フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 タブレット端末に、日課となりつつある今までの旅路を振り返り書き綴りながら、モモは現状に『飽き』を感じ始めていた。
 なぜならば、狭い会議室に籠もりきっての議論が数日にわたり続けられていたからである。
 そう考えながらもモモは、アスカと連れ立って会議室に向かうのであった。

 先んじて会議室にいたアダムは、その場にいた全員……レジスタンスのリーダーである赤髪の少女、ミライ、AIである金髪の少女ノイン、アーチャー961、アスカ、モモに告げた。
「私の元に集まってきた三者三様の……モモタ、アスカ、アーチャー961からもたらされたのデータの解析や精査、まとめも終わりました」と。
 まとめ終えるまでの数日間、鹵獲したAI『メルティハウリン・キルロード』とのいざこざはあったが、情報は全て整理できたようだ。

 そしてアダムは、モモの旅路の中にも登場し、レジスタンスも探し求めていた『アーキマンレポート』の映像を再生し始めた。

 そこに映っていたのは、とある少女の成長記録。
 隔離された空間で育ちながらも、人なつこく、無垢で純真な心を持つ少女、『トワ・キリエライト』の日々の生活を記したものだった。
 映像には()()ロマニ・アーキマンも登場していたね、彼がこの記録を撮ったらしい。
 映像の目的は……聖杯をその身に宿すこととなったトワが、どこにでもいる少女であることを、トワを奪い合っている人間達へ伝えることだった。

 そう、『聖杯』。
 トワ・キリエライトは全くの運命のいたずらの下、聖杯と融合してしまい、不老不死となった。
 それを知った人々は、彼女を奪い合い始めた。

 ロマニが告げる『これは、聖杯の輝きに目がやられ、止まれなくなってしまったあなた達に向けた、メッセージです』の言葉を最後に、『アーキマンレポート』の再生は終わり、それを見続けていた少女、立体映像のみを会議室に投影していたダ・ヴィンチは口を開いた。

『これから先、君達と行動を共にするのなら、話す必要がありそうだね。
 700年前、カルデア……人理継続保障機関フィニス・カルデアで、何が起きたのかを』

 そして少女は語り出す。
 あの天文台が、いかにして最後を迎えたのかということを。


第120話 小さな希望()の、小さな終わり

 

 

『まず、カルデアについて説明した方がいいのかな』

 と言いながら、ダ・ヴィンチちゃんはゆっくりと瞬きをした。

 私達……ミライちゃん、ノイン、アダム、私、アスカ、アーチャー961は椅子に座ったままバラバラにうなづいた。その様子を確認してから、青い立体映像の彼女は喋り出す。

 

『君達の理解が及ぶように説明するならば……カルデアというのはね、世界を救うために作られた機関だったんだ。

 あらゆる国からの影響を避けるため、南極にあったんだよ』

「世界を……救う?」

 私は思わずオウム返ししてしまった。

 

『そうさ。人類の未来を観測して、人類が滅びの道を辿らないように助力する。

 魔術師と科学者が手を組んだ、異例の組織。

 それがカルデア、人理継続保障機関。

 先に君達が見たアーキマンレポートを残した人物……アーキマン、ロマニ・アーキマンは、カルデアに所属していた医師だった。

 ……最後に残されていた音声ログと、私が記録していた声紋が一致したよ、彼を語った偽者、という可能性は低いだろう』

 ダ・ヴィンチちゃんは一度言葉を切ってから、また語り出す。

 

『そして私も、アーキマンと同じくカルデアに所属していた者。

 700年前に滅んだ組織の、唯一の生き残りが私だ。

 生き残ったものの務めとして、全てのきっかけを、カルデアがどのようにして滅んだかについて話をしよう』

 彼女の声は重々しいものだったが、唇を動かすにつれ、より一層重たいものとなった。

 

『滅びのきっかけは一つの実験。

 ある時カルデアは、世界を救うためのアプローチの一つとして、英霊召喚を試みた。

 と言っても、アーチャー961のように英霊をそのまま召喚しようとしたわけじゃない、様々な問題をはらんでいたしね。

 問題を解決するため、器を用意して、そこに英霊を下ろし、器との融合個体を作り出そうとしたんだ。

 その器というのが、遺伝子操作によって生み出されたキリエライト達。

 何体かの個体は……レポートで言っていた通り、死んでしまったり、殺されてしまった』

「世界を救う、と言っておいて、随分と非道なことを行っていましたのね……」

 何か思うことがあったのか、アスカがぼそりと呟いた。

 その言葉に対し、ダ・ヴィンチちゃんがしたことと言ったら、悲しげに目を細め、口を一時噤むくらいだった。

 彼女は言い訳も弁明もすることなく、また口を開いて話を続けていく。

 

『唯一生き残った女の子トワ・キリエライトが10歳を迎えた時、英霊召喚実験が行われた。

 私に残されたデータによると、円卓の騎士にまつわる何者かが召喚されるはず……だったが』

「だったが?」

 アダムが興味深そうな声色で口を挟む。

 

『実験は失敗した。いや、魔術的観点から見ればある意味成功したのかもしれない。

 でもそれは、誰も望んでいない形の成功だった。

 ……召喚されたのは』

 ダ・ヴィンチちゃんは唇を一度閉じてから、覚悟を決めたかのようまた開く。

 

『聖杯、だった』

 その声は、限りなく苦々しいものだった。

 

『……どうしてそうなったのか、はっきりしたことは当時も今も分かっていない。

 私も700年考え続けたけれど、答えは出なかった。

 確実なことは、トワに一度英霊は宿ったが、その反応はすぐに消え、次に聖杯が彼女の体内に現れたということのみ』

 その単語を聞いたとき、私の全身が強く震えた。

 なぜならそれは、私が旅立つきっかけになったものであり、女神リリスが「カルデアが偶然に手に入れたもの」と語ったものであり、「地核と融合している」以外は未だはっきりと所在の分からぬものだったから。

 

『聖杯、あらゆる願いを叶える万能の願望器が、突如として出現した。

 そして聖杯は、宿ったトワの願いを叶えた。

 ……幸いだったのは、トワが悪辣な願いなど持たない本当に無垢な少女だったこと。

 聖杯が叶えたのは、生命としての基本原理、「生き続けたい」という素朴な意志で。

 聖杯は願いを受け、トワを不死にした。

 ……そこからが、カルデアにとっての悪夢の始まりだったのさ』

 語る少女は眉間にシワを寄せ、険しい表情をつくった。

 

『聖杯が出現したこと、トワが不死になったことをカルデアは懸命に隠したが、前所長マリスビリーの死亡や内部工作員のこともあり、わずか5年が限界だった。

 2015年、カルデアで二度爆発事件が起きる。

 犯人は不明。そして科学者と魔術師を含む大勢の人間が亡くなり、外壁にすら穴が開いた。

 特に、当時の実験に参加していた魔術師47人の完全死亡は、カルデアにとってかなり痛かったようだ。

 ……一人だけは、冷凍措置が間に合って生き残ったようだけど、誰が助かったのかの情報は私にすら隠された』

 彼女の話は、私の焼けた故郷のことを思い出させる。

 もうもうと立ち込める煙、焼けていく人々、無数の瓦礫。

 ──世界が滅んでいくような、あの景色を。

 

『話を戻そうか。

 カルデアが聖杯を秘匿していたことは暴かれ、政界や魔術世界から激しい批難を浴びた。

 所長であったオルガマリーは、助命を求め、国連へ協議に向かったけれど、拘束された。

 その後の消息は……不明だ。遺体すら見つからなかったと伝え聞いている』

 700年前の話だというのに、彼女の言葉には、鮮烈な悲しみがいまだ残っているように聞こえた。

 

『その後カルデアは、聖杯を狙う多くの組織から攻撃を受けることになる。

 ──世界のパワーバランスが崩れることを恐れた国連。

 ──大国を下す好機は今だと立ち上がった小国。

 ──聖杯を手にし、解析しようとした魔術師達の団体、ロンドンの「時計塔」。

 その他大勢の、願いを叶えたいもの達。

 彼らはあらゆる方法を使って聖杯を奪い取ろうとした。

 ……カルデアを中心に、世界を巻き込んだ聖杯戦争が始まったんだ。

 所長を失った職員達は、ロマニ・アーキマンを所長代理とし籠城したが、建物の地上部分は爆撃によってほぼ破壊された』

 幼い頃に見た戦争映画を思い出した。

 正義も悪もごちゃ混ぜになって、人が死んでいく、そんな画面の中の戦争を。

 

『完全に物資の供給が断たれていたカルデアだったけど、地下施設のお陰もあり、それでも2年は持ちこたえた。

 ……地獄のような籠城戦だったと、記録には残されている。

 目減りしていく食料、水、薬品。

 過酷な環境で精神に異常を(きた)す職員。

 それでもアーキマンはなんとか全体をまとめあげていた。

 ……もちろんその陰には、さるサーヴァントの助けがあったんだけどね』

「そのサーヴァントって言うのが、ひょっとして?」

『そう、私を作り出した大天才、レオナルド・ダ・ヴィンチさ。

 聖杯に招かれ現れた、カルデア所属のたった一騎のサーヴァント』

 その名前は知っている。学校で勉強をした。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ。ルネサンスの時代を生きた万能の天才で、今に繋がる技術すらも当時考え付いていたという。

 

『……けれどそれでも、カルデアは最終的に世界に屈した』

 少女は暗い声で結論を言った

 

『敗北の後、聖杯はトワ・キリエライトごと奪われた。

 でも、そこで諦め終わるカルデアじゃなかった。

 彼らは密かに作っていた作戦車両に乗り込み、トワの奪還とカルデアからの脱出を試みたんだ。

 その車両こそが、今君たちが使っているデザートランナー。

 真の名は()()()()()()()()という。

 この車両は職員を逃がすため、敵の目を欺くため、二両作られた。

 特別な機能を持った、黒の車両、A面と。

 寒冷地迷彩のため、白く塗られたB面。

 A面はレオナルド・ダ・ヴィンチが直接操縦し、この私は、B面の操作補助のために作られた。

 白い方が、後のデザートランナーだね』

 つまり私達は700年前に作られた車に乗り、旅をしていたことになる。先ほどから話されている内容といい、実感を得ることが難しい。

 でも、これが現実、現実なのだ。

 

『カルデアは目標を「トワと聖杯の奪還と、聖杯戦争の終結」に定め、死もいとわないラストミッションを開始した。

 その間にも、情勢は目まぐるしく変化していた。

 時計塔がトワと聖杯の分離に成功したとの情報を手にしたカルデアは、戦火広がるロンドンに上陸したけれど、すでに時計塔は壊滅し、トワと聖杯は奪取された後だった。

 奪ったのは、カルト宗教が母体となった少数の魔術師達。

 彼らの目的は、聖杯を使い自分達の信じる神を降臨させることだった。

 魔術師達がハワイ、キラウエア火山に移動したことを知ったカルデアは、海を渡った。

 そして、世界中から追われながらもハワイ島にたどり着いた。

 ……その時にはもう、人員は10人も残っていなかったと記録されている』

 私は座った状態のまま、膝に置いている両手を見つめた。

 過酷な旅を続けた彼らの苦難を、私は想像する。

 炎が広がっていく町、激化していく戦争、欠けていく仲間達。

 彼ら彼女らはどんな気持ちで、旅に挑んでいたのだろう。

 それはきっと、「世界を救う」という途方もない使命感から来るものだったに違いない。

 

『ロマニ・アーキマンとレオナルド・ダ・ヴィンチ、残されたカルデアのスタッフは協力し合い、聖杯の機能を封印する魔術を編み出した。

 術式を産みだした代償に、レオナルド・ダ・ヴィンチは消滅した。

 ……そしてここまで旅を続けていた白い車は、数名のスタッフを逃がすためキラウエア火山より離れた。

 だから、()()私は、結果を記録でしか知らない』

 小さな少女、天才に作られた彼女は、カルデアが辿った結末、その最後を語る。

 

『ロマニ・アーキマンと、自らの意志で残ったスタッフ達は、最後の戦いに挑んだ。

 決戦の後、ロマニだけが生き残り、トワを救った。

 次に彼は、聖杯と封印の魔術式を腕に抱いて、キラウエア火山に沈んだ。

 もう二度と、聖杯が誰の手にも渡らぬように。

 ……最終的に、黒の車も白の車も国連軍に捕まったけど、その前にスタッフ達数名は逃げ出せることができた。

 ──そしてカルデアは、私だけを置き去りにして、完全に終わったんだ』

 全てを語った少女、ダ・ヴィンチちゃんこと『グラン・カヴァッロ』は私達に目線を投げかける。

 

『その後世界がどうなったのかは、君達の方が詳しいんじゃないかな』

 誰かが話し出すより何より早く、アダムが机の上にぴょんと乗り、その滑らかな人工音声で喋り出した。

 

「結局のところ……聖杯戦争は終わりませんでした。

 優勝商品たる聖杯が無くなったことで、誰もが着地点というか、落とし所を見失ったということもあるでしょう。

 そのまま第三次世界大戦へと続き、平和と秩序は破壊された。

 争いはわずか数年で終わりましたが、地球人口の2/3が失われ、使用された兵器による汚染地域の拡大により、地上は人類の生存に適さない場所へと変わりました。

 それでも、壊れた世界で数百年戦争は続き、人類は数を減らしていくばかりだった。

 ……西暦2300年代、女神リリスが現れるまでは」

 そこから先の歴史は、学校で習ったので良く知っている。

 私はアダムに続くような形で話した。

 

「女神リリスは人々の争いを治め、人類に様々な発明品と安全に暮らせる地下都市、それを管理するAI『都市運営システム』を与えたんだよね……?」

「んふふ……そうですよモモタ・トバルカイン。

 ですが、やはりあなた方が学習している内容には誤りもある。

 地上にある軌道エレベーターは、2030年代から2070代にかけて大国が作ったものですし、地下都市もしかり。

 AIも、基礎研究は2000年代から長い間行われていました。

 女神リリスが一から作ったものなんて、液体リソースの雛型くらいです」

「そ、そうなんだ……」

 流石、リリスの元夫を自称するだけある。私が今まで当たり前のように信じていた事柄をあっさりと否定してきた。

 

「さて……アーキマンレポートとカルデアの件から、非常に貴重な情報を得ることができました。

 ダ・ヴィンチ嬢、ありがとうございます」

 四足歩行の小さなロボットが頭を下げる形の前屈みになり、礼の姿勢をとる。

 それから頭を上げた。微かな駆動音が会議室に響いた。

 

「過去……カルデアより全ては始まった。よって私は、この世界の救済にもカルデアの力が必要になってくるのだと思います。

 デザートランナー、ダ・ヴィンチ嬢。

 カルデアの技術を研究して召喚された、様々なサーヴァント達、モモタ・トバルカインを代表としたデミ・サーヴァント。

 これらの存在が、それを証明しているようにアダムは思います。

 ……私達はきっと」

 ロボットの胴体部に埋め込まれた一つ目を思わせるカメラレンズが、人間の瞳孔のように収縮を繰り返す。

 

「カルデアを……もっと知り、カルデアに向かう必要があるのだと感じます」

「カルデアに……向かう……」

 アーチャー961が言葉を受け呟いた。

 

「そしてアダムは……カルデアについて深く知ることの出来る存在を保護しています。

 かつて、カルデアが爆発事故に巻き込まれた際、唯一凍結処理が間に合い、生き延びることの出来た人物です。

 彼女は700年もの長き間、冷凍保存されており、アダムは幸運にもそれを見つけだしました。

 ただ……安全な解凍方法だけが分からなかった。けれど」

 アダムがじっと、青い立体映像の少女ダ・ヴィンチちゃんを見つめる。

 

「かつて……カルデアに所属していたあなたなら、それが可能なのでは?

 私はそう考えましたが、どうです?」

『……確かに、その技術を持っているのは、もうこの世界では私だけだと思う』

 少女は答えた。

 

「その女性が冷凍されたコフィンは、設備ある、落ちた『リリスの空中庭園』にて厳重に保管されています。

 なので皆さんには、アダムの道案内にて空中庭園に向かっていただきたく思います。

 冷凍保存されている個体の名前は分かっていますが……また後日に。

 向かうかどうかについて、皆さんの意志もお聞きしたいですし。

 もう夕方5時ですしね、今日は一度お開きということで」

 私は会議室に備え付けられていたデジタル時計を見る。確かにAIの言うとおり、5時を数分過ぎたところだった。

 自然光を取り込んでいる移動要塞の天井が閉じられ、一気に暗くなる時間帯。

 帰るみんなの身の安全のことも考えると、確かにこの辺りで会議を切り上げた方が良さそうだ。

 

「……じゃあ、解散と言うことで。

 今日話された内容については、私とノインがまとめておく」

「ノインと、ミライに、お任せです」

 頼もしいことを言ってくれた赤髪の少女と金髪の少女に情報整理を任せ、私は立ち上がった。

 そして、皆と一緒に会議室を出て、エレベーターに乗り、暗くなりつつある要塞の乾いた道を辿り家へ帰った。

 

 

 

「南極にある、カルデア。

 それにプラスして、落ちたリリスの空中庭園、かぁ……」

 夜も0時半をすぎた頃。

 ガトモスの家、薄いマットレスと毛布にくるまりながらつぶやく。

 最近目が冴えて、眠れないことが増えた。

 そんな日は日記の続きを書いたりしているのだけど、ダ・ヴィンチちゃんからあんな話を聞いた今日はそんな気持ちにもなれなくて、ただベッドの上でごろごろとしていた。

 

「……ちょっと歩いたら、気分も晴れて眠くなるかな?」

 そんな独り言を呟いて、私は起き上がる。

 出かける前にコップ1杯の水を飲んでから、フードをかぶり、鍵を閉めて、私は暗く閉ざされた天井の中に広がる町の中を歩き始める。

 目指す場所は──。

 

 

 

 涙型の移動要塞、その切っ先に、外に展開しているソーラーパネル点検用の通用口があって、長い梯子を登り、私はたどり着く。

 

「風が気持ちいい……」

 ここは言うならば要塞の屋上だ。

 転落防止用の簡素な金属製の柵が数本立てられているだけのこの場所は、空が存分に望め、見晴らしも良く、乾いた冷たい夜の風が吹き抜けていた。

 ここは、何週間か前にミライちゃんとお話ししたあの場所。元を辿ればガトモスが教えてくれたんだった。

 要塞は、今日の夜は動いていないようだ。

 星の煌めく音すら聞こえてきそうな、静かな夜。

 締め切られた要塞内部から、開放感のある場所に来られた私は、大きく背伸びをして、土ぼこりのついた床に腰を下ろす。

 黄土色の半袖短パンだからちょっと寒い、でもデミ・サーヴァントだから平気。

 

「空、広くて大きいなぁ」

 昔はこの空の下を、人間が自由に旅していたんだ。

 そして瞬きしてから思い出す。

 

「でも、この空の上には」

 されど自由はなくなった。

 ミライちゃんが言うには、この空を、地球を一周するように。

 

「……機械化サーヴァント、『衛星軌道上展開兵器ヴリトラ』がある」

 聞こえてきたのは涼やかな男性の声。私は肩を驚きでびくりと動かしてから、恐る恐る首だけを後ろに向ける。

 

「アーチャー961? どうしてここに」

「要塞内は息が詰まる。だからその……気分転換に、ちょっと」

 良く知っている人の姿がそこにあった。

 サンダルのようなものを履いて、裾がボロボロの長ズボンに身を包み、上半身はローブというか布を巻きつけて隠している。

 両腕を失った彼、アーチャー961が私から少し離れた場所に立っていた。

 

「……梯子、どうやって登ったのかって聞きたいんだけど」

「? 両手が無くても梯子くらい登れるだろう?」

 そうだ、彼はサーヴァント。常識の外にいるお方。

 アーチャー961は私のすぐ側に座ると、その黒い双眸でこちらをじっと見つめた。

 

「少し、話さないか?」

 と言って。

 

 第120話 小さな希望()の、小さな終わり

 終わり




 単語説明


 人理継続保障機関フィニス・カルデア
 グラン・カヴァッロが語るに『世界を救うために作られた組織』。
 もちろんそれ以外の目的もあったが、()()()()には関係のない話。
 
 偶然にも聖杯をこの世に召喚してしまったことによって、世界中から狙われることになり、最終的には滅亡した。
 所長オルガマリー・アニムスフィアは国連本部への移動途中に行方不明となり、その後の代理はロマニ・アーキマンが務めた。

 攻撃を受け続けるカルデアから脱出したスタッフ、ロマニとサーヴァント、レオナルド・ダ・ヴィンチは、『トワの奪還と聖杯戦争の終結』を目指し奮闘したが、力及ばず、聖杯の封印のみが精一杯だった。

 全てが終わった後、スタッフ数人は生き延びることができ、その後彼ら彼女らは市井に紛れ、誰かと結ばれ子をなして、その命を繋ぎ続けた。

 唯一の生き残り
 レイシフト実験前、カルデアを襲った二回の爆発事故。その悲劇を乗り越え、重傷を追いながらコフィンにて眠りについていた人物。
 もし他の人物が生き残っていたとしても、700年の歳月は耐えきれず、風化して塵になっていたことだろう。

 
 登場キャラクター紹介


 トワ・キリエライト
 身長/体重:158cm・46kg
 出身:カルデア 年齢:肉体年齢15歳
 属性:秩序/善 性別:女性


 カルデアで造られたデザインベイビー。不老不死。
 本来はサーヴァントと人間の融合体、デミ・サーヴァントとなるはずだったが、彼女(トワ)は『彼女(マシュ)』では無かったため、聖騎士ではなく聖なる杯をその身に宿すこととなる。
 これによって、全ての運命は狂い始めた。
 
 聖杯と融合していたトワだったが、時計塔の魔術師達の手により、不老不死性はそのままに聖杯と分離させられた。
 その後、ロマニ・アーキマンの手によって救われ、自由の身となる。
 解放された彼女は、長い時を旅し、生まれ故郷へと帰った。
 今はただ、星見台の跡地にてあなたの帰りを待っている。
 
 彼女は穏やかで、成長せず、旅を知らず、色彩を知らない、無垢な命。
 聖杯より、ただ永遠を与えられた透明な少女。
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