フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 折り紙で出来たネズミによって、車内を鮮やかに占領した女性サーヴァントは、自らをヒメージ盗賊団と名乗った。
 燃料である液体リソースと、食料を要求してくる彼女に、バーサーカー04が対応し……あっさり彼は闇討ちして、気絶させた。

 簀巻きにし、拘束してから、彼女から情報を聞き出すモモ達。
 謎のサーヴァントの名前はアサシン47だと言う事が分かり、また、近くに彼女らの拠点がある事も知れた。
 モモは困っている様子のアサシン47に液体リソースを与える事を約束し、その条件として情報を求める。
 彼女に案内され、内乱によって放棄された地下都市にたどり着く。
 その奥でモモ達が目にしたのは、数個のサーヴァントの番号札。
 ……既に消滅した、アサシン47の仲間達の形見であった。


第12話 別れはとびきり苦い味

 

 

(わたし)達って、この世界に何にも残せないから……せめて、みんなが生きていた証、取っておこうと思って」

 アサシン47は番号札1つ1つを、細い指で示しながら語り始めた。

 

「手前にある101が、同じ都市から逃げてきたキャスターの女の子。

 その隣に置いてあるのが、その子と仲が良かったキャスターの120ちゃん。

 テンション変だったけど、頼れる快活なおじさんだったセイバーの230さん。

 みんなのおねーさん役だった、真面目なランサーの74さん」

 彼女の声は優しくて、途方もなく寂しそうだった。

 

「みんな、消えてしまいましたの……?」

「うん、色々あってね」

 そっとたずねたアスカに、柔らかい声のままアサシン47は返事をする。

 

「電気ランプを広場の真ん中に置いて。瓦礫、座れるようにしてあるから好きな場所に」

 光源を囲んで、私達4人は円上になるようそれぞれ腰を瓦礫に下ろした。

 

「コンロ着けて、温かいものでも飲みながらお話ししよっか。

 はい、みんなの分のコップ。安心して、未使用のやつだから」

 アサシンは電気コンロの上に鍋を置くと、汲んであった清潔な水を注ぎ、沸かす。

 

「昨日コーヒーの粉末見つけたから、あげるね」

 私達に注いで振る舞ってくれた。手渡されたほんのり温かいカップを両手で包み込む。

 

「うー……カフェインが体に染みるよー……すごく薄いけど」

 舌を火傷しないよう、ちびちびと飲み始めたアサシン。

 

「そうかな?」

 私は、鼻孔を満たす風味と苦い味に大満足していた。

 

「地下都市産の食べ物って、全体的に味も香りも薄いよね」

 彼女は世間話を始めた。

 

「俺も君に同意する。舌が痺れるほどしょっぱい壁のような味噌が恋しいよ……」

「ごめん、(わたし)も日本出身だけどあの頃の味噌はノーサンキューです」

 バーサーカーの難易度の高いボケを彼女はさらりと受け流した。

 

「モモちゃんがくれた栄養ブロックは甘くておいしいね、3つも食べちゃった」

 アサシン47は袋からクリーム色のブロックを出し、コーヒーを時折口に含みながら、もそもそとかじっている。

 

「合計で1800キロカロリーになります」

「性格悪い! このバーサーカー性格悪いよ!」

 アサシンの目が丸く大きく開いた。

 

「……きんきんに冷えたコーラ飲みたい」

 闇に覆われた天井を見上げながら、彼女は古い時代の言葉を口に出す。

 

「映画で見たことある! 黒くてしゅわっとしてるアレだよね」

 私は素早くその存在の概要を言う。

 1900年代のアメリカを舞台にした映画で、若者達が専用の冷蔵庫からコーラを取り出し、金属製の蓋を景気よく開けて美味しそうにがぶ飲みしていた光景が頭に浮かんだ。

 

「あとポテトチップス、オレンジジュース、ゲーム!」

「その3つは、映画でもライブラリでも良い評判を聞きませんわね……」

 楽しそうに言葉を繋げていくアサシンに対し、コーヒーの湯気を見つめながらアスカがしょんぼりと呟く。

 

「そして……原稿!」

「原稿?」

 会話の流れとは違う単語が出てきたので、私は聞き返した。

 

「……ううん、忘れて。

 創作活動なんて、もうこの世界から無くなっちゃったもんね、全部滅びちゃったもんね」

 アサシンの声から喜びが消えて、何かを思考から追い払うかのように、ふるふると頭を振った。

 

「無い物ねだりは切ないね」

 寂しそうな顔をしながら、彼女はまたコーヒーをすすった。

 

「……(わたし)のお話、長くなるから、話すね」

 湯気が昇っていく暗い天井を見上げながら、彼女は話し始めた。

 

「1年くらい前まで、姫は都市378って所に住んでた。

 マスターは上流階級の男の子。

 生存権を賭けたギャンブルで忙しい親の代わり……子守役として、姫は呼ばれた。

 かわいいからね、これでも結構いいお値段したんだよ」

「俺も顔が全て出せれば良さが存分に生かせるというのに……くっ、この呪われた木の仮面が!」

「04さんって脳味噌が狂化してるタイプー? モモちゃーん」

「あっ、全部いかれてます」

「苦労してるんだね……」

 私はちゃちゃを挟むバーサーカーを目で牽制した。

 ……彼は面白そうに笑んで、半分だけの唇の上に、立てた人差し指を滑らせた。

 

「マスターの名前はマコトくん。だからマーちゃんって呼んでた。

 幸せだったよ。毎日ゲームにお菓子! 遊んでた。

 この格好も、マーちゃんが好きだったゲームの衣装なの、スキルで変身してるの」

 青いダウンジャケットの裾を彼女はつまんで、私達に嬉しそうに見せた。

 

「でも、そんな日常は壊れちゃった。原因は……」

「聖杯、戦争」

 アスカが、ひどく真面目な表情でぽつりと言葉を吐き出す。

 ……同じ階級であった男の子に、思うところがあったのだろうか。

 

「都市運営を行っていたAIが冗談みたいな殺し合いを宣言して、みんな浮き足立った……」

 アサシンの声は重く、沈んでいく。

 

「そうだよね……生存権の持ち数が少ない中流、下流階級の人が大逆転出来るチャンスだもん。

 みんな、喜んで暴力を選んで……(わたし)の住んでいた都市は、地獄になった」

 彼女の言葉で、私の故郷の事が脳裏に浮かんだ。

 階級なんて関係なく、全てが平等に傷つけられ、命奪われた惨状を。

 

「サーヴァントも暴れたけど、壁に使う樹脂を悪用した爆弾がいっぱい作られてね。

 みんな吹き飛んじゃった」

 彼女の体験談を聞いているアスカは、震え始めた自分の肩を、己の片手で強く握り、その動きを抑えようとしていた。

 

「……続けるね。姫のマーちゃん、死んじゃった」

 あまりにも悲し過ぎたのだろう。アサシン47はさらりと一息に言った。

 

「その後、キャスター101さんと逃げた。

 荒野を何日も歩いて、同じような境遇のサーヴァントと出会って……この地下廃墟で協力しながら生活してたの」

 そこまで話すと、彼女は苦い液体を口に含んだ。

 

「……数ヶ月は良かったんだ。リソースも余裕あったし、生活だって整えられたしね」

 瓦礫の上にコップが置かれた。その横には、何日も前に空になった食料の缶が転がっている。

 

「でも……リソース不足と、『あいつら』との戦いで、1人、また1人って消えていった」

 彼女が指で空き缶をはじく。からころと瓦礫の上を転がって、ランプの灯りが届かない暗闇へ飲まれた。

 

「最後に残った101さんは、残りのリソースを全部、(わたし)にくれて……」

 消えた缶を見送った彼女の声は、隠し通せないほど震え始めて。

 

「朝起きたら、もう、どこにも居なくなってた……」

 両目からこぼれ落ちる涙が、ランプのオレンジの光に照らされ、宝石みたいにぴかぴか光った。

 

「……何日も膝抱えて座り込んで、絶望した人みたいな事してた。

 でも、これじゃあダメだぞ、他人を化かす妖怪らしくないぞって一丸発起して……」

 悲しみの感情を隠すように立ち上がると、背筋をぴんと伸ばし、右手の指を開いて顔の前にかざし、何かポーズを取った。

 

「砂漠の……盗賊団になったのだ!」

 その後、彼女は口で「ばばーん」と効果音を付け加えた。

 

「真の英雄は勝手に効果音がつくんだぜ、化生はダメダナ……」

 コーヒーを飲まずに眺めていたバーサーカーが、呆れながら彼女に突っ込む。

 アサシンは2つ結びの髪を揺らしながら素早く振り向き、不満を口に出す。

 

「04さんは何で姫に当たり強いのー……因縁ある系?」

「あー……限りなく微妙なものが」

 その言葉を聞いて、彼女は落ち着いたのかぺたんと腰を下ろす。

 

 

「姫のお城を管理していた人の上司の知り合いの知り合い? かな?」

「いや、上司の知り合いの、知り合いのー……知り合い? だ」

「ほぼ無関係じゃん! ヒントをノイズましましで出さないでね、みんな混乱するから……」

「だって……真名は隠すものだろ。

 イケメン滴る俺が……よしんばアキレウスだったら……どうするつもりだ……!」

「なんでこれほどまでに顔に自信があるんだろうこの人……。

 あのね、もうそういう時代じゃないから、マスターにも包み隠さず明かすべきだから。

 むしろわっと披露して『おおー……』って言われるのが、これからのスタンダードだから」

「逆光を感じながら逆行していきたい」

「でも04さんの生きていた時代絞れたからいいや……真名は後で考えよーっと」

 2人はお互いに「理解できない」という事を分かり合い、勝手に納得し合った。

 

「アサシン47さん、その……『あいつら』って?」

 彼に話題をさらわれそうになったので、慌てて話を戻し、彼女の台詞に出て来た謎の存在について訪ねる。

 

「もう遅いし、その話は明日にしよっか」

 彼女はそう言うと、注がれてから少し時間の経ったコーヒーを、こくりこくりと飲み干した。

 

「あの……アサシン47さえ、よろしければなのですが……」

 カップを両手で包み、膝の上に抱えていたアスカが提案をする。

 

「今晩はデザートランナーで一緒に眠りませんか? お食事も……」

「まじで!」

 食い気味に反応を返す彼女に対し、バーサーカーとアーチャーは無言で顔を見合わせた。

 

 

 

 

 倉庫から取り出したるは、みんな大好きな非常食料。

 お湯を注ぎ、数分待つ。

 

「麺類だ! ずるずるっといただきます!」

 運転席の床下から出され、真ん中に設置された机の上には、インスタントヌードルが3つ。

 アサシン47は何回も使えるプラスチックフォークを手に持つと、蓋をぺりっと開けて誰よりも早く食べ始めた。

 手慣れた様子で食べ進める彼女に、私とアスカも続く。

 

「あちち……うまっ……」

 アサシン47は、食用フィルムで再現されたバジルとトマト、タンパク質から出来た人工チーズ粉末で味付けられたスープを飲み、とてもニコニコしている。

 

「栄養強化してあるから1食分で500キロカロリーになります」

 定位置である運転席に座り、デバイスとデザートランナー間で情報を受け渡し、整理しているバーサーカー。

 

「もう気にしませーん……お腹、でちゃっても引っ込めればいいし」

 2人の会話を何となく聞きながら、私もヌードルをフォークにからませて口へ入れる。

 

「美味しい……」

 特殊加工された炭水化物のくにゅっとした麺が、香りよいスープをたっぷりと含んでいて、食べ応え抜群だ。(つゆ)をごくんと飲むと、とろみのある液体が喉を通って、お腹がじんわり温まる。

 

「初めて食べますが……パスタのようでも、スープのようでもあり……美味です……」

 アスカちゃんも立ちのぼる蒸気の熱で白い頬を桃に染めながら、はふはふと夢中で食べていた。

 

「ごちそうさまでしたー!」

 30分も経たずに食べ終わり、テーブルの上に空になったカップが3つ置かれる。

 

「もう23時だ、マスター達は寝ろよな」

 こちらを見ずに、バーサーカーがぶっきらぼうな口調で話し出す。

 

「サーヴァントの3人はどうするの?」

「……大人の話し合いをする」

「いぇーい! ひめはおっとなー!」

 周辺の偵察をしていたアーチャーが帰ってきて、電子手帳をバーサーカーに投げ渡した。

 

「どうぞ」

「どうも」

 彼はそれを気安い調子で受け取り、周辺情報のデータを入力し始める。

 

「……アーチャー、貴方も無理しないでくださいね」

「はい、マスターアスカ」

 自身のサーヴァントへ思いやる言葉をかけた後、アスカは寝室へ向かい。

 

「バーサーカー、大人しくしていてね」

「お休み、我がマスター」

 私は彼に釘を差してから、自室となった個室へ行った。

 

「明日も早起きできますように……」

 両手を合わせて枕の神にお願いをしていると、部屋の扉が開いた。

 

「モモちゃーん!!」

 ……べそべそと泣いているアサシン47だった。

 

「バーサーカー04ったらひどいんだよ! 姫のことを、あんな、あんな……」

 ベッドから立ち上がり、「びえーん」と泣き出す彼女の肩を抱いてあげる。

 

「人の心がない城化け物ってー! うわーん!」

「……アサシン47って、妖怪系なんだよね?」

「本当のこと言われるのが一番傷つくんだもん、ぐすん……」

 真実を言われ深く心を痛めている彼女の猫背を優しく撫でる。

 

「……姫、寂しがりやだから、モモちゃんと同じベッドで寝ても良い?」

 上目遣いでそう言われた。元々は敵として現れた彼女の提案に、一瞬迷ったが。

 

「いいよ」

 了承してあげる事にした。

 

「やったー!」

 両手を大きく広げた彼女に、むぎゅっと抱きしめられる。

 柔らかい胸が、当たってる。

 

「壁の反対側のこっちで寝るね! お休み!」

 ぱっと離れると、ベッドにちょこまかと近づき、毛布の下に潜り込む。

 目を閉じ、コンマ数秒も使わずにすやすや眠りについてしまった。

 彼女をまたいで、壁際の隙間に潜り込む。

 

「……狭い!」

 本来は1人分の寝台に、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている2人分の体。

 

「えへへ……マーちゃん、マーちゃん……今日のバトルは姫が勝つからね……」

 早速寝言を漏らし始めた彼女の体に押され、迫る壁に息苦しさを感じながら、目をつむった。

 

 

 

 

 まぶたを閉じて、暗い闇に意識を沈めた筈なのに。

 見る私の夢は、真っ白く光り輝いていた。

 

「……お願いです」

 自分がどこにいるのかも分からない、ただ、途方もない浮遊感に包まれていた。

 

「お願いです。どうか、その人を私から取らないでください」

 声がした方に顔を向けると、緑に輝く光に、誰かが手を伸ばしているのが見えた。

 豆と傷のある血まみれの腕で、遠ざかっていく光へ、手をのばし続ける。

 

「自分は、その人の一部です。その人が死んだら自分には何もないのです」

 乞い願う声を置き去りにするようにして、光は遠ざかっていく。

 

「心も体も、魂だって、あげたってかまわないのです、だから……」

 手は真摯にのばされ続ける。

 

「その人を連れて行かないでください」

 声に込められていたのは、果てのない悲しみの感情だった。

 

「■■■■にして、誰の手も届かないところに置くだなんて、そんな残酷なことしないでください」

 願いの言葉の後、温もりある光が、右の手に触れて。

 

「──」

 内側から焼いてしまった。

 けれど、触れた光がその端から肉を再生させていく。

 

「……こんなちっぽけな手なんて、届かない方が良かったのだろうけど」

 左手が、焦げ続ける右手を愛しげに撫でた。

 

「でも、嬉しいんだ、狂っているからなのかな」

 声に偽りのない喜びが混じった。

 

「二度とこの手を離さない、世界救われるまで、一緒だ──」

 喉が裂けてしまいそうな程、嬉しそうな声なのに。

 私は、なんて悲しい夢なのだろうと思ってしまった

 

 

 

 

「トバルカイン、目の下のくまが酷いですわ。悪い夢でも?」

 朝ご飯の後、運転室に来た私を、アスカが黒い大きな瞳で見上げながらそう言った。

 

「すごく悲しい夢見たの」

 目をこすりながら彼女に答えを返す。

 

「ひょっとして姫の……」

「アサシン47のせいじゃないよ」

「うう……でも何か責任感じるな……」

 どっしりと席に座っていた彼女が、指先を合わせてもじもじとしていた。

 私は見てしまった夢の内容を思い出し、小さくため息をつく。

 そんな浮かない顔の頬を、誰かがつついた。

 肩に目線を移すと、折り紙で出来た小さなキツネが乗っていた。

 

「笑顔になれる方法を姫が伝授しまーす!」

 昨日の夕食の時に使用した格納式のテーブルがまた出てきた。

 アサシン47はその上に質感も色も様々な折り紙をずらりと広げると、1枚取り、ぱたりと折り曲げる。

 淀みない手つきで紙は形を変え、立体感のある三角形となった。

 

「えーい!」

 出来上がったそれを、アサシンが投げる。

 空間を真っ直ぐに飛び、壁にこつんと当たって落ちた。

 

「紙飛行機といいます。作ってみましょう!」

「わたくしもぜひ!」

 目をキラキラ輝かせたアスカが、黒色の紙を1枚選ぶ。

 

「トバルカインも!」

 楽しそうな彼女にせかされ、手前にあった明るい緑の紙を指先でとった。

 

「まず真ん中に1本線が出来るように折ります。

 そうそう……そしたら、紙の端を持って、三角形が内側に出来るように折り曲げて、反対側も同様に……」

 彼女の教え通りに曲げて折ってを繰り返すと、綺麗な紙飛行機がころんと生み出された。

 

「わたくしの紙飛行機が一番長く飛ぶはずです! えい!」

 思いっきり振りかぶって投げられたそれは、床に真っ直ぐ着陸した。

 

「アスカちゃんは力み過ぎかな、もっとらくーに、らくーに……」

「うう……」

 真っ赤になった顔をアサシンから背けて、恥ずかしそうにしている。

 

「……えい」

 私はほとんど力を込めずに投げると。

 

「おっと」

 ちょうど運転室に入ってきたバーサーカーの鎧、心臓の上辺りにぶつかってしまった。

 

「くれるのか、我がマスター?」

「あげてもいいけど……」

「冗談だ、君の宝物は君に返すよ」

 彼は穏やかな笑みを浮かべてそれを拾い、私に手渡してくれた。

 

「紙飛行機作ってたのか、みんな楽しそうだな」

「バーサーカーもどう?」

 アサシンが紙を両手いっぱいに扇のように広げながら彼を誘うが。

 

「……見てるだけで満足だ」

 緑の瞳を伏せた、どこか寂しそうな顔で断られた。

 

「アサシン47、その紙って、サーヴァントの武器みたいに貴女が生み出したものなの?」

 何となく浮かんだ疑問を聞く。

 

「戦闘とか偵察に使ってるのはそうだけど、今あげたのは本物の紙だよ」

「そんな……貴重品を……」

 私が折った、明るい緑の、命の息吹を感じる色の紙飛行機をまじまじと見る。

 

「他の折り紙もあげるね、あと、手紙専用のやつとか」

「確か、古代のメールでしたっけ」

 アスカが黒い紙飛行機を大切そうに抱えながら言う。

 

「そうだよアスカちゃん。声で伝えられないこと、文字だったら伝えられるってこともあるし……。

 はい、2人とも、どーぞ」

 アサシン47は、沢山の紙を私達に贈ってくれた。

 

「でも」

「いいのいいの。それに……この紙を使う度、(わたし)の事を思い出してくれるでしょ?」

 へにゃりと力の抜けた笑顔で話す彼女の言葉に、どきりと胸が動いた。

 

(「(わたし)達ってこの世界に何にも残せないから……せめて、みんなが生きていた証し、取っておこうと思って」)

 消えた仲間の番号札を見つめながら、そう語っていた彼女。

 

「……ありがとう、ございます」

 私は涙を浮かべないように気持ちを抑えながら、大切な贈り物を受け取った。

 

 

 

 

「敵襲です、数は500以上」

 折り紙も片付けたお昼頃、アスカのアーチャーが無慈悲な報告を持ってきた。

 

「映像を私のギアから出力します。バーサーカー、スクリーンを」

「便利すぎますね、それ」

「……スクリーン」

「はい、アーチャー殿」

 数個のボタンが押され、運転室の天井から薄い透明なパネルが下りてくる。

 

「再生開始」

 アーチャーの声を合図にパネルが黒くなり、動画再生が始まった。

 あまりにも映像が暗かったので、バーサーカーが明度を調整する。

 

「……そんな」

 アサシン47が身を乗り出し、食い入るように動画を見つめる。喉から漏れた声は、絶望に染まっていた。

 

(わたし)達で、破壊したはずなのに」

 瓦礫の山の上、無数のうごめく人型の中央に、アサシンが絶望したその原因がいた。

 体長は5mほど。

 フレームやワイヤーで形作られた1つだけの足で、ぴょんぴょんと跳ね、先がすぼまった円柱状の胴体を、ぐわんぐわんと揺らしている謎の存在。極東の妖怪『一本だたら』のようなシルエットだ。

 足を支える胴体が不安定になる度に、粘度のない液体を、相当な量辺りに振り捲いていた。

 何が目的か分からない動き。「理解できない」というシンプルな恐怖が私達の間に満ちる。

 

「機械化サーヴァント……どうして!」

 アサシン47の桜色混じる瞳は、衝撃でからからに乾いていた。

 

「感想は? アーチャー殿」

 バーサーカーが彼に問う。

 

「水瓶……」

 何か確信を得たような口調で、アーチャーは敵を見定める。

 

「……蟹の次は水瓶かー」

 バーサーカーは得心がいったような声で呟いた。

 

 

 第12話 別れはとびきり苦い味

 終わり

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