

――それは一撃必殺の1撃。クランの猛犬の誇る正真正銘の切り札『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』

放たれれば最後。必ず心臓を貫く不可避の死棘。

エミヤオルタにこの宝具を防ぐすべはない。

しかし……。

 

「――――」

 

防げないのなら、安全圏に避ければいい。

強力な宝具であるが故に、その対処法はカルデアにおいて周知されている。

当然、エミヤオルタが対策を怠るはずがない。

クー・フーリンの行動をまるで初めから予知していたかのように、構えたと同時にエミヤオルタはバックステップで距離を取る。

離れられては必殺の1撃も届かない。

瞬時に安全圏まで逃れた弓兵は難なく危機を脱した――と、思われた。

 

「――――かかったな」

 

――ここまでが全て槍兵のフェイク。

エミヤオルタがバックステップを取ると同時、天性の勝負勘を持つケルトの戦士はニヤリと笑って自らも大きく後方へ跳躍した。そして、腕を上げて、新たに槍を上段に構える。

 

「――――っ!」

 

その構えを目にし、これまで戦闘経験よる先読みから、常にクー・フーリンの後の先を取り続けていたエミヤオルタが初めてこの戦闘において息を呑む。

槍を大きく振りかぶり、投擲する構えのそれもやはり必中。

放たれれば無数の鏃をまき散らし、必ず相手の心臓に命中する破滅の槍。

その名も『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』

 

「ちっ――――!」

 

己の失策に気づき、エミヤオルタは苦々しく毒づいた。

回避は不能。直前、バックステップを行っているエミヤオルタの体は僅かに硬直している。その隙をクランの猛犬が見逃すはずもない。

追撃は不可能。弓兵の腕には銃弾があれど、矢避けの加護を持つ槍兵に飛び道具は効かない。

今、エミヤオルタにはその宝具を止める術はない。

そう――

 

「――――今だ、マスター!」

 

――1対1ならば。

両者には明確なスペック差と、覆せぬ相性差がある。

対クー・フーリンにおいて、エミヤオルタは不利と言わざるを得ない。

だが。今、この瞬間。両者の間に勝負を分ける決定的な差異があるとすれば――。

 

「エミヤオルタ――――!」

 

サーヴァントの声に答え、令呪が光る。

 

「――――クー・フーリンを討て!」

 

同時、3度きりの絶対命令権は膨大な魔力を編んで奇跡を紡ぐ。

今回、藤丸がエミヤオルタにかけたのは瞬間強化。

マスターの叫びは不可能を可能にし、必中の槍がクー・フーリンの手から放たれるよりも速く、空へ――。

槍兵は空中。ならば、回避不能なのは彼も同じだ。

令呪の力で跳躍したエミヤオルタの刃はクー・フーリンの霊核を的確に捉え――。

 

「グッ…………」

 

自身が矢となり、体当たりするような形で深々とクー・フーリンの心臓を貫いた。

 

「人生終了。ご苦労さま」

 

「…………」

 

捨て台詞を吐くエミヤオルタと、槍を掲げたまま動かないクー・フーリン。

そして、跳躍していた両者は引力に従って地上へ。

弓兵は華麗に着地し、槍兵は地に伏せる。

干将莫邪の刃は正確にクー・フーリンの霊核を破壊した。

故に、クランの猛犬は成す術もなく、そのまま消滅――

 

「――――ん?」

 

「――――え?」

 

――しなかった。

 

「チッ……抜かったぜ」

 

代わりに、ズ……と、体が一瞬ノイズのようにブレ、僅かに黒い靄を立ち上げる。――が、それもすぐなくなり、何事もなかったかのようにクー・フーリンはその場から立ち上がり、悔しそうに舌打ちした。

 

「わかっちゃいたが、赤いアイツと結果は同じか。あーやだやだ。クソ……また1から出直しかよ……間に合うか、オレ?」

 

と、文句を言いながらもクー・フーリンはまるで何事もなかったかのように2人へ歩み寄る。

 

「え……? え?」

 

「…………」

 

与太話では百戦錬磨の藤丸も流石に理解が及ばないのか目を白黒させる。流石に霊核を砕かれたサーヴァントが何事もなく復活したなんて話――いや、結構聞いたことある気がするが――なかなかない。

エミヤオルタはそんなマスターを守るように無言のままクー・フーリンを警戒する。

が、当のクー・フーリンは、もう戦闘は終わったと言わんばかりの気さくさでエミヤオルタを指さして言った。

 

「ていうか、そっちはマスター付きとかおかしいだろ。今回はマスターなしってルールじゃなかったのか?」

 

「マスター?」

 

「なし、だと?」

 

クー・フーリンの言葉を聞き、藤丸もエミヤオルタも揃って首を傾げる。

すると、何かを察したのか、槍兵はバツが悪そうに眉を潜めた。

 

「ん? なんだ、マスターたち知らなかったのか? そりゃあ、いきなり襲って悪いことしたな」

 

「本当だ。まったく、堪え性のない奴はこれだから困る。飯時前の犬か、あんたは」

 

「犬って言うな!」

 

エミヤオルタの嫌味に、クー・フーリンはいつも通り叫ぶ。

その様子を見て、ようやく危険度はないと見たか、エミヤオルタは構えを解き、藤丸もほっと胸を撫で下した。

 

「詫びのついでだ。この聖杯戦争について知りたきゃ教会へ行きな。オレがしゃべってもいいが……まあ、そういうこまけぇことは詳しい奴に聞いた方がいいだろう」

 

そんな彼らへ、クー・フーリンは情報だけ話すと背を向ける。

 

「じゃあ、オレはもう行くぜ。……実は今必死なんだ。ホットドックがかかってるからな! つーわけであばよ、マスター!」

 

「う、うん! ありがとう!」

 

お礼を言うマスターを背に、最速の英霊はそれこそ風のように去っていく。

特異点へレイシフトしてすぐ、嵐のような出来事だった。

残された藤丸たちは状況についていけず、ただただポカンと口を開け……。

最後に藤丸が首を傾げて呟いた。

 

「……ホットドック?」

 

 

Side???

 

同時刻。ここではないどこか。

 

――これは在りし日の、ある男の記憶。

 

彼女はいつも騒動の中心だった。

騒動の内容は様々だったが、きっかけは決まって彼女の気まぐれで。

いつの間にか多くの人を巻き込んでの大騒ぎになっている。

けれど、騒動の結末は不思議といつも温かく、彼女の振る舞いに多くの人が救われた。

だから――

 

『いい加減にしてくれ』

 

と、呆れながら――笑いながら――■■に■■■は注意する。

この時も控えめに言って世界の法則が乱れる宇宙の危機だったが、大事件を止めたはずの彼の表情は明るい。

彼だけではない。この時の騒動に巻き込まれた人々は皆、迷惑そうにしながらも嬉しそうで、誰も彼もが笑っていた。

 

『えー。何が起こったって■■が後始末してくれるならいいじゃない』

 

だから、対する■■■もどこ吹く風。満面の笑みを浮かべる。

その表情から伺えるのは絶対の信頼。どんなに自分が暴走しても、彼ならば止めてくれるという安心。

 

『何しろ■■は正義の――』

 

――ザザ……ザザザ…………―――――

 

「そうだ。■■は正義の味方だ」

 

誰かが呟く。

どこだかもわからない暗がりで、誰だかもわからない男は呟く。

だから……。

だから、あの時も■■は…………。

 

「ダメだ……」

 

その先の思考を男は拒絶した。

 

ダメだ。

ダメだダメだダメだ

ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ

 

「それだけは…………ダメだ」

 

故に、男はかつて否定した人類悪に希う。

どうか。

どうか、■■を――――。

 

「…………」

 

そして、男の願いは受け入れられた。

後は成就するのを待つばかり。

が――――。

 

「………………」

 

外の異変を察知して、伽藍洞の男の瞳にわずかな生気が戻る。

 

「…………来るか、カルデア」

 

最早、正常な思考力すら残らぬブツ切りな自意識の中、それでも覚悟を持ったまなざしで、男は確かに呟いた。

 

「なら――――聖杯戦争を続けよう」




ギャグっぽくてギャグじゃない、ちょっとギャグな短編。くらいを目指してます。
同じように、シリアスっぽくてシリアスじゃない、少しシリアス。むしろシリアル。そんな塩梅です。
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