亜種特異点ジャガーころしあむ(オルタ)   作:朽木青葉

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一方その頃 狂戦士を巡る恋愛(?)頭脳戦

~~ 一方その頃 ~~ 

Sideイリヤ(冬木)&イアソン

 

聖杯戦争。

それは魔術師たちの血塗られた戦い。

万能の願望器を降臨させるための大規模儀式。

 

その杯を手にした者は、あらゆる願いを実現させる。

 

しかし、聖杯は1つ。

故に、魔術師たちは殺し合う。

最後の1人なるまで。

自らの願いを叶えるため。

 

――奇跡を欲するのなら、汝 自らの力を以って、最強を証明せよ!

 

そして、今宵も熾烈な戦いに身を投じ、衝突する2人の勇士がいた。

 

「今日こそ白黒つけるわよ、ギリシャ金ピカ」

 

彼女はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

この聖杯戦争を取り仕切る御三家が1つ、アインツベルンを以てして最高傑作と謳われるホムンクルスである。

人体の7割も占める魔術回路を持つ規格外の存在。

まず間違いなく、この冬木において最強のマスターであろう。

そんな彼女が、真剣な面持ちで仇敵を睨む。

自信と使役するサーヴァントへの信頼の表れか、普段は戦場ですら余裕の笑みを絶やさぬ彼女だが、今その面持ちに一切の余裕はない。

それもそのはず、

 

「いつでもいいぜ、ちびっこ」

 

対するはアルゴノーツを率いた大船長。数々の冒険を繰り広げたギリシャの大英雄イアソン。サーヴァントとしての戦闘能力は低いものの、数々の大英雄を従えてきたカリスマと高い指揮能力を誇る強敵だ。

イアソンはややすれば傲慢にも見える態度で不敵に笑い、少女を見下す。

しかし、

 

「…………」

 

その瞳に一切の油断はない。

慢心から失敗も多い彼だが、それでも負けられない戦いはある。

負けられない。退くわけにはいかない。

絶対に譲れないものがイアソンにはあり、

 

「…………」

 

それは、イリヤも同じだった。

 

両者の間合いはすでに必死。

退くなどという選択肢は端からない。

ならば、衝突するは必然だ。

静かに睨み合う2人。

 

「「せーの!!」」

 

そして今、激闘の火蓋が切って落とされた!

両者が競うはただ1つ!

 

「バーサーカーは私のもの!」

 

「ヘラクレスはオレのもの!」

 

当然――ヘラクレス(バーサーカー)争奪戦である!

2人は睨み合いながら1歩を引かずに再び叫ぶ。

 

「私のよ!」

 

「オレんだ!」

 

「私のよ!」

 

「オレんだ!」

 

大声対決!

――威嚇。それは動物に刻まれた本能。あるものは大声により自らの力を誇示し、あるものは攻撃の糸口としても使用される。

そのルールは極めてシンプル。――先に折れた方が負け!

ルール無用の極めて不毛な小競り合い(こどものケンカ)である!

ここ冬木にカルデアのサーヴァントが出没するようになってからというもの、2人はこうして顔を合わせるたびに衝突していた。

当然未だ勝負はついていない。

今宵も、このまま無効試合に終わるかに思われた――その時だ!

 

「何よ! 伝説ではあなた、バーサーカーを島に置き去りにしたそうじゃない!」

 

――イリヤが仕掛ける!

 

「あ、あれは……」

 

「どんな理由があろうと、どんな状況だろうと、置いて行くなんてサイテーよ! 私なら絶対に許さない! あなたになんてバーサーカーは渡さない! バーサーカーの主に相応しいのはこの私よ!」

 

「ぐっ……」

 

――精神攻撃!

言葉によって相手の心を先に挫く盤外戦術の基本!

精神は人間の肉体にも大きく左右する。安定したパフォーマンスを発揮するためには、安定したメンタルが必須なのは最早常識だ。

その中でも言葉攻めは速攻性とコストパフォーマンスに非常に優れた、まさに定石。ただの言葉であるが故に効果は微々たるものだが、ただの言葉であるが故に防ぐことも困難。

これにより、単純な威嚇合戦は一転、心理戦の様相を呈する!

 

「オ、オレだって聞いてるぞ! お前、ヘラクレスを従えてたくせにセイバー相手に勝てなかったそうじゃないか! オレならそんなヘマはしない!」

 

当然! 心理戦ならばこの男も黙っていない!

 

「戦略のせの字もわからんちびっ子が! 従者の足手まといになる主がどこにいる! ヘラクレスの主に相応しいのはこのオレだ!」

 

「うっ……」

 

――論点のすり替え!

政治家から、子どもを言いくるめる母親まで。あらゆる人々に活用される論争の基本戦法! 自分のことを棚に上げ、相手の弱点を突く、攻守一体の盤石な1手だ。

流石はかのイアソンと言えるが、この戦法は諸刃の剣。口論でこの1手を切るということは、相手にこの選択肢を与えるということでもある。

自分が優位に進んだ際には一転、すり替え返しをされるリスクも意識しなければならない。

 

「…………」

 

「…………」

 

故の、膠着状態。

なんだかんだ、言葉の暴力がお互いにクリーンヒットした両者は、涙目になりながらも目の前の仇敵を睨む。

攻守は逆転し、攻める立場のイアソンだが現状畳みかけるにはリスクが高い。

対するイリヤも痛いところを突かれ、攻めあぐねた状況。

打破するためには2人のとった次の行動は……。

 

「――あなたも私がいいわよね! バーサーカー!」

 

「――お前もオレがいいだろ! ヘラクレス!」

 

――丸投げ!

膠着した口喧嘩で繰り出される最終奥義!

判断基準及び責任問題を第3者に丸投げする禁断の術である! 

当然、巻き込まれる第3者はたまったものではない。

片方の味方をすれば片方の恨みを買う。

しかし、だからと言って

 

『オレはどっちも好きだよ。アハハ』

 

なんて抜かそうものなら、修羅場突入必須!

矛先はこの第3者へと向き、すべての責任を押し付けられる。傍迷惑極まりない1手である! 通常なら、この丸投げを無傷で回避する術はない。

 

しかし! 

2人の狙う本丸はかの大英雄へラクレス!

此度の現界クラスはバーサーカー!

当然、喋れない!

 

2人が欲しているのは、この膠着状態を打破するきっかけ。

バーサーカーが喋れないなんてことは常識だ。

故に、先の問いにも答えを期待していない。

――呻き声で良いのだ。

何でもいい。バーサーカーが呻き声をあげたその瞬間、

 

『ほら、バーサーカー(ヘラクレス)もそう言っているじゃない(だろ)』

 

と、自らの勝利を宣言する。

――言った者勝ち!

ペットなど相手によく使われる。相手が返事をできないことをいいことに、さもその子が自分の肯定をしたかのように仕立てる作戦だ。

無論、根拠はない。

根拠はないが、喋れない者を相手にするため否定もできない。

だからこその、言った者勝ち。

 

「…………」

 

「…………」

 

仕掛けた2人はお互いのパートナーを見つめ、固唾をのむ。

次に彼が発する一言で、これまでのすべてに決着がつくことが分かっているからだ。

そして、彼らのパートナーなる戦士は、厳かな表情でその重い口を開き……。

 

「――まあまあ、お嬢さん。それにマイベストフレンド。愛する2人が争う姿は胸が痛む……。どうか矛をお納めください。――無論、私はどちらも好きですよ、ハハハ」

 

「だからなんであなた喋れるのよ!?」

 

「だからなんでお前喋れるんだよ!?」

 

青空に、息の合った2人のツッコミが響いた。

 

今回の勝敗。

――ノーゲーム(バーサーカーが喋れたため)

 

 

――ところで。

少し後方に、そんなイアソンたちを見守る影があった。メディアリリィである。

メディアリリィは木陰に隠れながら、ヨヨヨ、と目元を拭う。

 

「ああ……おいたわしやイアソン様……」

 

「…………」

 

同じく物陰に隠れていた冬木のキャスター――メディアは、若かりし頃の自分を今にも殺さんとばかりに鋭いまなざしで睨む。

 

「……どうでもいいけど。あなた、その姿で宗一郎様の前に出たら豚にするわよ」

 

カルデアサーヴァント突然の発生による、冬木住民の苦悩は続く。

 

 

おまけ

Side黒髭

 

そこは冬木郊外の森の中。

黒髭はたまたま森を探索していると、そこで見知った人影を見つけた。

 

「……ん? おやおや、エイリーク殿」

 

見つけたのは同じカルデアのサーヴァントであるエイリーク。

エイリークはバーサーカークラスのため、本来なら喋れず、姿を見かけても声をかける意味はないが……。

この特異点では、虎聖杯の作用でバーサーカークラスは皆、理性を一時的に取り戻しているらしい。今ならば、かのバイキングの王とも交流が持てるだろう。

そう思い、黒髭はそのままエイリークへ近づき声をかけた。

 

「奇遇ですな! デュフフフ、如何ですかな? この機会にぜひ――」

 

が、フレンドリーに笑いながら歩み寄るも、対するエイリークの表情は暗い。

 

「あー、黒髭か。悪いな……」

 

「……? どうかされましたかな?」

 

こちらへ向けて手で制すエイリークに黒髭は首を傾げる。

こうして言葉を交わせるということは、やはり狂化は解除されているのだろう。

しかし、

 

「今は――俺に、近づかない方がいい」

 

「それはまたどうし――」

 

黒髭が更に歩みを進めようとした――その瞬間。

彼の足元で、何かが爆ぜた。

場所は今まさに、黒髭が足を下ろそうとしていた地面。

そこに呪詛で焼き付けることで、

 

――呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪夫に近づくな

 

と、びっしり書かれていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

それを見て、すべてを察した黒髭は、

 

「…………(無言の敬礼)」

 

「…………(申し訳ないのポーズ)」

 

そのまま、その場で回れ右。おとなしく、来た道を引き返す。

 

「……今度何か差し入れよう」

 

エイリークの苦悩も続く。

 

――

 

――――

 

――――――

 

Sideセイバーオルタ

 

カルデアの一行が冬木教会を離れて間もなく。セイバーオルタが1人、彼の残した料理に舌鼓を打っている時のこと。

 

「……行ったわね」

 

ブルマ姿のイリヤ――弟子1号が物陰から顔を出し、セイバーオルタに声をかけた。

 

「イリヤスフィール――いや、弟子1号だったか」

 

その存在に始めから気づいていたのか、話しかけられたオルタは一瞥だけして食事を続ける。

 

「貴様、見ていたのか?」

 

「ええ――あっ、そのハンブルグわたしにも頂戴」

 

「やらん」

 

「何よ、ケチ。――ひょい」

 

「あっこら――」

 

と、無視されたのをいいことに、背後から近づいた弟子1号がハンバーグを強奪。

セイバーオルタは弟子1号の口に消えるひと欠片を名残惜しそうに見送った後、真剣な面持ちで尋ねた。

 

「……ジャガーマンはいいのか?」

 

つい先ほどまで、彼女はジャガーマンと共に行動していたはずだ。

その目的は偽装と監視。協力関係にあるとはいえ、ジャガーマンはカルデアのサーヴァント。冬木の住民から見れば、得体の知れぬよそ者だ。

しかし、弟子1号はあっさりと頷く。

 

「――ええ。私の仕事はあそこでお終い。これで私もあなたも1敗だもの。今からじゃ間に合わない。ついていっても足手纏いだわ」

 

「あとは彼らに託すのみ……か」

 

セイバーオルタは眉を顰める。

それはカルデアへの不信感か。

あるいは自らへの不甲斐なさか。

弟子1号も藤丸たちが消えた方向を眺めながらつぶやく。

 

「あれがカルデアねぇ……。聞いた? サーヴァントがうん百体って」

 

「ああ。まさか、再び彼らと顔を合わせることになるとはな。どうやらあちらはカルデアの私と勘違いしていたようだが……。ふっ、懐かしい顔ぶれだった」

 

と、セイバーオルタは先ほどまで会場の設営を手伝ってくれていたかつての同僚たちの顔を思い出して微笑んだ。

 

「まさか、再び彼らと手を取り合えるとはな」

 

その奇跡に目を細める。

ちなみに、そんな円卓の騎士たちは仕事が終わると皆、仲良く街へ繰り出していった。きっと碌なことにはならない。

 

「こっちからしたら虎聖杯なんかより、彼らの方がよっぽどの脅威だわ……。ジャガーマンは用が済んだら帰るって言ってたけど……本当かしら?」

 

そんな自由気ままなサーヴァントたちの存在を憂いたのだろう。対する弟子1号は苦面する。

そして、

 

「それに――黒いアーチャー」

 

「…………」

 

「まっ、確かにほっとけない気持ちもわかるわ。あんな末路を見せられちゃ……ね」

 

エミヤオルタ。その元となった人物のことを思い、2人は押し黙る。

しかし、彼女たちにできることはもう何もない。

 

「まったく、次から次へと厄介ごとを連れてきて――任せたわよ、タイガ……」

 

だから、せめて祈るように、弟子1号は呟いた。

 

「どうか、私たちのシロウを――」

 

聖杯戦争は続く。

冬木の騒動はまだまだ収まりそうにない。




ということで、今回は再びの番外編。バーサーカーのお話でした。
やはりタイころと言えば燕尾服。燕尾服と言えばタイころ。

そして、本編もいよいよ佳境。
前作同様、ここからラストまではノンストップで投稿したいな、と思っており、出来上がるまでもうしばらくかかりそうです。申し訳ない……。

年内……年内には必ず……。いや、流石にもう少し早く……。
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