フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 アーチャー961は、この世界の真実の一端を知ったことにより、打ちのめされていたが、ドレイク達は違った。
 酒盛りをし、資源を使い切った彼女達は、不退転の決意を持つに至った。退路を自らの手で無くしたのだ。
 961がアジトで目を覚ましてから1週間近く経過していた。
 翌日の明け方、ドレイク達は今度こそ『伝説の船』を見つけるために、『砂塵の迷宮』へ最終探索に向かう。
 ドレイクは必要最低限の道具だけをホバーバイクに積み込んでいたが、()()()も持っていこうとしていた。その正体はまだ謎のまま。
 

 砂嵐の中をバイクで駆けていくアンとメアリー、ドレイク、そして1つの車体に同乗しているガレスと961。
 地面からは黒い砂で出来た巨人が次々と湧いて出て、彼女らに追いすがろうとしてくる。その内の1体の手が伸び、961の頭に触れた時、彼は己のものではない過去を幻視してしまった。

 ──無数のサーヴァント達、彼らを守るために囮となって死んでいく人間達。そして、アルジュナの名を呼ぶイアソンという男の姿を。

 手を振り払った961は、敵へ「俺は違う!」と叫ぶが、相手の勢いを増すばかり。
 ガレスと共に乗っているバイクも、エンジンに異常を来たし、敵に追い付かれそうになってしまう。
 自らを、幻視した人間達と同じように敵への囮とすることを思いついた961は、ガレスの止める声も聞かずバイクから飛び降りた。

 当然のように敵は961を囲み、彼を歓待する。
『アルジュナ』と呼び、歓喜の声を手と共に上げ、彼に迫るが──間一髪の所で、ドレイクがバイクを駈りながら現れ、攻撃を浴びせ敵の勢いを削いだ。
 スピードに任せながら961を後部座席へ回収したドレイクは、彼を叱りながら、時にはダユーの力も借りつつ逃げようとする。
 だが、敵はその姿をがしゃどくろ染みた巨体に変身させ、なおも961を求めようとしてきた。
 追い詰められる2人。敵の攻撃が届こうとしたその時、突如として現れた拳が、連撃でもって巨体を打ち砕いた。
 突然の拳の圧に吹き飛ばされるドレイクと961。
 961が目に映した拳の持ち主は、砂で出来た威風堂々たる英雄の姿であり、その瞳には深い思慮と光が込められていた。

 その光によって暗い感情から我に返った961は、落下途中のドレイクを回収し、足から魔力放出の青い炎をほとばしらせながら、その場を飛んで逃れるのであった……。


第101話 死血湖(しけつこ)から

「起きたか、キャプテンドレイク」

 時刻は星の輝く夜。冷たい砂の上に俺達はいた。

 

「……どうやら、気絶していたのはお互いさまって感じだね。ダユーも寝ちまってるみたいだ」

 あの後、俺はドレイクを抱えしばらく飛んでいたが、無理な魔力放出を行ったことで力尽き、砂へふらふらと突っ込むように落ちてしまった。

 高度も低く、地面が柔らかかったおかげもあり、ダメージは受けなかったが、俺もドレイクもその後眠るように気を失ってしまったようで。

 彼女は身を起こすと、毛布がわりとして体にかけていた外套から砂をはらい落とし、俺を見る。

 

「その焚火は、アンタが起こしてくれたのかい?」

「……そうだ」

 砂を少し掘ってくぼみを作り、そこに、俺の体に巻き付いていたロープの残渣を蹴りこんで薪にし、魔力放出で火をつけ、勢いを調整して焚火とした。

 俺も彼女も、直ぐにはこの場から動けないだろうと考え、簡素ながら野営の準備をしたのだ。

 

「あたっても?」

「どうぞ」

 彼女は一度立ってから火の前に移動し、赤く燃えるそれに手をかざす。

 

「……」

「……」

 お互いの間に沈黙が流れる。

 俺は言わねばならないことがあると思い、空の星の並びを見ながら、彼女に声をかけることにした。

 

「……説教を俺にするのだろう」

 と言った瞬間に、ドレイクは顔をしかめる。

 

「なんだい、忘れようとしていたってのにさ」

 彼女は火にかざしていた両手をこすり合わせた。

 様子を伺いながら、俺は言葉を続ける。

 

「しないのか、説教」

「はぁ……自分から進んで説教を受けようとする奴なんて、初めて見た!」

 わざとらしい態度で肩をすくめるドレイクの横顔をじっと見つめた。

 彼女が、口をしぶしぶといった様子で開く。

 

「しようと思っていたよ、さっきまではね。

 『やりたいことがあるって言ったのに、自分の命を捨てようとするなんて、バカのやることだ』ってね。

 ……でも止めた。アンタの顔みたら、その気が失せちまった」

「俺の、顔を?」

「うん。

 ……鏡も水盆も無いから確認出来やしないだろうけど、ひっどい顔してるよ、今のアンタ」

 俺は目の前の焚火へ視線を逸らした。

 

(ひどい顔、か)

 と考え込みながら。

 

「朝に顔合わせた時からひどいとは思っていたけど、まさかあんな真似をするなんてねぇ」

「すまなかった」

「謝る相手が違う。ガレスに言いな」

 彼女からの言葉で、砂の中で別れた少女騎士の姿が頭の内で蘇った。

 ガレスは無事に目的地にたどり着けたのだろうかの、不安もよぎった。

 

「酒盛りの日の夜、アンタ、ダユーか誰かに何か言われたのかい?

 それとも、お宝にも繋がらないようなヤバい情報でも握ったか」

「……」

 問いに答えるつもりにはなれなかった。

 あの金色(こんじき)の王から聞かされた話は、俺でも抱えきれないほどの重さで、その重みを、ドレイクにまで与えたくは無かったから。

 

「……アーキマンにはなーんか既視感を感じていたんだけど、分かった、アイツに似てるんだ、アイツに」

 顔を前に向けていたドレイクが、俺の横顔へ目線を移してくる。

 

「良い意味ではなさそうだ」

「アタシの頭ん中をよく分かってるじゃないか! アーキマン!

 ……そうだよ、アタシを裏切って、そんでアタシが殺しちまった親友に似てるのさ」

 冷たい風が、彼女の髪を揺らした。

 

「トマスって名前の奴で、心の底から一緒に泣き笑いが出来る親友だった。コイツとだったら、なんだって出来るって気持ちになれた。だから、どんな航海にだって連れて行ったもんさ。

 ……けど、世界一周の夢を演説で持ってぶち上げたある夜に、トマスはアタシの船を盗んで逃げだした」

 つまり彼女は、親友に裏切られた、ということなのだろう。

 

「捕まえた後、反逆の罪と船員への落とし前として、アタシが処刑した」

 焚火の中で、薪としたロープが完全な灰となっていくのを見つめながら、ドレイクの言葉を聞く。

 

「船を盗んだ理由を、トマスは最後まで話してはくれなかったよ。

 理由は……なんとなく検討がついてた。

 『世界一周なんて無理だ』、『無謀なことに挑んで死んで欲しくない』……そんな辺りかな。

 でも、それはあくまで検討で、本当のところは分からないまま」

 その後数分、ドレイクは黙り込んでいたが、意を決したかのように続きの言葉を口にする。

 

「今のアーキマンは、その時のトマスと同じ顔をしてる。

 重たいこと、全部一人で抱えてぐるぐる考え込んで、悩んで苦しんで……そんな顔さ」

 俺は座ったままの姿勢で、膝に顔を寄せる。

 

「……心配、してくれているのか」

 彼女にそう言うと、鼻で笑う音が聞こえてきた。

 

「ガレスが懐いているからねぇ、あの騎士が泣くところは見たくないもんさ。

 それに、アンタはアタシにとっての幸運を運んできてくれた、恩も感じているしね」

 自らにとって弱みとなり得る過去を話してくれたドレイクのその姿に、俺は感じるものがあった。

 自分がこれから先、どうするべきなのか相談してみたいと思ったのだ。

 

「……全てを話す気にはなれないが、少し話す」

「聞こうじゃないか」

 俺は首を彼女の方に向け、顔を見る。

 ドレイクは焚火を穏やかな表情で眺めながら、俺の声へ耳を傾けてくれていた。

 口を開くのには、大きな勇気が必要だった。

 

「自分の行動で、何もかも台無しになるかもしれない。現状が更に悪くなるかもしれない」

「うん」

「そう思うと、気持ちが折れてしまいそうになるんだ」

「うん」

「……俺は、どうすればいいんだろう」

 彼女は口角をわずかに上げると、息を吐きだしながら小さく笑った。

 

「アタシが助言できるような悩みで良かった」

 俺は、彼女が答えを口に出すまでの間に、姿勢を正した。

 

「アタシからも、少し話す」

 どんな言葉が返って来るか分からないので、覚悟をもって待っていた。

 

「──あれこれ考える前に、足を動かせ」

 だが、想像以上の答えがやってきたのだ。

 

「そして! 後のことは考えず、自分の気持ちに従って全力を出しな。以上!」

 彼女が言ったことをうまく飲み込めず、瞬きを繰り返してしまう。

 

「そんなとこまでトマスと似てるね……。

 あれだ、アーキマンは考えすぎるきらいがある。

 そういう性分の奴が前に進むには、ちょっと頭を空にする必要があるのさ」

 ドレイクは自らの頭の上で、手の平を広げるジェスチャーをした。頭を空にするということを指しているのだろうか。

 

「でも……」

「まずは手始めに、体を休めるため、何も考えずに眠ること!

 やってみな!」

 と言われても困ってしまう。だって、考えるべきことは沢山ある筈だ。

 

「ドレイク、明日はガレスやアン、メアリーとの合流をするべきだと……」

 はぐれた仲間達のことを話題に出す。

 

「船長命令だよ、もう寝な!」

 そんな俺に対して、彼女は有無を言わさぬ口ぶりで命じてきた。

 

「……はい」

 言葉に従い、砂の上に身を横たえてみる。直ぐ側から彼女の声が聞こえてきた。

 

「何か考えちまいそうになるんだったら、星でも眺めているといい。

 そのうち心が落ち着いて、眠くなってくる……」

 見上げた夜空の星は、どこまでも澄んだ光を湛え、俺を見守っているようにも、見下ろしているかのようにも見えた。

 

(考えないといけないこと、たくさんあるのに……。

 それをせずに、ただ足を動かせだなんて、自分の心に従えなんて……)

 つらつらと考えそうになってしまう思考を、意思の力でもって止めて、彼女の言う通り、目を閉じ、ただ無心となって、痛む体を休ませることに努めた。

 

 

 

 

 夜明け頃。

 昇る朝日が白の砂漠を隅々まで赤く染め上げる。どこか恐ろしいものを感じる色彩だった。

 眠り、気力と体力を回復した俺達は、不安定な地面に足を取られながらも高い砂丘へ登り、辺りの地形を確認する。

 

「ドレイク、あれはひょっとして……」

「どうやら、アタシ達が進んできた方向は間違いじゃなかったみたいだね」

 数十m下、数km先に、砂の盆地に囲まれた大きな湖が見えた。

 浜に打ち寄せながら満ちる水の色は、日に照らされずとも分かってしまうほどに赤い。

 俺は、彼女らから聞いていた単語を呟く。

 

死血湖(しけつこ)……」

 文字通り、死血を湛えているかのような異様の湖が、眼下に広がっていた。

 

 

 

 

 砂丘を滑り降りつつ湖へ向かえば、時間があっという間に過ぎていく。

 その湖畔を目指す最中にも、太陽は天高く昇って、刺すような日差しを絶え間なく地上へ注いでいた。生身の人間では耐えられないような過酷な環境だが、サーヴァントである俺達の足が止まることはない。

 

「この辺りには砂嵐は吹いていないんだな」

 数時間歩き続け、ようやく近づいてきた目的地を前にして俺はつぶやく。

 

「そのことも、リリスのなんたらのキャスターから聞いていた情報と合致してる。

 はっ! 『伝説の船』の存在にも期待がもてるじゃないか!」

 一晩寝たおかげか、ドレイクは調子を取り戻していた。今も、俺を導くように肩で風を切りながら、足取り確かに砂漠を進んでいる。

 その後ろを、俺は足を動かしてただついて行くだけだった。

 

「さて、ここがアタシと船員達が目指していた……」

「……死血湖か」

 たどり着いた目的の場所は、恐ろしくも美しい。

 異様の景色を前にして、俺の足は自然と止まった。

 ──雲一つ無い深い青の空と、その色を映しながらも波打つ、黒にも近く見えるほどの濃い赤の水。

 大きな湖の周りを取り囲むように、焼けた骨を思わせる真っ白な色の浜が広がって、俺達が立つ場所の向こう側には、詳細不明の無数の巨大残骸が突き刺さっていた。

 

「何をしているんだ?」

 風景に思わず心奪われてしまっていたが我に返ると、彼女が湖の側に寄って、しゃがみ込んでいるのが見えた。

 声をかけても返事は返って来ず。ドレイクは無言で湖面に手を伸ばし、少量の水を掬う。

 そして鼻を近づけ、臭いをかぎ始めた

 

「よく分からないものを、よく分からないまま顔へ近づけるな!」

 不用心な態度に思わず声を荒げてしまったが、言われている彼女はどこ吹く風といった表情。だが直後に、眉間へシワをよせ唇を歪めると、手に乗っていた水をそそくさと湖面へ戻した。

 

「潮の香りを何倍にも強くしたようなひどい臭いだ! ここは塩湖か!

 『死血湖』なんていうから血でも満ちているのかと思ったら、違ったね……」

 手に付いた水を振って払っている彼女の側に駆け寄り、俺は湖を見る。

 湖底が伺えぬほど濁りが強い。光をわずかに通している湖面の浅瀬へ目を凝らしてみると、小さな粒のようなものが浮いて、左右へ動いているのが分かった。風もない今の状態から考えるに、粒たちは自発的に動いているようだ。

 

「この赤い色に粒……ひょっとして、好塩性のプランクトンが生息しているのか?」

 導き出した答えを口にする。昔アスカと見たある映像資料を思い出したからだ。

 確か、フラミンゴの生態に関するドキュメンタリーだった。その中で、餌としているプランクトンについても触れられていたのだ。

 プランクトンは塩に強く、塩湖に住み、体色の赤い色をもって、湖とフラミンゴを赤く染め上げるのだそうだ。この死血湖の色も似たような理由だろう。

 この湖が出来たのはどのくらい昔のことなのかは分からないが、塩水がたまり、プランクトンがやってきて繁殖、湖が濃い赤色へ染まるほどに増え続けたのだ。

 

「プランクトン……ああ、水の中に住むっていう生き物のことか! それくらいは聖杯からの知識で知ってる。

 へぇ……海よりもしょっぱい水の中で、こんなちっこい()()のヤツが生きてきたんだねぇ……」

 ドレイクはしみじみといった様子でつぶやいた。

 

「アタシたち以外にもがんばっている奴らがいた。なんとまあ、ガッツを感じる話さ」

 上機嫌で水を眺め、水面をかき混ぜる彼女の背中を見ながら、ひとり思う。

 

(戦争によって荒廃し、『ヴリトラ』で焼かれたこの地上にも、まだ生きている命があるだなんて。

 ……生存を諦めていない命が、あるだなんて) 

 この湖には『死』という名前が付けられていながらも、中では小さなプランクトンたちが息づいていた。人間やサーヴァント、AIや機械が争っている間にも、彼らは命の循環を行い、懸命に生き続けていたのだ。

 厳しい環境な運命に悲観する事も、絶望する事も無く──ただ、生き続けていた。

 

(だとしたら……アスカやモモだってもしかしたら……)

 あり得るはずもない可能性と、『希望』という言葉が俺の胸に浮かび、消えてはくれない。

 

「さて! 死血湖の謎もすっきり解けた所で……」

 俺の後ろで砂を踏む音がした。振り返れば、ドレイクが腰を伸ばしながら立ち上がっている所だった。

 

「行こうか。『砂塵の迷宮』の最奥、赤い湖の向こう側にあるっていう『伝説の船』の元へ!」

 指さす先に見えるのは、半月型や円柱の形をとっている様々な残骸が広がる、砂の谷間。

 

 

 

 はぐれた仲間達の事を、俺達は積極的に探しはしなかった。

 ドレイク曰く、『伝説の船っていう目指す場所があるならば、向かえば自然と落ち合える』とのこと。

 納得できるような出来ないような理屈だが、俺は彼女の考えに従うことにした。

 ……思考しなければならない事は山のようにある。だが、今はがむしゃらに足を動かして、自分が出来ることをやるしかないのだ。

 

 

 

 

 湖の外周を沿うように歩き続けて2時間弱。たどり着いた時は湖の向こう側に見えた残骸が、目の前にまで迫ってきていた。

 残骸が所々に突き刺さる大きな砂丘の間には、奥まった広場があった。

 砂で出来たその谷のような地形に近づいて分かったことだが、地面に突き刺さっている残骸は木や金属製のものが多かった。俺が見ても分からないような、未知の素材などは無かった。

 

「……ドレイク卿!」

 残骸が散らばる砂の谷の間を歩いていたら、上から声が降ってきた。

 

「キャプテンドレイク! ご無事で何よりです!

 アーキマン殿も! 無事で良かった!」

 砂の斜面を滑るように降りてくるのは、知った人物、円卓の騎士の一人であるガレスだった。

 重たそうな鎧と盾を身に着けたまま、体のバランスを取りながら降りてくる。

 

「本当に良かった……。

 ガレスは、ガレスはとても嬉しいです!」

 砂埃を上げながら駆け寄ってくる彼女の顔には、満面の笑みと少しの涙が浮かんでいる。

 

「心配かけたね、ガレス。アタシはこの通り絶好調」

「はぐれた時にはどうなることかと思いましたが……」

 ガレスは、背を伸ばしたり屈めたりしながら俺とドレイクの体を見て、様子を観察しているかのようだった。

 

「無理に探そうとせず、ここに来てくれていて良かったよ」

「私はドレイク卿とアーキマン殿を探したかったのですが、お二人に反対されてしまって」

「アンとメアリーも居るんだね。いま何してる?」

 少女とドレイクはお互いの現状を確認し合っていた。

 

「アン殿とメアリー殿は残骸の調査をしています。ガレスは見張りです!」

「奥の方にいるかい?」

「ええ」

 会話が終わり、ガレスはその場に残った。砂の谷の奥へと向かうドレイクを見送った後、俺の方にやって来る。

 

「アーキマン殿、お怪我はありませんでしたか?

 バイクの座席から凄い勢いで落ちていくのは見えていたので、あれからずっと心配していたのです」

 彼女の顔は、怒っているような困っているような下がり眉。

 

「キャプテンに助けてもらえたおかげで、怪我はないよ」

「それは何より、何よりです!

 ……これ以上怪我が増えたら、全身傷だらけになってしまいますものね」

 ふっと気を抜いた表情を見せる彼女に対し、俺は罪悪感がつのっていた。

 ガレスは柔らかい笑顔のまま、言葉を続ける。

 

「背中を預けられる友を得られることは、人生において至上の喜び。

 そして、それを失うことほど辛いことはありませんから」

 俺は彼女に対し、申し訳なさから返す言葉も無かった。

 肩を落とすしかない俺の背を、誰かが叩く。首だけを後ろに向けてみれば、ドレイクに呼ばれてきたのか、アンとメアリーが立っていた。俺の背を叩いていたのは小柄な方のメアリーだった。

 彼女は、銀の髪に付いた砂を手で払い落しながら言う。

 

「はい、アーキマンは反省すること」

「彼女ったら、とっても落ち込んでいたのですのよ」

 アンが『とっても』の部分に力を込めて言った。

 メアリーは、こちらに歩いてきているドレイクへ声をかける。

 

「キャプテーン! アーキマンにちゃんと説教した?」

 声をかけられた彼女は、言葉を返しながら羽根つき帽子を被りなおす。

 

「したした。耳にタコが出来るほど言ってやったから、もうこの件はおしまい」

 そして手を数回叩いた。歌舞伎において、場面転換を観客へ教える拍子木のような、乾いた音が砂の谷間(たにあい)に響く。

 

「3人とも、アタシ達より先に到着して、ここを調査してくれていたんだろう?

 その結果を教えとくれ」

 ドレイクの言葉を聞き、主立(おもだ)って調査を行っていたらしいアンとメアリーが、互いに目配せしあってから報告を始めた。

 

 

 第101話 死血湖(しけつこ)から

 終わり




 単語説明


 好塩性プランクトン
 強い塩分濃度や紫外線下でも、生存・繁殖が出来る動物性のプランクトン。この過酷な世界が進化を促したのか、現実世界のプランクトンとはかなり違う。
 体内にアスタキサンチン(カニやエビの甲殻にも含まれている赤色の色素)を多量に含む。湖が死血と見紛うばかりに赤黒く染まっていたのはそれが原因。
 
 400年前、このプランクトンの類まれなる生存能力に、リリスのサーヴァント2騎は目を付け、湖周辺に基地を作り観察しては愛でていた。


 死血湖(しけつこ)
 上の名前は通称。本来の名前はあるが、みんな忘れてしまった。
 数千年前からあった湖で、全面地獄と化した地球で、極限の塩湖となりながらも水を保ち続けていた。
 リリスのサーヴァント『アサシン』が目を付け、湖を保護。
 周辺には、自然植物や虫も息づくビオトープも設置されていた。

 その後ビオトープや基地は、『射手座の機械化サーヴァント』の暴走によって破壊された。
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