亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第3話 藪から虎 前編

Sideカルデア

――藤丸立花は夢を見ていた。

それは、こことは違う遠い世界のどこか。ある心を鉄にした男の記憶。

 

――正義の味方になる。

 

それだけが、その男のすべてだった。

その在り方でのみ、男は自らの生を受け入れられた。

自分を生かすもの。

自分を生かしてくれたものに、背を向ける事はできない。

 

愛する人がいた。

好きな人のことを守るのは当たり前だと、教えてくれた人もいた。

けれど、男は心を鉄に変えて、口にした。

――父親(キリツグ)と同じ道を歩むと。

 

「かわいそうなシロウ。……そんな泣きそうな顔のまま、これからずっと、自分を騙して生きていくのね……」

 

少女が告げる。男は答えない。

信じたものは曲げられない。

救えなかったものの為、これ以上、救われぬものを出してはならない。

故に、男は正しいと信じた道のために、愛する人を切り捨てた。

男はその瞬間、真の意味で正義の味方(エミヤキリツグ)と同じものになった。

 

――ならば、結末は決まっている。

黒幕を殺し、姉弟を殺し、ライバルを殺し、殺し、殺し、殺し――

男はあらゆる手を尽くして聖杯戦争を終わらせた。

 

そして――

 

……

 

…………

 

………………

 

 

「起きろ」

 

不意にそう声を掛けられ、藤丸立香は振り向いた。

同時、視界がある男の記憶から、底の見えない暗闇へと切り替わる。

その墜ちそうな暗闇の中、ぽつんと黒い影が佇み、こちらを見ていた。

 

「キミは……」

 

「オレのことなどどうでもいい。……ふん、また落ちてきたか」

 

呟く藤丸へ、黒い影は鼻を鳴らして、ついて来い、と言わんばかりに背を向ける。

 

「出口はこっちだ。すぐに――」

 

「待って」

 

が、藤丸はその背中を呼び止めた。

 

「なんだ?」

 

「このままでいい」

 

なんとなく……このままではいけない気がした。

ここが危険な場所だというのは本能でわかる。こんなものを何百と抱えれば、藤丸の中身は一瞬で塗りつぶされてしまうだろう。

けれど……この時、この特異点でだけは……。

藤丸の姿に、黒炎の男は眉をひそめた後、あきらめたように首を振る。

 

「……いいだろう。だが今宵はもうやめておけ」

 

と、男は藤丸の顔の前へ手をかざし、

 

「さあ、目覚めの時だ」

 

――

 

――――

 

――――――――

 

「…………」

 

気づけば藤丸は、急ごしらえのベッドの上で目を覚ましていた。

場所は冬木教会の礼拝堂。シロウ・コトミネがカルデアに帰還することになった後、ダ・ヴィンチちゃんの提案で、藤丸とエミヤオルタはここで休憩することにしたのだ。礼拝堂の椅子の上で横になって僅かだが仮眠をとった。

隣には、そんな藤丸を守るようにエミヤオルタが佇んでいる。ただ、どうやらこちらもいつのまにか眠っていたらしい。

 

「……ちっ」

 

藤丸とほぼ同時に目を開けて、自分の失態に気づいたのか苦虫をかみつぶしたかのような顔をする。

そして、心底嫌そうな顔で呟いた。

 

「だから嫌なんだ。邪魔な機能(きおく)があるのは……。マスター、何か見たか?」

 

「……いいや、なにも」

 

「…………そうか」

 

藤丸はただ黙って首を振る。

僅かに間を置いたが、エミヤオルタもそれ以上は何も尋ねなかった。

あれは終わってしまった世界の話。

ここにいるのは、その世界の影法師。

ならば、2人に話すことは何もない。

エミヤオルタはゆっくりとこちらへ向き直り、藤丸も静かに立ち上がる。

 

「なら、行くか。マスター」

 

「……うん」

 

まだ調査は始まったばかり。早く、元凶と聖杯を見つけてこの事件を解決しなければ。

多くの問題を抱えつつも、共通の目的の元、2人は歩きだし……。

 

「――――暗ぁぁぁい!」

 

「――――痛い!」

 

教会を出ると同時に、愉快なロリなブルマが絶叫しながら、藤丸の顎へアッパーをキメた。

あまりに唐突な出来事に目を白黒させる藤丸へ、銀髪の少女は続ける。

 

「暗い! 暗いのよ! せっかくこのわたしがサプライズしようとずっと教会の外でスタンバイしてたっていうのにあんたたち暗い!」

 

『おはようございます先輩。先ほどはよく眠れ――って、キャァァァ! 先輩! 大丈夫ですか先輩!?』

 

「うん、大丈夫じゃない……主に精神的に……」

 

教会の出口の前で大の字に倒れる藤丸を見て、マシュが絶叫した。

これまでいろいろなことを経験してきた藤丸だが、流石に出合い頭のロリブルマに顎をアッパーされた衝撃から立ち上がれそうにない。倒れたまま、どこまでも青い空を虚ろな目で眺めながら吐き出すようにつぶやく。

 

「やはり、チェイテピラミッド案件か……っ」

 

「ちょっと、わたしをイロモノ扱いしないでくれる!?」

 

思わぬツッコミに、銀髪の少女は抗議の声を上げた。そんな少女へマシュが言った。

 

『あなたはシトナイさん!?』

 

「シト――まあ、そうね。……うん、わたしはシトナイ。でも今はシトナイであってシトナイでないの」

 

「は?」

 

『えっと……では、どちら様なのでしょうか?』

 

シトナイ(?)の意味不明な言動に藤丸とマシュはそれぞれ首を傾げる。ちなみに、エミヤオルタは彼女が登場してからずっと、複雑なものでも見るかのような顔で沈黙していた。

そんな彼らへ、少女は自らの力を誇示するかのように胸を張り、高らかに宣言する。

 

「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました! 今のわたしはこの虎聖杯戦争を管理する主催者が1人! 弟子1号よ!」

 

「この聖杯戦争の主催者!?」

 

『つまり、あなたが……』

 

「元凶……!」

 

藤丸、マシュ、エミヤオルタがそれぞれ驚愕する。これから探そうとしていたこの事件の黒幕が、まさか自ら目の前に現れ、しかもその正体がこんな『アレ』な感じの少女だったとは!

彼らの心境を知ってか知らずか、弟子1号は嬉しそう様子で続けて言った。

 

「そうよ。またよくわからないモノがこっちに来たっていうから、わたしがこうしてわざわざ直接様子を見に来たの。――ふーん、あなたがカルデアのマスターで、こっちが……」

 

「…………」

 

と、弟子1号は値踏みするように一行を一瞥し、一瞬だけエミヤオルタと視線を交わす。

その瞳は先ほどまでのふざけた調子から一転、思慮深い神秘的な色へと変わっていた。少女の姿はまるで、全てを見通す女神のようであり、同時に気ままな妖精のようでもある。

弟子1号はエミヤオルタを一瞥し、物知り顔で頷く。

 

「……なるほどね。おおよその事情は理解したわ。正直、彼女の作戦が上手くいくとは思なえないけど……。まあ、対価は払ってもらう予定だし、一応手伝ってあげる」

 

「……………」

 

『あの? それは一体……』

 

「気にしないで、こっちの話よ。ね、鉄心の執行者さん?」

 

「…………」

 

弟子1号の言葉に、エミヤオルタは答えない。

代わりに鼻を鳴らして、本題へと話を進めた。

 

「……ふん、御託はいい。要は次の相手はあんたってことだろ?」

 

「流石、理解が早くて助かるわ」

 

「――っ!」

 

弟子1号はあっさりと頷き、それの意味することに藤丸とマシュが同時に息を呑む。

彼女は虎聖杯の主催者だと言った。同時に、こちらの様子を見に来たとも。

シロウ・コトミネの情報によれば、形は違えどこれも聖杯戦争。

ならば、対峙したサーヴァントが行うことは1つだ。

 

『まさか、シトナ――いえ、弟子1号さんと戦うことになるなんて……』

 

マシュと藤丸は覚悟を決め、改めて少女の姿を見る。

見て……。

 

「けど……」

 

『ええ、その前に……』

 

「な、なによ」

 

2人の視線を感じたのか、そう弟子1号は一瞬たじろいだ。

戦いの前に、どうしても確かめたいことがあった。

少し恥ずかしそうに身をよじる彼女へ、藤丸はずっと気になっていたことを尋ねる。

 

「あの……その……ふとももの大変露出した体操服のような恰好は……?」

 

そう、その一昔前に一世を風靡した、あまりにもキワドイ衣装について!

 

「…………」

 

――が、なんとこの質問に対して弟子1号は渾身の黙秘!

 

「まさかのスルー!」

 

藤丸は思わずそうツッコむも、当の弟子1号はこれも無視して、やけくそっぽく叫ぶ。

 

「うるさーい! わたしにも色々あるのよ! 色々! ――そんなことより、さっさとやるわよ! さあ、来なさい! わたしのサーヴァント!」

 

「なっ! 彼女のサーヴァントと言えば!?」

 

「知っているのか!? エミヤオルタ!」

 

自らのサーヴァントを呼び寄せる弟子1号へ、そう身構えたのはエミヤオルタだ。

尋ねる藤丸へ、エミヤオルタは息を呑みながら警告する。

 

「ああ、気をつけろマスター! 第5次聖杯戦争で彼女が連れていたのはギリシャの大英雄。12の偉業をなした半人半神!」

 

「まさか、カルデアもオケアノスで何度も追い詰められたあの!?」

 

彼の言葉が示す人物を察して藤丸も驚愕して身構える。

かの英霊の恐ろしさは嫌というほど知っている。圧倒的なステータスと反則級の宝具を持つ正真正銘のトップサーヴァント。まさか、あの英霊がこんなギャグ空間に!?

そして――驚き、固まる2人へ答えるように。弟子1号のサーヴァントが高らかに名乗りを上げた。

 

「――ふっふっふ。そう、私こそ世界を救う大英雄! ――あれは誰だ? 美女か? ローマか? えっ、これ別の人の口上? ……まあ、細かいことは気にしない。とーう!」

 

と、その人物は大声で叫び、弟子1号とエミヤオルタたちの前へと姿を現した。

果たして、弟子1号のサーヴァントの正体とは!?

 

「バビロニア星からやってきた! 私こそは冬木のび――」

 

――バキュン。

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

……まあ、当然ジャガーマンである。何故か、いつもの虎着ぐるみから剣道着姿へフォームチェンジしているが、その頭にはしっかりケモミミがついていた。

ジャガーマンの姿を確認すると同時に、無慈悲にもエミヤオルタの弾丸が炸裂。ジャガ耳のナマモノは絶叫しながら紙一重で回避する。

 

「……ふ、ふふふ。流石は黒いアーチャーさん……。こ、この私相手にノータイム発砲とはやるわね……ブルブル」

 

「あ、相手にとって不足なしっすね、師しょー……ブルブル」

 

よっぽど撃たれたことが怖かったのか、先ほどまでの大見得はどこへやら。ジャガーマンと弟子1号はミジンコのように震えながら、弱々しく、しかし、それでもしっかり啖呵を切った。

そんな彼らへ、藤丸はドン引きしつつも尋ねる。

 

「……えっと、ジャガーマンだよね?」

 

「――ノゥ! 私はジャガーマンなどというちょっとお茶目なお色気ムンムン有能サーヴァントではない! 冬木を救う謎の美人英語教師にして、弟子1号がサーヴァント『タイガ』なり! ババーン!」

 

「美人」

 

『英語』

 

「教師」

 

「おっ? 何ニャ、マスターちゃんたち? ケンカなら買うわよ~? シュッシュッ」

 

お惚けジャガーの言葉に、絶句する藤丸、マシュ、エミヤオルタ。3人の反応を見たジャガーマン改めタイガは、なおも挑発的な態度でそう言い、何故かシャドーボクシングを始める。

残念過ぎる自称美人お姉さんの言動に、エミヤオルタはため息を吐きながら言った。

 

「……はあ。どっちでもいいが、要はあんたが相手なんだろ……。さっさと済ませるぞ、マスター。この手合いは長引くと面倒だ」

 

「うん……まあ、そうだね……」

 

諦めた様子で銃を構えるエミヤオルタに、藤丸も仕方なく同意する。

とても嫌だが……本当に嫌だが……。ジャガーマンがこの事件の鍵を握っていることは間違いない。どちらにせよ、対決は避けられないだろう。

エミヤオルタは軽蔑した眼差しでタイガと弟子へ銃を突きつけながら冷たく言い放つ。

 

「ルールはどうする? 手っ取り早いコイツでいいか?」

 

対するナマモノ2人は銃口を向けられながら言葉の弾丸を受けて再び顔を青くした。

 

「ひえっ……師しょー、あいつホントおっかないっス……」

 

「お、落ち着け……落ち着くんだ、我が弟子……。神父さんも言ってなかったかニャ!? 今回殺しはなーし! 私の背中が虎柄な内は、あなたにそんなこと絶対にさせません!」 

 

と、涙目になりながらもエミヤオルタの提案を拒否するジャガー。そのまま意を決したかのように竹刀を構えて魔力を回す。

 

「――というわけで、宝具『無限の道場(タイガー・魔方陣)』発動ニャ!」

 

瞬間、タイガを中心に世界が炎のように捲れ上がる。

虎模様の街並みは一瞬で無限に竹刀を内包する荒野へ。地面の落ち葉は12か月を表す花札のカードへ。

一瞬のうちに心象へ取り込まれた藤丸たちは予想外の大技にそれぞれ驚きの叫びを上げる。

 

「――っ! いきなり宝具!?」

 

『エミヤさんの宝具に似ていますが……まさか固有結界!?』

 

そう、これこそタイガの持つ宝具『無限の道場(タイガー・魔方陣)』。術者の心象風景を具現化し、一時的に世界のルールさえ捻じ曲げる大魔術『固有結界』である。

――これはマズイ。と流石の藤丸も緊張感を走らせる。

固有結界は皆、規格外の能力を持つ。内部に取り込まれた時点でこちらが圧倒的に不利。

 

「いったい、どんな効果が!?」

 

唖然とするカルデアの一行へ、ジャガーは得意げに胸を張りながらその驚くべき効果を口にした。

 

「――この結界内ではすべての争いごとはこの花札によって勝負が決する!」

 

『…………』

 

「やはり、ギャグ宝具……」

 

「うるさーい! これでも正真正銘、由緒正しき(?)固有結界ニャよ!」

 

沈黙するマシュと、もう好きにしてくれ、と達観顔の藤丸へ、タイガが咆哮する。

しかし、エミヤオルタだけが苦い顔でマスターの認識を正した。

 

「――いや、悔しいがこのトラの言う通りだマスター。一見ふざけた効果だが、格上相手を問答無用で自分の得意とする土俵へ引きずり降ろす大変強力な宝具だ。警戒しろ」

 

「なっ――」

 

そう、どんなにふざけた見た目でも、性能だけ見れば破格の宝具『無限の道場(タイガー・魔方陣)』。風の噂によると、ある世界ではこれを使用したサーヴァントが花札だけで聖杯戦争の優勝を掻っ攫ったとか掻っ攫わなかったとか……。ちなみに、消費する魔力はミカン1個分。……ふふふ、意味が分からない。

エミヤオルタに絶賛されたタイガは得意顔で指さす。

 

「流石黒いアーチャーさん、わかってるぅ。さあ、マスター。山札からカードという名の剣を抜くニャ」

 

「…………」

 

タイガにどや顔でそう言われ、藤丸は改めて目の前に用意された花札へ目を落とした。

この世界ではすべての勝敗が花札で決定する。つまり、藤丸たちは否が応でもこの花札から逃れられない。――このナマモノ2人相手に!

どちらにせよ、こちらに拒否権はない。

藤丸は覚悟を決めて、山札へを手を伸ばす。

その闘志に、タイガと弟子1号も真剣な面持ちで頷く。

そして、タイガが勝負の開始を告げるように叫んだ。

 

「いざ! ――トラぶる花札!」

 

こうしてタイガと名乗るジャガーマン相手に、花札勝負をすることとなったカルデアの一行。

果たして、カルデアのマスターたちはナマモノ2人に花札で勝ちジャガーマンを捕らえることができるのか!?

後半に続く!




後半に続いた。マジか……。多分、作者が一番驚いてます。
お待たせしました。ジャガころ第3話『藪から虎』前半部分の公開です! 

短くサクッと終わる予定が、まさか毎話毎話1万文字を超えるヘヴィな作品になると……。やっぱり1話は5000文字くらいが読みやすいよね、と遠い目で呟いてみる。
アニメバビロニア……佳境ですね……。
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