愛する貴方のために。
愛する貴方のために。
愛する貴方のために。
愛する貴方のために。
愛する……………………。
──私は、運命という言葉が嫌いだ。
なのになぜ、君を待ちわびているのだろう?
まるで、運命に頬を火照らせる者のように。
アイラブユーと言葉だけ。
愛しているは君にだけ。
ね★
むかしむかし、あるところに。
──天照大神という、とても尊い神様がいました。
神様は地上を眺めて思いました。
『人間というのは、どうしてあんなにも楽しそうに神に仕えるのだろう?
簡単に死んでしまう癖に』
神様は人の気持ちを理解したくなって、赤ん坊に生まれ変わりました。
そして親切な夫婦に拾われ、『藻女』と名付けられました。
美しく賢く育った彼女は、時の帝に見初められ、都に招かれ、『玉藻の前』と名前を変えますが……。
その後は、皆さん知っての通り。
少女は帝の病の原因とされ、陰陽師に兵士に追い立てられ、那須野という地に逃げました。
ススキの原でひとり立つ少女に、神の眷属たる狐達が労いの言葉をかけます。
「疲れたでしょう?」
「ひどい目に遭ったでしょう?」
「かわいそうに」
音だけの慰みを与えられた少女は、涙を流しながら、自分が人ではなく、どうしようもなく『神』であることを思い知りました。
その後は、皆さん知っての通り。
化生となり暴れる玉藻の前は、たくさんの人を殺して、最後には自分も殺されて……。
矢だらけ穴だらけとなり、最後には石に成り果てた少女の体を見て、一匹の狐はこう考えました。
『尊い神の分け身が、こんな有り様となるほどに理解したい「人」とは、なんだろう?
ああそうだ、自分も、人と交わって人を解ってみたい』
少女が死した後、狐の一匹は野を駆け山を下り川を渡ると、不思議な力を使い果たして人に化け、人の社会で暮らし始めました。
やがて人との間に子を授かり、その家系は長々と続いていきました。
その後は、皆さん知らない話。
狐の血が混ざっているというのは、案外便利なものです。
体が丈夫だったりします。
けれど、一番の特徴は……『人格を容易に分けられる』ところでしょうか。
普通の人間さんは、凄まじいストレスや、霊薬の力を受けないと分けられないそうですが、狐混じりは違います。
人が筋肉を鍛えるように、書物を開いて知識を蓄えるように、必要に応じて人格を分けられるのです。
どこぞの玉藻ナインと仕組みは似てますね。
修行を詰んだ狐が尾を増やし、その尾を分け身として働かせる行為。
それが狐混じりにとっては、『内部人格の増設』になるのです。
こうして話している私も、どこかの誰かさんの人格ですし。
……タマモキャットではないです。
さて、話を本筋に戻しましょう。
時は戦国、狐の血が濃い子どもが生まれました。
日の本では、珍しいことじゃないんですけど。
されど子どもは、自分の血のことなど知りません。
子どもは、神に仕えていた狐の子孫なので、偶然にも、将来神となる存在と繋がってしまいました。
その神様の名前を、東照大権現と言います。
子どもは生まれた瞬間から、神様の物でした。
子どもは、愛というものが分かりませんでした。
母と父は子どもを愛したのに、子はそれに上手く応えられませんでした。
人の愛。
それは、先祖である狐が『理解したい』と死ぬまで追い続けたもの。
……子どもは、愛が分かりませんでした。
それからしばらくして、子どもはとんでもない目に遭いますが、そこは面白くないのでSKIPします。
子どもはそれなりの男となり、近い年頃の娘と夫婦になりました。
彼女は素直で明るく、貧しい生活の最中でも笑顔を絶やさぬ娘でした。
そして、男のことを真っ直ぐに愛してくれました。
日が沈みて後、太陽が昇るように。
積もった雪が溶け、春が来るように。
娘は、愛することを当たり前に行いました。
娘の愛は静かで美しいものでした。
娘は毎日のように畑を耕し、田の雑草を抜き、野菜を狙う獣を追い払います。
余暇の時間は薪を拾い、針仕事をし、家を支えました。
娘は男を愛していたからです。
……男はいつしか、娘の瞳を真っ直ぐに見れなくなりました。
自分が彼女の愛に応えられないことが、辛くなってきたのです。
なぜなら男は、生まれたときから神様の物だから。
男は考えました。
『こんな狭い場所に留まっていては駄目だ。
三河の外にはきっと、人を愛する方法を知る人がいる』
男は起きた一揆の混乱を利用して、娘を置いて飛び出しました。
神様のことから逃げて、どこまでもどこまでも駆けていきました。
そして──おびただしい死を見ました。
子をかばって死んだ親を見ました。
親を守るために死んだ子を見ました。
仲間を守るため、身を差し出した末に焼かれた女の炭を見ました。
仲間を守るため、達磨にされた男を見ました。
首だけにされた多くの武士を見ました。
死んだ母の乳房にすがり付き、ちうちうと吸い、最後には道に転がった赤子の死を見ました。
男は、道すがら、遺体を埋めながら考えます。
『これが、人の愛の形なのか?』
──誰かを助けるために命を投げ出すこと。
これが愛なのかもと、男は思いました。
それから男は、戦場で死にかけていたところを、松永弾正久秀という武将に拾われます。
男はその武将から、人を愛する術を書物で教えられました。
詳しくは『松永久秀 エッチな本』で検索してください。
……エッチなことは、両者の合意のもと、女の子側を大切にしないと駄目ですよ?
二人は、途中まで仲良く楽しく戦国ライフをセッションしていたのですが、方向性の違いから解散します。
武将の元で、多くの文化や物語を知った男は、『これでどうにか、愛の見た目は取り繕える筈だ』と、故郷に帰る決心をしました。
故郷で『裏切り者』として扱われていることを知りながら。
男の頭は、叩けば「こーん」と音が鳴りそうなほどに能天気でした。
途中、死んだ母の体にすがり付いて泣く子どもを、拾って連れていくほどに。
──山の側、痩せた土地の上に立つ家の前で、娘が、待っていました。
待っていました。
ぼろきれの服を来て、指をあかぎれに染め、肌は日焼けでぴかぴかで。
娘は若さも過ぎ、女となっていました。
女は男を見るなり、すぐに誰か分かって顔を綻ばせると、『おかえりなさい』と言いました。
シワが目立ち始めた顔をくしゃくしゃにして話す声の、なんと嬉しそうなこと。
女すなわち妻の隣には、青年が立っていました。
青年は男の子どもでした。
20年近く、妻は夫の帰りを信じ、子を育てながら待ち続けていたのです。
──夫や世を恨むことも無く。
男は、打ちのめされる思いでした。
男は真夜中、火が消えた囲炉裏の前に座り、考えます。
『やはり俺には、人の愛に報いることなど出来ぬのだ』
男は、自分がどうしようもなく『人でなし』であることを思い知りました。
涙は流しませんでした。
男は決めました。
人の愛には応えられぬのだから、せめて一人だけを『愛する者』と定めて、忠義を尽くそうと。
それ以外の愛は、応える努力をやめてしまおうと。
男が定めた者……仕えたお殿様の名前を、徳川家康と言います。
お殿様は、生まれる前から、男の所有者でした。
だから、男は神様から逃げられはしないのです。
そんなことは出来ないのでーす!!
……やんぬるかな。
お殿様と男は、会うなりとても仲良くなりました。
それもそのはず、だって男はお殿様の『分け身』ですから。
考え方も好きなものも近いのです。
お殿様と男は、二人きりの時は、まるで少年のように話し、遊びました。
カブトムシとクワガタを戦わせ、古墳を見つけ、竹の子を掘り、山に成る果実を、口周りを赤く染めながら食べました。
近所の人のおもしろ話をして、同じところで笑いました。
それは、お殿様が過ごせなかった青春の代替えで、だからこそ二人は楽しい時間を過ごしていました。
……そんな日々の中で、お殿様も男も戦を起こして、沢山の人を殺しました。
沢山の人を不幸にして、恨まれました。
男は安心していました。
お殿様のことを大切に出来ていたからです。
『これがきっと愛なんだ。俺は彼を愛せているんだ』と思いながら、『彼がいなければ、俺は普通の人間として死ねただろうに』とも。
男は愛すると同時に、お殿様に暗い気持ちを向けていました。
でもそれも、人格を分け、整理整頓、すっきりと対処していました。
お殿様はその分けた人格も面白がって、沢山の人格と遊びました。
男の人格はどんどん増えていきますが、お殿様が生きている間は、それで問題無しでした。
……最終的には、1万と4つほどになったかな。
争う日々が数十年続き、ようやく終わりが見えそうな頃。
男の妻が、死の縁に立たされました。
現代医学から見れば、年老いたゆえの誤嚥性肺炎。
ほぼ寿命に近いものです。
男は、血管の浮き出た妻の手を擦りながら、聞かずにはいられませんでした。
『どうして私なぞを愛してくれたのだ。
私は、お前の愛にひとつも応えられなかったのに』
妻はひとしきり咳き込んでから、ぽつぽつと話しました。
その光景はきっと、地獄に堕ちても思い出せる、大切な。
「ああ……だって」
妻の額に脂汗がにじんでいたので、男は布で拭いました。
話しやすいように。
「だって、貴方、帰ってきてくれたもの。
それだけで、貴方が私のことを想ってくれているって、十分に分かったわ」
続いて妻は、消えそうな声で、山菜の灰汁を茹でこぼした日々や、魚を安く買って沢山の料理に仕上げたこと、手伝いの女達との楽しい日々を語ります。
男の子ばかりに恵まれ、隣家に産まれた娘の存在を羨んだことも語ります。
そして。
「ふふっ、それとね……。
私、貴方の妻をしている私が、いっとう私らしくて、好きなの」
──男と妻の会話は、それでおしまい。
妻は数時間後に亡くなり、その後、縁ある寺の墓地に埋葬されました。
寺の中庭、そこの池に蓮の花が咲いていました。
蓮の実は妻の好物でした。
ほんのり甘くて、美味しいのです。
男は、妻が蓮の実を頬張るのを、横からいつも見ていました。
男は、妻と同じ墓には入れません。
なぜなら、男の体は死後、魔術礼装に改造されることが決まっていたからです。
男は、頭は良かったけど愚かでした。
妻を始めとして、周りの人に愛されていることを理解できなかったからです。
ここで街頭インタビューをしてみましょう。
「戦働きも出来ん腑抜けかと思ったら、その戦に入り用な米や塩、馬の飼い葉の手配をしてくれての。
いやー助かった助かった」
「うちの主人と弟が戦で切られた時、薬を煎じて塗ってくれたんです。
その後も、傷が治るまで私の一家の面倒見てくれて……。
お金まで……。
ええ、ほんとうに助かりました」
「あの人が来ると仕事がはかどるさ!
土地のことも建材のことも、なにより俺らのことを、よーく分かってらっしゃる!」
「あっしら商人はあの方のことが大好きですよ。
なんてったって、金使いがケチじゃない。
必要なものを必要なだけ買ってくれます……なんでもね……」
「オレたちが勉強? ってのができるのも、その人がこの小屋たててくれたおかげなんだって。
母ちゃんがいってた!」
男は人の愛が分かりません。
でも男の行動は、お殿様を支えようとしてやったことは、大勢の人間を幸せにしていました。
人々は男の言葉ではなく、男の行動に救われていたのです。
でもそれは、男が行動できていた間のお話で。
働けなくなれば、民は別の人を愛するようになりました。
太陽が、雲ひとつ無い空に浮かんでいた、気持ちの良い晴れの日。
お殿様が死にました。
死因はてんぷらとか胃ガンとか言われてますが、一番面白い説が人々に愛されることでしょう。
お殿様が死んだ瞬間、男の世界は真っ暗闇。
お日様は、もう昇りません。
そして男は、己が壊れるのを自覚しました。
お殿様のために増やした人格が、タガを失った樽のように、方々に散っていきます。
紐が切れた数珠のように、転がっては闇に向かっていきます。
どうして、こんなにも人格が増えてしまったのか……。
男とお殿様だけの秘密でしたけど、書いちゃお。
お殿様は、『会いたくとも二度と会えない人物』の人格の模倣を、男に頼んでいたのです。
それはお殿様が年を取る度、戦をする度に増えていきました。
お殿様の大きな手でも、掬えないほどに救えない人が多いものですから。
お殿様が生きている間は管理できていたそれも、彼が死んだなら破綻です。
男の『壊れ』を感じた周りの者は、男を取っ捕まえ、急いで魔術礼装に改造しました。
……足の悪いジジイなんだから、あそこまでしなくても良かったじゃん?
はい、話を戻します。
お殿様の一部であった男を『徳川』の身代わりとし、『徳川』への恨みや呪いを背負わせようとしたのです。
けれど……失敗しました。
ゴメンゴメンゴ!
ほんと、手の施しようがないほどに。
『徳川』はもう、ひとりの男では受け止められないほどに、妬まれ、憎まれ、呪われていたのです。
男の体は、たちまち黒い泥となり、呪いの熱で辺りを燃やし始めました。
男は痛みで叫びます。
周りの者達は大慌て。
男を箱の中に注ぎ入れると、江戸城の地下水に沈めて冷やしました。
でも、箱は完璧じゃなかったから、男の体が少しずつ外へ漏れていきます。
人格が薄まって流れていきます。
それでも、ああ、男は消えることを自分に許しませんでした。
だって、自分がいなくなったら、『徳川』に直に呪いが降り注いでしまうから。
男を改造した者達は、男の偽装葬儀を済ませると、『失敗』である男のことなど忘れてしまいました。
地下水に沈めたまま、放ったらかしにしました。
彼らは次の行動に移ります。
男が生前建てていた江戸の都市計画を破棄。
もっと魔術的に呪術的に強い都市にするべく、街作りを変えていきました。
世間も、男のことを忘れていきました。
もう誰も、男を呼ぶものはいません。
『徳川』は、男がいなくなっても上手くいきました。
真っ暗な地下と水の中が、男の終の棲家。
今でも東京の地下に揺蕩っています。
人格は少しずつ流れていき、どこか遠くへ……。
ある人格は、神様になったお殿様を助けに行くため、どこまでもどこまでも駆けていきました。
ある人格は、他の人格をこうやって記録するため、存在を高次元のものにしました。
そして……ある人格は、お殿様ともう一度会うために、とても酷いことをしました。
聖杯戦争の最中、己を呼んだマスターたる小さな女神リリスを騙し、お殿様を呼ぶための生け贄にしようと。
──だってぇ。
「俺が世界でいちばん悪い子になれば、あの人はきっと、俺を叱りに来てくれるでしょう?」
だって、俺はあの人を愛しているのだから。
えっと……ああ、そうだ。
愛しているから、あんなにも酷いことが沢山できたんだ!
何をやったって、涙ひとつ流れなかった!
俺は、徳川以外をなんとも思っていないから!!
本当に、本当に、沢山、殺して。
人を殺した騙した潰した流した裂いた壊した離した。
ああ……赤子の遺体の、なんと軽いこと。
愛しているから。
俺は『徳川』を愛しているから。
……人は愛の名の元なら、どんなに酷いことだって出来るでしょう?
だって、そういう人を沢山みてきたもの。
愛あればこそ、俺はあんなにも酷いことが出来たんだ。
本当にそうなのかな……ああでももう止まれない!!
あふれる! こぼれる! 決壊する!
俺は、きっと、徳川を、愛しているんだ!
きっと、きっと、きっと。
きっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっときっと。
だから。
いつかいつかいつかいつかいつかいつかいつかいつかいつかいつかいつかいつか。
あの人が俺を叱りに来てくれる!
……そうだよね?
ね? ね? ね?
ねぇ……誰か! 誰かいないのか!?
おーい! 誰かいませんか?!
ここまで堕ちたのに、悪いのに、誰も止めてくれないのです!
罰すら来ない……。
誰か! 誰か!
誰か! 誰か……。
ああ……。
妻……母さん……。
みんな……。
俺の……私の……。
もう歩けない、ここで横たわるしか。
う、うっ……。
──ああ、やんぬるかな。
あれ。
俺、誰を待っていたんだっけ……。
膝が痛い。
腕が痛い。
顔が痛い。
胸が……痛い。
ここは、どこ?
愛は欲に。
欲は獣に。
心は地に。
魂は空へ。
俯瞰して見ると、笑えてきますね。
狐から始まったその血は、一度は人になったというのに、人への愛のせいで獣に戻ったのですから。
さて! その人格の企みは、いったいどうなったのか!
──その後は、皆さん知らない話。
……??????のマテリアルが更新されました。
??????
クラス:アルターエゴ00001
真名:??????
マスター:??????
かつて誰かに仕えていたサーヴァント。7番目の8番目。
亡霊のようなもの。
↓
クラス:アルターエゴ00001
真名:本多佐渡守正信
マスター:女神リリス
リリスがかつて召喚した7体のサーヴァント、『リリスの7の滅びの使徒』。
その番外の8にしてリリスの致命。
リリス殺害がため、抑止力が差し向けたサーヴァント。
アルターエゴとして召喚されたので、絶対の主を失い、心を壊した者として現れた……が、賢く振る舞い、他のサーヴァント、そして女神リリス本人に見破られぬようにしていた。
本人は抑止力を欺き、自分のエゴのためにリリスを殺し、贄にしようとしたが、相手の反撃に合い、失敗、敗走、なりそこなった。
リリスは彼を父親のように慕っていた。
この男が獣になるには運命が足りなかった。
あと愛の自覚?
どこにも行けない、狐混じりの大きなお魚。
ぴちぴちと跳ねて、泥まみれ。
世界でいちばん悪い子になった程度で、御仏が慈悲をかけてくれるわけが無いのにね。
サーヴァント墓場で、君を待っている。
──だって、君を愛しているもの。