敵機械化サーヴァントが放った、3000を超えるロボット兵に襲われるドレイク達の船。
アダムが情報を付け加えるに、『敵兵は時間が過ぎるごとにこちらの弱点を学習していく』可能性があるという。
その言葉と、敵の親玉がアーチャークラスであることを受け、短期決戦を試みるドレイク達であったが、ロボット兵は自らの体を重りとして使い、船の速度を落としてきた。
敵兵はなぜか961に集まってくる。アダムは『機械化サーヴァントに狙われやすい』体質があると言う。
足止めされているこの状況が続けば、『射手座の機械化サーヴァント』の必殺の一撃が飛んできて、全滅だとまで話す。
当初の作戦通りに物事が運んでいないことに焦る961をなだめるドレイク。次なる作戦を思いついた彼女は、ガレスを呼び、唯一使える状態であるホバーバイクを持って来いと言った。
一方その頃。『射手座の機械化サーヴァント』は敵を殺すための算段を考えていた。
なぜなら彼ら彼女ら『機械化サーヴァント』は、神性を保有するサーヴァント、すなわち『アルジュナ』を殺すために作られ、その命令を植え付けられた存在だったのだから。
400年前、アルジュナの手によって自らの空中庭園を落とされた女神リリスは、彼を『優先殲滅対象』として定めたのだ。
故に、『射手座の機械化サーヴァント』は、神性を保有し、アルジュナと霊基が87%まで一致している961を狙う。
……なんて87%しか一致してないんだろうね? 彼には神霊が混ざっているとはいえ……あれ、おかしいぞ。
まぁともかくだ、機械化サーヴァントは長々とした準備を終え、宝具を模した大陸間弾道ミサイルを発射した訳が──その時点で術中にはまっていた、というわけさ。
ミサイルを目前に見据える961には、それを防ぐ手立てが無いように見えたが、彼の姿は突然に代わる。続いて、青い残光を伴う連撃──宝具、『
ガレスが、指輪の力によって変身して961に化けていたのだ。
それだけでは敵をごまかし切れないので、アダムが敵の探知能力に邪魔をしかけていたのだけど。
狼狽えている『射手座の機械化サーヴァント』の隙を突き、別角度から迫っていた961が、凄まじいまでの破壊力を乗せた蹴りを浴びせる。そこにガレスも合流し、宝具に匹敵する両者の攻撃によって、敵の胴体と下半身は別たれた。
──だが、戦いは終わらない。
胴体を失った怪物は砂の下より四足の体を起こし、狂乱を含んだ叫び声をあげて対象の殺害を宣言したのだから。
「ガレス、いけるか?」
「戦闘中なので正直にお伝えします。
宝具を連続で使用しすぎました。霊基にダメージがあります、魔力も減っています」
「そう……か」
俺は目を泳がせながら考える。
『砂塵の迷宮』にいる間は、存在を維持し続けるだけなら何の問題も起きないと聞いたが、流石に宝具をああも連続で使えば、霊基に変調をきたすらしい。
『ああ……アアア! アツマレ!! アツマレェエェエ!!』
空気が震えるほどの音量で、『射手座の機械化サーヴァント』が叫ぶ。
声に呼応してか、ガレスの宝具の余波で砂に倒れ埋もれていたロボット兵達が、体を起こし始めた。
「っ!」
俺を狙ってくると考え、隣に立つ息を乱した少女を庇うために前へ躍り出るが。
「?」
兵達はふらふらと揺れながら、何の攻撃をすることもなく横を通り過ぎていく。
「なんだ……? 何のために呼び集めている?」
『射手座の機械化サーヴァント』の思惑が分からず、俺は困惑する。
敵の方へ首を向ければ、砂の下より現れた四足歩行の体にロボット兵が群がり、登っていく姿が見えた。
まるで冬の寒さに耐える虫のように身を寄せ合い……。
「そうか、修復しているのか!」
敵が何をやっているのかを理解した。機械化サーヴァントは自ら生み出した兵を回収し、再び自分の体にしようとしているのだ。
(回復する前に仕留めないと!)
ひとり焦る俺の肩に、誰かが寄りかかってきた。
ガレスだ。顔を真っ青にし、呼吸は先ほどより荒くなっている。
敵への対処と、味方の保護。どちらを優先するべきなど、考えるまでもない。
「アダム、ガレスを物陰に運ぶぞ!」
「物陰……って言ったって、ちょうどいい場所なんてどこにも」
「『射手座の機械化サーヴァント』の上半身があるだろ! そこに運ぶ!」
腕があれば彼女を抱えて走るくらい訳ないのだが、俺に腕は無い。
「助けてくれ、アダム」
「あー……はい。大丈夫ですよ、なんとかします」
アダムは黒く細い手足を伸展させると、俺とガレスをまとめて抱えた。抱えきれなかった彼女の盾が、音をがらんと立てて砂漠に転がる。
「かっ飛ばす!」
両足から魔力を放出。足裏が炭化を始めているが気にしてはいられない。
数十秒真っすぐに飛んで、倒れ伏した敵の体の陰に入る。
「ガレスを頼んだ」
「え、ええ……」
戸惑いながらも了承してくれたアダムを置いて、敵の様子を物陰より伺う。
『ドコ……あるジュナ、アルジュナ、アルジュナ。
ワレ、アレ、コロス、コロサネバ、バ……』
うわごとを大声で言いながら、頭の無い四足の機械は俺を探している。
その体の表面には外装代わりとなっているロボット兵がうぞうぞと蠢き、吐き気を催すような生々しさを機械へ与えていた。
俺は嫌悪感を抑えながら敵を観察する。相手の体のあちこちに、傷ではない穴が開いていた。
まるで、城砦に備え付けられた銃眼のような雰囲気の──。
『ニィ! アルジュナー!!』
敵は、頭を失った首の断面から明るい液体を拭き散らしながら攻撃を行った。
瞬間、空間に幾本もの光線が走り、青い空と黄色の砂漠を赤く焼き焦がす。
先の射撃ほどの威力は無い。けれど、場の制圧力はこちらの方が上だった。
『ニャアハハ!!』
数分前までは辛うじて意味が通じる言葉となっていたそれも、ただの鳴き声と化していた。
奴の前身から放たれるレーザーは、敵味方の区別などせず平等に辺りを焼き切っていく。砂の上に残されていたガレスの盾が、焼かれて半分にされたのが見えた。
(ここに隠れて隙を伺うべきか、それとも……)
逡巡する思考を裂いたのは、無数の砲撃音。
「──嵐の王、亡霊の群れ」
あの船長の声が、なぜか直ぐ側で聞こえたような気がした。
「ワイルドハントの始まりだ!」
俺の頭上に影が落ちる。素早く首を動かし見れば、よく知る海賊船が砂丘をジャンプ台として大きく跳躍し、倒れている敵胴体を越えている所だった。
宙に浮いた船へ無数の光線が浴びせられる──が、それらは届くことは無かった。周りを取り囲むように浮かんでいる大量の帆船が、盾となって受け止めたからだ。
(ドレイク?! ひょっとしてあれは彼女の宝具か?
……さっきまで遠方で戦っていたというのに、ここまで来てくれたのか!)
彼女達は、敵を油断させるため、あえて遠くで戦ってくれていた筈だ。
だというのに、こんなにも早く、近くに居るということは。
(ダユーが何か力を貸したのかもしれないが。
なんにせよ彼女達は……俺達のために)
危険も顧みず助けに来てくれたのだろう。敵を仕留めきれなかった己の未熟さに歯噛みする。
両者の攻防は続いていた。
砂漠に、敵が放ったレーザー光線と、ドレイクの船より発射される砲撃が真正面から幾度もぶつかる焦げ臭い音が満ちる。
盾となって砕けた帆船の破片が、
(状況を打破したい。出来ることを、自分に出来ることを考えろ、考え続けろ!)
まだガレスは回復していない。
ドレイクの砲撃だって、長く続けてはいられない、周りの帆船が盾になっている間だけだろう。
(もう一度だけ、全力で蹴りを放つ。
……出来るか?)
己の霊基へ問う。
連続した魔力放出によって、両足は内側から焦げ始めている。骨など半ば炭だろう。痛みすら感じなくなってきた、ただ体が儚くこぼれる感覚だけがあった。
「けど、あと少しなんだ……!」
そのわずかに手が届かない現状。だが、俺は唸りながら己を奮い立たせた。
あと少し、もう少しで、『射手座の機械化サーヴァント』を下すことが出来る!
「おおおおおぉぉぉぉ!!!!」
砂を蹴り、その後に青の迅雷の奇跡を残しながら走った。
制御しきれず、足から全身へと回った青い炎に身を焼かれながら、敵を蹴り倒そうとして。
「──!」
失敗した。敵全身から発せられていた光線の何本かが、太ももを打ち抜き、俺の動きを停止させたから。
敵の表層より剥がれ落ちたロボット兵が落ちてきて、後方へ吹き飛ばされる。
(あと少し、あと少しなのに!)
飛ばされながら思う。
足りない。力が足りない、速さが足りない、時間が足りない。
「──誰か!」
次の言葉、「助けて欲しい」は飲み込んだが、声を上げてしまった事実は変わらない。
でも、誰がいるというのだろう。ガレスは崩れ落ち、ドレイク、アンとメアリーとて、敵を倒す決定打は持ち合わせていないだろうに。
だから、俺の叫びは消え去るだけの言葉。
『■■■■■■──!!』
の、はずだった。
覚えのある咆哮を聞き、思考が澄み渡る。
『ミャギー!!』
敵の体が突然にへしゃげた。上に覆いかぶさり相手を押さえつけているのは、いつか見たあの『英雄』。
その瞳の光だけで俺を勇気づけたあの砂造りの『英雄』が、数十mの巨躯をそのままに機械化サーヴァントへ立ち向かっていた。
『ギャイギ……ジャマ、ジャマァ!!』
『■■■? ■■■■■■!!』
雄たけびを上げた『英雄』は、相手から一度離れて体勢を整えると、四肢へ痛烈な一撃を叩き込んでいく。
砕ける敵の体、地面に次から次へと落下していく機械部品。
しかし向こうもやられてばかりではない。全身から迸らせていた光をまとめ、極大のレーザーを形作り、機体のあちこちから何度も照射して『英雄』を焼き切ろうとする。
赤く焦がされていく砂の体、砂漠へと落ち、砕けていく脆い塊。
「どうして貴方が!」
俺は下から『彼』を呼んだ。
赤い瞳と視線が合う。彼も俺を認識したのだ。
(だが、まだ
『英雄』の出現によって攻勢はこちらに傾いたかと思ったが、ドレイクの船の周りから無数の帆船が消えたのを目にして、俺は考えを変えた。
海賊船は砂丘へ突き刺さり、そこからまだ砲撃を続けていたが、数は少なく、勢いも弱かった。弾は直近に落ち、敵には当たらない。
小さな人影が船から2人降りてきて、こちらへ駆けて来るのが目に入ったが、巨人と化している『英雄』と『射手座の機械化サーヴァント』の取っ組み合いをかいくぐって、俺達の元に来るのは……それなりの時間がかかるだろう。
「あと、少しが……!」
一人で焦っている俺に対し、視線が注がれるのを感じた。
顔を上げればまた合う視線。
『■■■■!!』
咆哮であったが、そこに込められている感情が不思議と分かった。
──『案ずるな』と。
「っ! 砲撃、ドレイクか……?」
初めはそう思ったが、海賊船が停まっている場所とは全く別角度からの砲撃であることに気づく。
壊れかけの足に鞭うつような気持ちで俺は歩き、砂丘へ登って砲撃の主を探す。
砂に霞んだ遥か後方から、砲撃が飛んできていた。それは決して『英雄』には当たらず、敵機械化サーヴァントのみに着弾している。
俺は疲れで重い瞼を開いて、目を動かす。
距離もあり、砂嵐がひどいせいで、はっきりと見えるはずも無いのに……乗っている者の姿が見えた。
「あれは……?」
操舵しつつ、金の髪を風に揺らしている若い男の姿。
彼は手を上げてから、それを真っすぐに下ろし、唇を動かした。
口元の動きを見ても、何を言っているのかは判断できない。けれど、先の『英雄』の咆哮の意味が不思議と分かったように、俺の脳内にある声が広がった。
『お前は先に行け』
知っている、声だった。
英雄イアソン、あの黒い箱から流れていた声と全く同じものが頭の中に響いた。
「──そうか」
俺は何もかも理解した。
イアソンという
「アーキマン! 助太刀に来ましたわ!」
「ガレスはどこ? やられた訳じゃないよね!?」
アン、メアリー、ガレス、ドレイクという
その意味は。
「……誰かが、未来へと進むため、か」
そして俺が前に進むため。
皆が力を貸してくれているのだ。だったら、その期待を裏切りたくない。
『やらなければ』ではなく。
「ならば!」
『やりたい』。
俺は、みんなの力を借りながら、時に転びながらも戦っていきたい。
アンとメアリーの瞳が俺を見る。
「わたし達の宝具だけでは、あいつを倒せません」
「でも嬉しいことに、誰かが援護してくれているみたい。
おかげで君を助けにこれたよ。
アーキマン、あと少しだけどふんばれそう?」
「ああ」
過去からの援軍によって、時間も力も足りた。
あとは俺がなんとかするだけだ。
「僕達に出来ること、ある?」
「うん、ある。頼みたいことは……」
短い言葉だったが彼女たちには伝わったようで。
「ははぁ、分かった」
「宝具にまで昇華されたわたし達のコンビネーション、目に焼き付けてくださいましね!」
2人は武器も持たずに駆けだす。
俺も後を追って走る。崩れかけの足のことなんて構わなかった。
心は、雨上がりの草原に風が吹き抜けた時の如く、軽やかだった。
「せーのっ!」
メアリーが銀の髪を揺らしながら、両腕を真っすぐに伸ばし、前で手を組んだ。バレー選手がやるレシーブのような構え。
だが、彼女が上に送るのはボールではない。
「はっ!」
俺だ。彼女の手を足場として跳躍。
「アーキマン! とどめ、頼みました!」
空を上がっていく俺に向けて、アンが体を捻りながら、地面より何かを拾い上げ飛ばす。
それは、敵の攻撃によって半分に焼き切られたガレスの盾。
鋭利な面が出来たその大盾を、俺は。
「これで終わりだ! 『射手座の機械化サーヴァント』!」
何のてらいもなく、横より蹴る。盾に青い雷と炎が宿り、炎弾と化した。それは回転することなくまっすぐ敵に迫る。断面の尖った先が陽光を受けて、ぎらりと一度だけ光った。
『マ、アルマガギジュオ……!』
驚嘆の感情がにじむ声が敵から漏れ出た。
向かってくる盾を迎撃するためか、全身より再びレーザー光線を放とうとしたが──それを許す砂作りの『英雄』ではなかった。覆いかぶさって抑え込み、体の前面を赤く溶かしながらも敵の攻撃を食い止める。
俺が狙ったのは、上半身と下半身の切断面。液体リソースがぼたりぼたりとたれ落ちている、一段と柔らかそうな部分だ。
盾は何の邪魔もされず、機械化サーヴァントを穿つかと思われたが。
『マガ!』
しかし、敵はまだ奥の手を残していた。液体を断面より過剰噴出し、その勢いをもって盾を押しのけようとしたのだ。
(まだ、足りないのか──!)
空より落ちつつある俺に出来ることは、行く末を見守る事だけ。
『ハヒッ、アルジュナ、コロ……』
──液体の噴出が唐突に止まった。敵のよくわからぬ言葉も止まった。
俺は顔の横を、一陣の風のようなものが吹き抜けていったのを感じ取った。
視認できたそれは細い矢であった。あふれ出す液体の間を見事にすり抜け、切断面のパイプの一つに詰まる。
噴出量がわずかに減って、敵は盾を押し流すことに失敗した。
青く燃え続けていた盾は、俺の狙い通りに脆い断面へ突き刺さり、なおも勢いは止まらず、砂作りの『英雄』ごと敵を貫く。
盾が崩壊し消え去る瞬間、青い雷で空を埋め尽くした。
『アアッ!! ムイミィ!!』
敵は泣き叫んだ後、外装の内側を盛り上げるほどにエネルギーを収束させ。
『パッ』
死なば諸共と言わんばかりに、全身より光の糸をまき散らした。
特定の誰かを狙ったわけではないレーザーのなりそこない達は、地より様々な残骸を巻き上げ、衝撃波を発生させる。
落ちる途中だった俺は、風を受け、後方へ吹っ飛んで行った。
第106話 決戦、射手座の機械化サーヴァント
終わり