砂の谷にたどり着いていたアンとメアリーから、961達は辺りに散らばっている残骸の調査報告を聞く。
それは船の欠片であり、話を聞いたドレイクは、「目指していた伝説の船は、とうの昔に壊れていた」と結論付けた。
──しかし疑問は残る。はるか過去にて壊れていたのなら、なぜそれを「探せ」とリリスのキャスターは言ったのか。
何かが引っかかるとの961の発言を元に、ドレイク達は散らばって更なる調査を始めた。
1時間後、黒い箱を見つけ出したドレイク達。
黒い箱の中に保管されていたのは、400年前に存在していたレジスタンス、その作戦会議の様子だった。
声の主は『イアソン』。
アスカとメディアも聞いた、あの、レジスタンス達を率いるリーダーだった男。
イアソンの語る内容は、リリスの本拠地である空中庭園を攻め落とさんとする最終決戦のこと。
イアソン含む第一部隊2000人は、リリスのバーサーカーを庭園より引きはがす囮役となり。
ブリュンヒルデが率いるワルキューレたち第二部隊は、リリスのセイバーを倒し、庭園への足掛かりとなるアンカーを打ち込む役割を担い。
その後、アンカーを伝って、第三部隊およそ5000人が、リリスの殺害のため、空中庭園に突入する。
……といった作戦内容が、音声で保管されていた。
そして最後に、イアソンは第四部隊の作戦について話し出す。
部隊の人数はたった1人。名は
しかし何ということだろう! 音声は唐突にノイズ交じりとなって、そこで止まってしまった!
憤りを見せるメアリーと961。
ドレイクは音声の停止に作為的なものを感じ、『後をつけて来ていた』存在へ声をかける。
岩陰から出てきたのは、丸みのある長方形の体と黒い足を持つ、謎のロボット。
『リリスの夫』を自称する、アダムだった。
突如現れた機械に対し、皆は警戒を強めるが、アダムは敵意を受け流しつつ取引を持ち掛けてくる。
一つ目。
「砂塵の迷宮を抜け出す方法を教え、当面の安全を保障する」
二つ目。
「そのためには、射手座の機械化サーヴァントを倒す必要がある」
三つ目。
「射手座の機械化サーヴァントを倒してくれたのなら、音声を修復するし、地下都市から逃げた人々がどこに集まっているのかを教える」
一つ目、二つ目の取引の意味をドレイクは理解するが、三つ目に対しては首をかしげていた。
だが、961だけが三つ目の真意について気づいていた。「これは、俺に狙いを定めた取引内容だ」と、「アスカの行方を知れるかもしれない」と。
961は、身勝手な望みだと感じつつも、自分のためだけにアダムの取引に乗る。
それを見たドレイク達は、各々の楽しみ、浪漫、心配がために、取引を承知するのであった。
話もひと段落したところで、アダムは音声データを再開させた──。
『この戦いを、後世の者達はこう評するだろう!
「これこそ英雄の誉れある、世界を救うための戦い。善なるもの」だと!』
突如現れた謎の機械、アダムの手によって復元された音声が、黒い箱より流れ始める。
全員が静かに耳を傾けた。
『そして、第四部隊は……たった1人なのに部隊ってのもおかしな表現だが、
──アルジュナ、お前が第四部隊だ。見方によっては、一番重要な部隊かもしれない。
無理して起きなくていいぞ、横になったままで聞いてくれ』
このようなことをわざわざ言うあたり、イアソンはアルジュナをよほど気にかけていたようだ。
『お前の役割は、庭園直下で控えているリリスのランサーと戦闘し、上の部隊がやられないよう引き付ける、非常に重要な役割だ。
その後、私の命令を待ち……いや、待たなくていいな、自分のタイミングでやってくれ。敵との勝ち負けには拘らず、庭園を直下より全力で射撃し、墜落させてほしい。
何よりも優先するべきは敵本拠地の破壊だ、あれを落とさない限り私達に未来はない。
希望、託したぞ、アルジュナ』
リリスのランサーとは、つまり
イアソンは必ずしも
──『カルナ』との勝敗よりも、作戦の遂行を、この世界の未来を優先するべきだと。
『射撃の際、庭園内部に突入している第三部隊の撤退を待つ必要はないぞ。
……あの部隊の奴らは、全員が死ぬことになったとしても「それでいい」と首を縦に振った馬鹿共だ、死にたがりの事なんざ気にすんな』
何か軽い物を動かす音のあと、話題は次へと移ってしまった。
『第一部隊の作戦についても変更点があるので、補足しておく。
皆も知っての通り、この部隊の役割は囮、そして敵バーサーカーの撃破だ』
過去と現在を含め、場が、しんと静まり返った。
『サーヴァント50騎をアルゴー号に乗せ、その他レジスタンス達は別の砂上船に。
走行速度、方角、距離などは、作戦中、私からも指示を飛ばすが、敵の攻撃によって通信不通になる事も考えられる。
各自、常に相手バーサーカーを輪状に囲うようなイメージで船を走らせてほしい』
肯定を意味する声がばらばらと聞こえてきた。イアソンの説明は続く。
『船同士の距離を保ちながら、船上より、兵器とサーヴァントの宝具による波状攻撃を行い、バーサーカーの宝具……みんな知ってるよな、殺されたとしても11回までは蘇るアイツの宝具だ』
リリスのバーサーカーは蘇生できる宝具を有していたようだ。
けれど、ギルガメッシュの語る言が確かならば、レジスタンスによって討たれている。
(──ヘラクレス、あらゆる困難と怪物を打ち倒してきた名高き英雄)
それが幾度も蘇ってはレジスタンスに立ち塞がったということは……思うに、何千という犠牲の上での撃破だったのだろう。
『波状攻撃によって、今のバーサーカーに残されている命のストック4つを、どんな手段を使おうとも後1まで削る。そこまで状況が進んだら、アルゴー号から私以外の全員を降ろす。
サーヴァントは自分の足で、他の船は全速力でなるべく遠くへ逃げろ。そうできたなら、安全な場所で救難信号を出せ。
運が味方すれば、エジソン率いる第五部隊が救助してくれるはずだ』
この言葉も、ギルガメッシュから聞いた情報と合致する。
やはりエジソンはリリスを裏切り、完全にレジスタンス側へついていたようだ。
『私は単身で船を駈り、敵をここ……砂漠奥の谷に誘い込む。そして』
机を指で叩くような乾いた音が聞こえる。人々が息を飲む音もだ。
『アルゴー号を
──よって! この作戦は! 私が死ぬことが前提だ! それでしか成功しない!
……俺も人のこと馬鹿って言えないな! 本当に馬鹿みたいな作戦だ! あははは!!』
自棄になった、いや、なっているであろうイアソンの笑い声が流れ、谷にぶつかって消えていった。
『これが、第一部隊の作戦の全貌。確実に敵バーサーカーを倒すために考えたものだ、皆で協力し、必ず成功させよう。
私が消滅した後、指揮権はエジソンへ移り、いま第五部隊がつめている所が本部になる。
後は……ああ、先日確認された新型の戦闘機械、アーチャータイプについても話しておかないとな。
あれを倒す方法も、私が生きている内に考えて、追加の作戦会議……の前に、長いこと話して疲れたから、飯だな、飯』
イアソンは声に平静さを取り戻すと、続けようとしていた説明を止めた。
『手隙の者は食事を摂り、今のうちに休憩しておけ。
明日は世界の命運をかけた決戦だ、飯を食ってる暇も寝る時間もないぞ!
では、一時解散!』
集まっていたらしき人々は、がやがやと話をしながら散っていく。
音声の再生はそこで終わった。
「情報が得られそうなデータは……これで全てです。
他の音声データは、どうやら別ブラックボックスへ保管したようですね。
録音を試みては止めた数秒の音声が、2、3個が確認できたことからも、それが推測できます」
アダムは早々と述べると、口(というよりスピーカーか?)を閉ざした。
砂の
「……この残骸、もしかして」
皆が沈黙する中、おずおずと喋り出したのはガレス。
「もしかしなくても、ここまで証拠が揃っているなら確実さ。
湖やこの辺りに突き刺さっていたものは、イアソンのアルゴー号、その残骸だったってワケだ」
彼女が言わんとしたことの続きを、ドレイクが口にした。
「イアソン殿は作戦通り自爆し、『リリスのバーサーカー』なる敵を倒せた、ということなのでしょうか?」
「お嬢さん方、それについては……私が教えてあげましょう」
ガレスの疑問に、アダムが片足を上げてから答えを出す。
「リリスのバーサーカーは……今よりおよそ400年前に、レジスタンスの手によって倒されています。
霊基は消滅済み。この周辺で遭遇する可能性なんて、万に一つも無いでしょう」
「そのことを心配しているわけではないのですが……」
少女騎士が悲しげに眉間へシワを寄せているのは、自爆特攻を前提として行われた作戦の痛ましさについてだろう。アダムの懸念とガレスの気持ちは、ややすれ違っているようだ。
(リリスのバーサーカーは、この辺りで討たれたのか……)
昨日目にした、黒い砂や骨で出来た無数の亡霊達は、かつての戦いで散っていった者達なのだろうか。
そして、それらを打ち砕いたあの威風堂々たる巨人は、もしや。
「──船長が自分の船を自らの手で壊して、捨てざるを得ない、か。
それに対する無念さは、痛いほど分かっちまうもんだね、ふぅ……」
ドレイクの声で、俺の思考は中断させられた。
彼女は海賊帽子のつばを片手で抑え、体を大きく動かしながら、辺りをぐるりと見渡した。
「この残骸を見ていると、なんだかあの昔話を思い出す。
英雄イアソン、最後には仲間も妻も、王位も、全てを無くして放浪者。
懐かしの船を見つけ、そこで首吊りしようとしたら、船は崩れて、哀れ英雄は下敷きに……って」
アルゴー号に乗り、華々しい大冒険を繰り広げた英雄イアソンの終わりは、多くの人が知るように悲劇であった。
……もっとも、妻を捨て子を捨て、外道に堕ちてまで『王』という
「イアソンの録音を聞いて、残骸の中から探したい物が出来た。
アンとメアリーの2人は、預けておいた『アレ』を取ってきておくれ」
「アイアイサー、キャプテン」
「とうとう『アレ』の出番ですのね! 行きましょう、メアリー!」
命じられた物を取りに行くためか、2人は谷の奥へ歩いていく。
「アーキマン、ガレスはここで待機。そのロボットと留守番!」
そう言い残して、残骸を注意深く観察しながら立ち去っていくドレイク。
俺とガレス、アダムが場に残された。
「……
音声データの中で聞いた単語を口に出してみる。
当然、聖杯から与えられた知識で、それがどのようなものかは知っているし、随分と前、キルケーという魔女を相手にした時、はったりの意味を込めて行おうとしたこともあった。
「単純に言ってしまえば、宝具を爆発させ、破壊をもたらす行為ですが……イアソンが、それを用いてリリスのバーサーカーを倒したかについては、疑問が残りますね」
俺の足元にひょこひょこと移動してきたアダムは、黒く細い前足を上げつつそんなことを言った。
「そうなのか、アダム」
「ええ」
ロボットが、ついさっきドレイクがやっていたように、体を動かしながら辺りを見る。
「残骸からも推測できる通り……アルゴー号は中々の大きさの物体だったのでしょう。
それが爆発したにしては、周辺やこの谷にクレーターなどが確認できませんし、残骸も綺麗に残りすぎています」
言われてみればそうかもしれない。船が丸ごと破裂したのであれば、目で見てすぐに分かるような破壊の跡が残らなければおかしい。残骸だってもっと小さな物となるか、跡形もなく消滅してしまうかのどちらかだろう。
「別の方法で、イアソンは敵バーサーカーを倒した可能性もある、ということでしょうか」
ガレスも、アダムと同じく周辺をきょろきょろと目に映しながら言った。
「しかし、えっと……お嬢さん?」
「ガレスです。お好きなようにお呼びください」
「では……ガレス嬢と。
私のことも好きなように呼んでくださいね」
「はい。アダムさん」
簡単な自己紹介を終えた後、両者は会話を続きから再開させる。
「ガレス嬢は知らないでしょうが……リリスのバーサーカーは、女神リリスが有するサーヴァントの中では最強に近い存在だったのです。
そんな相手に、倒し方を選べるような状況ではなかったと推測できますが、ううむ」
「真名こそ知りませんが、かなりの強者、だったのでしょうね」
リリスのバーサーカーの真名が『ヘラクレス』であるということを、ガレスは知らない。ドレイク達も同じくそうだろう。
(もっともそれを伝えたところで、何が変わるという訳でもないが……)
アダムは『リリスの夫』を自称するだけはあってか、リリス方のサーヴァントの能力を知ってはいるようだが、真名まで知っているかどうかは、現段階では分からない。
「イアソン殿の音声を聞く限りでも、蘇りを可能とした宝具を持っていたことが分かります。
回数制限はあれど不死な敵に対し、自爆や囮といった、痛ましい方法を使わずどのように打ち勝ったのか……ガレスでは想像もできません」
1騎と1体はうんうんと唸っている。
俺も考えてはみたが、11回も殺しきる手段は、なかなか思い浮かばなかった。
「ガレス嬢、この問題については……私達が話し合っても真実は分からないかもしれませんね。
今確かなことは、バーサーカーが倒されているということと、船が木端微塵となっていること、その2つです」
「そうだ船! 船のことを忘れかけていました!
あれがガレス達の目的だった……のですけど、壊れてしまっています。これから先の移動手段、どうしましょう」
「『射手座の機械化サーヴァント』の討伐については……考えてはくださらないので?」
「アダムさん、その点に関してはご心配なく! 全員で協力すればきっと倒せます!」
「私、まだ敵について……何も言ってないのにな。
その自信、どこから来るのでしょう、サーヴァントって不思議です……」
多分に食い違っている会話を聞いていたら、谷の奥からドレイクが帰ってきた。
「ただいま! 目的の物、見つけたよ!」
彼女は満面の笑みを顔に浮かべていた。腕には、木で出来た輪が抱えられていて、それはところどころ欠けていた。
「これ、なんですか?」
「船の舵輪さ。ガレスには見慣れないものかね」
ドレイクが腕に持っている物を、彼女は背を伸ばしたり縮めたりしながら、興味深そうに観察している。
「キャプテン、言われた通り持ってきたよー」
メアリーが、カトラスをくるくると
「そしてこちらが例の『アレ』……船長のお宝ですわ!」
妙に上機嫌な声と態度を見せながら、アンは手に持っていた小箱を地面の上に置いた。砂へ沈み込まないということは、それほど重い物ではなさそうだ。
白い指先を伸ばして、アンが上蓋をそっと開ける。俺は近づき、覗き込んで中身を確認した。
「これは……木片、か?」
辺りに見える残骸と似たような雰囲気を持った欠片が、スチロール製の緩衝材を敷いた小箱の中央に安置されていた。
「高名な香木か? 例えば
白檀はかつてインドに自生していた香木のことだ。
木片はよほど貴重な物なのか、飾り気の無い箱の内側には緩衝材以外にも、外側からの衝撃を吸収する機構が仕込まれていた。
「違うよ、アーキマン。
ボクが教えてあげるから背を屈めて」
「あ、ああ……」
「待ちなメアリー、せっかくだからアタシに言わせとくれよ」
俺に近づいて耳打ちしようとしていた小柄な少女を止め、ドレイクが割って入ってきた。
「これは、生前アタシが乗ってた船、
魔術師風に言えば『触媒』ってヤツかね」
「触媒……」
サーヴァントを召喚する際、望みの英雄を招き寄せるために用意される、英雄と故のある品のこと。
「アタシが住んでた地下都市の倉庫にしまい込まれてたもんだから、逃げる時に持ってきた」
「キャプテン、これを持ち出してきて、いったい何を……」
質問した俺に対し、彼女は自信に満ちた声で話し始める。
「あてにしていた『伝説の船』は壊れちまってた。
この砂漠を歩いて踏破するのは現実的じゃない、かといってホバーバイクに乗りたくてもその数が足りない。
アタシの船を出して、北極まで移動し続けるのも、魔力の問題で難しい。
なら──とれる手は1つ」
ドレイクが口にした
驚き、目を丸くする俺達へ、彼女は己の策の成功を確信しているような、勇ましく、海賊らしい、にかりと歯を見せる笑みを作った。
一方その頃。『砂塵の迷宮』外周部。
『……神性、探知』
──敵が、目覚めた。
『詳細確認のため、地形スキャンを開始。
……失敗。
対象を優先殲滅対象と仮定。
地形スキャンではなく、霊基スキャン開始。
……神性サーヴァント、総数1騎を確認。
霊基パターン、優先殲滅対象「A」と87%一致。
門下生増殖形態から、戦闘形態にモード移行開始。
完了。戦闘準備、スタンバイ。
背部ユニットより、量産型門下生、排出』
敵は淡々と、殺戮に向けて行動を開始する。
第103話 赤のほとりに青春は眠りて
終わり