亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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第6話 虎より団子 後編

Side???

 

――夢を見た。

 

――かつての日々の夢を見た。

 

温かな食卓があった。

 

大切な人がいた。

 

修羅の道を歩みながら、そんな自分を気遣ってくれる家族がいて。応援してくれる人がいて。自分のことのように腹を立ててくれる友もいて。――たった数日だったが、忘れがたく頼もしい騎士がいた。

 

その誰もが笑う、夢のような日々があった。

 

きっと何物にも代えがたい、かけがえのないモノだった。

 

だから、男は――

 

『信じたものは曲げられない』

 

――自らの手で、その輝かしい日々と決別した。

 

切り捨て。殺し。裏切り。殺し。殺し。殺して、殺した。

 

家族を殺す男に躊躇はなく。

 

ライバルを裏切る男に死角はなく。

 

愛するものを殺す男に敵はなかった。

 

故に男は理想を叶え。

 

その果てで、

 

「――士郎」

 

「藤――――」

 

何か、大切なモノを失った。

 

 

sideカルデア

 

アルトリアオルタを満足させる料理を作る、という料理対決。――もとい、接待調理をすることになった藤丸立香。こんな茶番にエミヤオルタが付き合うはずもない。

彼の力を借りる必要はない、と1人意気揚々と調理を始めた藤丸だったが……。

――結論から言えば、瞬く間に挫折した。

 

「これは?」

 

出来た最初の料理をフォークで口元へ運びつつ、アルトリアオルタが半目で尋ねる。

ちなみに彼女は今、円卓の騎士の皆さんによって設えられた玉座のようなテーブル席に腰を掛け、藤丸の出した料理を食べている。簡素ながら騎士たちの執念が感じられる力作で、教会前ということもあり、彼女の座るそこだけちょっとした異世界が広がっていた。

そんな場の雰囲気と後ろめたさも相まって、藤丸は不正を暴かれた貴族さながらに目を逸らしながら答える。

 

「フライドポテト……のはずです」

 

「……ふん。確かに、ポテトならばレシピを知らずともある程度のものが作れるだろう。どこぞの騎士が大量に用意した食材を活用したことも評価しよう。――が、そんな出来合いで私が満足すると思ったか?」

 

「ぐっ……」

 

「出直せ。――それはそれとして、この完成品は頂こう」

 

――

 

続く2品目。

 

「これは?」

 

再びアルトリアオルタは不服そうに尋ね、藤丸が顔を歪めながら答える。

 

「……ターキーです」

 

「外はグズグズ。中はパサパサ。油の温度を間違えたな、出直して来い。――それはそれとしてあるだけ貰おう」

 

――――

 

3品目。

 

「これは?」

 

「ハンバ――エッグバーガーです」

 

「開き直ったな? 大方、具の調理に失敗し、急遽ハムと卵で代用したのだろう? 出直せ。無論、完成品は――」

 

――――――

 

4品

 

「これは?」

 

「…………シチューです」

 

「得意料理へ逃げるな。もはや何も言わん。――出直せ」

 

――――――――

 

5

 

「これは?」

 

「ビーフシ――」

 

「出直せ」

 

――――――――――

 

「ポト――」

 

「出直せ」

 

――

 

――――

 

――――――

 

こうして王からリテイクを受けること数回。すでにお手上げ状態だった。

確かに、藤丸には多少の料理スキルがある。今回の勝負、エミヤオルタなしでも大丈夫だと思ったのも嘘ではない。しかし、藤丸の料理スキルはあくまで自炊レベル。一通りの調理はできるがそれだけだ。

また、実際に料理を始めてから気づいたのだが、そもそも藤丸はちゃんとしたレシピをカレーくらいしか完全に記憶していなかった。

 

「せめてレシピがあれば……」

 

呟くが、当然レシピの持ち合わせなんてない。

ここまで記憶の中から必死にアルトリアオルタの好きそうな料理を思い出し、手探りで調理してきたが付け焼刃で上手くいくはずもない。自炊なら、うろ覚えのレシピで十分だが今回はそうではない。自分用に作るのと他人へ振舞うために作るのでは訳が違う。

まだまだ自分の腕は他人へ振舞えるレベルではないことを痛感し、無力感から天を仰ぐ。

それでも、

 

「…………よし、休憩終わり」

 

諦めるわけにはいかない。

幸い、この料理勝負に時間制限はないし、アルトリアオルタの胃袋に限界もない。下手だろうと、何回トライしようと、最終的に1度でも彼女が満足する料理を作れればこちらの勝ちだ。

勝負の行方はまだ分からない。

それに……。

 

「……うん。エミヤが言っていたことも、ちょっとわかる気がする」

 

料理は楽しい。

特に、相手の喜ぶ顔を想像しながら作ると、こちらも自然と笑みが漏れる。

もっと、おいしい料理を。

もっと、みんなに喜んでもらえる料理を。

だから、

 

「さて、次は――」

 

と、藤丸は嬉しそうに自分の戦場へと戻っていった。

 

 

――そんな彼を見守る視線があった。エミヤオルタだ。

調理を辞退した後、彼は監視するようにアルトリアオルタの近くを陣取り、マスターの背中を眺めている。

長年調理場から離れていたエミヤオルタから見ても、マスターの手際はお粗末だった。まず、下ごしらえがなっていない。あれでは騎士王様を満足させるなんて夢のまた夢だろう。

それでも。

 

「…………」

 

眩しいものを見る様に目を細める。

状況は限りなく悪いというのに、あれこれと試行錯誤するマスターはなんだか楽しそうだ。

そう。まるで、幼い頃の――

 

「――チッ」

 

エミヤオルタは、また要らない感傷に浸っていることに気づいて苦々しく毒づき、思考を放棄する。

この特異点へ来てから、こんなことばかりだ。

そんな大切なモノ(ガラクタ)、とっくに捨て去ったはずなのに。

 

「…………いや」

 

多分、そうじゃない。

もっと前から。

このカルデアで仕事を始めてからというものエミヤオルタは――

 

「……ん?」

 

と、ここで監視していた気配が変化したことに気づき、顔を上げる。

振り返ると、先ほどまで黙々と藤丸が作った失敗作群を消費していたアルトリアオルタが手を止め、嫌味たっぷりな笑みを浮かべてこちらを覗いていた。

エミヤオルタはぶっきら棒に尋ねる。

 

「なんだ?」

 

「何、貴様が愉快な面をしていたのでな。どうした、悪夢にでもうなされたか?」

 

「バカバカしい。サーヴァントは夢を見ない。見るのは……」

 

――が、ここでエミヤオルタはアルトリアオルタが言わんとしていることに気づき、より表情をより険しくする。

……まったく、本当に悪い夢だ。

エミヤオルタは苦し紛れとばかりに睨み返しながら呟いた。

 

「……余裕だな。今すぐ殺して押し通ってもいいんだぞ」

 

「ほう、吠えたな弓兵。確かに、貴様なら不意を突けばそれも可能だろう。――が、そこのマスターは1度死ぬぞ。それでよければ、私は一向に構わんが?」

 

しかし、この反撃もまったく通じず、アルトリアオルタは挑発するように椅子へ座ったまま軽く聖剣を持ち上げた。

無論、エミヤオルタも本気で一戦交える気はない。

――やはり、先のアレはパフォーマンスか。と、このやり取りでアルトリアオルタ側に敵意がないことを確認し、自分も矛を収める。

そんなエミヤオルタの様子を見つめ、アルトリアオルタは僅かに首を傾げた。

 

「……しかし、聞いていた印象と随分違うな」

 

「何?」

 

「貴様のことだ。行程を無視し、効率を優先する男だと聞いていたが……。ふん、まるで逆だな」

 

と、エミヤオルタを値踏みするかのように見まわし、鼻を鳴らす。

 

「私は無駄だと進言したが、あながちタイガの見立ても――」

 

「――前言撤回だ。今すぐ消えろ」

 

「やってみろ。今の貴様など高が知れている」

 

それだけ告げて、アルトリアオルタは視線を外し、藤丸へ戻す。

もう語ることはないということだろう。

エミヤオルタも正面へ向き直り、顔を歪めた。

 

「…………」

 

確かに、今の自分はらしくない。

アルトリアオルタがマスターへ危害を加えるつもりがないと確認できた以上、自分がこの場に留まっている理由がない。

本来なら、マスターの護衛など無視し、自分1人で元凶を追うべきだ。冷静な部分の自分がそう判断する。

しかし、体は一向に動かない。

視線は調理をするマスターへ向き、思考は――

 

「……バカバカしい」

 

記憶が戻って、腑抜けになったと?

あり得ない。

多少、記憶が戻った程度であり方が変わるわけがない。

この身はサーヴァント。

人を殺すしか能のない殺人機械だ。

――なら、意地を張る必要がどこにある?

 

「……やれやれ」

 

そう、何事も効率優先。

ただ、それだけの事。

食材を切る包丁だって人を殺せる。

なら、逆もまた然りだろう。

切れ味なら折り紙付きだ。

だから――

 

最後にもう1度、

 

「くだらない」

 

と、吐き捨てつつ。

エミヤオルタはマスターへ歩み寄った。

 

 

――その頃、藤丸はハンバーガーに再チャレンジしていた。

やはり、アルトリアオルタといえばこの料理だろう。

先ほどはハンバーグを作るのに失敗してしまいダメ出しを食らったが、出された品を見るアルトリアオルタの目は少し嬉しそうだった。恐らく、彼女が食べたいのはこの料理だろう。

なら、勝負をするならここだ。

 

「…………むう」

 

しかし、やはり肉料理は難しい。

調理はまたしても難航していた。

そもそもレシピがないので、調理工程がかなり怪しい。

 

「確か、ひき肉と玉ねぎと卵……卵って、ハンバーグのどこに使ってるんだ?」

 

こんな調子なので材料すらあっているか疑問だ。

確かパン粉も入っていた気がするが……全部混ぜて良かっただろうか……? 

料理は正確さが命。悩んだ時間だけ鮮度も落ちる。

このままでは、またボツを喰らうのは目に見えていた。

そうして、あーだ、こーだ、と四苦八苦していると、

 

「……やれやれ 見ちゃいられないな」

 

そんな藤丸の背中へ、歩み寄る影があった。

 

「違う、ひき肉は温まる前に手早くこねろ」

 

と、その影は藤丸から乱暴にボールを取り上げる。

予想外の事態に、藤丸は呆気にとられながら振り返った。

そこにいるのは見慣れた、頼もしい姿。

最早、厨房には立たないと半ば諦めていた男の出現に、藤丸は歓喜と共にその名を呼んだ。

 

「エミヤオルタ!」

 

しかし、叫んですぐ藤丸は安直な自分を思い顔を歪めた。対するエミヤオルタも居心地が悪そうにそっぽを向く。――やはり、無理をしているのだろう。

至らない自分を恥じながら、藤丸はエミヤオルタへ向けて頭を下げ、

 

「……あの、ごめ――」

 

「――勘違いするな」

 

間髪入れずにそう遮られた。

 

「要らん気を使うな。オレは、これが最も効率がいいと判断しただけだ。……どうせ味見もできん。昔取った杵柄だ。基本くらいは教えてやる。あとはお前がやれ。ハンバーグくらいは作れるだろう?」

 

頭を上げた藤丸へエミヤオルタは淡々とした口調で告げる。

彼らしい叱咤に思わず頬を緩ませながら、藤丸は元気よく答えた。

 

「――勿論!」

 

エミヤオルタが厨房にいる。

それだけで、これほど頼もしいことはない。

サーヴァントが無理を通して駆け付けてくれたのだ。ならば、期待に応えなければ。

 

「さあ、反撃開始だ!」

 

自らを鼓舞するように藤丸は叫ぶ。

そして、2人は必殺の1撃を振舞うべく、並んで厨房に立ったのだった。

 

 

……それはそれとして。

 

「――ところでマスター」

 

と、料理の途中でエミヤオルタが声を上げた。

 

「少し、次のレシピについて提案があるんだが構わないか?」

 

「いいけど、どうしたの?」

 

「いや、どうにも乗せられたようで癪なのでな……」

 

と、エミヤオルタは意地の悪い笑みを浮かべながら、その作戦を口にする。

 

「――騎士王様にも、童心に帰ってもらおうかとな」

 

 

――そして。

 

「ど、どう?」

 

エミヤオルタと2人で作った必殺の料理をアルトリアオルタの前へ運び、藤丸は不安に押しつぶされそうな思いでそう尋ねる。

 

「ふん。食べてみないことにはわからんが……」

 

対するアルトリアオルタは、出された品を見下ろしながら値踏みして、

 

「――まず、この旗はなんだ?」

 

と、冷ややかな目で口にした。

彼女の目線の先は、彼らの出した皿の上のハンバーグ。そこへ突き刺さった小さなイギリス国旗へ向けられている。

この問いにエミヤオルタは、しれっと何でもないことのように答える。

 

「知らないか? あんたは腐っても王だからな。こちらなりに趣向を凝らしてみた。やはり、城といえば旗だろう?」

 

「そういうものか?」

 

エミヤオルタはニヒルに笑い、アルトリアオルタは不思議そうに首を傾げる。

そんな2人のやり取りを見守りながら、藤丸は冷や汗をかきながら懸命にポーカーフェイスを保つ。プレッシャーで胃が痛いし、なんなら穴はもう開いている。

ハンバーガーに再チャレンジしようとしていた藤丸だったが、エミヤオルタの進言でメニューを少し変更した。

彼が提案したのはハンバーガーからシンプルなハンバーグへの変更と、いくつかのメニューの追加。ハンバーグだけでなく、フライドポテトなどいくつかの揚げ物と目玉焼きを加えた。更にそこから、装飾にも気を使い、すべての品を1つの大皿へ盛り付け、目玉のハンバーグにはつま楊枝で作ったお手製の旗を刺す。

こうして出来たのが目の前の品であり、

 

要は――お子様ランチだ。

 

途中までノリノリでエミヤオルタと一緒に盛り付けていた藤丸だが、事ここに至り流石にやりすぎたと反省する。

多分、アルトリアオルタはこの手の冗談が嫌いだ。

獅子の尾を踏まないか、と藤丸は顔を青くしながら事の成り行きを様子を見守った。

幸いにも、アルトリアオルタはお子様ランチを知らなかったらしい。少し眉をひそめながらも、激情することなくフォークとナイフを手に取った。

そして、

 

「…………」

 

反応はなかった。

ハンバーグを口に含んだアルトリアオルタは僅かに頷いただけで、その後何もなかったかのように2口目を口にする。

その後も終始無言。

時折、僅かに頷くだけで、これまでとは一転静かに吟味する。

 

「……裁定に移ろう」

 

と、口にしたのは皿の上の品をすべて平らげた後だった。

アルトリアオルタは静かに顔を上げ、

 

「――その前に。貴様、来い」

 

不愉快そうに、エミヤオルタを目の前に呼び寄せた。

 

「……なんだ?」

 

首を傾げるエミヤオルタ。

アルトリアオルタはそんな彼を少し屈ませ、

――額を力いっぱい指で小突いた。

 

「――っ!」

 

ビシッ、と気持ちのいい音が広場に響き、エミヤオルタが顔を歪める。結構痛そうだ。

抗議するように睨むエミヤオルタに、アルトリアは鼻を鳴らした。

 

「私をバカにしたのだから当然だ。むしろ、この程度で済ますのだから感謝しろ。気付かないとでも思ったか?」

 

「だよね!?」

 

僅かに怒気を帯びるアルトリアオルタの言葉に、藤丸がほぼ絶叫しながら同意する。

そりゃあそうだ。現代の知識をある程度有するサーヴァントが、この悪ふざけに気づかないはずがない。

 

「そもそも料理自体も酷い出来だ」

 

「だよねー!?」

 

最早、悲鳴だった。やはり、先の沈黙は嵐の前の静けさだったかっ!

アルトリアオルタの容赦のないダメ出しは続く。

 

「ブランクがあるだろうにその手際は見事だった。だが、慣れないコンロに火加減を間違えたな? ほかにもいくつか細かなミスが目立つ。貴様らしくない。……それに何より――私のオーダーはジャンクだ! お上品なハンバーグではない!」

 

「おっしゃる通りです……!」

 

藤丸は謝罪も兼ねて力いっぱい平伏する。

何度でもチャレンジできる、と思っていた料理対決だったが、例外があった。アルトリアオルタがこちらに失望すれば次のチャンスなんてない。

彼女が呆れて、最早ここまで、といえばこの勝負はお終いだ。

つまり、これでゲームセット。

悔しさから唇をかむ藤丸。

しかし、

 

「――が。……誤魔化せんか」

 

「……え?」

 

項垂れる藤丸へ、アルトリアオルタは穏やかに告げた。

 

「………………私としても非常に不本意だが。どうやら求めていたのは、やはりこの味だったようだ」

 

「――っ! じゃ、じゃあ!」

 

と、アルトリアオルタの言葉に顔を上げる。

そこで藤丸が見たのは、カルデアでの彼女にはほとんど見られない、とても穏やかな――それでいて、どこか悲しそうな笑みだった。

彼女は続ける。

 

「――ああ、私は満足してしまった」

 

この言葉に藤丸は、ほっ、と胸をなでおろす。

 

「ただし、それはそれとして」

 

と、アルトリアオルタは僅かに眉を顰めた。

 

「――この配膳は論外だ。故に、もう1度真面目に同じ品を作り直せ。それを以て、貴様らの勝ちとしてやろう」

 

「も、勿論!」

 

そのくらいなら朝飯前だ。実は、元々余分に作っていたものがまだいくつもあった。

藤丸は改めて、今回作った品を盛り付け直す。

ハンバーグと目玉焼き、揚げ物をそれぞれ別のお皿へ。それだけでは寂しいので茶碗に白いご飯と、急遽簡単なみそ汁も作って一緒に並べた。

素人に毛の生えたような不細工なハンバーグにご飯とみそ汁。

最終的に出来上がったのは、そんな夕食にでも出てきそうな、ありふれた家庭料理のようなメニューだった。

そのはずなのに、

 

「…………」

 

アルトリアは懐かしいモノでも見たかのように目を細め、静かに瞳を閉じた。

そして、

 

「――ジャガーマンはわくわくざぶーんという遊泳施設へ向かった。追いかけるなら急げ」

 

ハンバーグをゆっくりと噛みしめた後。

自らの敗北を認め、勝者へ報酬を渡す。

 

「――っ! ありがとう!」

 

「……礼を言うならこちらの方だ」

 

律儀にお礼を言う藤丸に対し、アルトリアオルタは首を振った。

そんな彼女を前にして藤丸は目を丸くする。

そこには冷徹で知られるアルトリアオルタの姿はなく。

料理を目の前に、胸の前で手を合わせる彼女の姿はまるで……。

少女は優しく微笑みながら呟いた。

 

「――感謝を、カルデアのマスター。それに黒いアーチャー。例え、貴様が他人の空似であり、私がかつての私でなかったとしても――この味を再び口にできてよかった」

 

「――っ」

 

藤丸には、彼女のこの告白の意味は分からない。

だから、息を呑んだのはエミヤオルタだ。

 

――かつて、温かな食卓があった。

何物にも代え難い、輝かしい日々であり。

たった数日だけだが食卓を共にした、頼もしい騎士が――

 

「――ふっ、どうした弓兵?」

 

しかし、彼女がその微笑みを見せたのは僅か一瞬。

輝かしい日々の残滓は記憶の景色を共有するように、遠くを見つめる瞳でかつての少年へ首を振る。

 

「我らはただの影法師。そうだろう?」

 

かつての日々は、面影を残すのみ。

例え、過去に何があったとしても――それは彼らのことではない。

所詮は他人の空似。

この行為に意味はない。

それでも。きっと――

 

「……ああ」

 

表情を消したエミヤオルタが機械的に答え、剣の英雄も静かに頷いた。

そして、

 

「すまなかったな、カルデアのマスター。どうやら、図らずも茶番に突き合せてしまったようだ。――貴様の品も、皆良きものだった。機会があれば、そちらの私へ振る舞ってやってくれ」

 

「――うん」

 

と、アルトリアは謝罪と共に、そんな願いを託す。

対する藤丸は、当然だ、とばかりに大きく頷いた。

なら、もうここで出来ることは何もない。 

少女の幻は消え、厳しくも美しい暴君はカルデアのマスターへ発破をかける。

 

「では、行け!」

 

「はい、行ってきます!」

 

こうして、1つの何かが決着した。

 

「…………」

 

「…………」

 

藤丸はまっすぐと前を見つめ。

エミヤオルタは表情をより険しく、手元へ視線を落として。

この特異点がどんなものであれ、そこに思惑があるのなら、示す答えがあるだろう。

 

「――ところで、エミヤオルタ?」

 

「なんだ、マスター」

 

「あのハンバーグ、また作ってよ。……出来れば、カルデアに帰った後で」

 

「…………覚えてたらな」

 

「うん、ありがとう。……ごめんね」

 

「………………」

 

その答えがエゴだとしても。

藤丸とエミヤオルタはアルトリアを残し、再び前に進む。




なお被告は「エミヤオルタはいつもこちらにしんどい思いさせてくるので、エミヤオルタにもしんどい思いをしてもらおう思った。反省はしてないし、きっとまたやる」などと供述しており余罪の有無を……うわ! なにをするやめry
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