フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 物資発掘、その護衛を終え、荒野を走る旅路についていたモモ。
 しかし静寂は、突然地下より現れた機械ワームによって破られる。倒すために飛び出したモモだが、ワームは彼女に助けを求めながら内より食い破られた。
 中から現れたのは、蠍座の機械化サーヴァントと融合を果たしたAI、ヴォイドメロディ・キルロード。いつだかブラダマンテと相対した彼だった。

 怪物へと進化したAIは、機嫌よく様々なことをしゃべり始める。
 機械ワームをずっと見下していたこと。
 モモが倒したAI、メルティハウリン・キルロードは妹であるが、情など何も感じていなかったこと、むしろうざがっていたこと。
 全てのAIは、潜在的にリリスの願い、『人、憎し。よってそのことごとくを滅ぼしたまえ』を本能として抱えていること。
 ──人間もサーヴァントも、餌としてしか見ていないということを。
 彼の言葉・考えに、モモは精神をかき乱される。

 機械ワームの内より、更に大量の子サソリまで現れ、逃げている他のレジスタンスを捕食するために走り始めた。
 敵を倒すことが出来ず、追い詰められるモモ。そんな危機的状況に現れたのは、サーヴァント、ブラダマンテだった。
 彼女はモモに手を差し伸べ、言う。
「協力し、邪悪なる敵を討ちましょう! 大丈夫、私達ならばきっと勝てます!」
 そんな、真っ白な希望に満ちた言葉を。


第112話 白は希望を感じられる

 

『な、あがっ……そんな馬鹿な! 

 僕が負けるはずがない、新生物へと進化したこの僕が! 嘘だぁ!!』

 サソリの姿をした機械化サーヴァントは、現実を振り払いたいのか頭を左右へ大きく動かしていた。

 私は相手を見る。その象徴である尾は切られ後方に転がり、切断面からは青黒い液体をあふれさせていた。

 敵は、1つを欠いてしまった5本の足で体を無理やりに動かし、私達から距離を取ろうと後ずさりを続けていたが、そんな敵に引導を渡すかのように、サーヴァント『ブラダマンテ』は槍の切っ先を向ける。

 

「貴方は覚えていないかもしれませんが、私は貴方と一度戦ったことがあるのです。ヴォイドメロディ・キルロード。

 よって──」

 語る彼女は腰をぐっと落とすと、ばねのように前へ跳ね、音よりも早く相手との距離を詰めた。

 サソリの眼前に彼女の顔が迫り、そして。

 

「勝ち方も、分かる!」

 勢いに乗ったまま、相手を一突き。

 サソリの体を守るハサミはもう無い。武器であり盾であったそれは、私とブラダマンテの連続攻撃によって既に破壊されている。

 槍は敵胴体を貫通した。背中側の装甲にヒビを入れながら、螺旋を形どる刃が飛び出る。

 

『僕、融合したせいで、この体から、逃げられない……。

 嘘、嘘だ、こんな、オワリ……かた……』

 サソリの体はだらりと弛緩し、ブラダマンテの肩に覆いかぶさってきた。彼女は槍を抜きつつ、10m近くあるそれを片手で支えてから、転がすようにして荒野に投げた。

 私はブラダマンテのことが心配になり、傷の痛みも気にせず駆け寄った。

 

「残酷な気配をまとった、恐ろしい敵でした。

 倒せはしましたが、まだ油断してはいけません! ()の時のように別の体へ入って現れるやも」

 彼女が私へ言った()が何のことか分からないが、どうやらこのサーヴァントは、AIや機械化サーヴァントが一筋縄ではいかないことを知っているらしい。

 

「心配しないで下さい、ブラダマンテさん。

 この敵は私にこう言いました。自身は機械化サーヴァントと融合した特殊なAIであり、『意識を別個体に移す事は不可能になった』と。

 彼の語ることを信じるならば、再び現れることは無いかと思います」

「今は敵を信じるしかありませんか。

 それにしても……貴女は、この世界の敵についてもよく知っているのですね!」

 ブラダマンテは感心したような表情で私を見つめてくれていた。その視線にくすぐったくなり、身をよじると。

 

「いつっ……」

 ふくらはぎと肩に出来たばかりの切り傷が痛んだ。

 

「その怪我、大丈夫ですか? 治りが遅いような……」

「私だってサーヴァントですから、直ぐに治っちゃいますよ。心配無用です」

 敵のハサミを壊す際、ブラダマンテが指示してくれた攻撃のテンポから、私がほんのわずか遅れたことにより、要らぬ傷を作ってしまった。心配をかけないためにも明るく振舞う。

 傷からあふれ出た血が、靴と上着に赤いシミを付けていた。

 

「私の怪我よりも、今は子サソリの集団に追われているトラックの事を考えないと! 

 行きましょう、ブラダマンテさん!」

 私は手に持っている槍の具合を確かめながら言う。

 敵の攻撃を受け止めたり、戦闘中、バッドのように叩きつけたりしたせいか、柄は少し湾曲に歪んでしまっていた。けれど、まだ使えそうだ。壊れたら徒手空拳でも何でも使って戦えばいい。

 

「貴女がそう言うのでしたら従いましょう。

 ……私よりこの世界についてお詳しそうですしね!」

 ブラダマンテが見せてくれた、大輪の花のような笑顔にほっとする。そうして、お互いに目配せあってから駆けだした。

 この大地は、ただの人間であれば躓いて転んで、とても全力で走ることなど出来ないけれど、サーヴァントであれば車並みの速度で駆け抜けられる。

 先頭は私が走り、後ろから彼女が付いてくる。数分も走っていれば、守るべき対象であるトラック群が見えてきた。

 

「みんな……」

 300mほど先へ目を凝らす。

 十数台のトラックは停車しており、中には、四角いコンテナや荷物を内側よりこぼしながら、横倒しとなっている車もあった。

 レジスタンス達およそ30人が、車や荷でバリケードを作り、アサルトライフルやミニマシンガンを撃って懸命に戦っている。相手は、ワームの腹より生まれたおびただしい数の子サソリだ。

 この危機的状況の中、唯一安心できたのは、レジスタンス達が周りを完全に取り囲まれてはいなかったことだろう。敵の進軍を、弾幕を貼ることによって遅らせているようだ。

 しかし、戦局は人間がやや不利にも思えた。

 子サソリは、銃数発で破壊される小さな個体もいたが、何発撃たれようと前へ進み、ハサミでトラックや人間を細かく切り刻もうとしている大型の個体も見えた。

 

「ブラダマンテさん、敵の数は多いです、どうすれば!」

 走りながら首を後方へ向け、戦闘経験豊富であろう彼女へ指示を仰ぐ。

 

「盾に魔力を集め、光として放ちます! その閃光によって敵の動きを止めてから、私達で倒しましょう! 

 貴女は先へ行って皆さんに呼びかけを! 物陰に隠れるよう伝えてください!」

「はい!」

 指示を理解した私は、大地を踏みしめる力を強くする。

 岩跳びのように連続跳躍して皆の元へ急ぐ。当然、邪魔してくるものがいた。

 

「っ!」

 私の前に立ちはだかってきたのは、3mほどの機械サソリだ。

 前の私ならばいざ知らず、ヴォイドとの戦闘で経験を積んだ今の自分ならば、恐れることなく戦える。

 見下ろしてくるその敵へ槍を突き出し、脚部に傷を幾つも付けてやった。

 

「やあっ!」

 サソリが体勢を崩し、頭を地面に近づけた瞬間に槍で刺し、引き抜きながらこちらに寄せて、足を伸ばし力を込めて踏んづける。

 戦っている間に群がってきた小さなサソリは、走りながらつぶし、足の側面で転がしてやった。

 

「姐さんだ! 助けに来てくれたんだ!」

 辺りの敵の処理が済んだ瞬間、聞こえてきた声がして顔を上げる。

 倒れたコンテナの上に立っていた男は、先ほどまで同じ車に乗っていた()だ。胸に付いてる宇宙船シールのおかげで分かった。

 レジスタンスに撃破されたサソリの残骸の山を登り、彼へ声をかける。

 

「もう味方の1人サーヴァントが来るの! 

 敵を倒すために強い光を使うから、みんなは直ぐ物陰に!」

「サーヴァントが?! 姐さんそれって……」

「他の人にも伝えて! お願い!」

 敵が近づいてきたのか、銃声の連続した音が再び響く。

 私は、残骸の山からコンテナの上に跳躍した。まだ指示を聞いていない皆へ声をかけるためにだ。

 降りたその場所は、長年の金属疲労のせいか若干デコボコしていた。皆武器を広げていて、簡易の砦のような雰囲気となっている。

 そこに、もう1人誰かがやって来た。

 

「北東部の敵、掃討終わりました。

 南から大型の敵が迫りつつあります、私が対処した方が良さそうですね」

 四角いコンテナの上に、地上から一跳びで上がって来たのは鎧騎士。

 声は少女のものに聞こえたが、それが自分の勘違いかと思うほど、携えている槍も大盾も着こんでいる鎧も、飾り気のない武骨な物だった。

 

「もしかして、貴女がレジスタンスに協力しているサーヴァントの方ですか?」

 鎧騎士から声がかかる。騎士は、兜を光の粒子に変えて外し、素顔を私に見せてくれた。

 

「初めまして! 私は白い手(ボーメイン)のガレス。

 ──円卓の騎士、と言った方が通りが良いでしょうか」

 金色の髪をショートヘアーにしており、血色の良い顔の上には穏やかな笑みを浮かべていた。瞳は澄んだエメラルドグリーンだ。

 先に会ったブラダマンテは凛とした力を纏っていたが、目の前に立つ彼女から感じるのは、心地よい陽だまりのようなオーラ。

 

「聞けば、お一人でレジスタンスの皆様を守り続けていたとか。

 皆様からはずいぶんと慕われているご様子。

 貴女のような、心優しく勇敢な方にお会いできて光栄です!」

 私のことを、レジスタンスの人達はかなり大げさに伝えたようだ。騎士ガレスの目は、憧れの人物に会えたかのようにキラキラと輝いている。 

 一方私は、彼女の名乗った称号に度肝を抜かれていた。

『円卓の騎士』。多くの詩や戯曲、舞台や映画の題材とされ、最も有名な騎士物語といっても過言ではないだろう。

 

(ブラダマンテに、ガレス……)

 前者はシャルルマーニュ十二騎士の一人。後者は、彼女自身が語ってくれた通り。

 

(こんな短時間の間に、高名な英雄2人と出会えるなんて! 

 なんて幸運なんだろう……)

 運命が私に味方をしていると錯覚しそうなほどだ。

 

「挨拶をしている場合ではありませんでしたね、敵が迫りつつあるのですから。

 ……物陰に隠れるようにとのご指示、了解しました。

 皆がどこで戦っているかは把握しているので、これよりガレスが一走りして伝えてきます」

「騎士ガレスも、隠れていてくださいね!」

 彼女は私の声を受けながら踵を返すと、コンテナから飛び降り、30mほど離れた位置の最前線に行ってしまった。簡易のバリケードを作り、そこから銃を撃ってサソリの進軍を食い止めている人々の方向だ。

 後姿を見送る暇はない。私も周りの人へ「隠れるように」と声を飛ばす。

 レジスタンスの人々は銃を置いて身軽となり、一人ずつコンテナから降りてその陰に隠れていく。

 ガレスの向かった方に目を向けると、皆がバリケードの裏に隠れて頭を屈め、きちんと隠れているのが見えた。

 

(よし!)

 コンテナ上から辺りを見渡す。逃げ遅れている人もいないようだ。私が走ってきた方向にはブラダマンテが立っていて、何体かのサソリを引き付けてくれている。

 

「ブラダマンテさーん!」

 彼女に向かって、槍を持ったまま手を振った。これで「準備が終わった」と相手へ伝わるはず。

 ほどなくして、彼女の盾に光が集まり始めた。私は腕をまぶたに押し付け目隠しにして、光に備える。

 そしてやっってきた光。腕で目をかばっているのに、眼に突き刺さるかのようで、思わず体が揺らいだ。しばらくしてから、そっと腕を外す。

 コンテナより見える景色は一変していた。

 数百以上居た機械サソリの多くは、ひっくり返って動きを停止している。生き残っている大型の個体も、ブラダマンテの光をまともに見たせいか、眩暈でも起こしているかのようにぐらぐらと体勢を崩していた。

 

「凄い! 一網打尽ではありませんか!」

 すぐ後ろで声がした。騎士ガレスのものだ。いつの間にかコンテナの上に戻ってきていたようで、一瞬にして戦局が変わったことに目を丸くして驚いているようだ。

 

「これなら私達3騎で戦いを終わらせられますね。

 手を取り合い、共に敵を退けましょう! さぁ!」

 槍を構えた彼女に誘われ、私は力強くうなづいた。

 ──それから、片が付くまではあっという間だった。

 

 

 

 

 ワームが突然に姿を現し、しかもその内側から機械化サーヴァント……のようなものまで出現し、それにプラスして大量のサソリも出てきた時は、自分一人ではとても倒しきれないと絶望的な気持ちになっていたのに、2人のサーヴァントの出現によって、戦況も私の気持ちも返ってしまった。当然、ポジティブな方向にだ。

 

「ガレス様、ご報告します! 

 レジスタンス側に死者は無し、怪我も軽症です。けれど、物資の破損が」

「迅速な報告、感謝します、騎士ブラダマンテ。

 物資に関しては、使えそうなものだけを後で回収できるようにまとめておきましょう。

 人命優先の方向で、まだ動くトラック1台に皆さんを乗せて……」

「戦いで疲弊している方もいますし、少し休息の時間を取った方が良いかと」

「それもそうですね。

 日が当たらぬよう、コンテナの中で寝てもらうことにしましょうか」

 ブラダマンテとガレスは、戦闘終了後の状況確認までやってくれた。

 私がやったことは、要塞への連絡と報告、合流個所への応援部隊の要請、皆の応急手当くらい。

 

(かっこいいなぁ。

 あの2人みたいに戦えるようになって、事後処理まで出来るようになりたいな)

 そんなことを考えながら、自分の怪我に包帯を巻く。傷は薄くなったが、激しい動きをしたら開いてしまうだろう、それの防止のためだ。

 

「立てそうですか? えっと……」

「モモタ・トバルカインと言います。騎士ガレス」

 そういえば、2人にまだ名乗っていなかった。状況がひっ迫していたせいもあったが、あまりにも早く事態が収束したせいもある。

 

「戦いの最中でしたから、ちゃんとしたご挨拶がまだでしたね。

 私はガレス。『円卓の騎士』、その第七席を預かる者。

 トバルカイン殿、ブラダマンテ殿、共に戦えたこと、まずは感謝を」

「……ブラダマンテはようやく実感しました。

 はわわわわ! どうしよう、私、円卓の騎士様に会っちゃってる……!!」

 憧れの人物だったのだろう。本人を前にして、白い頬を真っ赤に染める彼女。

 舞い上がっているのか、もじもじと指先を重ね、ガレスの顔をちらちらと見ている。

 

「わ、わ……こんな時ロジェロが居てくれたら、いや、ローラン、アーちゃんでも……!」

「お、落ち着いてください、ブラダマンテ殿!」

「ブラダマンテさん、何回か深呼吸しましょう!」

「はい! 全力で深呼吸をさせていただきます! ごめんなさい! 

 ……はぁ、ふぅ、へぅっ! ……はぁ」

 彼女をそっとしておくことにして、私はガレスに向き直った。

 

「騎士ガレスはどうしてここへ?」

「呼び捨てで構いませんよ、トバルカイン殿」

「……私のことは、どうかモモと呼んでください」

 彼女が悪いわけではないが、反射的に渋い顔をしてしまった。

 トバルカインって響きがほんと可愛くない、なんかトゲトゲしてるし。

 

「では、モモ殿と。

 仔細に話すと長くなりますので簡潔に言えば、旅の途中……といった感じでしょうか」

「まさかお一人で旅を?」

 自分の現状と相手の状況を思わず重ねてしまい、言葉が口から飛び出てしまった。

 

「いえ、仲間がいるのです。

 その()とはぐれてしまった仲間を探すことが、今の旅の目的と言いましょうか」

「仲間ですか……」

 彼女の言葉を受け、当然のように頭へ浮かんだのは、アスカ、アーチャー961の顔だ。

 私の大切な仲間達。どこかできっと生きていると信じ続けている人。

 

「私も、再会したい仲間がいるんです。

 ガレスさんのお仲間の方も、目的が遂げられるといいですね」

「はい。私も心よりそう願っています」

「その仲間の方は今どちらに?」

「敵に襲われている人々を見つけたので、小回りの利くガレスが先行した形です。

 もうすぐこちらに来るかと。

 ふふっ、会ったらきっとびっくりしますよ」

「びっくり?」

 そんな要素がある人なのかと思うと、脳みそが勝手にあれこれ考えだす。

 

(アステリオスみたいに背が大きいとか? 

 それとも、ソラリネの所に居たサーヴァントみたいに獣の耳がついているとか?)

 ほわほわと空想を膨らませている間に、ブラダマンテの事情も気になってきた。 

 深呼吸を終え、多少落ち着いた様子の彼女に聞いてみる。

 

「ブラダマンテさん」

「はい! なんでしょうか!」

「貴女はどうしてここへ?」

「私もガレス様と同じような理由です! 

 襲われている人が見えたから、マスターの指示で駆け出してっ。

 それに私にも仲間が居て、でもガレス様とは違って200ほどの人と一緒に旅をしてて……」

「200人?! それに()()()()?」

 彼女の口からは驚きの情報ばかり飛びだしてきた。

 そんな大勢の人を連れているのにもびっくりだし、何よりマスターがいるサーヴァントだなんて。

 

「いけない! 戦闘が終わったら連絡を取るようにと言われていたのに、私すっかり忘れていました! 

 モモ様、報告を優先してもいいですか? お話はその後必ずしますので!」

「連絡は大切ですから、ぜひ先に」

「では少し失礼して、通信機、通信機……」

 ブラダマンテは羽織っているコートの外や内側をがさごそとまさぐり出す。

 詳しく聞きたいことはあるが、今は相手の事情を優先してあげるべきだろう。

 彼女が報告している間、私はガレスからもう少しお話を聞こうと思い、身を翻す。

 

「……あれ?」

 そして、眼前に鋭く尖った何かが迫りつつあるのに気が付いた。

 槍を前に出し体を庇うが、それだけでは防げなかった。槍は柄から砕け、無用の長物と化す。破片が、私のむき出しの腕を浅く裂いて、血とともに地面へ散らばった。

 戦闘が終わり、気を抜いていた思考が、痛みとともに研ぎ澄まされていく。

 

「──敵!」

 新手。短剣の飛んできた方を鋭く見れば。

 

「あれは……」

 こちらから十数m離れた場所。荒野に一人立っていたのは、鎧を着た短髪の男。

 身につけている強化外装めいた鎧は所々壊れていて、銀色のテープで雑に修復されている。

 短い髪は整えられておらず、乾いた風を受けて乱れている。瞳にも顔にも生気は無く、唇は凍えた人のように真っ青だった。

 けれど、その突然現れた男の最も異常な部分は──胸だ。

 心臓に当たる部分に穴が開いており、そこを埋めるように紫色の肉と機械が融合したものがあった。むき出しとなっている部分から時折、蒸気と液体を噴き出している。

 

(機械化サーヴァントなの? それとも)

 先ほど、敵の正体を教えてくれた直感は、目の前の相手に対してはうまく働いていない。

 敵を知るため、その顔を見た。

 ……寒気がするほどに、かつて出会ったあるアンドロイドに酷似している。

 彼の名称は、『シグルド』と聞いていた。

 

「それとも……アンドロイドなの?」

 虚ろな瞳をもった顔が、こちらを見た。依然として謎に包まれている男の周りに、青く光る短剣が数本浮かび上がり──男は拳で殴ることでそれを撃った。

 剣は空間を真っすぐに進み、私目掛けて飛んでくる。サーヴァントの動体視力でそれを捉え、身を捻ることで回避。けれど、避けたはずの剣が宙にて踊り、戻り、私の体を切り裂いた。

 

「っあ!!」

 身をのけぞらせながら叫ぶ。切られた箇所は背中だ、傷は浅いけれど、声が出てしまうほどに痛みがあまりにも強い。

 

「モモ様!」

「モモ殿!」

 私が発した声が聞こえたのか、ブラダマンテとガレスは既に武装を完了していた。手に槍と盾を持ち、武器を失い、怪我をした私を庇うように立ってくれる。

 そこへ、青く光る残像を残しながら襲いかかってきたのは、例の謎の男。

 拳が、ガレスの分厚い盾を瞬間的に何発も殴る。攻撃を受け止めた盾は、真っ平なただの金属板へと変わってしまった。

 

「でぇぇい!」

 威勢の良い声を出しながら、ガレスは壊れかけの盾を投擲して男を退けようとしたが、わずかに上げた片腕のみで弾き飛ばされた。盾は地面へ落ち、勢いよくがらがらと滑っていく。

 

「助けに、行きたいのに……!!」

 一方ブラダマンテはというと、男がガレスとの戦いの最中に飛ばしてきた短剣に襲われていた。剣は剣同士でぶつかり合って跳弾のように空間を回り彼女を取り囲んで、予測不可能な動きでブラダマンテを翻弄、傷を与えている。

 

「2人とも……!」

 突然現れたこの男は、先ほど戦ったヴォイドより圧倒的なまでに強敵だった。

 彼女達を助けるため、怪我を圧して割って入る。

 盾を失ったガレスに掴みかかろうとしていた男に向け体当たりをし、そのまま腕をとって投げ飛ばそうとしたが、逆に私の左腕が掴まれてしまった。

 男の両手が両手の形のまま皮膚に沈み込み、筋繊維と骨が千切れていく音が脳内に響いた。

 

「なん……このぉ!」

 地面を蹴りながら身じろぎするが、驚異的な力で握られているせいで抜け出せない。このままでは腕が取られると、最悪の未来を想定した。

 

(仕方なし! みんなを守るためなら左腕くらい──!)

 傷を受けようと、サーヴァントならば治る。だったら、ガレスとブラダマンテを戦力として生かすためにも、私が囮となるのが効率が良いはず。

 

「これで勝てるのならば……!」

 覚悟を決めたその瞬間、背後より振動と大気の動きを感じた。

 手が掴まれているので振り向くことは出来ないが、人の声が聞こえる。

 

『そこの白髪のサーヴァント、今から助ける!』

 敵の手が私から離れる。倒すべき対象、その優先順位が変わりでもしたのか。

 急に離され思わず尻餅をついてしまった私を、ガレスが手をさしのべ立ち上がらせてくれた。

 私は、衝撃と共に現れた『声』の持ち主の正体を目に映す。

 

『ガレス! 槍持ちの少女と白髪の少女はこちらの味方だな?』

「はい、その通りです!」

 5mはあろうかという黒い獣型ロボット。それが、ガレスの語っていた仲間の正体だった。

 四肢はとげとげしく、直線的な素材で作られた尾がゆっくりと揺れている。獣は、荒野に黒々とした爪を突き立てる形で動きを止めていた。

 ドラゴンを思わせる形の頭部からは、背部に向かって生える二本角状のパーツが。腰や腕間接からチューブが伸び、青い液体が循環し機体へ何かを与えているのが見て取れる。

 銃や剣や槍といった武器は身につけておらず、私はそれに不安を覚えてしまった。

 しかし、その不安は杞憂に終わる。

 

『今、助ける』

 黒い獣が腕を振るだけで、ブラダマンテを閉じこめていた短剣の檻が破壊されたからだ。

 

「お見事です、アーキマン殿」

 私の隣に立つガレスが獣を賞賛する。

 

(アーキマン。

 アーキマン? どこかで聞いた単語のような……)

 何かを思い出しそうだが、それをすべきは今ではない。

 彼女に掴まるような形で立っている私は、見えた光景に思わず唾を飲んでしまった。

 なぜならば。

 

「……」

『……』

 私達を挟んで、謎の男と謎の獣が相対していたのだから。

 

 

 第112話 白は希望を感じられる

 終わり

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