フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 鷹のような翼を身につけたサーヴァント、キルケー、都市の管理者であるスローネ・エーテルウェル、その両者と一時協力体制をとることになったモモ達。
 ……理由は明白、礼装に改造されていたバーサーカー04の体調不良とその治療、地上に現れた謎の機械巨人の出現のせいだ。
 
 若干ぐだぐだになりながらも作戦会議が行われ、巨人を倒すための兵器を、放棄された地下都市から探す事にした。その会議の席に現れたのは、大きな体と赤い角を持つ少年のサーヴァント、アステリオス。
 バーサーカー04の不調と、アステリオス本人の強い希望もあって、地下都市探索と、巨人打倒作戦に彼が代わりに参加してくれることに。
 キルケーと話し合いを重ね、モモはアステリオスとパートナー関係を結んだのだが……。


第20話 運命的に巡り会って

 

 

 作戦決行まで3時間。

 私は、落ち着かない気持ちのまま大理石の広間にいた。

 

「あの!」

 向かい合って座る私とバーサーカー……ことアステリオス。

 

「なに? アステリオス」

 私はただ彼の名前を呼ぶ。それだけで、彼は歯を見せてにかっと笑った。

 

「ももたが、ぼくのますたー! ……なんてよべば、いい?」

「モモって呼んで!」

「わかった」

 こくこくと首を振る彼の仕草に、アドリアさんの家で出会った3人の子どもを思い出してしまう。

 それ程までに、彼から受ける印象は幼いものだった。

 

「ぼく、みんなをまもる。かいぶつだけど、がんばる」

 あどけない顔を固くし、決意も固く表明している彼の緊張を解かしてあげたくて、軽くお話しをしてみる事にした。

 

「普段は何をしているの?」

 彼が太い指同士をもじもじと合わせる。

 

「このしんでんとはちがう、べっていで、ひとりきりで、じっとしてる」

「誰かと遊んだりしないの?」

「きるけーおばさまは、『自由にしていいよ』っていってるけど……」

 彼はテーブルに置いてあった果物籠から、ココナッツを手に取った。

 

「ぼくはずっとへやにいる。だってぼくは……」

 その手の内にころんとのっていた可愛い南国の木の実は、彼が指を曲げ、手を閉じると、軋み、砕けて、白と茶色をぐちゃぐちゃに混ぜたものに変わった。

 ……濁った液が、テーブルへ滴り落ちる

 

「きをつけないと……みんなのこと、ころしてしまう。だって、かいぶつ、だから」

 自らを「かいぶつ」と呼ぶ彼の表情は暗い。

 

「……己の存在を、それほどまでに否定しなくていいのでは」

 重たい空気の私とアステリオスの横から、声をかけてくれたのは。

 

「アーチャー?」

 アスカのサーヴァントである彼だった。

 機械部品を取り去った剥き出しの手を胸に当て、アステリオスに話しかける。

 私はその様子が珍しくて、静かに見守ってみることにした。

 

「貴方は召喚された……ただのアステリオスなのです。

 卑下する事もなく、遠慮する事もなく、ありのまま振る舞えばいいのでは」

「でも、ちからのかげん、まちがえたら……」

 彼は、ココナッツの液がぽたぽたと垂れ落ち続ける自分の両手を強い眼差しで睨んだ。

 ……大きな指は、震えている。

 

「私が側にいる限り、そんなことさせませんとも」

 アーチャーが白いハンカチを取り出し、その手を取って、汁を拭い、綺麗に清めた。

 

「力の使い方を学びましょう、裏庭で手合わせを」

 その言葉に、おずおずとアステリオスは頷いた。

 

「うん。れんしゅう、したい! ありがとう、あーちゃー」

「裏庭はこちらでしたか?」

「ぼくしってる、こっちだ!」

 身長差2倍近いサーヴァント達は連れ立って裏庭へと向かった。

 それを、アスカは目を丸くして見つめていた。

 腕の中には、デザートランナーから持ってきた保存食の銀色の包みがある。

 

「彼があんなに喋るだなんて珍しい……思うところがあるのでしょうか」

 長いつきあいの彼女ですら驚いている。

 

「……雷光繋がりとか?」

「トバルカインは賢いですわね……」

 アスカが渡してくれた栄養ブロックを、お昼ご飯代わりにもさもさかじった。

 

 

「2時間半で出来たとも! 大魔女だぞー!」

 時間はあっという間に過ぎ、作戦が始まろうとしていた。

 キルケーはにこにこ笑顔で手に何かを持っている。

 

「きみ達の服にこれをつけたまえ」

 渡されたそれは、四角くカットされ磨かれたエメラルドの宝飾品だった。

 親指ほどもある石は、金属の台座にきちっと納められ、静かに輝いている。

 

「条件が整えば起動し、きみ達を外の熱波や、宇宙線? から、見えない魔力の帯で守ってくれる」

「すごいですわ!」

 宝石が好きなのか目をキラキラさせているアスカ。

 彼女は受け取ったそれを様々な角度から眺めた後、リボンにあしらうよう装着した。

 私も彼女に習って、胸元につける。 

 

「あと、それ以外の特別な効果もある」

 自慢気に胸を張る魔女。私は言葉の意味を問いかけてみる。

 

「といいますと?」

「運転中に2人が気絶しないよう! 耐G性能を高めておいた!」

「……頑張ります」

 責任感で潰れそうになりながらも、私は決意を強くした。

 

「船にも守りの呪い(まじない)を幾つかかけておいた、メンテナンスはスローネがざっとした。準備完了! 搭乗したまえ!」

 彼女からの激励を受けた後、一度、白い神殿から出る。

 

「こちらでーす」

 白衣をしわくちゃにしたスローネの後ろ姿を追い、裏庭に出ると、地下へ向かう大きな階段が出現していた。

 

「ここから外部へ出られるドッグに繋がっています、船はそこに」

「スローネ……さん、ありがとう」

 彼は丸いメガネの奥の青い瞳を優しげに細める。

 

「みなさんがんばってくださいね、都市と心中したくないので、私」

 言葉と共に見せた現金な態度に、私とアスカは同時にため息をついた。

 

 

「もも、まってた」

「マスターアスカ、お待ちしていました」

 長い連絡通路を踏破した後、目の前にずん……と現れた大切な白い船の前に、サーヴァントが待機していてくれた。

 

「ぼく、からだ、おおきいから、れいたいかして、のる」

 アステリオスの姿がじわじわと消えていく。

 

「私も同じく霊体化し、直ぐに攻撃行動へ移れるよう……上に乗ります」

 アーチャーは私達にそう言った。

 

「上?」

 理解できず、聞き返す。

 

「はい」

 彼は指さす。

 

「デザートランナーの、上にです」

「アーチャー……それは……」

 時速100km以上を出す車、それの車体に掴まって移動をする。

 自らのサーヴァントに降りかかる危険の事を思ったのか、アスカは腰を抜かしてしまったが、私がとっさに支え、転ぶことはなかった。

 

 

 

 

『こちらキルケー! 取り付けた通信用の礼装は……うまく起動しているみたいだな!』

 車内に彼女の声が響く中、私はバーサーカーに教えられた通りにスイッチを順番に押し、走行システムを起動させる。

 

『全員乗ったな? 私の都市の運命はきみ達に託したぞ!』

『大魔女キルケー! あなたの都市ではないです! いつでもいいのでこのスローネに返してくださいね!』

 地面が回転し、車体のタイヤがレールに乗せられたのが衝撃で分かった。

 私は正しい姿勢でハンドルを握り、深呼吸する。

 補佐のため運転席横に座っているアスカは、とても緊張しているように見えた。

 

『初速を稼ぐためレール上から高速で射出する。モモタ! 気絶せずに踏ん張れよ!』

「はい!」

 ブレーキとアクセルの位置を確認し、私は前を向く。

 シャッターがせり上がり、まぶしい荒野の景色が白飛んで見えた。

 

『よーしでは……発射!』

 一瞬、宙に浮かんだのかと思うほどの速さ。

 車体は太陽の下へ発射され、6輪タイヤが弾みながら砂を踏む。

 

「う……ぐっ!」

 顔に圧を感じながら、私はハンドルを調整し、アクセルを踏む。

 ただの人間である私にとって、時速200kmオーバーの世界は何もかも速すぎる。

 運転システムの補助がなければ、あっという間に横転し、砂の海の藻屑となっていたことだろう。

 

(あれが、都市を危機に陥らせた巨人……)

 遠目に見える強大な敵を睨みながら、その存在の後ろへぐるりと回るように迂回する。

 肉眼だとさらに大きく思える。

 巨人は顎と両手でざかざかと地面を掘り、リソースをもっと飲もうと背を丸め、頭を地面へ突っ込んでいた。砂塵は、敵を覆うような砂嵐へと変化している。

 

(急がないと……!)

 都市で出会った人々の顔が思い浮かぶ。

 名前も知らない子ども、漁師さん。

 手料理を振る舞ってくれたアドリアさん、その3人のお子さん、フェデリコ、ルーチェ、ジーノ。

 辛い過去を話し、聞いた私が住民になる事を否定しても、それを応援してくれたバルトさん。

 

(確かに、あの場所は偽りの楽園なのかもしれない)

 タイヤが横滑りしないよう、ハンドルの角度を調整する。

 右足でアクセルを踏みながら、ナビゲーションされた目的地へ向かい爆走する。

 

(でも、そこを大切に思って、生きている人がいるのなら、私は真偽なんてどうでもいい、助けたい)

 これからの旅、どれほど美しい楽園を見せられたとしても、仮初めのそこに住む選択を、私は選ぶことはないだろう。

 しかし、その場所が奪われ、人が害されそうになっているのならば、持てる力の限りを使って、私は守りたい。

 ……それが、様々な人やサーヴァントに出会った末の、私の結論だった。

 

 

 

 

 全速力を出したおかげか、スローネの予測の時間よりも早く目的地へついた。

 目の前に出現した窪み、放棄された地下都市。

 フロントガラスから様子を見る。

 どうやら、かなり保存状態は悪そうだ。

 爆弾でも起動させたかのように、岩盤と天井が地下都市が剥き出しになるまでぶち抜かれている。

 差し込む日の光で、砂埃がきらきらと舞っていた。

 

「よっと……」

 私はキルケーから貰った貝殻をポケットから出し、指で触れる。

 かたかたと動くそれは、トランシーバーのような通信用の礼装らしい。

 

「ここから歩いた方がいいー?」

 同じ物を持っている車体の上のアーチャーへ連絡を取る。

 数秒後、貝殻の内側から彼の涼やかな声が帰ってきた。

 

『いえ、武器が見つかっても燃料がなければ意味がない。

 燃料の転用と運搬のためにも、あそこの瓦礫に車体を乗せて、一段ずつ降りていきましょう』

 彼が車体の前に白のマントをはためかせながら着地して、腕を伸ばして穴の中を指さす。

 少し前進させると、確かに、瓦礫が階段状に積み上がっている箇所がフロントガラス越しにも見えた。

 

「でも……帰れなくなるよ?」

 降りるのはいいが、上ることは出来なさそうだ。

 不安なのはアスカも同じようで、はらはらしながら私とアーチャーの会話を聞いている。

 

『うまく行かなければ帰るも帰らないもありませんから、今は考えず』

 ……随分と身も蓋もない事を言われてしまい、私は彼の案を飲まざるを得なかった。

 

 

『次はそこ……お上手です、車輪を調整して、次は……』

 先を行くアーチャーの指示で、瓦礫を踏みながら最下層まで降りていく。

 大きな車体は天秤のようにふらふら揺れ、タイヤを微調整する度に冷や汗が垂れた。

 それでも、私はハンドルを握り続ける。あの都市に住む素敵な人達を、助けたい一心で。

 

「……ついたぁ」

 安堵からか、汗が顎から膝に伝い落ち、ハンドルを握りしめていた手はぷるぷると震えた。

 横で固唾を飲んで見守ってくれていたアスカが、そんな両手を包んでさすってくれる。

 

「ここからですわね、トバルカインは少し休んだ方が……」

「いや、人手はあった方がいいよ、私も行って武器探しをする」

 両腕をそっと上に、軽いストレッチをしたら、疲労はましになった。

 

「アステリオス、いるー?」

「うん」

 霊体となっている彼の声が直ぐ側から聞こえてきた。

 

「全員で降りて、探索するからついてきてね」

「わかっ、た」

 アスカの助けを借りつつ、いつもよりきつく巻いていたシートベルトを外し、立ち上がる。

 ……体に余分な力を入れていたのか、足の感覚がふわふわして、全身がちがちになっていた

 

「トバルカイン、水を」

「ありがとう、アスカ」

 手渡してくれた飲料水のボトルをひねりながら開け、冷えた水を緊張で乾いていた喉に流し込む。

 キルケーから貰った、防護用と通信用の礼装を身につけているか確認して、一度外に降りてみた。

 

「めいきゅう、みたい、だ」

 車外に出て、霊体化を解いたアステリオスが感想を言う。

 ぞろぞろと後から出てきた私達も、たどり着いた最下層の様子を見る。

 太陽は遠く、辺りは薄暗い。刑部姫と一緒にいた時にも使った懐中電灯で、暗がりを照らす。

 

「マスターアスカ、ここは居住区だったようです」

 アーチャーが歩きながらこちらへやってきた。

 

「武器があるとしたら、どこでしょうか?」

「物資分配用の倉庫か、上流階級の居住区周辺に隠すか……地図が欲しいですね」

 サーヴァントとその主の会話を聞きながら、アステリオスが白いふわふわの髪を揺らしながら頭をきょろきょろ動かしている。

 

「もも、あれ、ちずだ」

 彼が指を差した方を見ると、崩れた天井に埋もれるような形で、絵のようなものが隠れているのが見えた。

 

「でも、瓦礫を退かさないと、確認できない……」

「まかせて!」

 アステリオスは嬉しそうな返事をしながら両腕を振り、ずんずん歩くと、大きな瓦礫を掴んでぐいっと持ち上げた。

 

「わぁ……」

 アスカが感嘆の声を漏らす。あっという間に邪魔な破片は除かれ、地図がその姿を現した。

 

「なるほど……少し進んだ場所に貨物リニアの路線がある、それをデザートランナーでたどれば移動は楽ですね」

 都市の構造を素早く把握したアーチャーの指示に従い、私は再び運転席へ戻った。

 

 

『行き止まりですー』

 貝殻からアスカの声が聞こえる。

 ヘッドライトの先にあったのは、煤けた樹脂製の壁だ。

 

『……ちがう、おくに、へやがある』

 アステリオスの声が続いた。ライトの光の中心に彼は足を踏み出し、照らされている壁をぺたぺた触った。

 

『もも、こわして、いい?』

 衝撃による崩落の危険性が頭をよぎる。

 ダム建設の映画で、発破作業中に生き埋めになってしまった人の姿が、脳裏に浮かび上がった。

 

『マスタートバルカイン、私が彼を補佐します』

 答えに悩んでいた私の元に、アーチャーの声が届いた。

 

「うん、みんな、お願い」

『りょうかい、もも!』

『では……』

 アーチャーは壁を拳で軽く叩き、アステリオスに衝撃を加える場所の指示を出す。

 よくそれを確認してから頷いた彼は、獰猛さを感じさせるうなり声をあげながら、拳で壁を何回も殴りつけた。

 車も私も、間近にいるアスカもぐらぐら揺れる。

 

『こわれた!』

 達成感に満ちた声が貝殻を通って聞こえてきた。

 樹脂の壁は剥がれ落ち、その奥にあった金属製の扉もぼこぼこにへしゃげ、地面に落ちている。

 

『もも、降りてきて!』

 これ以上はデザートランナーでは進めない。私はアステリオスが言うように運転席を離れた。

 

 

「……うわ」

 隠されていた通路の先、懐中電灯で照らされたその部屋の中身に、私は引いていた。

 大きさ、形の様々な銃、それの弾が無造作に詰められた箱。

 分厚い刃のナイフや、火薬を必要としない遠距離武器としてのクロスボウ。

 まるで、武器の見本市のようだったからだ。

 

「怖い、ですね、アーチャー」

 アスカは部屋の中を怖々と観察している。

 

「ぼくも、やっぱりこわい」

 アステリオスは所狭しと並べられた武器を踏まないように慎重に歩いていた。

 

「……ん?」

 私は床に異質な物を見つけた。子どもの頭くらいの大きさの、黒い箱。

 他の武器とは違い、一目で用途の分からない物体だ。貝殻を起動させ、この場にはいない存在へと声を送る。

 

『……なん……です……』

「スローネ! 黒い箱見つけたんだけど! 聞こえるー?!」

 人間なんかよりよほど詳しそうなAIに、謎の箱について訪ねてみた。

 

『それ……AIの……ブラックボックス……です! 珍しい……是非に持って帰ってきてください!』

「はーい!」

 通信を切る。お願いされた通りに持ち帰ろうとするが、ずっしりと想像以上に重かった。

 

「……アステリオス、頼みたいことがあるんだけど」

「うん、なんでも、いいよ」

 力持ちの彼に頼み、デザートランナーに運んでもらうことにした。

 ……『ブラックボックス』、有益な物だといいのだが。

 

「きゃー!」

 アスカの悲鳴だ! 私は懐中電灯を抱えて部屋の奥へ走る。

 

「どうしたの?」

「あれ……あれは!」

 彼女があわあわしながら見ている視線の先。

 

「これは……」

 私は目をそらせなくなった。

 

「ありましたね。銃やクロスボウなどより、よほど破壊力のある兵器が」

 アーチャーがその物体に手で触れながら言う。

 全長は約5m。

 ひびの入った天井から差した光が、金属で出来た体を照らしている。

 人と同じ造りをしている手、足、後部から伸びるパーツ。

 

「巨大人型ロボット……」

 夢の塊のような兵器が3機、私達の前に立っていた。

 

 

 20話 運命的に巡り会って

 終わり




 単語説明


 兵器
 上級都市によって開発された最新の物もあれば、地下からの発掘品、クロスボウや銃といった21世紀に開発・製造された武器の模倣、人型ロボットのような高度な技術が使用された物もあり、バラエティに富んでいる。
 兵器の開発・所有が許されているのは上級都市のみであるが、反抗のために秘密裏で作られた物も沢山あった。
 機械化サーヴァントは兵器として扱われているが、通常のサーヴァントはそうではなく、個人の所有物扱いである。
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