フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 ブラダマンテは、敵である機械サソリを物ともせず倒してしまった。
 彼女と共に戦ったモモは、改めて正規のサーヴァントの強さに感じ入る。
 次に、子サソリに追われているレジスタンス達を助けに走ったモモとブラダマンテであったが、そこにも、彼女達が思いもしなかった援軍がいた。
 円卓の騎士の一人であるガレスが、人を守るために戦ってくれていたのだ。
 集った3騎のサーヴァントの手によって、大量発生した敵は残らず倒され、荒野と人々の間に一時の平和が戻る。

 怪我の手当や状況の確認、応援部隊の手筈などを終えた3人は、各々のことを話し始める。
 ガレスは、仲間と共に旅をしているということ、ブラダマンテは、避難民200人と仮のマスターと一緒に移動をしているということを語ってくれた。
 自己紹介も終え、和やかな空気が流れ始めた矢先、謎の敵が現れる。
 青く光る短剣を携えたその男は、速さと力で3人を翻弄する。

 攻撃を受けたガレスを助けようとしたモモだったが、敵に左腕を掴まれ、握力のみでそれを引きちぎられようになる。彼女が最悪の未来を覚悟した瞬間、声と共にまた援軍が現れた。
 姿は、四肢を持つ黒い獣。呼び名は『アーキマン』。ガレスの仲間だった。
 その正体は……お兄さんの口から言うまでも無いよね?


第113話 冷たい竜、黒い獣と

 

 

 シグルド型アンドロイドと同じ顔を持った男と、機械で出来た獣は相対している。

 お互いに様子を伺っているのか、身動き一つしていない。

 私とガレスはそっと後ろに下がり、先ほどまで敵の攻撃を受けていたブラダマンテを助け起こしに向かった。

 砂の上へ膝を付き、荒い息を繰り返している彼女にガレスが肩を貸し、立ち上がらせる。私は側に落ちていた槍を拾ってあげた。

 

「あの敵は……」

「ブラダマンテ殿、何かご存じで?」

 彼女と共に歩きながら聞くガレス。

 

「はい。ブラダマンテは彼が何者かを知っています。

 彼は、女神リリスのサーヴァントが一人、シグルド。

 私の仲間からは『心無き竜』とも呼ばれていました。

 ……召喚された誇り高き英雄を、改造したものだと私は聞いています」

 足を引きずるようにして歩いている彼女の顔は暗い。

 

「シグルド、竜殺しの英雄を改造したもの……」

 私はブラダマンテの槍を持ちながら、ひとり呟く。

 彼の伝説はよく知っている。それに、彼を模したアンドロイドと出会ったことがあったから、なおさら強く記憶に刻まれていた。

 

「シグルドの事はアーキマン殿に任せ、私達はトラックを走らせましょう。

 怪我をしている方を戦闘の余波から遠ざけ、治療の受けられる場所に逃がさないと」

 ガレスの提案に対し、私は賛成の意を述べる。

 

「そうするべきだと思います。

 レジスタンスの応援部隊と連絡は取っていますから、その合流個所に向かいましょう」

「道案内はモモ殿にお願いします、運転はガレスが。

 ……背中の怪我、大丈夫ですか?」

「もう塞がりました。激しい動きでもしなければ傷も開かないかと」

「それなら良いのですが……」

 私の体を慮ってくれたガレスの顔は暗い。

 

「ブラダマンテはどうすれば?」

 怪我も塞がった様子の彼女が、しゃんと立ち上がりながら聞いてきた。私は即座に彼女へ槍を返す。

 

「後方の見張りを」

「承りました!」

 応援部隊に怪我人を預けた後、速やかにガレスの仲間の元へ戻って戦闘に加わる、という方向で話がまとまった。人命優先だ。

 

「では出発しましょう。モモ殿、ブラダマンテ殿、お願いします」

「はい!」

「はい!」

 私達はトラックに向かい、コンテナの内部に乗っている人……怪我が軽症で起き上がっていた人達に現状を説明して、それから運転席に向かった。

 私は助手席に座り、ガレスがシートベルトを付けてからハンドルを握る。ブラダマンテは車体後方に控えてくれた。

 そして、トラックにエンジンがかかり発車するのと、後方でシグルドと黒い獣がぶつかり合うのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 空気を裂いて、シグルドの短剣が迫る音が聞こえる。

 続いて、剣を撃ち落とすブラダマンテと獣の動きの音も。

 

「ガレスさん、角度修正をお願いします!

 ハンドルを10度傾けて、速度そのままに!」

「はい!」

 荒野の天候は急速に悪化していた。

 悪天候と言っても、かつての時代のように雨が降るといったことは無い。砂嵐の前兆が現れ天上の太陽は白く濁り、大気はざらざらと苦味を増していく。

 私はトラックに積んであった地図とコンパス、応援部隊からの通信を受け取る長方形型の受信機を頼りに、ガレスへ指示を出しているが、その間にも、戦闘の様子が気になって仕方がなかった。

 つい、開けっ放しの窓から、横目で外を見てしまう。

 そこで繰り広げられていたのは、さながら獣同士の縄張り争いのような、荒々しい戦いだった。

 

『──!』

「……っ!!」

 アーキマンと呼ばれた獣と、シグルドとかつて呼ばれていた男との間に会話など無い。

 ただ、爪と剣が打ち合う音のみが響いている。

 シグルドが拳で打ち出した短剣が、獣の関節から伸びているチューブを切り裂いた。辺り一面にぱっと液体が飛び散る。

 そのダメージも意に介さず、獣は相手の懐へ踏み込み、5mはあろうかという体と四肢で踏みつけようとするが、シグルドの回避行動の方が早かった。攻撃は空振りに終わる。

 続いて男が短剣を手に持ち、身をひるがえしながら獣へ切りかかろうとするが──黒い体表面に刃は突き刺さらず、滑った。先ほど切ったチューブよりあふれ出た液体が、獣の平らな体を濡らしていたからだ。

 わずかに生まれた隙を獣が見逃すはずも無く、その巨体をぶつける体当たりが放たれる。もろに受けてしまったシグルドは数m吹っ飛んだ。

 そのまま砂霞の中に消えていきそうな敵へ、獣は追撃する。

 後方に跳躍すると、開けた空中にて変形し、人型となった。

 

「……」

「モモ殿、この道、この方向であってますか?」

 すぐ後ろで行われていた戦いに心奪われていた私は、ガレスの声で我に返った。

 

「は、はい! あってます!」 

 膝上に広げていた地図とコンパス、受信機からの音声を聞き、道が間違っていないことを確認する。

 それを終えてから、私はまた窓の外を見た。砂嵐で煙る後方では、黒い細身の人型ロボットが、獣の尾から変形したライフルを構え何かを狙っている。

 対象はもちろん、シグルドだ。

 

『──!!』

 瞳から青い光をこぼしながら、攻撃を受け吹っ飛んでいたはずのシグルドが駆けてくる。

 時速は100kmを越えているだろう。迫りくるその敵を、アーキマンと呼ばれた男は撃った。

 銃口から放たれる濃い青のレーザー光線がシグルドにぶつかり、衝撃で大きな砂煙が立つ。

 

「やったの?!」

 思わず助手席から叫んでしまう。

 だが、私はシグルドという英雄を甘く見すぎていた。

 次の瞬間、車がふわりと浮かび、そして、横倒しになりながら地面へ激突する。

 開けっ放しの窓から大量の砂が入り込んできた。

 

 

 

 

「……みんな、は」

 シートベルトを着けていなかった私は、フロントガラスを突き破って外に放り出されたようだ。

 頭がひどく痛むことから考えるに、何分か気絶していたみたい。

 起き上がりながら、服に刺さっていたガラスを手で払う。

 幸い、体に大きな傷は無かったが……。

 

「いたい……」

 衝撃で背中の傷が開いてしまったようだ。布に血が染みていく嫌な感覚が肌より伝わってくる。

 

「みんな! ガレス! ブラダマンテ!」

 砂嵐の中のせいか、ひどく視界は悪かったが、トラックがどうなったかは直ぐに分かった。

 運転席とコンテナ部分がちぎれ、それぞれ別パーツに別れてしまっている。

 前はぐしゃぐしゃだが、コンテナは無事だった。その真横で槍を振るい戦っているのはブラダマンテ。

 彼女はコンテナを、中に居る人を守るためか、体のあちこちに切り傷を作り、なんとか持ちこたえている。

 

「ブラダマンテ……! いま助けに行く!」

 戦っている相手はシグルドだ。アーキマンの攻撃を受けた彼はただでは済まなかったようで、右腕が黒く焦げ、まともに動いていない。

 しかしなおも正確かつ素早い動きで、短剣1本握り、ブラダマンテを追い詰めていた。

 

「モモ様! 私よりもコンテナを、皆さんを!」

 シグルドは隙あらば彼女をすり抜け後方に向かおうとしている。槍と盾で必死に防いではいるが、ブラダマンテの攻め手は弱々しく、躊躇(ためら)いが見えた。

 

「……分かった!」

 彼女の言葉に従い、コンテナへ。

 後ろから両扉の片方を開け、中を覗き見れば、怪我をした人の怯えた顔が真っ先に飛び込んできた。

 

「皆さんひとまず外へ!」

 と私は言うが、車が落下、分解した衝撃は大きかったのだろう、ほとんどの人は立てる状態ではなかった、ましてや歩いて外に出るなど不可能だ。

 私は手前の人から肩を貸し、外に逃がそうと試みる。

 

「もういい、アンタ達だけでも逃げてくれ……頼む……」

「絶対いや!」

 ここで彼らを見捨てたら、ガレスの協力も、ブラダマンテの踏ん張りも全て無駄になってしまう。何より、自分が誰かを見捨てるのが嫌だった。

 

「──モモ様!」

 ブラダマンテの鋭い声がして、私は黒銀に光る右腕を突き出した。直ぐに伝わってきたのは衝撃。

 

(つう……効くなぁ……)

 強がって見せなければ、そのまま膝より崩れ落ちてしまいそうなほどの衝撃。

 眼前にあるのはシグルドの拳。とうとう彼がこちらにターゲットを変更して来たのだ。

 

「走れる人は走って! お願い!」

 何人かの人間が去っていく音を背中で聞きながら、ブラダマンテの様子を見る。どうやら一時的に体勢を崩されていただけだったようで、私の方へ駆けて来る。

 

「私は、一人じゃない……」

 つい数時間前までは、皆を守るため、自分でなんでもやらなくちゃと思い込んで追い詰められていたけど、今は違う。

 ガレスにブラダマンテ、助けてくれるサーヴァントが現れてくれた。

 そんな彼女達のために、自分の力を使いたいと思うのは──当たり前のことだろう。

 

「守り切ってみせる!」

 先ほど左腕を握られたお返しに、私は彼の腕をとって柔道のような背負い投げを仕掛けた。

 映像記録で見たものを真似しただけのお粗末なものであったが、右腕を負傷している彼は技にかかった。

 180cm近い体が宙に浮かんでから回り、地面へ叩きつけられる。

 だが、シグルドはまだもがく。

 

「英雄シグルドよ!」

 跳ね起きようとした彼を、上から両腕片足をのせ抑え込んだのは、こちらに駆け付けてくれたブラダマンテ。

 

「……不能、不能、敵味方識別不能」

 もがきながら彼は、機械以上に正確に特定の単語を口から呟いていた。

 

「……認証、令呪による命令」

 だが、不安感をあおる単語がそこに混ざる。

 

「『自身の絶命を禁ず』、承認。よってこれより、生存行動に移る」

 それが今命令されたものなのか、かつて命令されたものなのかは分からないけれど、彼の双眸が明るすぎる青の光を放ち始める様は、とてつもなく嫌な予感がした。

 私もブラダマンテも、彼を抑えつけるのを諦め、後方へ跳んだ。

 ──次の瞬間、私は初めての『もの』を目にすることとなる。

 

「人造神格、励起。神格名『フェンリル』起動」

 砂漠にはらはらと舞っているのは、冷たい白い粒。それを『雪』と呼ぶのだと教えてくれたのは、お祖母ちゃんだったか、バーサーカー04だったか。

 糸で吊られた人形のように、ゆらりとシグルドが起き上がる。瞳は明るい青の光を宿し、顔の左半分は、透き通りながらも微かに水色に染まった氷で覆われていた。

 黄土色の大地が、彼を中心に真っ白に染まっていく。あまりの美しさに目を奪われた。

 

「なんて邪悪なプレッシャー! まるで魔神デモゴルゴン、いや、それより強大な……!!」

 ブラダマンテが盾をかざし、突発的な冷気より私を守ってくれていた。

 彼女は私へ告げる。

 

「モモ様、私は彼の正体を見誤っていたようです。

 彼が大英雄シグルド、ひいては我らが騎士の源流に連なる方であり、今の今まで正気に戻ることを信じていましたが……あそこまで堕ちてしまったのなら、もはや倒すしかなく。

 その覚悟が、ブラダマンテには足りていませんでした」

 螺旋の形をとる槍に降りてきた霜を、振るうことで彼女は払った。

 声には、悲壮なまでの思いが込められているのを感じる。

 

『って、ちょっと待ったー! シリアスになるのはまだ早ーい!』

 悲しみで冷たく凍てつき始めた空気を、賢しそうな少女の声が破ってしまった。

 

『活路を開くよ!

 このダ・ヴィンチちゃん特性、機械化サーヴァント特攻弾を喰らえ!』

 発砲音の後、雰囲気も姿も変貌したシグルドに小さな弾が当たった。

 突然の銃撃を受け、相手は少しだけのけぞる。

 

『さぁて、劣勢の時間は終わりだ! ここから大逆転といこう!』

 砂嵐の向こうより、大地に轍を残しながら車が走ってきた。

 その車は白くて、大きくて、6輪で、余りにも見覚えのある形で。

 

「まさか……デザートランナー!? 蒸発したはずじゃあ……!」

 後部乗り口が開き、誰かが慌てた様子で降りてくる。

 

「初めまして! 白髪のサーヴァントさん!

 わたくしはアスカと言います!」

 いや、初めまして……じゃない!

 

「アスカ? アスカ!」

 思わず彼女の名前を連呼してしまった。

 目の前に立つ彼女の姿をしっかりと見る。

 別れてしまった時より、服装以外は何も変わっていない。

 地味な色の作業着には、キルケーより貰ったエメラルドのお守りが付いているし、艶やかな黒髪の上には彼女の大切なものであるアメジストのアクセサリーが。

 

「そうですアスカです、ブラダマンテの仮のマスターでもあります。

 貴女もサーヴァントですわよね? 私がバックアップ出来る事なら、なんでも言って……」

「マスターアスカ、敵の様子が!」

 再開の喜びなど感じている暇も無く、ブラダマンテの声が響く。

 私はシグルドの方へ目を向け、彼の奇妙な点に気が付いた。

 

「アスカを……見てる?」

 ただの勘違いかもしれないが、彼の眼差しは確かにアスカを捉えているように見えた。

 そして今まで動かしていなかった右腕を上げ、彼女を指さす。

 

「……アスカ、識別。

 アスカ、アスカ、アスカ」

 確かな実感を伴いながら、個人の名を呼ぶ。口元にはわずかな微笑みが見受けられた。

 その彼の行動が、何よりも私の背筋に寒気をもたらした。

 

「アスカ、()、アスカ、私、は……」

 剣も構えず、冷気も抑えて歩いてくる姿に、殺意や敵意は感じられない。だからと言ってアスカに近づかせるわけにはいかなかった。

 ブラダマンテも私も、彼女を守るために立ち塞がる。

 

「そこだ!」

 ただ歩いていただけのシグルドに襲い掛かったのは、アーキマンの姿だった。砂塵より現れ、再び姿を四足歩行の黒い獣に戻していた彼は、爪と(あぎと)を尖らせて彼を狙う。

 けれど、攻撃は空中に現れた半円状の氷によって防がれてしまった。爪は滑り獣も滑り落ちていく。

 シグルドがこちらからわずか30mという所まで近づいた。

 彼が何を言っているのかは、サーヴァントである私達にしか詳しいことは分からなかっただろう。

 微笑みながら、彼は告げた。

 

「アスカ、私、貴女に、会いにくる、来た。

 また、ずっと、髪留め、大切にしてくれて、うれしい、ありがとう。

 元気そうで、私、の、アスカ、識別、認識、感謝、かん……」

 口元から笑みが消える。

 

「……命令、認証、帰還」

 彼は背部と両足から冷気を伴う魔力を放出すると、上空へ飛んで行き、その姿はすぐに砂嵐に隠れて見えなくなってしまった。

 

「……助かった、のでしょうか」

 異様な力を持つサーヴァントのオーラにあてられてしまったのか、アスカは力なく地面に座り込んだ。そんな彼女に私は近づく。

 

「助けてくれてありがとう、アスカ。ブラダマンテにもお礼を言わなきゃ。

 それと、ガレスが無事かどうかも探しに……」

 アスカはきょとんとした顔で私を見上げている。

 

「ガレスはここでーす!」

 遠くの方から彼女が走ってきた。

 

「ごめんなさい! 運転席より抜け出るのに手間取りました!

 怪我人の皆様を合流地点へ運んで、まだ全員ではないのですが……ああっ!」

 報告の最中、ガレスが地面に力なく倒れ伏している獣に気が付く。

 

「アーキマン殿! 無茶なことをするからです!

 待っていてください、今コクピットから助け、いえ、引きずり出します!」

 槍や、再度呼び出した盾で獣の表面をガンガンと叩くガレス。

 やがて前開きに蓋が開いて、誰かが這い出して来た。

 1人、というか1つは四足歩行の小さなロボットで、もう1人は。

 

「……アスカ、無事、だったのか」

 服も髪もぼろぼろなアーチャー961だった。

 私は2人を交互に見た。

 アスカに、アーチャー961。

 

「良かった! やっぱりみんな無事で……」

 嬉しくて、両手を上げて思い切りジャンプなんてしてしまったから、今度こそ背中が裂けた音がした。

 

「あっ」

 私はへなへなと崩れ落ち、顔面から地面に突っ伏す。

 

「アーチャー! アーチャーですの?!

 でも、そんな、服もまともに着ておらず、腕が、そんな……!」

 アスカの目の前まで、ガレスはアーチャー961を背負って持ってきてくれた。

 サーヴァントとマスターは再会を果たすが、彼はどんな理由があってか両腕を失っていた。

 腕は、それぞれ違う長さに切り落とされてしまっている。断面には、金属製の部品と、何かを接続しそうなユニット、中途半端に千切れて液体を漏らしているチューブがはめ込まれていた。

 

「その……私、いや俺は」

 彼は中々立ち上がれないようで、砂の上で身動ぎしている。

 

「アスカ、アーチャーともう一度会えて良かったね」

 どんな形であれ、再会できたのは喜ばしいと、地面から顔のみを上げた間抜けな姿勢で彼女に声をかけるが、アスカは依然としてきょとん顔だ。

 そして私を指さして言う。

 

「あの……どちら様でしょうか。

 先ほどからずいぶん親しげにわたくしの名前を呼んでいますが……どこかでお会いしたことが?」

「私、私だよ! モモタ・トバルカインだよ!」

 自分自身の顔を指さしながら言う。

 

「し、知りません! こんな真っ白な髪と目で、モデルみたいに背の高い人、知りません!」

「あっ、そうか!」

 アスカと離れてから、私もずいぶんと姿が変わってしまったのだった。混乱するのも無理はない。

 

「貴女が本当にモモタ・トバルカインだと言うのなら、証拠を見せてください!

 彼女しか知らないわたくしの秘密、例えば誕生日ですとか!」

「困ったな……」

 例えが正しくない例を見せられている。だって私、アスカちゃんの誕生日知らないんだよな。

 これは困った、証明できない……と思いかけていた所、()()()知った彼女の秘密を思い出した。

 

「アスカの令呪の位置はー! おーなーかー!」

 そう言った瞬間、私を指さしていた彼女の顔がぼんっと音が聞こえそうなほどの速さで、真っ赤に染まった。

 目を丸くして、驚きと羞恥で唇を震わせながら言う。

 

「あ、あなた、ほんとに、モモ……」

「だからそう言っているじゃない!」

 彼女は次に、アーチャー961を見る。

 

「アーチャーも、生きてて、えっと、でも、これは一体、どういう……」

 盛大に混乱している彼女の姿を尻目に、私と961は顔を見合わせた。

 

「それは、話すと長くなるって言うか……」

「それは、話すと長くなると言うか……」

 偶然、似たような言葉を発してしまった。

 

 

 第113話 冷たい竜、黒い獣と

 終わり

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