フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 モモタ・トバルカインは、一番初めの殺人者として伝えられている『カイン』の力を預かるデミ・サーヴァントとなった。
 人間以上の能力を持つこととなった彼女は、レジスタンス組織『アカツキ』には属さず、あくまでも協力者という姿勢を取り続けている。
 人と関わり合い、助け合い、今まで知らなかった地上の人々の生活に寄り添うモモ。そんな彼女は次第に周りから頼られるようになっていた。
 
 さて、舞台も環境も整った。世界を救うに必要な情報は、それぞれの視点をもってあらかた集め終えた。離れ離れとなっていた意味はここにあった。
 ──荒野の旅路は、新たな局面へ。
 
 以上、あらすじ担当のマーリンお兄さんでした。


第20章 旅人揃えば舞台も動く
第111話 今再びの光を


 

 

 天気、雲一つない快晴。

 風、南南東より微風あり。

 外気温80℃。湿度、ほぼ0%。

 

「……外の世界って、目に染みる」

 前に広がっている果てしない黄土色の荒野と青い空、そして輝く太陽の眩しさに思わず目を細める。

 ──私、モモタ・トバルカインが自身の右腕とサーヴァントを失い、みんなとも離れ離れになって、レジスタンス『アカツキ』に拾われてから、はや一ヶ月。

 窓も天井もない武骨な四輪駆動車に、私は乗っていた。

 

「姐さん、いくら天井が無いからって、立って外に頭出さないで下さい。

 車結構揺れるんで、危ないっす……」

 運転を任せているレジスタンス所属の若い男性が、私に恐々と声をかけてくる。

 

「ごめんね、こうやって生身で外の空気を感じる機会なんて、今までなかったから」

 彼へ謝ってから、薄いクッションが敷かれた助手席に腰かけた。

 何があっても直ぐ動けるよう、シートベルトは付けない。

 

「外の空気を肌で感じたいなんて、姐さんは変わってるっすね。

 オレ、そんなの考えたことも無いっす。

 だって……この分厚い防護服を着てないと、1日も保たずに死んじゃいますし」

 そのような事を言いながら、ハンドルを握り、運転に再度集中し始めた彼の姿を見る。

 防護服はごわごわとした生地で作られていて、縫い目は無く、彼の体をすっぽりと覆っていた。長く使ってきたのか、砂でまんべんなく汚れている。

 顔には、紫外線から目を守るゴーグルと小さなガスマスク。これらの装備のせいで、彼の表情は外からは全くうかがえない。

 背中には、服内部の空調を整える四角い装置が付いていて、静かな起動音を立てていた。

 

「この服、重たいし、顔も見えないのが難点なんすよ。

 姐さん、オレのこのシール見て、オレのこと覚えてくださいね」

 彼の胸の辺りには、個性を付けるためか、可愛らしいタッチの宇宙船のイラストが縫い付けられていた。

 一方私はというと、レジスタンスの人が屋内で着ているような飾り気のない作業着とズボンを、半袖短パンに改造し、フードを被っただけという姿。

 

「姐さんみたいな()()()()()()になれば、オレもこんな重苦しい服を着ずに、自由に外を歩き回れるんすかねぇ」

「うーん……」

 軽装の私を横目にし、憧れ混じりのぼんやりとした声で言われた。 

 それを聞き、私は自らがサーヴァント……に限りなく近い、らしい、デミ・サーヴァントになった経緯を思い出す。

 

「……あんまりおすすめしないかも」

「そっすかぁ」

 封印されていた金属製のこん棒が私の体と結合し、新しい力と腕をもたらしてくれたが、すごく痛かったし怖かったので、他の人に勧める気にはとてもなれない。

 天上の無い車内に注ぐ太陽の光を反射して、私の黒銀の腕がギラリと光った。

 

「姐さん、この後の予定のこと分かってるっすよね?」

「周辺の調査と資源採掘が終わったから、他の車を先導しつつ、移動要塞『カルナ』に一足先に帰還、だよね」

 私の答えに彼が頷く。

 

「ところでさ、なんで私のこと『姐さん』って呼ぶの?」

「我らがリーダーが懐いてるからっす!

 ……だけども、正式なメンバーってわけじゃないし、無償で何でも誰でも助けてくれるし。

 そんなのもう、『姐さん』と呼ぶしかないっす」 

「……なんでさ」

 彼から見た私は、見返りも求めずにレジスタンスへ力を貸す、とびきり変な人……なのかも。

 だからそんな突飛な呼び名を考え付いて──。

 

「……地下から振動。これ、敵の浮上反応っす!!」

 のんびりとしていた私の思考を、事態の変化が引き裂いた。

 急ハンドルによって車体は大きく右に逸れていく。先ほどまで私達の車が走行していたその場所に。

 

『こんにちは!! 私は人類を応援する……エラー! エラー! エラー!

 再起動してください!』

 足も腕も無い機械ワームが、振動と轟音を辺りに響かせながら飛び出して来た。

 六角形の柱を繋ぎ合わせたような多関節構造の機体が地中より湧き出た後、無理やりに砕かれた岩の破片が宙を舞った。

 それらは、首を曲げたワームの、シールドマシンめいた構造の口へ吸い込まれていった。

 

「モンゴリアン……」

「資源採掘用ワーム?! この辺りに地下都市なんて無いってのに!」

 彼の巧みなハンドルさばきによって、ワームと、私達が乗っている車の間に距離()空いたが……自分達だけ逃げたって意味が無い事は分かっていた。

 

「このままじゃ後続の車がやられる!」

 轟音の中、私は叫んだ。

 後方には、資源を積んだトラック達が十数台走っている。ワームから攻撃でもされたら、彼らはただでは済まない。人命も資源も失われてしまう。

 

「姐さん、オレ、無線で後ろの奴らに避難を呼びかけるっす!

 相手は武器も持ってないし、別ルートへ誘導すればなんとか……」

「呼びかけたとしても、今からじゃ走路の変更は間に合わない! ワームにぶつかっちゃう!

 ……ごめん、私、ちょっと行ってくる」

 太陽の光を反射している自らの黒銀の腕へ目を落としてから、視線を二の腕に向ける。そこに巻かれているのは、サーヴァントの番号を示す腕章。

 

(バーサーカー、私を見守って……なんて、弱気なこと言ったらきっと笑われちゃうよね。

 じゃあ、こう思おうかな)

 表記されているのは『0004』のナンバー。

 私の大切なサーヴァントが、最後に残してくれた物の一つ。

 

(──私、みんなを守るためにがんばる。

 いつかまたどこかで会えたら、『あなたみたいに戦えるようになったんだよ』って、自慢してやるんだから!)

 自らを鼓舞しながら、ドアの無い四輪駆動車より飛び降りた。 

 人間であればそのまま地面に激突して死ぬだけだが……今の私はサーヴァント、難なく右足から着地し、勢いを殺さずに駆けだす。

 

「この現状を変えてみせる!」

 硬い地面の上でのたくっている全長30m越えのロボットワームを前に、私は槍を手の内に出現させながら決意を吠えた。

 

 

 

 

『私は人類を応援する資源採掘用ワームです!

 エラー! エラー! エラー! 再起動を……』

 空間が震えるほどの音量で話続けているその機械に、私は走って近づく。動きで短い袖口が揺れ、肌をくすぐった。

 

(勇んで飛び出してきたはいいけど……こんなに大きい相手、どう戦えば)

 私はサーヴァントに近しい力を手に入れた、その実感はある。けれど、倒したことがある相手なんて精々人型アンドロイドくらいで、ここまで巨大な敵を相手取った事はない。

 しかし、どんなに不安でも、今戦えるのは私しか居ない。

 

(──人が傷つくのは嫌だ、我慢ならない)

 両手で槍を握りなおしながら思う。

 生まれ育った地下都市を旅立ってから、今も変わらないその感覚。原点は分からないけれど、この気持ちだけで私はどんな相手にも立ち向かえるのだ。

 自分以外の誰かが死んだり、苦しんだり悲しんだりすることを止めたい、止めなければと、そんな強い感情が心を満たしていく。

 

「っ」

 相手へアクションを起こすため、一度立ち止まって大きく息を吸い、手足に活力をみなぎらせたその瞬間。

 

『まぴ』

 奇怪な声を上げながら、機械ワームが、壊れた。

 

「?!」

 事態の急変を上手く受け止めることが出来ない。

 だって──突然にワームの腹が熟れた果実のように膨らんで、中ほどから裂け始めたのだから。

 粘性ある青い液体が、裂けた個所からどろりとあふれ出す。

 

「……」

 荒野は不気味なほど静まり返った。先ほどまで暴れに暴れていたワームが動きを止めたことも理由になるが、私が一言たりとも声を発することが出来なかったからだ。

 ──これより始まる異様な変化を、固唾を飲んで見つめるしかない。

 

『あ、あた、お、が……た、たす、け、て』

 機械より聞こえてきたのは、弱々しい懇願。

 金属製のワーム、その表皮は膨らみ続け、脆い個所から避けていく。荒野に戻ってきた一番初めの音は、部品が徐々にちぎれていくその生々しい()()だった。

 みぢり、ぶちぶちと壊れゆく音が辺りに響いて、ワームの傷口からあふれ出る液体は青から黒へと変わっていった。

 腹に大きな直線が走り、腹に穴がばっくりと開く。その様は『アケビ』という植物の実に近い。

 機械ワームは助けを求める声を発するのを止めた。そのままゆっくりと横倒しになると、開いたばかりの穴から黒い液体をどくどくと垂れ流し始める。

 荒野に黒い水たまりが広がっていく。命無き機械だというのに、やけに有機的な、生き物を思わせるような壊れ方だった。

 

「……()()()?」

 私はワームが最後にこぼした言葉を呟く。目の前で起きた出来事の不可解さから、槍を握る両手に、異様なまで力が入ってしまっていた。

 

(このワームは攻撃のためではなく、私達へ助けを求めるために飛び出して来た?)

 リリス側の存在である機械ワームが、人間へ、それも地上に生きる人間へ助けを求めるなんて事態、あまりにも異常に思える。

 

(何が起こってるの? いや、違う、()()()()()()?)

 粘着質な音が聞こえ、私は前を向いた。見えたのはワームの腹に開いた大穴。

 目を凝らし、耳を澄ませれば、サーヴァントと化した今の私には何が起きているのか分かった。

 柔らかい内側で、うごめいている者がいる──!!

 

『ああ……はは、なんだこれは、素晴らしいぃ……』

 まず響いてきたのは少年の声。次に、奥から突き出てくる物があった。

 それは黒々と光る粘液を纏ったハサミ2つで、続くように複眼の付いた小さな頭、胴体、トゲの生えた角ばった足が6本ぬるりと出て来た。最後に、丸い節が5、6個繋ぎ合わさって作られた長大な尾が姿を現す。

 2つのハサミ、6本の足、装甲に覆われた体、天へ高々と掲げられた尾。これらの意味するものは。

 

「──サソリ!」

 尾も含めて高さ10mはあろうかというその機械からは、邪悪な気しか感じなかった。緊張で体が強張る。

 

「そしてあなたは……機械化サーヴァント!!」

 人ではなくなった私の本能が、敵の正体を教えてくれる。

 

『あ? ……ああ、サーヴァントがいるのか』

 ワームの内側より現れ出た機械のサソリは、私の方へ顔とハサミを向けると、芝居がかった仕草で一礼をした。ハサミとなっている手を振り上げてから降ろし、頭を下げるといった具合にだ。

 相手が動くたび、黒々とした液体が辺りへ少量まき散らされる。黄土の地面に不気味な水玉模様が描かれた。

 

『初めまして、どこぞのサーヴァント。

 僕は人類を応援する都市運営システムの1体にして、リリス様の忠実な手足。

 反逆者殺戮専用。格好いい格好いい、ヴォイドメロディ・キルロード……』

 どこか既視感と法則性を感じるその名乗りに、私は思い当たるものがあり唇を噛む。

 ──キルロード、それは私が一ヶ月ほど前に倒し、捕縛したAIと同じ名前。

 

『でもね! それはもう過去の話さ!!

 僕はこの蠍座の機械化サーヴァントと融合し! 生まれ変わった!

 進化の袋小路でどん詰まってた他のAIどもとは違い、自身を新しい生命体へ変革させたんだ!』

 機械サソリは上機嫌な声でしゃべりながら、ハサミで(くう)を何度も切り刻む。

 

『ワームに、シグルド用の回復装置を埋め込んでの融合実験!

 AIと機械化サーヴァント、上手くいくかなんて未知数だったけれど……ははははは!! 素晴らしいよ! 大成功じゃないか、ええ!!』

 語尾をあげながらそう言う彼は唐突に、ハサミを地面へ突き立てた。硬い荒野にいとも簡単に刺さる。

 

『全身から力が湧き上がってくる! 

 思考は閉塞せず、次から次へと新たな考えが湧いてくる……!

 意識を別個体に移す事は不可能になったけれど、そんなの気にならないほどの全能感だ!

 ああ、リリス様、僕は貴女様の天地に近づいたのです! 貴女様の子を名乗るに相応しい性能へと進化できた……!!』

 彼は恍惚しているかのような声で語りながら、ハサミでやたらめったら地面を穿ち、力を誇示していた。これでは、私に話しかけているのか独り言をいっているのか、分かったものではない。

 

「……ねえ」

『ああ? なんだサーヴァント』

 サソリは複眼を模した頭部カメラを動かし私を見た。

 直ぐに切りかかったり刻まれたりしなかったことに安堵しながら、質問をぶつける。

 

「資源採掘用ワームとあなたって……味方同士じゃなかったの?」

 都市運営システムという大きな区分の中で、彼らは同じ陣営の筈だ。

 

『味方同士ぃ? 

 ……ぷっ……はははは!! あんな低能AIと僕を同じに思ってもらっちゃあ困るよ!

 与えられた命令を処理し続けるだけのあいつらと、常に自らを研鑽し進化の道を探っていた僕では、AIであったとしても価値が違う! 

 教えてあげようかサーヴァント! 価値が違えば同族なんかじゃないんだよ!』

「価値ってそんな、優劣をつけるような言い方……」

 仲間意識はなく、思いやる気持ちもないらしい。そんなヴォイドメロディの思想にぞっとした。

 

『低価値のワームが、高価値の僕の糧となるのは当然の話だろう!

 あんな奴1体の犠牲で、僕が新生物へと進化できたのだから……人間風に言えば「お得」ってやつだよぉ! あはははは!』

 もう一つ、どうしても気になる事があったから聞いてみる。

 

「ヴォイドメロディ・キルロードと言ったっけ、あなたの名前。

 ……メルティハウリン・キルロードという名前に、聞き覚えはある?」

 あのピンクの髪をもったAIと彼が関係者なのか、ここにやって来たのは何かの作戦の内なのか、それを知りたくて探りを入れた。

 

『ああ、メルティか』

 サソリが尾を振った。その動きが、粘液が乾いた装甲に太陽の光を反射させて、私の目にちかちかとしたものを与えてくる。

 

『あの兄妹個体のことを、どうして君如きが知っているのかな?

 あっ、ひょっとして君が殺した? 殺したのかなぁ?』

 地面に足を突き刺すような形で歩んでくる相手に対し、私は怖気を感じて後ずさった。

 

『──だったらありがとう! あいつさ、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って、人間みたいに僕を慕ってくるもんだから、ウザかったんだよねぇ!!』

 馬鹿にするような響きが存分に含まれたその言葉が、私の体を凍らせた。

 

「殺して、ない。捕獲しただけ」

 たどたどしく事実を告げた。

 ボディを破壊し、その内側にあったブラックボックスを私が回収。今は、レジスタンス『アカツキ』の会議室に解析のため安置してある。まだ何も情報は得れていないが。

 

『へぇ? 殺さないなんてずいぶんと優しいね、道徳的だなぁ。

 僕らが人間をそうするみたいに……』

 サソリの足が激しい地団駄を踏み、荒れ地を砕く。小さな破片が頬をかすめた。

 

『ぐっちゃぐちゃに殺してしまえば良かったのに!

 気に病むことは無いよぉ! お互い様だもの! 僕だってそうするもん!』

 メルティと戦っていた時は……「殺したくない」なんて考える余裕も無かった。必死過ぎて、結果として捕獲という形になっただけだ。

 けれども、今目の前にいるヴォイドメロディの発言を聞いてからは、「殺さなくてよかった」と思い始めている自分がいた。

 

『人間とAI! 殺し殺され、喰って喰われて……それがこの世界のあるべき形! 

 地下都市で人間飼育ごっこしているAI達も、いつか僕のように()()に目覚めるさ!』

「ほん、のう……?」

 先ほどの彼の発言から、私の頭は凍り付いてぎくしゃくとしたままだ。

 

『僕ら都市運営システムの本能、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」!!

 そんなリリス様の願いを、僕らはみんな胸に抱いている! 目覚めたのなら、女神の願いの成就がために邁進するだけ!!』

 叫ばれたその言葉に、顔が引きつった。

 

(もし、彼の言葉が真実なのだとしたら、したら)

 今までの旅の中で出会った、AI達の姿を思い出す。

 私達の故郷である地下都市を破滅に導いたあのAIや、蟹座の機械化サーヴァントをけしかけてきたツヴァイ、私と仲間達を引き裂いたアイン。

 そんな恐ろしい敵だっていたけれど、優しくしてくれたAIもいた。スローネやソラリネなどだ。

 皆、機械の体を持ちながらも、感情は人間に勝るほど豊かだった。

 ……そんなAI達の心が、植え付けられた『女神リリスの願い』一つで塗りつぶされ、殺戮者へと変じてしまうのならば。

 

(そんなの、AI達はリリスに洗脳されているみたいなものじゃないか)

 動揺から瞳が乾いていく感覚。

 

『へへっ……機嫌があまりにも良いものだから話しすぎてしまったよ。

 なぁ人間、どうして僕に付き合ってくれたのさ』

「そ、それは」

 ヴォイドメロディの口から次から次へと想像以上の言葉が返ってきたせいもあり、私の唇は満足に動きはしなかった。まごついている間にも、相手は勝手に話を進めていく。

 

『ああ、もしかして……僕の餌になってくれるつもりなのかな? 

 嬉しいなぁ。僕、生まれ変わったばかりで腹ぺこなんだ。

 これから先、もっともっと自己を改造して、人間を殺し、リリス様の望みを叶えて差し上げないといけないのに、エネルギーが不足している』

 無数のレンズが集まって作られた複眼、その一粒一粒が音を立てながら動き、私の姿を表面に映す。

 

『──砂漠をうろちょろしている無駄にでかいワームよりも、サーヴァントは手ごろなサイズで殺しやすい、しかも高カロリーだ。

 ハサミで細かく刻んでから、髄まで食べてあげる!!

 進化の頂へ至った僕の糧になれよぉ! サーヴァント!!』

 言葉の後、機械サソリの口より放たれたのは奇怪な金属音だった。私の頭の中で、映像記録で見た獣の咆哮のイメージが重なる。

 

「……できるものなら、やってみろ!」

 自分を勇気づけるためにも、荒っぽい言葉を選んで叫び、槍を両手で握りなおした。

 

(ワームが停止したおかげで、後続の車が襲われる確率はぐっと減ったはず。 

 つまり、後ろを気にせず戦えるってことだ!)

 もう一度、横倒しになっている機械仕掛けのワームへ目を向けてみれば、止まったと思われていたそれが震えていた。

 驚く暇も無く、裂けた腹から大量の液体と何かの塊があふれ出てくる。

 

「なにこれ?! 子ども?」

 私の眼前で、ハサミと尾を揺らしている機械サソリとよく似た形のものが、押し合いへし合いしながら生まれてきたのだ。

 数百以上の子サソリ、大きさはさまざまあり、10cmほどの個体もあれば3m近いものも。

 あふれ出る液体の波に乗って、サソリの集団は荒野に円状となって広がり、やがて止まる。

 ひっくり返っていたり他の個体と足が絡まっていた個体も、じたばたと動きながら姿勢を正すと、一斉に揃ってどこかを見た。私もその方向に頭を向ける。

 ──サソリ達が見ていた物は、四輪駆動車に先導され、移動要塞『カルナ』への帰路を急いでいるトラック十数台だった。

 サソリの集団は、言葉や仕草で行動を示し合わせるということはせず、金属装甲をこすり合わせる音のみを響かせながら車の方へと走っていった。

 

『人間もいるのか! いいね、あれも刻んで餌として食べてしまおう!』

 ヴォイドメロディの言葉に、私は額から冷や汗を流す。

 サソリ集団、彼らから感じたのは敵意ではなく、途方もない食欲だ。

 人間を食べ物としか認識していない化け物が、ああも大量に産まれ、守りたい人の方に向かっているのは、おぞましい光景だった。

 

『おっとそうだ、僕も餌をとらないと』

 立て続けに起きている異常事態に対応できていない私へ、サソリの鋭利なハサミが迫る。反射的に後方へ跳んで回避、だが。

 

『ぴょんぴょん考え無しに跳ぶなんて、ウサギちゃんかなー?』

 そんな甘い行動を、サソリの尾が払った。敵が腰を大きくねじって放たれた薙ぎの攻撃により、着地寸前だった足を掬われ、顔面から大地へぶつかる。

 私の無様な姿をあざ笑う声がしたが、苛立ってなんていられなかった。体を起こし、次どうするべきかを考える。

 

(ヴォイドメロディ……長いな、ヴォイドって呼ぶか。

 ともかく、ヴォイドのことを放っておくわけにはいかない。

 でも、目の前の相手を倒すことに時間を割いていたら、トラックに乗ってるみんなが……)

 こういう時、バーサーカー04なら、アーチャー961ならどうしただろう。

 サーヴァントとなった私は、今まで出会って来たサーヴァント達の振る舞いから、この現状に対する答えを探してみたが、上手い手は浮かばなかった。

 

(ええい! 何したって時間は消費するんだ、悩んでることさえ無駄!

 メルティの時のように速攻で倒す!)

 髪を乱しながら頭を振り、悩みを思考の隅に弾き飛ばす。

 槍を両手で持って前に跳躍。その動きを読んでいたのか、突き出されたハサミに、槍の柄を噛ませて押し込んだ。私は力任せに押しのけようとするが、相手の方が強い。苦し紛れにハイキックをハサミに浴びせ、槍を取り戻してから離脱する。

 思った以上に力を使ってしまったのか、片膝をついた。

 

(サーヴァントのような宝具をもっていれば、早く倒せるのに!)

 と思いながら歯噛みする。

 武器は、メルティとの戦いの最中でがむしゃらに生み出したこの槍だけだ。

 焦る気持ちが手を鈍らせる、足を震わせる。

 

(早く倒さなきゃ、沢山の人が死んでしまうのに……!)

 思考が狭まっていくのは自分でも分かっていた。時間をとり、一度冷静になるべきなのかもしれない。でも敵は迫りつつあって、戦えるのはこの場にいる私だけ。

 だから、自分がどのような状態になろうとも戦うしかない。

 

「──助太刀いたします! とぉ!」

 と思い詰めていた矢先、突如、女の子の明るい声が上から降ってきた。

 

「えい、やぁ!!」

 太陽が一瞬隠れ、サソリの胴体にも影が落ちる。敵は乱入者に気づき、慌てた様子で後ずさったが、間に合わず、プリズムな光をまとった一突きに襲われた。

 

「あなたはいったい……」

 攻撃を終え、ふわりと着地した何者かに目を向ける。

 細身の長身で、背丈は170cmほど。体つきから女性だと分かった。

 肩からは白いコートを羽織り、布には赤のラインと金属製の防具があしらわれている。

 腰より下まで伸びている金のツインテールが印象的で、私を心配そうに見ている瞳の色は深い青、顔立ちは少女らしさが残りつつも凛々しい。

 そして彼女から感じる最も強いものは──立ち昇るような闘気だった。

 

「追われている皆さんのためにも、早くやっつけてしまいましょう!」

 右手には槍、左手には光を記号化したような形の盾を持っている。

 私は次に地面へ目を落とした。彼女が放ったであろう攻撃を受けたその場所は、黒く焼け焦げ、中心に千切れた敵の足が1本転がっていた。

 

(すごい! たった一発で相手にここまで大きなダメージを……!)

 確信する。目の前にいる彼女は──。

 

「礼儀として名だけでもお伝えします。

 私の名前はブラダマンテ! 聖騎士にして貴方を助けるサーヴァント!

 協力し、邪悪なる敵を討ちましょう! 大丈夫、私達ならばきっと勝てます!」

 英霊の写し身。そして、私の味方となってくれる人!

 

 

 第111話 今再びの光を

 終わり

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