フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 謎の英雄の助けもあり、敵から逃れることが出来た961とドレイク。
 砂嵐を抜け、砂丘で焚火を起こしながら休息を取っていた。
 961は、ドレイクが先に言っていた『説教』を求める。そんな愚直な彼に対し、彼女は静かな声で話し出した。
 「酒盛りの夜の晩に、何かを聞いたんじゃないか」、「今朝から様子がおかしいと思っていた」ということを。
 問いかけに、961は真相を話すことは出来ず、黙り込む。ドレイクは続けて、彼を「自分の親友と似ている」と言った。
 ……かつて、己の手で裁かざるを得なかった親友『トマス』とそっくりだと。
 
「今のアーキマンは、トマスと同じ顔をしてる。
 重たいこと、全部一人で抱えてぐるぐる考え込んで、悩んで苦しんで……そんな顔さ」
 そう不器用にも心配してくれるドレイクの姿を見て、961は、自身の胸の内を少し明かした。「自分の行動で、何もかも台無しになるかもしれない」、そんな怯えの心境を。
 彼へ、ドレイクは明るくこう返す。

「──あれこれ考える前に、足を動かせ」
 そして! 後のことは考えず、自分の気持ちに従って全力を出しな。以上!」
 驚きの表情を見せる961へ、彼女は言う。

「アーキマンは考えすぎるきらいがある。
 そういう性分の奴が前に進むには、ちょっと頭を空にする必要があるのさ」
 まずは体を休めようと961に提案、いや命ずるドレイク。
 言われた通り、何も考えずに眠った961は、しばらくぶりに安寧を得ることが出来たのであった。

 翌日。ドレイクと961の二人は当面の目的地であった死血湖(しけつこ)にたどり着く。
 おどろおどろしい名前とは裏腹に、湖には赤いプランクトンがひしめき、過酷な環境であろうと懸命に生き抜いていた。その姿を見て、961の脳内に、『アスカやモモ、仲間達が生きているかもしれない』という希望の考えがよぎってしまう。

 その後も幸運は続き、死血湖(しけつこ)を越えた先で、ガレス、アン、メアリーと再会をする。

 再会の場となった砂の谷間には、大小さまざまな瓦礫が突き刺さっていた。
 正体が分からない残骸。ドレイクは、到着していたアンとメアリーから、周辺の探索して得られた情報について、報告を求めた。
 2人は目くばせをしてから、その結果を話し出したのであった。


第102話 残骸は煌々たる

「残骸の材質は木や金属だね。地下都市で使われていたような合成樹脂製のものは無かったよ」

「わたし達に時折襲い掛かってくる、あの変な徘徊ロボットの残骸でもなさそうです」

 調査の結果を、アンとメアリーは交互に話して教えてくれた。

 

「で、なんの残骸かっていうと……キャプテンは薄々気づいているんじゃない? 海賊も船乗りも一番見たくないものだしね」

 メアリーからの問いかけに、ドレイクは腰に手を当て考え込む素振りを見せてから。

 

「……船の残骸」

 と、短く暗い声で答えた。

 

「さすがキャプテン、察しが良いね」

 メアリーは言い終えると、カトラスの切っ先で残骸を指し始める。

 

「あれがマスト、あっちが竜骨かな。

 どの時代のどんな船かまでは分からないけど、可哀想なまでにばらばらってことは確かだ」

「砂の上に座礁してから壊れたような状態、と言えますわね」

 説明に対し、アンが横から補足をする。

 

「でもちょっと調べてみたけど、壊れ方が変なんだ」

「変?」

 ドレイクがメアリーに聞き返す。

 

「なんて言ったらいいのかな……この場所で少しずつ朽ちたんじゃなくて、何十年も放置されてから突然壊れた、みたいな。

 残骸も辺りに飛び散っている感じじゃない、この谷間に集中してる。

 自然に壊れたにしては不自然というか、年月は感じるのに風化してないというか……とにかく変な感じで……」

 うまく説明できないのか、歯切れ悪く話すメアリー。

 俺とガレスは一様に首を捻った。

 

「何もない砂漠に置かれたんだ、壊れちまって当然に思えるけど……」

 近くにそそり立っていた残骸に、ドレイクが歩み寄って手を添える。

 

「妙なものはアタシも感じてる。ここはメアリーを信じてみようか」

 彼女の意見に、俺もガレスもうなづきを返した。

 

「調べてもらったことと、状況証拠から考えるに」

 ドレイクは砂の谷を見上げ、ぐるりと首を回しながら辺りの景色を目に映す。

 

「この残骸が、アタシ達の目指していた『伝説の船』なんだろう」

 一連の話を聞いた末に彼女の出した結論は、ショッキングなものだった。 

 

「伝説の船は、とうの昔に壊れてしまっていた……ということですか?」

 ガレスが、おずおずといった様子でドレイクに声をかける。

 

「だと考えられるけど……だったらなぜ、リリスのキャスターは『これを探せ』とアタシ達に言ってきた?

 壊れた船を見つけてなんになる? 

 移動手段まで寄こしてまで、なぜアタシを焚きつけた?」

 ガレスに答えるというよりも、自らの発言をきっかけに推論を深め、ひとりごとのような調子で話し出すドレイク。 

 そんな彼女に対し、俺は感じたことを口に出した。

 

「見つけないといけないものが、きっと、まだ()()()あるんじゃないのか?」

 俺の言葉を聞いた彼女は、にんまりと笑う。

 

「アーキマンの言う通りかもしれないね、ここに探すべき()()()があるのさ。

 だとしたら……ふむ、もうひと踏ん張りするかね。全員で大調査さ!」

 ドレイクの楽し気な声を合図に、俺達は砂の谷間に散って、怪しいものが無いかを探り始めた。

 

 

 

 

 1時間後。

 

「あった! あったよキャプテン! 怪しいもの!」

「こっちに来てくださーい!」

 二組で行動していた彼女達から声が上がった。全員で駆けつける。

 そこにあったのは、残骸の影と砂に埋もれ、隠れていた箱のような何か。

 

「大きな黒い箱ですね……」

 見つけた物の周りを歩きながら、ガレスがつぶさに観察する。

 

「船や飛行機に備えられているブラックボックスと、見た目はちょいと似てるね」

 ドレイクの声を耳に挟みながら、俺も他の皆と同じように箱を眺めた。1mほどの大きさの正方形で、表面こそ砂で擦れてはいるが、目立った破損はない。

 

(頑丈そうな物体だ)

 ブラックボックスとドレイクは表現したが、AI……都市運営システムたちの中枢に埋め込まれているあの『ブラックボックス』とは明らかに見た目が違っていたので、俺は内心ほっとしていた。

 彼らの多くはリリスに味方している、つまりこちらの敵だ。腕も無いこんな不完全な状態で相対したくはなかったからだ。

 

「でもこれ、開かない……!」

 アンが金の長髪と赤の外套を振り乱しながら、箱に指をかけ、開封を試みているが、箱はがたごと音を鳴らして揺れるばかりだ。

 

「そもそもこれは開ける物なのでしょうか、ドレイク卿」

「船長、マスケット銃で撃ってみても?」

「爆発でもしたらどうするんだい。

 しかしまぁ、このままじゃ埒が明かないのも確かだ。

 よし! アタシ達の中で一番器用で、力加減が上手いのはだれだっけ?」

 キャプテンの一言で、人物ごちゃ混ぜな会話は中断され、俺以外の全員の指がこちらに向いた。

 

「……俺にどうしろと」

「踵落とし!」

「踵落とし!」

 アンとメアリーが冗談めかしてはやし立ててくる中、俺は箱をじっと見つめる。

 

(いけるか……?)

 片足を箱の上に乗せ、体のバランスを確認。

 

(うん、いけるな)

 両手が無い状態にも慣れたおかげか、足を使って攻撃をするくらいは難なく出来そうだ。

 

「待ちなアーキマン。『考えすぎるな』とは説教したけど、お宝の前ではちょっとは考えるもんだよ」

 そのまま踵を落とそうとしていた俺を、ドレイクが止めた。

 

「キャプテン、ではどうしようか」

「ちょっと叩いてみておくれ」

 言われた通り、踵で軽く表面を叩く。聞こえてきた音に全員が耳を傾けた。

 

「見た目以上に音が軽い、空洞もやや感じます。爆弾……などではなさそうです。

 ドレイク卿、ガレスは思うのですが、これは宝箱などではなく、箱のままで機能するものなのでは?

 スイッチを押すとか、燃料を入れるなどで稼働するのかもしれません」

「ふむ。とすれば」

 ドレイクが、俺に、下がるよう手でジェスチャーをする。

 俺は箱にかけていた片足を地面へ戻し、そっと後ろに下がった。彼女以外の皆もそれに続く。

 

「──この手に限る!」

 そしてドレイクがやったのは、箱の天面を拳で叩くことだった。

 箱が揺れ、若干砂に沈み込む。

 

「……考えた末の結論か、それが」

「いや、ガレスの意見と、自分の直観を信じたまで。アンタは知らないだろうけど、アタシの勘は良く当たるのさ」

 彼女がそう言った瞬間、箱の表面に緑の光の線が走り、振動を始める。

 

「当たり!」

 無邪気な笑顔で喜ぶ彼女と、抱き合って嬉しそうに跳んだアンとメアリーの姿を横目に映しながら、俺は箱の動静を伺う。

 

『……あー、テステス。マイクテスト、マイクテスト』

 稼働を始めた箱の内側から男の声が聞こえてきた。

 

「言葉といい、音の粗さといい……録音されたものでしょうか」

「かもね」

 メアリーとドレイクは神妙な顔で、音声の分析をしていた。

 

(俺の知らない者の声……そのはずだが、やけに耳になじむのはなぜだろう)

 所々でぶつ切りとなっている音声、それに覚える既視感は何か。

 

(そうだ! この声、砂塵の中の敵に触れられたとき聞こえた、あの……!)

 人間もサーヴァントの姿も見せられた、あの悪夢のような記憶の残渣の中で、確かにこの声を聞いた。

 男の名前は……。

 

『これは、録音されたものである。録音者はこの私……偉大なるイアソン様だ』

 そう、イアソン。垣間見た記憶の中で、男はそう言っていた。

 

『こんな昼間っから呼びつけてすまないな!

 耳がオルトロスになるほど諸君達は聞いたかもしれないが、後に続く者達がため、明日より始まる最終決戦、その作戦内容を確認するとともに、こうして音声として記録に残しておく。

 良いよなー?!』

 何人か録音している場に居るのだろうか、がやがやとした周囲の声も聞こえる。 

 

『……ちゃんと録音できてるよな? 機材点検は()()()()()に任せておいたから、大丈夫、だと思いたいが……』

 男は、なぜかアルジュナの名を口にした。

 

(なぜアルジュナの名前が出る? この男は、アルジュナとどんな関わりが……)

 疑問の答えがあるかもしれないと思い、俺は静かに次の音を待つ。

 

『では、作戦説明を始めるとするか。明日はなんと言ったって、リリスの空中庭園を落とす大戦(おおいくさ)。どの作戦も絶対に失敗できない。一つでも失敗したら、きっとこの世界は滅びてしまう。

 おっほん……』

 イアソンなる男はわざとらしい咳ばらいを挟むと、文章を読み上げるような口調で話し出す。

 

『まず、第一部隊である私達2000人が囮となって、リリスのサーヴァント……バーサーカーを空中庭園より遠くへ誘導する』

 思うところでもあるのか、『バーサーカー』という単語の辺りでイアソンの声は暗く沈んだ。

 

『んで次に、第二部隊が、リリスのセイバー……えーっと、(ひるがえ)る魔剣の……うん、そうだな! シグルドだな! 翻る魔剣の使徒とかじゃないな! 

 よーく分かったから、ブリュンヒルデは槍を仕舞おう! な!』

 男が何者かに襲い掛かられそうにでもなったのか、大きな物が床にこすれるような音と、人々の動揺した声や笑い声などが聞こえてきた。

 しばらく騒乱は続いていたが、やがて収まる。

 

『ブ、ブリュンヒルデも落ち着いたことだし、本題に戻るぞ。

 第一部隊の動きを見届けた後、第二部隊、ワルキューレとブリュンヒルデが空中庭園へ接近。

 ブリュンヒルデは敵方のセイバーと戦闘を行い、その隙に、ワルキューレ達が地上と空中庭園を繋ぐアンカーを射出。

 続いて第三部隊……その他サーヴァントとレジスタンス隊、およそ5000人が、アンカーを渡って空中庭園へ突入し、他のリリスのサーヴァントを撃破しつつ、リリスを捜索、そして──殺害する。

 人材と兵器の不足を考慮し、部隊と作戦を組み立てなおした。

 前回説明したものとは大幅に異なっている部分もある、注意してくれ』

 イアソン達はリリスを殺すことを目的として動いていたらしい。ギルガメッシュが語っていた、400年前に興った地上のレジスタンスとは、このことだろうか。

 推測するに、数千人規模からなるサーヴァントと人間の連合軍……人とサーヴァントのその比率は、この音声だけでは詳しく分からないが。

 

『この戦いを、後世の者達はこう評するだろう!

 「これこそ英雄の誉れある、世界を救うための戦い。善なるもの」だと!』

 イアソンの言葉に興奮したのか、年齢も性別も様々な歓声が聞こえてきた。

 

『そして、第四部隊は……たった1人なのに部隊ってのもおかしな表現だが、統一性を出すためだ、勘弁してくれ。

 ──アルジュナ、お前が第四部隊だ。見方によっては、一番重要な部隊かもしれない』

 ……やはりこの世界にいたのか、アルジュナが。

 覚悟はしていたが、少なくない衝撃が俺の心を揺さぶった。

 

『無理して起きなくていいぞ、横になったままで聞いてくれ。

 お前の役割は、庭園直下で控えているリリスのランサーと戦闘し、上の部隊がやられないように引き付ける、非常に重要な役割だ。

 その後、私の……命令……待ち……直下……落と……』

 しかし、録音は突然にそのスピードを落として、ぼんやりと響くものになり、やがて完全なる雑音となってしまった。砂が擦れる様な音ばかりが辺りに響く。

 

「どうして、一番気になる所で音声が止まりますの!」

「どうして、一番気になる所で音声が止まるんだ!」

 思わず口から出てしまった不満が、思わぬところでアンと被ってしまった。

 お互いに顔を見合わせる。

 

「ふふっ……」

 彼女は気にする素振りも無く、息を吐いてから軽やかに微笑んだ。

 

「まっ、美味しい情報が簡単に手に入らないのは世の常さ。

 お宝の地図は肝心なところで破れているもんだし、謎めいた遺跡の碑文は削られているもの」

 ドレイクは周辺へ鋭い視線を向けながら、握りこぶしを作った手の甲で、ブラックボックスを軽く叩いた。

 

「……けれど、これはちょいとわざとらしすぎるね」 

 そして、深々と息を吸ってから、砂の谷全体に響くような大きな声で言う。

 

「潔く出てきたらどうだい!

 後ろからコソコソと着いてくるだなんて、追いはぎ目的のごろつきくらいしかやらないよ!」

 彼女は外套の内から銃を素早く取り出すと、砂が固まって出来たであろう崖の縁に発砲をした。乾いた大気に、不穏な火薬の臭いが混ざっていく。

 

「──おや……ばれちゃってましたか」

 聞こえてきたのは、違和感を覚えるほどに均一化された男の声。

 続いて聞こえてきたのは、砂をざくりと踏む細い音。

 ガレスは警戒の色を強め、槍と大盾を手の内に出現させて構える。

 

「そうです。そのブラックボックスを再起動させ、音声を再生させたのは私。

 そして……後をつけていたのも私」

 声の主である何者かが姿を現す。それも、意外なほど近くの残骸の陰から。

 出てきた姿は人型ではなく。

 大きさは子犬ほど。角の丸い長方形の胴体側面には、虫を思わせる黒く細い四本足が取り付けられていた。

 

「まずは……立場の表明と自己の紹介を。

 私はあなた方の敵ではありませんし、危害を加えるつもりもありません。

 名はアダムと言います。かつて、女神リリスの夫であった者」

 メアリーは突如現れた機械を油断なく見つめながら、肩を怒らせる。

 

「へぇ、ロボットの旦那さんか。リリスって女神様は良い趣味してると思うよ、うん」

 並べられた言葉こそ友好的なものだったが、声色からは敵意が感じられた。

 現にメアリーの手には既に、彼女の手によくなじんでいるカトラスが握られている。

 

(リリスの夫……? ギルガメッシュ王が言っていた存在か!)

 当然、相方がそのような態度を取るのなら、アンも同じく。

 銀に輝くマスケット銃の銃口を、アダムと名乗った機械に向けた。

 

「おや……一触即発」

「申し訳ありません、アダムさん。

 わたし達、地下都市から逃げてここへ来るまでの間に、機械には油臭くて苦い思いをさせられましたの。

 だからどうしても……信用しきれないと言うか……」

 アンは眉をひそめ、いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべたが、恐らく、そこに心は込められていない。

 

「私は……あなた方を助けに来たのです。どうか、話だけでも聞いてくれませんか」

 俺を含め、その場にいる全員が、ドレイクへ指示を仰ぐために目を向けた。

 

「いいよ、言ってみな」

「ありがとうございます!」

 警戒体制のまま、アダムの言葉に耳を傾ける事にする。

 

「私は、あなた方が『砂塵の迷宮』を抜け出て、当面の安全を得るための方法を知っています」

「続けな」

 ドレイクが促す。

 

「しかしそのためには、ある『敵』を倒さねばなりません。

 今、私にマスケット銃を向けているお嬢さんが言っていたような、恐ろしい機械……『射手座の機械化サーヴァント』を」

 その単語を聞いた瞬間、脳裏に、旅の最中で見た数々の敵の姿が蘇ってきた。

 蟹。

 水瓶。

 雄牛。

 獅子。

 双子。

 天秤。

 ──異様な形をした、強大な敵の数々を。

 

「『射手座の機械化サーヴァント』が迷宮の周りを徘徊し、動く物体を敵味方区別なく破壊していることにより、サーヴァントも人間も簡単には抜け出すことが出来ないのです。

 ……一部、例外はあったようですが」

 それは、あの突然に現れたギルガメッシュ王の事を言っているのか、それとも、ガレスが俺に語ってくれた、アジト内に清水を湧かせてくれた、聖女の如きサーヴァントの事なのか。

 

「で、その機械化サーヴァントとやらを壊したら、アンタは安全以外に何をアタシ達にくれるんだい?」

「情報です。先ほどの音声データの続きもそうですし──」

 アダムは左前足を上げ、くるくると回して空をかき混ぜる。実に人間臭い動きだった。

 

「地下都市より逃れた人間達がどこに集まっているか、知りたくはありませんか?」

「ん? それってどういう……」

 ドレイクが顔をしかめたのは、それが彼女にとってどんな利益をもたらす情報なのか、分からなかったからだろう。

 だが、俺にはアダムの言うことが何を示しているのか分かってしまった。

 

「……それは」

 衝動的に唇が動いてしまった。

 

「特定の個人のことまで、分かるのか?」

 自分がどんな表情をしているのか分からなかった。ただ一つだけ確かなのは、焦りからか瞳の渇きを覚えたということ。

 

「はい……分かります。といっても、ここでは教えられません。

 意地悪をしているわけではないですよ。迷宮の砂によって、情報が取得できないのです。

 外に抜け出て、外部と通信を試みる必要があります」

「そう……なのか」

 俺は視線を泳がせる。

 ──『もしかしたら、アスカは生き延びているのかもしれない』と、俺はあの死血湖を見てから思ってしまっているのだ。限りなく低い可能性なのに、強く心を惹かれている。

 

「船長、僕もう我慢の限界!」

 突然の声にはっとする。顔を横に向けると、メアリーが首をぶんぶんと横に振って、苛立ちを露わにしているのが見えた。

 

「対価に比べて、こっちが得るものも少なすぎる!

 このアダムってヤツ、上から目線でこっちをからかって、煙に巻こうとしているんだ! 

 言ってる内容だってきっとデタラメさ、交渉の必要なんて無い!」

 そう声を荒げる彼女を、ドレイクは青い眼差しで静かに見つめている。

 まるで……全員が痺れを切らすのを待っているかのように。

 

「……」

 ガレスは無言だ。槍先こそ地面に向けているが、緊張を解いてはいない。アンも似たようなもので、銃を油断なく構えたまま、この場の空気を伺っていた。

 

「キャプテンドレイク」

「なんだい、アーキマン」

 数秒の沈黙を破って、俺は話し出した。

 

「俺は、アダムの提案に乗ろうと思う。

 ドレイク達が乗ってこなくても、そうしたいし、そうする」

 例えそれが微かな希望だとしても、(すが)る……いや、掴んでみたいというのが、俺の感じた想い。

 

「たった1人であろうとも、『射手座の機械化サーヴァント』に挑んで、倒し、情報を手に入れる」

 俺の発言に対し、アンは驚きからか片手で口を抑える。

 

「アーキマンの腹は決まったようだね。

 それじゃあ……アタシは……」

 ドレイク、ガレス、アン、メアリーは互いに顔を見合わせた。

 

「アーキマンと同じく! 機械化サーヴァントを壊しに行くとするかねえ!」

「あっ、じゃあわたしもそうしまーす!」

 アンはマスケット銃を肩にかけると、わざとらしく数回跳ねた。

 

「ちょっと、アン!」

「まぁまぁ、抑えてくださいな」

 足で砂を踏み荒らすメアリーへ、そそくさと駆け寄るアン。

 

「ここでくすぶるよりも、アダムの案とやらに乗った方が、刺激が多そうですわよ?」

「それにしたってひどいよ、アン。こんな怪しい機械の提案に乗るだなんて……。

 さっきまでと態度が丸っきり逆だし、これじゃあ、僕が(いきどお)って見せた意味が無いじゃないか」

「あら! メアリーったら、みんなを怪しいやつから守るために、わざと怒ってくれていたのですね。よーし……よーし……」

「ううっ。伝説も当てが外れて、次の目的は、弱点も大きさも分からない機械の敵を倒すこと。

 博打だなぁ……飽きが来ないよ、全く……」

 相方に頭を撫でられながら、メアリーは強張っていた体から、ため息と共に力を抜いた。

 

「……ガレスは、どうするんだ」

 俺は、こんな状況でも沈黙を保ち続けている少女騎士に声をかける。

 彼女のくりっとした瞳が俺を見た。

 

「アーキマン殿のことが心配なので、ガレスもついていきます!」

 と、鼻息荒く宣言した。

 

「……」

 彼女は、呆然としている俺に構わず言葉を続ける。

 

「だってそうではありませんか!

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。自分の実力以上のことに関わろうとしては、転び、ガレスの前から消えてしまう……」

 話をしながら、彼女は槍の石突(いしづき)で地面を強く1回叩いた。

 

「──あまりにも危うい! モードレッドですら、もう少し落ち着いて行動していましたよ!

 ……ともかく、アーキマン殿のことが心配なので、今回はついていきますね」

 ガレスはそう言うと、俺の隣に立ち並んだ。

 

(なぜ、俺はこんなにも周りから心配されているんだ……)

 やるせない思いが胸に湧いてきたが、一旦無視することにした。

 彼女の言っていた……『自分の実力以上のことに手を出そうとしては、転ぶ』との発言が、心に棘として刺さってしまったからだ。あまりにも情けない現状であった。

 

「仲間割れせず、何よりです」

 全員の意見がまとまったのを見て、アダムがその均一な声を出す。

 

「そして……私を壊さないでくれて、ありがとうございます」

 前足を器用に曲げ、胴体の前方を地面に近づける。彼なりの礼なのだろうか。

 

「意見もすっきりまとまり……空気も明るくなりました、なによりです。

 では、射手座の機械化サーヴァントの弱点や攻撃傾向、対策についてお話する前に、音声データの後半……一部破損していた所の復元を済ませてしまいましょうか」

 アダムは足で砂を突きさすように歩みながら、ブラックボックスに近づく。

 

「──そして再生、ぽちっとな」

 どこか間抜けな響きを持った言葉の後に、音声の再生が開始された。

 

 

 第102話 残骸は煌々たる

 終わり

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