フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 ……キルケーによって箱型礼装に改造されていたバーサーカー04は、持っている回復スキルに変調を来してしまった。
 そんな彼が、治療の最中に見る夢とは。


第23話  黒いうみの中で1人想うことは

 

 

 俺の人生は幕を閉じた。

 運命はろうそくの様に燃え尽きて、死んだ。

 ……しかし、それは終わりではなかった。

 目を開けて広がっていた世界は、一面の黒。

 黒は泥であり、私の全身を貪った。

 正しい事だと思って、受け止めた。私はあまりにも殺しすぎたからだ。

 自分も他人も使い、散々殺した、その、報いだ。

 針も釜も無いここは、極楽でも地獄でもない場所で、故に、罰を計る鬼も、罪を救う仏もいないのだと気がついたのは、直ぐのこと。

 ……泥は量を増していく。その全てが恨み、妬み、嘆きだった。

 

『俺の娘を返せ』

『息子を返して』

『あたしの家を返せ』

『土地を返してくれ』

『わたしの誇りを返せ』

『奪い取った物を返せ』

『信じていた教えを返せ』

 言葉の1つ1つに納得して、俺は崩れ落ちた口の端を動かした。

 

「私を貪ることでその思いが晴れるのならば、するといい」

 内も外も、みずみずしく失われていく。

 空に、輝く星があって。その瞬きは懐かしい思い出を胸によぎらせた。

 確かに俺はあの人の側にいたのだ、あの星はきっとあの人なのだろう。

 体の形を失いながら言い放つ。

 

「これでいいんだ! 死んで、あの人は自由になった! 

 これからは……良い奴になったって、悪い奴になったっていい! 

 ■■■■という運命から解き放たれて……もう、あの人はどう変わっても自由なんだ!」

 嬉しかったんだ。誰に妬まれることのない幸福が、あの人に贈られるのだと思えば。

 

 

 ──愚かな、勘違いだったのだが。

 人の形を失った水っぽい四肢で、泥の上を疾駆する。さながら、病で狂った獣のごとく。

 

「許せない……許せるものか……!」

 怒気に圧され、黒い泥達は波を立てながら逃げる。

 

「死は、救いじゃ無かったのか? 

 ずっと安らかに眠っていられるはずじゃなかったのか?」

 増えていく思考回路の中で、私は叫ぶ。

 

「■■■■にして、あんな世界へ置くだなんて……。

 あんなに苦しんだんだぞ! あれほど悔やんだんだぞ! あれほど目の前で殺されたんだぞ!」

 身勝手な怒りが骨をとろけさせ、灰すら残らない。

 

「……死した後もなお、背負わせようというのか!」

 感情が背中から飛び出し、壁無き世界へ突き刺さる。

 

「例え……この身が人の世の呪いその物になったとしても……!」

 肉は呪詛混じりの泥へと変わり、感覚が空の臓腑を焼いた。

 

「例え……魂も心も消え失せようとも……!」

 鬼も仏もない、呪いだけが降り積もるその場所を這いずり回る、人間だった何か。

 

「いつか必ず、あの星を、御座から引きずりおろしてやる!!!!」

 人間以上の指が生えた手で天を掴み、絶叫したそれは、獣ですらなかった。

 おぞましい感情を燃料に世界へ爪立てた、救いようのない怪物。

 

(その……物語の始まりは……運命の終わった後……に……)

 ──これは、俺の長い旅の、一番最初の場面だ。

 

 第23話  黒いうみの中で1人想うことは

 終わり


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