……キルケーによって箱型礼装に改造されていたバーサーカー04は、持っている回復スキルに変調を来してしまった。
そんな彼が、治療の最中に見る夢とは。
俺の人生は幕を閉じた。
運命はろうそくの様に燃え尽きて、死んだ。
……しかし、それは終わりではなかった。
目を開けて広がっていた世界は、一面の黒。
黒は泥であり、私の全身を貪った。
正しい事だと思って、受け止めた。私はあまりにも殺しすぎたからだ。
自分も他人も使い、散々殺した、その、報いだ。
針も釜も無いここは、極楽でも地獄でもない場所で、故に、罰を計る鬼も、罪を救う仏もいないのだと気がついたのは、直ぐのこと。
……泥は量を増していく。その全てが恨み、妬み、嘆きだった。
『俺の娘を返せ』
『息子を返して』
『あたしの家を返せ』
『土地を返してくれ』
『わたしの誇りを返せ』
『奪い取った物を返せ』
『信じていた教えを返せ』
言葉の1つ1つに納得して、俺は崩れ落ちた口の端を動かした。
「私を貪ることでその思いが晴れるのならば、するといい」
内も外も、みずみずしく失われていく。
空に、輝く星があって。その瞬きは懐かしい思い出を胸によぎらせた。
確かに俺はあの人の側にいたのだ、あの星はきっとあの人なのだろう。
体の形を失いながら言い放つ。
「これでいいんだ! 死んで、あの人は自由になった!
これからは……良い奴になったって、悪い奴になったっていい!
■■■■という運命から解き放たれて……もう、あの人はどう変わっても自由なんだ!」
嬉しかったんだ。誰に妬まれることのない幸福が、あの人に贈られるのだと思えば。
──愚かな、勘違いだったのだが。
人の形を失った水っぽい四肢で、泥の上を疾駆する。さながら、病で狂った獣のごとく。
「許せない……許せるものか……!」
怒気に圧され、黒い泥達は波を立てながら逃げる。
「死は、救いじゃ無かったのか?
ずっと安らかに眠っていられるはずじゃなかったのか?」
増えていく思考回路の中で、私は叫ぶ。
「■■■■にして、あんな世界へ置くだなんて……。
あんなに苦しんだんだぞ! あれほど悔やんだんだぞ! あれほど目の前で殺されたんだぞ!」
身勝手な怒りが骨をとろけさせ、灰すら残らない。
「……死した後もなお、背負わせようというのか!」
感情が背中から飛び出し、壁無き世界へ突き刺さる。
「例え……この身が人の世の呪いその物になったとしても……!」
肉は呪詛混じりの泥へと変わり、感覚が空の臓腑を焼いた。
「例え……魂も心も消え失せようとも……!」
鬼も仏もない、呪いだけが降り積もるその場所を這いずり回る、人間だった何か。
「いつか必ず、あの星を、御座から引きずりおろしてやる!!!!」
人間以上の指が生えた手で天を掴み、絶叫したそれは、獣ですらなかった。
おぞましい感情を燃料に世界へ爪立てた、救いようのない怪物。
(その……物語の始まりは……運命の終わった後……に……)
──これは、俺の長い旅の、一番最初の場面だ。
第23話 黒いうみの中で1人想うことは
終わり