死血湖や谷周辺に落ちている船の破片を集めていく961達。
『砂塵の迷宮』を抜けるため、そして北極へと向かうために船の修理を行おうとしていたのであった。
ドレイクは『
その無法を行うのはドレイクの中に潜むもう一人の海賊、ダユーだった。
彼女の『奪う』力によって、集められた破片はあるべき姿へと繋ぎ直されていく。
──そして、伝説の船を用いて、黄金の舵を持つ船がこの世に生まれ落ちた。
喜びもそこそこに、緊張感を高める一同。遥か遠方に敵の姿を発見したからだ。
アダムが言うところの敵、『射手座の機械化サーヴァント』が、下半身を砂に埋もれさせた状態で鎮座していた。
射撃を得意とする相手が本格的に動き出す前に、懐に潜り込むという作戦を建てていた961達は、敵へ真っすぐ向かう。
アダムが、万が一に備えて周辺の安全を確認しようとしたその瞬間、けたたましい音が砂漠に響く。
音の正体は、『射手座の機械化サーヴァント』によって殺された人々が残した、救難信号やブザー。
心焦らせる音の中、奇怪な存在が甲板に上がってきた。人工皮膚などは被せられていない、物々しい人型ロボット。
1体倒した後、辺りを見る961。彼の目に映ったのは──総数3000には届こうかという、大量の敵の姿だった。
『射手座の機械化サーヴァント』には、核となるサーヴァントがいた。
その者の名は『ケイローン』。400年前、リリスに捕らえれたレジスタンス側のサーヴァントだった。
「ただの人型ロボット……と、油断しないでください!
ケイローンが彼らに『学習』を施している可能性がある!」
船の上はあっという間に、秩序の無い乱戦となった。アダムは攻撃を受けないよう逃げながら、話を続けている。
「学習? それって……」
「戦闘が長引くほどに、わたし達の弱点を学んでいくとか言いませんよね?」
アン、メアリーは完璧なコンビネーションで、この混乱の中でも落ち着いて戦っている。既に足元には、数体の残骸が転がっていた。
「先ほどの1体は斥候だったのでしょう。
それを踏まえて考えるに……
気まずそうな声で、アダムは呟いた。
「ドレイク卿! 短期決戦を提案します!」
「ガレスの言う通り!
相手がどれほど名高いかなんて関係ない、速攻で仕留めに行く!
皆! 操舵中の援護頼む!」
無数の敵が迫りつつあるが、高速で砂の上を征き、『射手座の機械化サーヴァント』へ近づいていく
(しかし、そう上手く事は運ぶだろうか……)
アダムの情報よりも進化していた敵。まだ見ぬ力があるかもしれないと考えながら、俺は目の前の人型ロボットを蹴って倒そうとした──が、突如船が上下に揺れ、お互いに攻撃が空ぶった。
『──!!』
狙いが逸れ、獲物を深々と床に突き刺してしまった敵。
隙を見逃さず打ち倒し、その勢いを利用し、揺れで姿勢を崩していた周りの数十体も、魔力放出を使った青い蹴り足で一辺に吹き飛ばした。
敵は青く燃え灰となりながら、船外へ落ちていく。
「今の揺れの原因は、いったい……」
砂の中から響く何千もの多種多様なブザー音、アンが放った銃声、攻撃の際の掛け声、敵が甲板を駆け回る足音、機械の関節がきしむ張り詰めた音。
「アーキマン、船長を!」
敵へ発砲しつつ叫んだアンの声に従い、あらゆるものが混ぜこぜとなった戦場から一度離れ、俺は、2本のマストの間に設置された黄金の舵輪の元……すなわちドレイクの側へ駆け寄った。
「アーキマン! 船側面の様子は分かるか!」
ドレイクより問われ、直ぐに答える。
「先ほど見たばかりだ!
敵が大量に取り付いて、体自身を梯子として登ってきている!」
「まったく! ずいぶんと乱暴な方法を使ってきたね、敵さんは直情的だ。
けど、シンプルだからこそ一番効果的さ! 船が……重くて、重くて……仕方がない!」
ドレイクは舵を取りながら、足の間にいつの間にか避難していたアダムを爪先で小突いた。
「やめてください……ドレイクキャプテン! 私はいちおう取引相手ですよ!」
「アダム、こっちは妨害のせいで望んでる速度の半分も出せてない。
この状況が続くと、向こうはどう打って出てくると思う?」
アダムは数秒考えこんでから答える。
「敵機械化サーヴァントは遠距離狙撃型……いわゆるアーチャークラス。
巨体ゆえ、攻撃に速さと連続性こそありませんが、狙い定まった後に放たれたものの威力はすさまじい。
まごついていれば……遠くからズドン! され、船はバラバラ、私たち全員どざえもんとなるかと。ここ陸ですけど」
「大量の手駒で足止めしてから、よーく狙って安全圏から攻撃か。
アーチャークラスの強みってやつを押し付けてきてるね……」
俺は両者の会話を聞き流しながら、周囲に目を配る。
甲板には無数の敵残骸が転がり、船が揺れるたびに偏って、あちこちで小山を作っていた。
それらも速度低下に関係しているのだろう。俺は幾つか蹴って、外へ捨てた。
残骸をざらざらとこぼしながら、船を緩慢に前へ進んでいく。
「あと……アダムからもう一つ言いたいことがありまして」
「なんだい」
「敵は……優先的にアーキマンを狙ってきているかと」
後方からの敵の接近に気が付いた俺は、左足を軸に、鋭い回し蹴りを放つ。
半壊し、姿勢を崩した敵の体を、メアリーがカトラスで切って薙いだのを目の端でとらえる。
更に迫ってきたロボット兵は、ドレイクが発砲し、頭蓋を正確に打ち抜いて倒した。
「あらまホントだ。やけにアーキマンへ群がってきているじゃないか」
「……機械化サーヴァントに狙われやすいサーヴァントの体質ってありますので、ええ。
この調子ですと、敵サーヴァントの射撃は真っ先に彼へ向かうのでは?」
「ふーん……体質、ねえ」
『体質』なる単語が気にかかったが、今はそれを聞いている時間はなさそうだ。
1人と1体の会話は終わったとみて、俺はドレイクへこれからの方針を伺う。
「当初の予定では、高速で敵に接近し、相手の攻撃を許す暇さえ与えず、キャプテンの宝具で撃破するはずだったろう?」
「アーキマンはよく覚えてるね。
しかしまあ、予定なんて、その通りにはいかないもんさ」
「これからどうするんだ? アダムの情報が確かなら、まごついている暇はない」
ドレイクは思考を高速で回転させているのか、やや唇を尖らせ、押し黙ったが。
「……良いこと思いついた。
──ガレス! ガレス卿!」
と言い、唐突に彼女を呼んだ。声は、音混ざり合う戦場においても真っすぐ響き、呼ばれた少女が船尾の方向から駆け寄ってくる。
「はい! ガレスです! お呼びでしょうか!」
慌ててやってきて急に止まったので、彼女の鎧の部品がぶつかり合って金属質な音を立てた。
「ホバーバイク、まだ1台使えるやつがあったろう」
過重という単純すぎる妨害によって、バランスを崩しつつある船を操りながら、ドレイクは聞く。ガレスが答えた。
「バイク同士から部品流用し、アダムさんが修理してくださったもの物が、確かに。
今は船倉に仕舞ってあります」
「それならよし!」
ドレイクは空に向かって2度発砲し、船員達の注目を集めてから、大声で指示を出した。
「皆、聞きな! これから、全員の命をかけた大作戦を始める!」
「いつだって命がけではなくて?」
「わざわざ言われなくても、とっくに覚悟できてるよー」
そう言葉を返した2人は、惚れ惚れするほどのコンビネーションで敵を倒している。
「実に頼もしいこと!」
ドレイク、アン、メアリーの、価値観を共有する者同士の軽口が、戦いながらも飛び交った。
「ガレスとアーキマンは?」
「覚悟はばっちりですとも! どんな作戦を始めるのです?」
「あまり時間もなさそうだ。直ぐに教えてくれ」
俺も、皆と同じく覚悟をしていた。
それに──この局面を乗り越え、知りたいこと、やりたいことも出来たから。
キャプテンドレイクの言葉を借りるなら、『あれこれ考える前に、足を動か』したい、そんな気持ちだった。
「2人とも、耳貸しな」
初めにガレスがその内容を聞き、次に俺へ指示が告げられる。
「そのことをよくご存じでしたね、ドレイク卿」
彼女は感心したような声をもらしてから。
「……分かりました。ガレスにお任せください」
ものものしい態度でうなづいた。
俺も彼女に続き、意を示す。
「分かった、作戦に従おう。
前のような……その、へまはしないし」
「そんなこと心配してやいないさ。
一番の心配事は、誰かが無茶して、突っ込んだりしすぎること」
俺の言葉から何かを感じ取ったのか、ドレイクは自信ありげに胸を張った。
「アタシも命をかける、アンとメアリーだってそうさ。
誰か1人の力で乗り超えるんじゃない。全員の力と運を合わせる必要がある。
もし、ぜーんぶ上手くいかなくて死んじまうとしても、そん時はそん時。
笑いながら死んでやろうじゃないか!」
快活に笑ったドレイクの足元で。
「あの……アダム、他の『都市運営システム』と同じく、自己データ複製できないので、ここで死にたくはないんですが……」
と、控えめに後ろ向きな発言がなされていたが、戦場の音にかき消されていった。
「そうだ。アダム、これを預かってくれ」
「ええ? はい……まぁいいですが」
俺は戦いの前に腰を屈め、大切な預かりもの、すなわちずっと首にかけていたカルデア職員証を彼へ預けた。ロボットが前足を使い、器用に首から外してくれる。
「アン、メアリーは引き続き甲板上の敵の掃討! 残骸はまめに外へ捨てる事!」
「合点ですわ! キャプテン!」
「アイアイ! キャプテン!」
「……アダム、ないがしろにされてます?」
「してないしてない。アンタにも任せたい『仕事』があるんだからさ。
よし、作戦は全員頭に叩き込んだね?
では……作戦開始ィ!」
短期決戦が求められている、このひりつくような戦闘の最中でも、笑顔な海賊と騎士の姿を見て。
(戦いに対し、このような感情の向け方もあるのか……)
と、俺もアルジュナも知らなかった価値観に、心がわずかに震えた。
──思う。思う。射手座の機械化サーヴァントは思う。
感知し、探知し、推測し、視認し……そして、『殺さねば』と。
『量産型門下生へ下した命令を再確認。
……優先殲滅対象「A」と、87%一致している敵サーヴァントを攻撃。
指示に不備なし、間違いはなし』
黒い箱の内側で思考を続ける。
──優先殲滅対象、A。イコール、
リリスの空中庭園を落とし、楽園と謳われたあの場所を住まう者ごと殺したサーヴァント。
レジスタンスの主力であり、その体は無数の神格によって蝕まれ、崩壊寸前であったが……アルジュナが消滅したかについては誰も知らない、未確認。
よって奴は、西暦2713年の現在においても、女神リリスを殺すためにいまだ潜伏を続けている可能性がある。分裂弱体化したレジスタンス組織の内部に隠れ、反逆の時を伺っているのかもしれない。
孤独な母たる女神リリスは、シグルドの改造体である『心無き竜』、カルナの改造体である『ヴリトラ』以外の機械化サーヴァントに、このような命令を植え付けた。
「アルジュナを探せ。そして殺せ。
神性を有しているサーヴァントも殺せ。だって、アルジュナかもしれないから。
そのためになら……
機械化サーヴァントである以上、この絶対の命には逆らえない、もはや本能の1つに数えてもいいだろう。
この目的を達するためならば、何を行おうと女神リリスは我らを許す。
蟹の鋏をもって、無数のサーヴァントをついばもうとも。
中身尽きること無き水瓶を振るい、いたずらに酒で人を破滅させようとも。
雄牛の巨体ふるい、生きるためだけに資源をむさぼった結果、数多の都市を飢えさせようとも。
逃げる者の背を切り裂いて殺し、獅子の心と爪をちっぽけな自尊心で濡らそうとも。
双生として産まれながらもそれを忘れ、結合の果てに異形となりて狂おうとも。
天秤としての責、公正な裁きをせず、悪を都合よく押し付け、人々を殺そうとも。
蠍の尾より滴る劇毒と、群れなす子らをもって過度に他者を苦しめようとも。
賢者と言われた存在から全てを奪い、自己の拡張がためにあらゆるものを喰らおうとも。
女神リリスはそれらを許す。許してくださる。
ならば我らは彼女を守ろう。絶対の命令に従おう。
我らは機械化サーヴァント。
『ヴリトラ』によって、人が見上げることもかなわなくなった黄道に、代わりとなって輝かんとする新世界の星座。
女神の慰めとなり、その願望を叶えるもの。
我思う──神は、リリス以外に不要なり。
『詳細確認のため、スキャンを開始。
……失敗』
依然として広範囲スキャンはうまくいかない。
情報を集めるため、量産型門下生が得た視覚データを、地面に散らばる端末を複数経由させて受け取る。
『?』
複数の角度から敵が乗っていた船を見た。
赤と黒に彩られた帆船、その甲板上に『アルジュナ』がいない。
女サーヴァント3騎ばかりが戦いを続けているだけだ。
『アルジュナ……は……』
探す。そして見つけた。
……ホバーバイクに小さな四足歩行ロボットともに乗って、こちらへ高速で向かっている!
アルジュナは後部座席に腰かけ、運転はロボットが行っているようだ。
更に詳しい情報が欲しかったが──。
『っ! ジャミング……!』
砂塵の迷宮特有の探知不能現象とは違う、あの明るい朱色のロボットからの攻撃だった。
砂に埋もれながら光を放っていた端末すらも、次第にその色と音を無くし、通信が切られていく。
『霊基スキャン……』
先ほどまで出来ていた『それ』の機能すら十分に動かなくなった。
機能がこれ以上妨害される前に、量産型門下生を背部ユニットから排出し、敵を追うのではなく、波となって相手を押しとどめるよう向かわせる。
『敵位置は』
スキャンではなく目視で確認をする。
アルジュナは操縦をロボットに任せているようだ。前面から来る量産型門下生を、敵ロボは前足でグリップを動かして、見事なまでの蛇行運転を行ってかわし、門下生の隙間を縫い、こちらとの距離をじわじわ詰めてきている。
砂は足踏みからなる振動によって波打ち、かつて世界に存在したという海を思わせた。
『エネルギー充填率、80%』
砂ぼこりがうっすらとかかる両腕を動かしながら、武装と矢へ液体リソースを回していく。
『着弾地点の修正を開始』
思考する。
あの速度であれば、正しく妨害をし、正しく狙えば、攻撃は間に合う。
その結果、我が機体も巻き添えになり、ケイローンが納められている上半身が修復不能にまで破壊されるだろうが……女神リリスの願いを叶えるためだ、仕方のないことだろう。
このために殺して来た、このために奪ってきた。
だから、我が機体はこれ以外には何の意味も持たない。
アルジュナを、殺さねば。
『
レジスタンスより奪いし素材で改修された巨大弓が、砂と瓦礫をまき散らしながら縦に広がっていく。弦はなく、正式には弓とは言えない形をした武装が陽光の下に晒される。
──賢者ケイローンは、死した後星座となった。天に昇った彼は、人々を守るため、星座である天の蠍へ矢先を向けるようになった。
その伝説からか、サーヴァントとなったケイローンは、弓ではなく、夜空から放たれる一夜一射かぎりの強力な攻撃宝具を有していたという。
『標準を、優先殲滅対象にセット』
しかし、我が機体が有するのはどこまでも
だが、威力は真にも迫ろう。放てば敵は蒸発し、余波すら死をまき散らす。
今までは資源回収のため威力を落としていた。全力を放つのはこれが初めてであり、そして最後となるだろう。
『エネルギー充填完了』
腰から武装に伸び、接続している液体リソース流入用のチューブの動きを止めた。
敵を見定める。
遠くにある帆船は、巨大なカルバリン砲数個まで持ち出して応戦を続けていたが、量産型門下生の死骸が甲板や周囲に山と積み重なり、動きはほとんど止まっている。
『目標、射撃可能圏内』
アルジュナはというと、依然としてホバーバイクに座したままだ。その表情すら伺えない。
『射撃、可能圏内』
敵には両腕がなかった。よって、これより放たれる攻撃を防ぐ手立てもないと判断できる。
あのバイクの速度では逃げきれない。自爆特攻を行おうが我が機体には傷一つ付かない。
『
目視でアルジュナを確認し、武装を向け、そして矢を装填する。
矢、その表現はやはり正しくない。
大量の火薬と液体リソースを充填させた、大陸間弾道ミサイル、と言うべきものだ。
大本は、第三次世界大戦の際、極地にあるカルデアを破壊するために設計されたものである。
『発射カウントダウン開始。
1、2、3、4……』
指より解き放つ動作をする。
軋む関節の音が小さく響いた。
『5』
伝説無き一射は、爆炎をあげながら弓の中央に浮かび上がって。
『発射』
砂霞を吹き飛ばす衝撃を辺りにまき散らしながら、まずは空へ向かって放たれた。
矢は青い空へ向かって昇り、そこから落ちてくる。
英雄の元へ。神の敵たる
着弾すれば、彼はなすすべもなく消える──!
「やはり、
貴方の妨害のおかげです、感謝します」
アダムさんが小さな前足を使って操縦しているホバーバイク、その後部に座したまま辺りを見る。
迫ってくる機械の敵、そして頭上から噴煙撒きながら落下してくる攻撃。
「うう、感謝の言葉を述べる暇があるのなら……あれ! 防いでくださいよー!!」
泣きそうなアダムさんの声を聞きながら、時を待つ。
心に焦りはない。さながら晴れた朝の湖のように薙いでいた。
「あっ、あっ、攻撃が着弾する……!」
タイミングは全てこちらに委ねられている。
早すぎてもいけない。遅すぎてもいけない。
「着弾まであと200m! もう、ダメだ……!」
今。
「宝具、解除」
姿を変える。
偽装として纏っていた表層は燃えるように剥がれ落ち、腕の無かった
「続いて別宝具、真名開放!」
鎧と槍をもった、私本来の姿へ!
「アダムさん、叶うならば全力で離脱してください!
やぁっ!」
ホバーバイクを踏み台にして、私は高くジャンプした。
目前に迫るは矢、いやミサイル。
熱風が私の短い金の髪を揺らす。頬が焙られ、ひりりと痛んだ。
「
臆することなく私は叫び、先端の火薬が入っている弾頭とミサイルの本体を切り離す。
槍で一閃。
続いて、推進剤が詰め込まれた胴体と下部を滅多切り。
宝具による連撃で、敵から発射された兵器は空中で大まかな破片となり、砂漠へ降り注いでいった。
落ちていくミサイルの欠片に足かけ姿勢を正し、私は地面に向かう。
上空より敵の様子を見る。
似たような姿形のロボット兵は破片と熱によって壊れ、動きは乱れていた。『射手座の機械化サーヴァント』は、まるで呆けた人のように空に居る私を見上げていた。
遠くにある帆船の様子も気にかかったので確認してみたが、衝撃を受け、やや斜めとなっているだけで無事のようだ。
「後は頼みました!」
機械化サーヴァントの胴の下に目線を送りながら、私は落ちていく。
作戦成功を祈りながら。
アダムが敵にハッキングをしかけ、『目で見る』以外の方法で情報を取得できなくさせる。
ガレスが宝具、『変身の指輪』を用いて
ここまでの作戦は上手くいった。ならば、俺が成すべきことは──。
「……」
弓兵は、弓という武装を用いる都合上、距離を離して戦うことを好む。
それはなぜか? 矢を番えて射る、という手順には、どうしても時間が必要となるからだ。
だから、あまりにも近い距離、例えば懐などに潜り込まれるなどは最も嫌なこと。
「……」
ガレスとアダムに決死の覚悟を必要とさせる囮となってもらい、その間に、俺はこそこそと敵に近づいたのだ。
(……両足から青い火炎をほとばしらせながら、全速力で砂漠を超低空飛行することが、『こっそり』と言えるかどうか疑問だが)
敵のあまりにも巨大な体を見上げつつ、呼吸を整える。体に流れる力の残量を認識する。
大丈夫。まだ、眼前の敵を殺せるくらいの力は残っている。
今の自分には腕が無い。この体で、効率よく破壊を生み出すためにはどうするべきか。
悩む必要はなかった、既に答えは出ていた。
「──清めの力持つ
体が青の炎に包まれていく。
「──アルジュナの父たる
両足に白い稲光が宿る。
「二神の力! 我に貸し与えたまへ!」
軸足は左。狙うは太い敵の腰、アンバランスな接続部。
「やぁぁぁっ!!」
音速を超えた勢いで蹴りは当たり、敵全体を青白い炎と雷が一瞬包んだ。
(うっ、足りないか?!)
予想より硬い。ミシミシと足の甲がめり込んでいく音はするが、敵胴体と、砂に埋まっているであろう下半身を切り離すまでには至っていない。
「アーキマン殿!」
振り向くことは出来ないが、背中にかけられた声だけでガレスだと分かった。
「助太刀します!
俺のものとは違う青の輝きが白い砂の地面に広がり、群青の影を落とす。
2種類の青が混ざり合う攻撃によって、敵の背骨のような部品が折れ。
『あ……アアアアア!!!!』
絶叫を上げながら、『射手座の機械化サーヴァント』は前のめりに倒れ伏した。
巨大弓が下敷きとなって、砕けていく耳障りな音が続く。
「やったか!」
「やりましたか?!」
思わず似たような言葉を2人して発していた。
そんな俺達の元に、空から壊れかけのホバーバイクがふらふらと飛んできた。
「……てください! お二人とも、逃げて!」
「アダムさん、それはどういう……」
「地下よりエネルギー反応が急接近しています! お二人とも……逃げてください!」
ガレスが返答する時間すら惜しかったのか、ホバーバイクよりアダムを奪い取り、その場から駆け出す。
俺も彼女の背中を追って走り、小高い砂の丘に逃れ──急接近してきたものの正体を知った。
「新手? いや違う!
巻きあがった砂塵を苦々しく見つめ、思わず唇を噛んでしまう。
(下半身は、矢の反動を殺すためのアンカーのような役割しかないと考えていたが、甘かった……!)
賢者ケイローンは半人半馬の姿だと伝説に謳われている。
『射手座の機械化サーヴァント』が彼を核とし、力や形まで模しているのだとしたら、この展開は予想できたことだった。
『意味、意味、価値、価値。
無意味、無価値、無意味、無価値、無意味無価値……!!』
敵が喋り出す。けれど、相手の言いたいことが良く分からない。
『意味意味意味意味!!
無価値無意味なる我が生命に、意味を与えたまへ!!』
砂より現れ出たのは巨大な四足歩行のロボット。どこぞで戦った『雄牛の機械化サーヴァント』と大きさは似ている。
しかし、その体に頭は無く、千切れ落ちた上半身との接続部から、断頭された人のように液体リソースを噴出させていた。
『貴様の、死によって!!』
砂漠に響く声が、俺と隣にいるガレスの体を震わせた。
「連戦か」
「……ですね」
ガレスは足元にそっとアダムを下ろしてから、手甲光る腕で頬についた砂を拭った。
第105話 戦闘、射手座の機械化サーヴァント
終わり