~~ 一方その頃 ~~
sideクー・フーリン
藤丸たちが教会へ赴いている頃。時を同じく、カルデア所属のクー・フーリンは絶体絶命のピンチに立たされていた。
「や、やめてくれ……」
一騎当千百戦錬磨の勇士も今は見る影もなく、その脅威を前に情けなく悲鳴を上げながら後ずさる。
脅威は、クー・フーリンを弄ぶようにほくそ笑みながらじわりじわりと詰め寄った。
「どうした、カルデアのランサー? お前らしくもない。そんなに私の出した料理が食べられないか?」
「うっ……」
脅威を持つ男、言峰綺礼は怯えるクー・フーリンとの距離を詰めながら容赦なく『それ』を彼の顔の前へと突き立てる。
瞬間、クー・フーリンは顔をしかめ、血の気を失い悶絶した。
クランの猛犬とも恐れられる男をここまで窮地へ追い込む――その脅威とは!
「さあ――ホットドックを食え、ランサー」
「アーーーッッ」
――ホットドックだった
抵抗空しく、言峰の手によって間違いなく胃の許容量を超えた大量のホットドックを口の中へねじ込まれるクー・フーリン。
ほどなく。シュンシュン――と、音を立てながらランサーは光の粒になって霊体を消滅させ――同時。黒い靄が発生し、何事もなかったかのように再び体が実体を取り戻した。
自らのサーヴァントが『ホットドックを食べすぎた』というあんまりな原因で1度死に、理解不能な力によって再び蘇ったという愉快な現象を目にしつつ、神父は愉しそうに笑う。
「死んでも蘇る、まったく虎聖杯とは本当に素晴らしい。よかったなランサー、これで心置きなく好物が食えるぞ」
「好物じゃねえよ! しかも、口の中痛っ! なんだそれ!? ホットドックじゃねーのか!?」
「無論、ただのホットドックではない。私の自信作――麻婆ホットドックだ」
「地獄か!」
劇物と劇物のダブルパンチに悶絶する自身のサーヴァントを恍惚とした眼差しで眺めつつ、言峰は愉しそうに呟く。
「死んでも蘇る虎聖杯の新ルールに加え、今回新たに現われたお前のようなカルデアのサーヴァント……。こちらも素晴らしい。まさかこれほどの召喚システムを築く組織があったとは。私も下ぼ……。優秀な部下を増やせて喜ばしい限りだ」
「今、下僕って言おうとしたろ」
「うるさいぞ、下僕3号」
「隠す気ねぇのかよ!」
しかし、クー・フーリンは口では悪態を吐きつつも逆らうことはできない。
なぜなら、この神父は――
「おーうオレ」
「お帰りオレ」
「お疲れオレ」
「…………」
と、2人が口論していると、程なくぞろぞろと槍を抱えたクー・フーリンの周りに同じ顔の英霊たちが帰ってきた。
そう、これこそがクー・フーリン1騎では言峰に逆らえない理由の一端――クー・フーリン軍団である。誰が予想しよう。令呪のないこの騒動をこれ幸いと、街にあふれたサーヴァントたちをハントしている人間がいるなどと!
この神父はカルデアのサーヴァントが街にあふれると、この騒動をこれ幸いと自身の人心掌握術を駆使し、数多のサーヴァントたちをゲット。相互監視を徹底し、その手腕によって令呪に頼らずクー・フーリンズを自らの支配下に置いていた。
しかし、これほどのクー・フーリン軍団を抱えながらも言峰の表情は固い。彼には未だ達成できていない目的があるからだろう。
帰ってきたクー・フーリンたちに言峰は苦言を呈する。
「まったく貴様らはまともにお使いもできないのか」
「いや、元はと言えばお前が教会取られたのが原因だろ」
自らを棚に上げた横暴な仮の主へ、逆にクー・フーリンが呆れながら突っ込んだ。
そう。神父は今、自身の拠点である教会をカルデアのサーヴァントに取られ、宿無しの身なのである。カルデアのサーヴァントを奪う神父が、カルデアのサーヴァントに自身の家を盗られる、なんとも因果応報な状況だった。
対抗策として、クー・フーリンたちへ虎聖杯の取得を命じたものの――結果はご存じの通り。どうやら他のクー・フーリンたちも失敗したらしい。
言峰は教会を奪われた当時のことを思い出したのか、苦々しく口を開く。
「シロウ・コトミネ……まさかあれほどの男がいるとは……」
「お前がそこまで。それほどの相手か」
「ああ」
答えながら、遠くへ意味深なまなざしを向ける言峰。
黄昏る彼の様子を目にし、クー・フーリンは固唾を呑んだ。この死んでも蘇りそうな男をこれほど追い詰めるシロウ・コトミネの知略に戦慄したからである。
――が。
「泰山の麻婆食べ放題だと……店主と馴染みの私でさえ入手困難な代物を……あの男、一体何処で……」
「案外チョロいな! お前!」
続いた言峰の言葉にクー・フーリンは盛大にズッコケた。
同時に、2人の背後にいた少女からも呆れた様子の声が上がる。
「まったく、そんなしょうもない理由で私の教会を明け渡さないでください」
「何がお前のだとシスター?」
その刺々しい物言いに言峰も心底嫌そうに振り返り、少女カレン・オルテンシアへ言葉を投げた。
対するカレンもまるで仇敵を見るかのような厳しい視線で神父を睨み、反論する。
「今は私のです。それをあなたが性懲りもなくまた横取りしたのでしょう。良い年の大人がいつまでも過去のものにご執心なんて、ストーカーの素養があるんじゃないかしら? 亡者は亡者らしく、さっさと消えなさいダニ神父」
「ふむ、それは実力不足の告白か? 同じ轍を踏む女を派遣し続けるとは、教会も随分慈悲深いものだ。君にあの教会は少々荷が重いのではないかね。この機に冬木から身を引いたらどうだ、悪徳シスター?」
「…………」
「…………」
「ホントこいつら仲悪っ!」
壮絶な毒舌合戦に、隣で聞いていたクー・フーリンがたまらず叫んだ。
この2人はここへ来てからずっとこの調子だった。どちらかが何かをすれば片方が苦言を呈し、対する方は皮肉で返す。
この屋敷のどこにいようと2人の口論は絶えることなく、今も部屋の中央でクー・フーリンズを束ねる言峰へ、椅子にもたれながら聖骸布を窓の外へ垂らすカレンが……。
…………聖骸布を窓の外へ垂らす?
「……そういえば、アンタは何やってんだ?」
その奇妙な行動に気づき、クー・フーリンはカレンへ尋ねた。
カレンは首を傾げながら答える。
「見てわかりませんか?」
「わからないから聞いてんだよ……」
「アンリマユ狩りです」
「え?」
「アンリマユ狩りです。……と、失礼――フィッシュ」
瞬間、カレンは奇妙な掛け声とともに、窓の外へ垂らしていた自らの聖骸布を釣竿のように目一杯引き上げた。
すると、聖骸布の端にくっついていた真っ黒なサーヴァントたちが力のない悲鳴を上げながら屋敷の中へ水揚げされる。
「ぎゃー」
「釣られたぜー」
「おや、ダブルゲット。大漁です」
ピチピチと、床の上を転げまわる釣りたてホヤホヤの黒ずくめサーヴァントを眺めるカレン。その声は、抑揚のないものの本当に心の底から嬉しそうだ。
「ふふふ、これでアヴェンジャーが10人……。ああカルデアに虎聖杯……なんて素晴らしいのかしら……。友達ポイントで交換できるというのがまた良いわ……。アンリに友達……ふふふ」
「こっちもこっちで怖いな……。つーか、そんなサーヴァントカルデアにいたか?」
僅かに頬を緩ませながら呟くカレンの様子に、若干クー・フーリンが顔を引きつらせながら首を傾げる。
そんな彼ら3人を眺め、また背後からある人物が声を上げた。
「あの……私の拠点で好き勝手しないでください……というか、出てってください…………」
あまりにも自由な神父とシスターコンビに遂にこの屋敷の主、バゼット・フラガ・マクレミッツが苦言を呈した。
そう。何を隠そう、言峰とカレンのいるここは、元はといえばバゼットが拠点としている廃屋だったのだ。教会をシロウ・コトミネへ譲ってしまってすぐ、言峰は何食わぬ顔でこの屋敷へ赴き、その巧みな話術によってバゼットを篭絡。なし崩し的にカレンもちゃっかり居座り、今では完全に教会組がバゼットの屋敷を占拠していた。
勝手に居座る2人を見るバゼットの表情にはいつもの覇気がなく、どこが暗い。まるで雨に濡れてダメになっている子犬のようである。バゼットは暗い顔のまま、クー・フーリンを携える言峰と、釣り上げたアンリマユを侍らせるカレンへ鬱々とした視線を投げる。
「それに、何で私にはランサーもアンリも1騎だって来ないんですか……。結構な額課金したのに……ああ、またバイト増やさないと……」
「…………」
嫉妬と自虐でダメになっている別世界のマスターを見てクー・フーリンは『多分、回すガチャを間違えてるな……』と、思うが何も言わない。
言峰とカレンもそんなバゼットを無視し、自らの悪だくみに没頭していた。
「さあ、行け! ランサーたち! 我が教会を取り戻すのだ! なお、失敗時には胃が裂けるまでホットドックを食べてもらうので覚悟せよ」
「「「ぎゃーーーー!!!」」」
「――フィッシュ! ふふ、アンリが1人、アンリが2人……」
「ああ、ランサー……。アンリ…………」
「…………やれやれ」
言峰とカレンはニヤリと笑い、クー・フーリンたちは悲鳴を上げ、バゼットの嘆きは空しく響く。そして、三者三葉の地獄にクー・フーリンは思わずため息を吐いた。
この奇妙な聖杯戦争も、終息までまだまだ先が長そうだ。
おまけ
sideクー・フーリン(冬木)
言峰にたらふくホットドックを食わされた後、カルデアのクー・フーリンは気分転換に港へ赴いていた。
そこで自由気ままに釣りをする、自分に瓜二つの背中を発見し、隣に腰を掛けながら声をかける。
「よう、冬木のオレ」
「おう、カルデアだがなんだかのオレ」
と、声を掛けられたクー・フーリンも釣りをしながら気軽に答える。
そんな冬木の自分に、カルデアのクー・フーリンはため息を吐きながら呟いた。
「こっちのオレは大変だなあんなマスターじゃ」
当然、あの神父のことである。冬木のクー・フーリンもため息を吐きながら答えた。
「まったくだ……。そっちのマスターはいいやつなんだろ? 藤丸……って言ったか? 羨ましい限りだぜ」
「……あー」
冬木のランサーは本心を告げるが、意外にも対するカルデアのクー・フーリンの反応は芳しくなかった。
歯切れの悪い様子でカルデアのクー・フーリンが続ける。
「マスターはいいやつなんだけどな……」
「なんだ、なんかあんのかよ?」
「……師匠がいんだよ」
カルデアのクーがげんなりと口にしたその言葉を聞き、冬木のクーも思いっきり顔をしかめて叫んだ。
「ゲッ、何でだよ!? あいつはサーヴァントにはなれねえはずだろ!?」
「色々あんだよ色々……」
答えながらカルデアのクーが遠い目をする。冬木のクーもその表情に色々察し、同じく黄昏た。
「師匠のいる職場を考えてみろ、おちおち釣りもできねえぞ」
「ああ。流石に師匠の視線があっちゃ、何をするにも落ち着かねえだろうなぁ……」
カルデアのクーが続け、冬木のクーも同意した。
僅かな期間でお互いの境遇に同情した2人はスカサハについて語りながら笑い合う。
「何? あの女、やっぱ全然変わってねぇの?」
「性格は全然変わってねぇな。あのままでいいのかねぇ……」
「ありゃ死んでも治らねえだろ」
「違いねえ」
「はっはっは!」
「はっはっは!」
「はっはっは!」
と、背後から同じく笑い声が1つ。声は女性。それもどこかで聞き覚えのある、背筋が凍るような響きだった。
全てを察し、2人が恐る恐る後ろを振り返ると……。
「…………」
「…………」
「久しいな、馬鹿弟子共」
案の定、そこには話すクー・フーリンたちを見下ろすスカサハの姿があった。
その表情は驚くほど爽やかで、笑みすら浮かべている。――が。長い付き合いの彼らにはわかる。――あっ、地雷踏んだ。と……。
事態に気づいた2人は、同時に悲鳴を上げた。
「ゲッ!? 師匠!?」
「一体いつから!?」
「はじめからだ、戯け!」
それが合図となったかのように、スカサハは問答無用の戦闘態勢に入り、クー・フーリンたちは火が付いたかのように慌てて飛び退く。
「やっべ逃げろ!」
「できると思うたか――フィッシュ!」
「「ぎゃー!」」
しかし、完全な不意打ちを喰らい、冷静でない2人がスカサハの魔の手から逃れられるはずもなく……。
冬木の港に、男2人の断末魔が響いた。
クー・フーリンたちの受難は続く…………。
間が空いてしまい申し訳ありません
今回は前回予告した通り、本編はお休みで番外編
1話に出てきたあんにゃろうと2話で出番を盗られたあんにゃろうのお話です
次回は普通に本編の更新ができると思います
多分……きっと……予想外の予定とかがなければ……
そんな感じで相変わらず緩々の作品ですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします