フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 機械化サーヴァントを退けたモモ達の元に、現れたる新たな敵。
 それは、女神リリスの手によって改造された英雄、『シグルド』だった。
 追われる彼女らを守るため、獣型ロボットに乗ったアーキマンとシグルドは戦いを繰り広げる。
 敵はどれほどの攻撃を加えようとも立ち上がり、とうとうモモ達が乗っていたトラックを破壊してしまった。

 迫るシグルド、追い詰められるブラダマンテ。その時、敵の様子が急変する。女神より告げられた令呪の命により自らの力を解放、邪悪なる冷気を解き放ったのだ。
再びの窮地にやってきてくれたのは、懐かしい白い車──デザートランナーだった。
 アスカを視認したシグルドは、意味深な事ばかり言った後、一時撤退をする。

 再開を果たすモモとアスカ。そこに、ガレスの手によって961まで連れてこられた。
 ……長い時、離れ離れになっていた仲間達はようやくの再開を果たした。
 
 ほんの少しのひと悶着はあったけど、3人はお互いを認識し、喜びを分かち合うのであった。


第114話 救世主は何かと忙しい

 アスカ、アーチャー961と再会してから2日が過ぎた。

 私が今、何をしているのかと言うと。

 

「背中の傷、だいぶ良くなってきたね。もう消毒だけでも良さそう」

「治療、ありがとうございます、Dr.シャーン。

 いてて……」

「皮膚が薄くなってるから、消毒液染みるのは仕方ない、我慢してね」

「はい……」

 黒髪とヘーゼルナッツ色の瞳をもつ中性的なお医者さんから、傷の治療を受けていた。

 場所は、巨大な涙型をしている移動要塞『カルナ』の内部、親戚であるガトモスの家、リビングにて。

 家主であるガトモスはいない。一か月とちょっと前にこの要塞を襲ってきたAI、メルティに付けられた足の傷の予後が悪いので、入院している。

 ……無理やりにでも入院させないと、怪我をしたまま仕事や研究を続けてしまう人らしいので、レジスタンスの皆に担がれ運ばれてしまったのだ。

 

「はい、おしまい。痛かったのによく頑張った。

 もう上着を着てもいいよ」

 座ったまま背を丸めていたのは辛かったので、まず立ち上がって腰を伸ばしてから、テーブルに広げていた服を手に取り身に着ける。フードも被った。

 いつも通りの、灰色の作業着を半袖短パンに改造した服だ。

 改造の際に切った布地は、他の人の服の素材へ。資源は限られているから、何でも節約、リサイクルだ。

 

「傷跡、残っちゃいます?」

 短い袖のしわを伸ばしながら、Dr.シャーンに訊く。

 

「どうだろうか。君はデミ・サーヴァントという特別な存在であるし、何とも言えないな

 それにだね、跡を消したくとも、そこまで高度な整形技術は地上には無いんだ。

 消す方法、全く心当たり無いわけじゃないんだけど」

 治療に使った消毒液やコットンを、手持ちカバンに仕舞いながら答えてくれた。

 

「例え傷跡が残ったとしても、私は平気です。気にしないで下さい」

「……歩いたり走ったりする分には問題ない。

 モモタ、君は友達と待ち合わせしているそうじゃないか、早く行っておいで」

 言われて脳裏に浮かぶのはアスカとの約束。

 そう、再会したは良いものの、私と彼女はちっとも話す時間が取れていなかった……ので、今日2人で会ってお話しようと計画を立て、約束したのだ。

 

「でも、その前にガトモスに着替えとか持っていってあげないと」

 入院中だし、足の腱を切られ自由に動けない彼のため、生活用品を時々補充してあげなくてはいけない。待ち合わせまでの隙間の時間にやろうと考えていた。

 

「私が院に戻るついでに持っていくよ。

 早く行っておいで。久しぶりに再会した友達と、まだ十分に話せていないんだろう?」

 Dr.シャーンが手を伸ばして、私の背中を押すジェスチャーをする。

 

「……分かりました。よろしくお願いします」

 代わりにやって貰うことに罪悪感があったが、お言葉に甘え、私は出かけることにした。

 

 

 ガトモスの家の鉄扉を開け、外に。

 要塞の蓋である暗い黄色の天井を眺めながら、人気(ひとけ)の無い路地を歩く。

 ここ2日間で起きた出来事について考えていた。

 

(えっと、確か……)

 私は怪我でほとんど寝ていたので人伝に聞いた話になるが、Dr.シャーンや他の人、ミライちゃんやノインが教えてくれたことによると、要塞内はとても慌ただしかったそうだ。

 まず何より大変だったのが、アスカと共に来た200人の避難民の扱い。

 

 レジスタンス組織『トコヤミ』の移動要塞が攻め込まれ、命からがら逃れてきた人達の受け入れ作業は、住む場所の確保や食料の配分、怪我、病の治療などが理由で困難を極めた。

 今も多くの人が作業に駆り出されている。避難民を受け入れたこともあり、この要塞の人口は5万人を超えた。

 

 次に大変だったのが、サーヴァントのこと。

 ブラダマンテ、ガレス、アーキマンもといアーチャー961の存在は、その活躍もあって隠しきれるものではなく、人々から多くの信仰を集めてしまった。

 『トバルカインのように、私達の味方をしてくれたサーヴァントを一目見たい』の気持ちで詰め掛けた人で、大きな騒ぎにも発展しかけたらしい。

 

 それを抑えるべく、ブラダマンテとガレスは外の見回りや物資運搬など人の近づけない場所での作業を任され、アーチャー961は怪我の治療という名目で、今は軟禁されている。

 サーヴァント達はこの扱いに納得し、素直に従ってくれたそうだ。

 ……デザートランナーと、961にくっついてやって来た謎のロボット『アダム』については、完全に隠されている。知っているのは私の仲間達やレジスタンスの上層部だけだ。

 

(なんてこと考えている内に、到着っと)

 待ち合わせ場所は、路地横にある小さな四角い広場。有事の際、皆が集まって避難シェルターへ向かえるように設けられた避難スペースでもある。

 手近な場所にあったコンクリートブロックに腰かけ、半ズボンと膝を見つめながら待つこと数分。

 

「お待たせしました、トバルカイン」

 黄土色の作業着を着たアスカがやって来た。私とは違い、フードは被ってない。

 

「ごめんなさい、待たせてしまいましたか?」

「ううん、今来たとこ」

 気を使わせないために嘘をついてから、私は立ち上がる。

 

「じゃあ、久々に一緒に歩こうか。

 この要塞の事も教えてあげるね、色々おしゃべりしよ」

「ええ、トバルカイン」

 立って直ぐに、彼女から手が差し伸べられた。

 

「なんですかなアスカちゃん、この可愛いお手ては」

 白い手の平を左手でいたずらっぽくつつく。すると彼女は腰に両手をあて胸を張りながら、当然と言わんばかりの口調で話し出した。

 

「要塞の中、人が多いでしょう? 

 貴女が迷子にならないよう、手を繋がないといけないと思って」

「……アスカちゃんが迷子になる、の間違いではなく?」

「貴女が、です! ほら、手を繋ぐ!」

 彼女は強引に、私の左手を取って握ってしまった。汗ばんだ皮膚の感触が伝わってくる。

 

「ひょっとしてアスカちゃん、緊張してた?」

「してました! なのに貴女と来たら、いつも通りというかのんびりした態度で……ああもう、行きましょう! 歩いて!」

 友達の照れ隠しの下手さに私は笑ってから、路地裏を表通りへ向かって歩き始めた。

 

 

 通りは相変わらず、闇市のおかげでごった返している。確かにこれは、アスカの言っていた通り手を繋いでいないと迷子になってしまいそうだ。

 

「携帯食料が通貨代わりになってるのは知ってる?

 色んな物売ってるよ、家具とか食品とか、私は買ったこと無いけど危ない物とか」

 手を引きながら人波をかき分け、アスカに説明をする。

 

「闇市の存在や、独特の貨幣制度については知っていますわ」

「そっか、アスカは別の要塞に居たことあるんだもんね」

 上級都市に居た所を『トコヤミ』というレジスタンス組織に攫われた、との話は彼女から少し聞いていた。攫われたおかげでこうして再会できたのだから、運命というのは分からない。

 肩で風を切りながらずんずん歩いていると、後ろにいるアスカの動きが止まった。

 

「どうかした?」

「トバルカイン、ごめんなさい、人が……」

 振り返ってみると、アスカの前に老婆が座り込んでいるのが見えた。

 まるでリリス像に祈る人のように、両手を組んで感謝の言葉を捧げている。

 

「ピオーネ様、私達が今こうして生きていられるのは、みんな貴女様のおかげです。

 救世主様、ありがとうございます、ありがとうございます……」

「立ってください。わたくし、感謝されるようなことは何も。

 皆を守り通せたのも、レッドや他の方、ブラダマンテの力あってのことですし……」

 彼女は眉を下げて困り顔となっている。まごついている間にも、次から次へと人が集まってきた。

 

「救世主ピオーネ様! お会いできるだなんて!」

「ああ、救世主様、なんて綺麗な黒髪で」

「ピオーネ様、私のこと知っていますか? あの時助けてくれた……」

「え、えっと、わたくし、その」

 感謝の意を示してくる人達を邪険に扱うことはアスカは出来ないようで、片手を胸に当て、おろおろしている。

 離れ離れになる前であったなら、こんな時、アーチャー961が彼女へさっとスマートに助け舟を出していたものだが、ここに居るのは残念ながら、全く洗練されていない私。

 なので、強引に連れ出してしまうことにした。

 

「よいしょっと!」

 片手で彼女を引っ張り、背中におぶってしまう。

 

「ごめんなさい、私達この後予定有るので、じゃあ!」

 アスカが落っこちないよう気を付けながらの早足で、私は大通りを抜け、細い路地に隠れた。

 

 

「トバルカイン、あんな乱暴な方法で抜け出なくても。

 それに、嘘までついて」

「嘘ついてないよ、この後予定があることは本当だし」

 駆けた私よりも、背負われていたアスカの方がどきどきしていたようで、降りてからしばらくは胸に手を当て、呼吸を整えていた。

 

「予定……そうですわね、わたくし達はリーダーであるミライ・アカツキに呼ばれていて」

「上の階にある会議室に集合! って予定だったよね。

 んで、時間あるから会議前にお話しようって、ことだったけど」

 私は路地から少し歩いて、大通りの様子を顔だけ出して伺ってから、戻ってくる。

 

「時間、無くなっちゃったね」

 アスカがいる事を誰かが告げたのか、彼女を探す人で通りはごった返し始めていた。

 彼女に助けられた人も、単に興味本位で見たいだけの人もいるようで、ごみごみとした話声がここまで聞こえて来ていた。

 

「ここから会議室に向かうエレベーターまでの道は知ってるから、心配しないで。

 連れてってあげる、行こ?」

 私は先ほどとは違い、自ら右腕を差し出したが、アスカは手を取ることをためらっていた。

 

「トバルカイン、その腕」

「普通の腕……ってわけじゃないけど、人より丈夫な以外は何にも変なとこ無いよ。

 それとも左手の方がいい?」

 アスカは「そういう理由ではない」とでも言いたげに首を横へ振ってから、答える。

 

「貴女の腕がそんな風になってしまった理由について、わたくし、まだ何も知りません。

 髪と瞳の色が変わり、背が伸びている理由も」

 自らを責めているかのように、瞳を細めるアスカ。

 

「……話す時間、無かったもんね」

 私は伸ばした右腕をそのまま上にあげ、要塞内の鈍い光の元に晒した。

 

「腕に関してはね、ある人に切られちゃったの。

 そして、この要塞内で出会った聖遺物? って物が、腕の代わりになってくれた。

 新しい腕が付いたら、引きずられるように髪も目の色も変わっちゃって」

 アスカの表情は、まだ暗い。

 

「……何か、わたくしに隠していることがあるのでは?」

 離れ離れになっている間に出来た隠し事は、沢山ある。

 それは例えば、自分が元々人間ではなくリリスの代替品であったこととか、デミ・サーヴァントになったこととか。

 ……本来は16歳までしか生きられない、寿命のこととか。

 今の私は17歳。想定された寿命は越えている。いつ死ぬかは……分かっていない。

 

「ここだと誰が聞いてるか分からないし、また今度話すよ」

「絶対に、ですわよ」

「約束、約束」

 私は話を切り上げるため、左手で強引に彼女と手を繋いだ。

 

「今アスカと話しているの、すごく不思議な気分。

 ほんの一ヵ月しか離れていなかったのに、なんだか一年くらい離れていたような感じで、うん、やっぱり不思議」

 2人並んで歩く。

 私達以外誰もいない路地。周りにある、砂色の箱を積み上げて作ったような建物はどこも無人で、四角い穴の窓から、不気味な風鳴りの音を響かせていた。

 

「それにしてもびっくりしちゃった。

 アスカ、沢山の人に感謝されているんだね。

 知らない間に、なんだかとっても偉い人になってたみたいな」

「先ほど言っていたように、わたくしは大きな事は何もしていません。

 ……周りの人に助けられたのです。

 戦ってくれた人達やブラダマンテ、一緒に逃げてくれた人。

 それに、自分の()()()()を押し通しただけで」

 彼女は少し間を置いてから、続きの言葉を口にする。

 

「──また、みんなに会いたいと願い、だから歩きだそうと、頑張って生きようと」

「……そっか」

 思わず優しい声で返事をしてしまった。

 だって、その()()()()は私の願いと似ていて、嬉しかったから。

 

「トバルカインも」

「なぁに?」

「なんでもありません」

 言葉につまりながらも言い終わると彼女は、私の二の腕を、空いていた方の左手で突っついた。

 

「このままだと会議に遅れてしまいます。急ぎましょう?」

「うん、分かった」

 アスカに言われるまま、私は歩みを早めた。

 

 

 

 

「アーチャー961! 来てたんだ!」

「……ここのリーダーに呼ばれたからな」

 エレベーターに乗って、降りて、会議室の扉を開けた矢先、目に入って来たのはでかい机と立体映像、そして馴染みある顔の彼だった。

 椅子に座り、顔を隠せるフードを目深にかぶり、全身をローブで隠したその出で立ちでは、私達のような知り合いしか「彼である」と分からないことだろう。

 私はフードを外す。

 

「アーチャーの怪我、良くなった? あっでも、腕が……」

「それはこちらの台詞です、マスタートバルカイン。

 あっ、いや、えっと、もう……マスター、ではないのですよね」

 お互いにお互いの地雷を踏み抜いたことを感じ取り、しばし黙り込む。

 私は彼を演技っぽく指さしながら、強引に話題を変えた。

 

「アーチャー! いい機会だから、私のことはこれからはモモちゃんって呼んで!」

「分かった。モモちゃ……モモ」

 彼が私の姿を瞳に映す。

 

「雰囲気、変わったな」

「それはお互い様じゃないかな」

 言った彼の姿を、私はざっと見る。

 顔や胴体、四肢を覆っていた格好いい機械パーツは全て無くなっていて、表情が直にうかがえるようになっていた。

 彼の眼は、滑らかな黒曜石のような静かな色に満たされている。

 面立ちが柔らかく見えて、なんだか。

 

「優しい顔になった、ような?」

「俺が、元から暴力的な男であったような物言いは止めていただきたい」

 ここである変化に気づいた。一人称が『私』から『俺』に変わってる。

 彼はフードの下から私を見上げながら、深いため息をはいた。

 

「──来ましたね。モモ、それにアスカ・ピオーネ」

 話し込んでいる間に奥の部屋から出てきたのは、私達を呼んだ本人であるミライちゃんだった。

 袖の長い黄土色作業着で褐色の肌を覆い、茶色い短い髪を整えながら、まだ14歳ながらも鋭さある赤い瞳で、私達3人をじっと見ている。

 そんな彼女の腰へくっつくような立ち姿で、ノインちゃんがいた。だぼだぼの作業着の隙間から見える白い肌に、真っすぐ伸ばされた金の髪が眩しい。遠浅を思わせる青い瞳は、いつもと変わらずで、少女人形のような印象を受ける。

 

「ノイン、お水、持ってきました。

 会議中、喉乾くといけませんから、どうぞ」

 長方形のテーブルの上に、小さな手によって水が置かれていく。アーチャーの分はストロー付きだった。

 ついでのように中央部に置かれたのは、私が回収した、メルティハウリン・キルロードのブラックボックス。

 

「皆、座ってください」

 硬い口調で喋るミライの指示で、空いた席に座っていく。

 アーチャーが座っている向かい側の席2つに、私とアスカは並んで座った。

 何かするのか、ノインとミライは立ったままだ。

 

「ミライさん、もう1人、同行者がいて……」

 座るなり、アスカが控えめな声で話し出す。

 

「先日話していた()()の事ですね。

 構いません、どうぞ」

「では、設置しますね」

 ぴかぴか点滅している小さな長方形の機械が、アスカの手によってテーブル上に置かれる。

 そこから立体映像によるモニターが青白い光によって形成され、煌めく布を纏った少女の姿が映し出された。

 

『ごっめーん! 私もそっち行って会議に参加したかったのだけれど、デザートランナーから離れすぎるのはNGで』

「通信機越しにどうも。

 そんな態度をとるってことは、もしかして私達レジスタンスを『信用できない』って言いたいの?」

 敵意感じる声で話しかけたミライ。受けて映像の中の少女は言葉を返す。

 

『そういう訳じゃない。

 理由を言ってしまえば、私の体は虚弱でね、デザートランナーもとい調整槽からは長く離れられないんだ。

 敵ではないことを示すため、槽から出て君たちに直接会えればよかったのだけど……通信機越しに参加するのが、今の私に出来る精一杯なんだ、ごめんよ』

 やや波打った黒髪をもつ少女が、映像の中で申し訳なさそうに唇を結んだ。

 

(ミライちゃん、ひょっとしてイライラしてる?)

 私は、棘のある態度を取り続けている彼女に目を向ける。

 

(いつもはもっと明るくて、優しい子のはずなのに……)

 隣に立つノインが、袖を引っ張りながらミライを落ち着かせているのが見えた。

 

『初めましての人が多いかな?

 私の名前はグラン・カヴァッロ。

 サーヴァント「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の手によって作られた人造人間であり、デザートランナーの補佐と整備を勤めている。どうぞよろしく。

 製作者への敬意を表して、ダ・ヴィンチちゃんって呼んで欲しいな!』

 ……初めての情報が多いが、アスカが静かに聞いているのを見るに、彼女はこの少女について知っていたらしい。

 

「初めまして、ダ・ヴィンチちゃん。私の名前はモモタ・トバルカイン」

『ここにいる全員の名前については既に知っているから、改めての自己紹介は結構。

 さぁ、会議の本題に入らなくちゃ。時間は有限だからね』

 つれない態度を取られ、私のピンクハートは傷ついた。

 座ったまま、しょんぼりうなだれる。

 

「おっとおっと……私を、お忘れで?」

 アーチャーの横の椅子に乗り上げてくる存在があった。

 黒色の細く湾曲した足をもった、四足歩行のロボットだ。丸みある長方形の胴体、中心には大きなカメラレンズが付いていて、瞳孔のように収縮しながら私達を見分している。

 

「忘れて、いません、アダムさ……アダム」

 ノインがロボットの乗った椅子の後ろに回り、両手で位置を調整した。

 

(アダム……)

 その謎の存在のことは、名前だけ知っている。

 ガレスと共にアーチャー961を助けてくれたらしいが、詳しい正体を私は知らない。

 

「ミライちゃん、私達を集めた理由ってなに?」

 私は彼女に訳を問う。

 話す内容は知らされず、既定の日に会議室に集まってほしいと言われただけだ。ダ・ヴィンチちゃんの言った通り、本題が気になって仕方がない。

 

「別の敵が迫りつつあるとか? その対策とか?」

 2日前、比較的安全だと思われていた地域に、物資採掘用ワームと機械のサソリ……もとい『蠍座の機械化サーヴァント』が現れたばかりである。

 

「──私達の要塞が襲われることなど、万に一つも無いよ」

 幾つか推測を出した私を、ミライの赤い瞳が鋭くにらんできた。

 

「で、でも、ミライさん」

 私を庇うかのように、アスカが話し出す。

 

「先日お話した通り、迷彩機能があった『要塞ハデス』ですら敵に見つかり、襲われ、焼け落ちたのです。警戒するに越したことは……」

「無い、絶対に無い。

 だって──英雄の加護が、この要塞にはあるのだから」

 断言するミライの顔を、訝しげに見つめるのはアーチャー961だ。

 そして次の瞬間、話し合いが始まってからずっと立ったままであったミライが、膝を床につけると、961へ深く頭を垂れ、胸に手を当て、早口で喋り出す。

 

「ずっとお待ちしておりました、我らが英雄。

 今より400年も前に女神へ弓を引き、原初の抵抗(レジスタンス)を成したお方。

 貴方様のお言葉を胸に、我ら今日(こんにち)に至るまで約定を守ってまいりました。

 どうか古き言い伝えの通りに、我ら『アカツキ』を月の光の如くお導き下さいませ。

 これより我ら、貴方様のみを指導者として、あらゆる命に従いましょう」

 言われた961はぎょっとした顔をすると、慌てて立ち上がる。

 ……それにしても、表情に感情が出すぎているような気もする。もしかしたら、彼はそれを自覚して仮面をつけていたのかもしれない、ただの邪推だけど。

 

「顔を上げてくれ、リーダーミライ」

 と言われても、彼女は跪いたままだ。

 アーチャーは口調を諭すようなものに変え、言葉をかけ続ける。

 

「貴女とは数日前に会ったばかりだろう、なぜ俺を知っていたような態度で頭を下げるんだ。

 何が何だかさっぱり分からない、分かるよう説明してくれ」

 床に膝をつけうつむいたままの、ミライの表情はうかがえない。

 

「その事について、ミライは、お話ししたいことがあるそうです」

 2人の間に割って入ったのはノインだった。

 

「案内します。レジスタンス『アカツキ』の秘密の場所、約束の場所へ」

 私とアスカは、これから何が起こるのか予想もつかず、互いに顔を見合わせた。

 

 

 第114話 救世主は何かと忙しい

 終わり

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