フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 キルケーの親類でもあるサーヴァント、アステリオスとパートナーを組むことになったモモ。巨人打倒作戦までの空き時間の間、彼と会話をする。かつて怪物であった己の力を嫌い、恐れている彼に声をかけたのは、意外にもアーチャー961だった。
 「貴方は召喚された……ただのアステリオスなのです。卑下する事もなく、遠慮する事もなく、ありのまま振る舞えばいいのでは」と語るアーチャーの言葉に励まされ、2体のサーヴァントは連れ立って裏庭へ向かう。力の正しい使い方を教えあうために。

 それから2時間半後、デザートランナーの整備も済み、通信用の礼装や人体の防御用の礼装、補給された燃料と共にモモ達は出発する。巨人を倒す術を求めて。そして、偽りであろうとも、真実の幸福が存在する地下都市を守るために。

 破壊された地下都市内部をデザートランナーで進み、アステリオスとアーチャー961の協力もあって、隠し部屋を発見することが出来た。その中にあったのは、無数の武器と……全長5m近くある、人型ロボット3機だった。



第21話 悲劇流れて

 

 ──快晴の砂漠に。

 ──巨人が立っている。

 

『マスタートバルカイン、マスターアスカ、準備はいいですか』

「ばっちり」

 砂上に白の車。

 

『燃料を転用したので、デザートランナーへは最低限しか液体リソースを残せませんでした。

 長くは動かせないでしょう、短期決戦に努めます』

『ぼくも、じゅんびできた』

 車の内と外で、通信を介して声を掛け合うのは、敵に対してあまりにも小さな存在である私達。

 

『……作戦名を決めてください』

 今はここにいないアーチャーの声に、主たるアスカは瞳を閉じながら考え込み、やがて唇と共に開いた。

 

「作戦名、『ダビデ王とゴリアテ』、開始を宣言します」

「……カッコイイネ」

「トバルカイン! そのにやついた笑みはあなたのバーサーカーとそっくりでしてよ!」

 軽口をたたき合った後、エンジンを始動させる。

 

『了解しました、マスターアスカ、作戦を開始します』

 貝殻越しに駆動音が聞こえる。

 作戦を円滑に進めるため、車体の後方カメラの映像をフロントガラスの一部分に映した。

 

『……斜線上に、出ませんよう』

 青空を背に立っていたのは、上半身は人型の、体高の低い黒の4脚ロボット。

 細かく脚部を動かし、平たい造りの足裏をアメンボのように荒野へ広げて、体制を整える。

 後部の2脚から金属製のアンカーが飛び出て、砂と岩を撒き散らしながら地面に深く突き刺さった。機体が反動に負けないよう固定される。

 

『装備展開』

 パイロットであるアーチャーの声が淡々と続く。

 ロボットの上半身の両腕が肩から回りながら変形、合体し、長い砲身となった。

 空いた肩の内側から出た小さな予備アームによって、頭の上にそれは備え付けられると、太陽の光を反射し、一角獣のように雄々しい姿を見せる。

 

『燃料変換完了……チャージ開始』

 砲身が合体している胴体が身じろぎし、斜角を調整する。

 空気が焦げる音が、通信越しにも伝わってきた。

 目標は──砂塵を巻き上げている巨人。

 

『発射と同時にデザートランナーはフルアクセルで走行開始、私も囮になります』

「分かってる、へましない!」

 口を固く閉じ、舌を噛まないように。

 

『1、2、3……発射!』

 砲身……巨大レールガンから放たれた金のプラズマが青空を真っ直ぐに飛んでいく。

 巨人の体を隠していた砂嵐を一瞬にして全て吹き飛ばし、胴体辺りに着弾、そのまま金属の肉をえぐり取った。

 

「……発進!」

 アクセルをベタ踏みし、時速100kmオーバーでデザートランナーを走らせる。

 

「ミョ、オ……ブモォォォォォン!!!!!」

 巨人はいななき、その声が空間をびりびりと揺らした。

 

「トバルカイン、あれは……!」

「……砂嵐のせいで、正しい大きさが計れなかったんだ」

 青い空を恨むように鳴き続けるその体の大きさは、300m以上ある。

 

(デザートランナーが3m、アーチャーが乗っているロボが5mだから……100から60倍以上の差か!)

 巨人の胴体部の端に、レールガンの攻撃が貫通した穴が空いていた。

 

「ブモォ! オオオオーン!」

 いらだつように足踏みをするだけで、地面が波打った。

 タイヤがうごめく砂に捕らわれないよう、わざと滑らせ、サーフィンのように波に乗る。

 

「トバルカイン! プロスタントマンもびっくりな……!」

「ごめん! ほとんどAIにやってもらってる!」

 私にはそんな腕前はない。運転補助システムが操作ミスを防ぎ、ハンドルの動きをカバーしてくれているのだ。

 

「ううう……!」

 ハンドルにしがみついている私は必死だ。

 

『トバルカイン! 私の方へ!』

 アーチャーの声に、ガラスの向こう側の景色を見る。

 使い捨てのレールガンを地面へ捨て、4脚のふくらはぎ部分に備えられたスラスターから青白い光を噴射しながら、地面すれすれを高速飛行している彼の機体が目に入った。

 

「了解!」

 システムの補助を受けながら、車を寄せる。

 巨人は丸いガスタンクを改造したかのような頭を揺らし、攻撃を加えた私達を索敵していた。

 

「飛び移って!」

 私は待機している彼に呼びかけた。

 

『──うん!』

 返事をしたのはアステリオス。

 彼はデザートランナーの上に乗っていたが、空気抵抗を無くすために霊体化していたのだ。

 姿を現した彼の体の影が地面に落ち、その後アーチャーの機体の上へと移動した。

 

『作戦通りに!』

『わかってる! あーちゃー!』

 スラスターがくるりと反転し、前方に青白い光が吹き出され、急停止。腕の無い胴体がぐわんと揺れる。

 その後、噴出口は角度を変えて真下へ向き、黒い小型の機体はアステリオスを乗せて、ロケットのように徐々に加速しながら上昇していく。

 

「……!」

 それを見送る暇もない。

 巨人のじだんだで壊れた地面の塊が、空から車体に降り注ぐ。

 一瞬にして行われた危機予測計算に基づき、車は落ちてくる石の間を自動で走り抜けていく。

 

『揺れます! しっかりとしがみついていて!』

 耳に入ってくるのは、同じく攻撃を避けているアーチャーの声。

 激しい動きを繰り返している巨人に接近する小さな機体が、フロントガラス越しにちらりと見えた。

 敵は目の前を飛ぶ鬱陶しい存在に気がついたのか、ワイヤーやクレーンなどで形作られた粗雑な両腕を乱暴に振った。

 

『やっ!』

 機体を操作するアーチャーは、その攻撃をスラスターを一時停止させた降下により避けて、再び浮上。

 巨人の腕の上空を取ると、そこに着陸し、4脚の後ろ2つにあるアンカーを発射、機体をしっかりと食い込ませた。

 

『ありがとう、あーちゃー!』

 張り付いた機体からアステリオスは飛び降り、凹凸のある金属の腕を四足歩行で獣のように駆けていく。

 

『武運を!』

 短く幸運を祈ったアーチャーが、前方から開くコクピットから身を乗り出し、機体を捨てる。

 巨人の腕を走り抜け、迷うことなく飛び降りると、空中で姿勢を正し、足の機械パーツから噴き出す青い炎の魔力放出で空を飛ぶ。

 目指す物は──。

 

『作戦通り、機体を乗り換えます!』

 隠し部屋から引き上げてきた、ロボットの2機目。

 先程まで乗っていた4脚の変わり種とは違い、がっしりとした胴体と2脚を合わせ持つ機体だ。

 アーチャーはその黒い体の上に外套と髪をなびかせながら着地すると、コクピットを外側から力任せに開けて内部に乗り込む。

 

『実弾兵器で巨人の体を削ります!』

「私達はこのまま囮を続行だよね! 分かってる!」

 私は上部のカメラから、巨人の体に飛び乗ったアステリオスの様子をうかがう。

 再び舞い始めた砂塵の向こう側に、ガラクタを集めて作ったような胴体を必死にクライミングしている彼の姿が霞み見える。

 

『弾を全て撃ち尽くした後は、ロケットランチャーに換装しますので……!』

「巻き込まれないようにする!」

 石の雨から逃れられたデザートランナーを、私は再び急加速させる。タイヤが砂をこすり、鋭い音を立てた。

 巨人は頭をくるくる回して、私とアーチャーの機体、どちらを先に攻撃すべきか迷っていた。

 

『脆い箇所から……』

 彼はサブマシンガンをロボットの両手に持つ。

 旧時代の戦車を数秒にして鉄クズに出来る大きさの口径の弾が、高速移動しながら放たれ、曲線を描きながら巨人の右肩を狙う。

 ビニール片が舞い、柔らかいチューブがミジミジと吹き飛んでいくが、その腕は落ちない。

 

『ちぎ、れろ!』

 とどめを刺したのは、巨人の上を登っていたアステリオスだった。

 彼は肩関節の間に体を滑り込ませると、怪力に任せ、寄せ集めの部品を内から粉砕していく。

 

「ミャギブォォォォン!!!!」

 不可解な鳴き声。支えきれなくなった腕が自重で落ち、砂と振動を辺りに撒き散らす。

 

「ミゾ、ゾゾゾ……」

 敵の頭がくるくる回転を繰り返す。

 サブマシンガンを撃ち尽くしたアーチャーは、前方へ移動しながら銃を捨てた。

 固い地面の上をバウンドしながら、役目を終えた兵器は後方へ転がっていく。

 腰のブースターを前へ噴射、攻撃を行うために急停止し、背負っていたロケットランチャーを落ち着いた動作で取った。

 両手で構え、頭部目掛け発射。

 白煙を噴き出しながら飛んでいくそれは、高速回転する頭に激突、赤と黒の煙を生み出し、破片がばらばらと落ちてくる。

 

「ザザ、ゾ? ブォ……」

 ぐわんぐわんと全身が揺れ、そのせいでまた大きな砂埃が舞った。

 時速100km越えの速度を保ちながら、視界を遮るそれから離れる。

 青い空と明るい荒野の境界線を視界に捉えつつ、ハンドルを傾けて……。

 そうのんびり考えていた私の前に、巨人の腕が落ちた。

 

「……ブレーキ!」

 反応が遅れた私の代わりに、助手席のアスカが急ブレーキを踏む。

 どうやったのかは分からないが、巨人は自分の左肩を捨てたのだ、信じられないことに。

 

「っ、いったん距離を……」

 ハンドルの角度を調整し、斜め方向へ行こうとするが、速度が足りず、逃げられない。

 腕が落ち、それから横に倒れた衝撃で、砂が波のようにたわみ、車体を半分埋めた。

 

(まずい、囮が足をとられたら……)

 ギアをかえてバックを試みるが、砂の内で車輪はから回るばかり。

 

「トバルカイン、前……!」

 目線を手元から前方へ移す。

 ──巨人のぽっかりと空いた右肩から、拳とは呼べない、太いパイルのような物が、切っ先をこちらに向けていた。

 

(……私、へました、アスカが死んじゃう)

 汗が額から流れて、膝の上に落ちた。

 

『ころ、させ、ないぃぃ!!』

 少年の声が通信貝殻を震わせた。

 

「アステリオス!」

 突き出された巨大な杭を、アステリオスは先端を両腕で抱え込むようにして受け止めていた。

 致命傷は負っていない、だが、みしみしと嫌な音が聞こえてくる。

 砂に埋まりかけのフロントガラスから見える彼、鬼気迫る顔で叫ぶ。

 

『もも、あすか、にげて……にげろ!』

「……っ」

 その気持ちに答えたいのに、タイヤはから回るばかり。

 

『マスター!』

 横からの強い衝撃で車体が飛んだ。

 アーチャーの機体が体当たりをして、砂からデザートランナーを救い出してくれたという事が分かった。

 

(作戦と体制を、立て直さないと……!)

 焦りながらもハンドルを動かし、蛇行しつつひたすらバック。

 

『うわ!』

 アステリオスがはるか後方へ飛ばされるが、受け身をとれたようで、直ぐに立ち上がった。

 ……問題は次だった。

 攻撃を止めていたアステリオスをふりほどいた後のパイルが、アーチャーの乗っている黒い2本足の機体を上から叩き潰したからだ。

 液体燃料と機体を構成するパーツが、一緒くたになって飛び散る。

 

「っ」

 目の前が絶望で赤く染まりそうになる。

 隣にいるアスカが、息を吸う風のような音が聞こえた。

 

 

 第21話 悲劇流れて

 終わり


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