フェイト/デザートランナー   作:いざかひと

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 前回までのあらすじ
 眠るモモが見たものは、若い男性……バーサーカー04と彼の妻が穏やかに会話をする夢だった。『あの人』が返ってくると嬉しそうに語る妻に対し、バーサーカー04は内心、『あの人』の帰還に怯えていた。己が己でなくなってしまうかもしれないという、実感に。

 悲しい夢を見たという感覚だけを抱いて目覚めたモモは、そんな気持ちを振り払うため、露天風呂に向かう。誰もいないと思っていたが、アスカがこっそりと入っていたのであった。
 お湯を掛け合う微笑ましい喧嘩の後、アスカはお腹に令呪があることや、サーヴァントの夢を見たことをモモに打ち明ける。アスカが見た夢は、アーチャー961とよく似た人物が、ただ1人で雪山を登り、誰かに別れの言葉を告げる夢だった。
 
 キルケーの神殿内で、体がすっかり治ったバーサーカー04と再開し、モモ達は朝食を摂る。
 その後、AIスローネ・エーテルウェルの助けを借り、地下都市廃墟から回収してきた『ブラックボックス』を行う。
 内側に秘められていたデータは、数種類の情報と、誰かに宛てられた映像メッセージ。モモ達はそれの閲覧を始める……。


第25話 華々しく旅立てば

 

 

『西暦2613年、4月17日。これは、他者へ託す希望のメッセージ』

 私は目を凝らすが、とても暗い場所で撮影されたのか、声の主がほとんど見えない。

 話しているのが女性だという事は分かるが……。

 

『私の名前はベルゼ・キラライト。地下資源鉱脈算出ソフトを祖とするAIです』

 名乗った彼女の周りに大勢の人が居るのか、判別不明なざわざわとした声も聞こえる。

 

『私は都市の人々とサーヴァントを率い、都市運営システムへ、いえ、この世界へ反逆します。

 それが、人類の未来のためだと信じながら。

 上級都市レグルスと共に、私とその同志達は反旗を翻す。

 これは、他者へ託す希望のメッセージ。志を同じくする者は、このボックスに記録してある座標まで来てください。

 ……反逆の意志が、世界を変えると私は信じている』

 そこでメッセージは終わり、同じ内容の映像が繰り返し再生され始めた。

 

「日付……」

 私は今見た内容を、改めて頭の中で整理する。

 西暦2613年、4月17日。それは、今から約100年前だった。

 

「ほぼ100年前に録音されたメッセージ、ですか」

 アスカのアーチャーが私の考えていた内容と同じような事を発言した。

 

「でもアーチャー、わたくし達の世界、変わってなんていませんわよ?」

 彼の言葉を聞き、アスカは首を傾げた。動きを追うように、艶のある黒髪が揺れる。

 

「革命が失敗したのか、今でも戦いを続けているのか……」

 サーヴァントとマスターの2人の会話。

 

「……愉快なメッセージではなかったな、面白くない」

 キルケーはつまらなさそうに唇を尖らせると、ぼそっと呟いた。

 

「もっと面白いものー! スローネー!」

「あーはいはい」

 右手を箱にかざし、解析を進めている彼。左手でタブレットを取ると、そこに情報を送信した。

 

「歴史とかの文章をどうぞ」

 そして、暇を持て余していた魔女に手渡された。

 

「君も見るかい?」

 キルケーに誘われ、彼女の後ろへ行き、椅子の背もたれに手をかける。

 

「えーっと……」

 オレンジの上に輝く白の文字を左から右へ読む。

『戦争』、『地下都市の種類』、『機械化サーヴァント』など、すでに知っている種類の情報もあれば。

 

「『フォトニック純結晶』、『レジスタンス』……」

 詳しく知らないものもあった。

 後ろに立つ私をキルケーは横目でちらりと見ると、『レジスタンス』と書かれた項目に指で触れる。

 表示されている文章はがらりと変化した。

 

『レジスタンスとは、この世界の仕組みに反旗をひるがえした誇り高き者達です。

 地下都市と都市運営システムを破壊し、あるべき世界を取り戻すのが目的。

 リリスによって形作られたこの世界は歪そのものであり、それより生み出された物の生存など』

 ずらずらと出てくる文字。

 

「うへー……すごく主観まみれじゃないか」

 うんざりしたような声を出して、キルケーは項目を閉じた。

 

「提示された情報が正しいとは限らない。

 今見たように、感情的に書かれていたり、誰かによって都合よくねじ曲げられている事だってあるのさ。気をつけたまえよ」

 含まれている内容に興味を失ったのか、魔女は後ろ手に私へタブレットを手渡した。

 私はそれをおずおずと受け取った。

 

 

 

 

 ブラックボックスから得られた情報は、『上級都市レグルス』の座標以外にめぼしいものはなく。

 多くの文章を読んで疲労感を感じた私は、芝生のある中庭でぼーっとしていた。

 アスカは今ごろ、私と同じようにタブレットを読み込んでいることだろう。サーヴァント2体はこの先の方針について議論を交わしているはずだ。

 晴れた空は薄い水色で、神殿の屋根の上で小鳥が鳴いている。

 

「もも! ここに、いたんだ」

 のしのしと地面に響く大きな足音の持ち主は、アステリオスだった。

 座っている状態のまま、体をちょっとひねって彼を見ると、両腕いっぱいに果物を抱えているのが分かった。

 

「沢山の果物……どうしたの?」

「まちの、みんなの、おてつだいしたら、おれいに、もらった!」

 アステリオスは私の隣にどしりと腰をおろすと、黄色い棒状の果物を1本手渡してくれた。

 

「ばなな! しってる?」

「知ってるよ。でも、読んだ事あるだけ、食べるのは初めて」

 果物なんて、とっくの昔に絶滅したと思っていたが。

 この地下都市711は本当に食材が豊かだ。失われた食文化を保存する、栽培するの意味でも『実験都市』なのかもしれない。

 かくばった見た目のバナナ。黄色いつるつるとした表皮の上に、黒い点々が浮いている。

 

「てんてんあると、おいしいんだって!」

「へぇ……」

 皮の末端に指をかけると、力をほとんど入れていないにも関わらず皮がむけた。下からは淡いクリーム色の身が覗いている。辺りに漂う濃厚な香り。

 

「いただきます……」

 かじると、柔らかくて、ねっとりと甘い。中心部はとろりとしていて、水飴のように半透明な箇所もあった。

 

「おいしい?」

「とっても美味しいよ、ありがとう」

 感謝の気持ちを伝えると、アステリオスはあどけない笑みを浮かべる。

 そうしてから、彼もバナナの皮を大きな指でちまちまと剥き、ぱくりと頬張った。しばらく無言で、むしゃむしゃとバナナを食べる。

 

「たびにでるって、おばさまからきいた」

 膝の上に、食べ終わったバナナの皮を置いたアステリオスが、暗く沈んだ声で話を始める。

 

「いっちゃう、の?」

 私に見せたその顔には、戸惑いの表情が現れている。

 

「うん」

 胸が痛むけれど、彼に変えるつもりのない意志を伝えた。

 

「ももは、どうして、たびをつづけるの?」

 果物を食べ終わった私は、バナナの皮を隣にいる彼のように膝の上へ乗せた。

 

「聖杯戦争を止めるため……かな」

 目線を黄色い皮に落とし、かつて確かに見た地獄の風景を頭の中に浮かべる。

 

「アステリオスに出会う前、聖杯戦争のせいで、沢山の人が傷つけられ、死んでしまうのを目にしたの」

 忘れるはずがない。

 ずっと続くと、根拠も無く信じていた世界が破壊され、血にまみれて。

 そして、家族のように慕っていたバーサーカーが、紛れもなく、人間ではないという事実を叩き付けられた。

 外に出てからも、初めて知る事ばかり。でも、それが真実で。

 そんな世界を、戦争によって誰かが傷つけられる世界を、変えたいと願ってしまった。

 

「私にはサーヴァントがいて、外を移動できる乗り物まで持っている。

 それに……あるキャスターに予言を受けた」

 人ならざる獣の耳を持った、褐色の肌の彼女、キャスター171の言葉が脳裏に蘇る。

 

(『2人の少女が旅をして、聖杯戦争を終わらせる。そして、世界の運命を切り替える』)

 始めは何かの冗談だと思っていたけど、今までの冒険を経て、言葉が実感となり、重みとなって心にのしかかっていた。

 

「私が、聖杯戦争を止めないと……いけない気がする」

 何度も自らへ言い聞かせた決意を、改めて口にする。

 

「……それが、もものうんめい?」

 白いふわふわの長髪を揺らしながら、アステリオスは私の顔をじっと見る。

 真剣な眼差しの中心にある瞳は、焼けた鉄のように赤々と静かに輝いていた。

 

「運命かどうかは分からない。でも、止めたいんだ、争いを」

 私の宣言を聞いたアステリオスは、目線を芝生の生えた地面に落とし、心配と不安の感情が混ざった声で呟く。

 

「……うんめいなんて、ぼく、きらいだ」

 石の屋根の上にいた小鳥は、それぞれ別々の方向へ飛んでいった。

 

 

 

 

 都市を離れる前に、肉や魚、野菜や果物てんこ盛りの豪華な昼食を食べた。

 キルケーが腕を振るった料理はどれも絶品で、舌が肥えてしまうのが怖い。

 ここを出発すればまた栄養補給ブロックをかじる日々だ。

 もそっとしたあの食感も嫌いじゃないけど、焼きたての鶏のぱりぱりとした皮や、しゃきしゃきとして、口の中がみずみずしくなる野菜の歯触りは別格のもの……。

 

「ピグレット! じゃんじゃん持ってくるんだ!」

「プギ!」

 豚達が背中にお皿を乗せて料理を運んできてくれる。

 アーチャーは口元と顎を拘束しているパーツを外し、もくもくと口を動かしながら料理を食べており、バーサーカーは離れた場所から全体を見ている。

 

「アステリオス! 沢山食べていいからなー」

「うん……」

 キルケーに声をかけられたアステリオスは、少し元気のない様子で返事をした。

 

「ん……んん! 美味しい……宴の席で食べたあの料理とはまた別の味わいが……」 

 こんがりと焼かれたお肉に、目をきらきらさせたアスカが舌鼓を打つのを眺めながら、私はあつあつの野菜のスープを飲んだ。

 

 

 昼食会の後は、とうとう別れの時。

 

「私の魔術でデザートランナーの装甲を強化したぞ! 

 食料と燃料も積んだし、きみ達にあげた宝石型の礼装も整備した。準備バッチリさ!」

 巨人討伐の際に足を踏み入れた無機質な印象を受ける地下ドックに、サーヴァント含む私達4人は並んで立っていた。

 笑顔で見送ってくれる彼女に、私とアスカは感謝を伝える。

 

「ありがとうございました、キルケーさん」

「お食事にお風呂、その他色々な事……感謝しています、ありがとう」

 キルケーは肩にあるふわふわとした羽をばさばさ動かす。

 

「いやぁ……きみ達がいなければ私の都市は終わっていたし……助け合い、お互い様さ!」

 彼女の発言に、04は961にひそひそと耳打ちをする。

 

「2人とも心が広すぎるぜ……。

 マスターアスカは豚に変えられて、アーチャー殿は結界に閉じ込められて、俺はミンチにされたって言うのに……」

 聞いている961は、彼のぼやきに一度だけ頷いた。

 

「そうそう、これもプレゼントだ。持ってきてくれるかい? アステリオス」

「よい……しょ」

 彼が両手に持って運んできたのは、あのブラックボックスだった。

 

「くれるの? いいのスローネ?」

 私はびっくりしつつも聞いてみる。

 キルケーのそばに控えていた、アンドロイドの体に収まっている都市運営システムが答えた。

 

「私には不要のものですし……それに」

 白衣についているポケットに、罰が悪そうに両手を突っ込んだ。

 

「ブラックボックスは各都市とそれを担当するAIに1つだけ支給されるもの。

 余分に持っているという事自体が、トラブルを招きかねませんから」

「そっか……」

 頷く私に、アステリオスが腰をかがめて顔を近づける。

 

「だれが、もつの?」

 私はちょっと困ってしまった。これがとても重たい物だと言うことを知っているからだ。

 

「バーサーカー」

 961が04を見た。

 

「えっ? 俺?」

 戸惑う04は自らを指でさす。961はさっと顔を背けた。

 アステリオスは箱を持ったまま返事を待っている。

 

「……持ちますね」

「うん、おねがい」

 バーサーカーの人間サイズの手の上に、重たい箱がずしりと乗った。

 

「じゃあ、そろそろおいとま……」

「あー待て待て」

 箱を持って、えっちらおっちらデザートランナーに入ろうとしたバーサーカーをキルケーは呼び止める。

 

「別れの挨拶があるのでしたら、短く、お願いします」

 腕をぷるぷるとさせながら04はキルケーに願った。

 

「……私は旅立つ勇者に、出航の助言を与えるめが……えへん、魔女でもある。モモ、アスカ、よくお聞き」

 彼女の静かで穏やかな声に、自然と背筋がぴんと伸びた。

 

「星座の名を持つ敵がきみ達の前に現れるのは、きみ達が星を見るものだからだ」

 AIやサーヴァントを除けば、今まで会った敵の姿は……カニ、水瓶、牡牛。

 

「星を追って行きなさい。そうすればいずれ……隠された『樹』の元へたどり着く」

 彼女の話した言葉に含まれていたある単語に、アスカが素早く反応した。

 

「『樹』……別の都市で出会ったキャスターも言っていましたわ!」

 魔女は深く頷く。

 

「今告げた内容は、朝に行った占いで見えたものなんだ。

 ……何を意味しているのか、完全には分からない。だが、きみ達の旅の道しるべになるのは確かだ」

 そこまで話し終えると、彼女は悲しげに眉間にシワを寄せた。

 

「この都市で暮らしてもいいんだよ? 

 サーヴァント2体分のリソースは、スローネにまた頼んでちょろまかしてくればいいんだし……」

「良くないですよ?! その内本当に都市ごと潰されますよ?!」

 スローネのツッコミを無視し、私は自分の気持ちを伝える。

 

「聖杯戦争、止めたいんです」

 魔女は表情をむすっと不機嫌そうなものに変えた。

 

「きみは優しい平穏より厳しい戦乱の方が好きと見える。

 そんな人間が戦争を止めたいだなんて、おかしな話だと思うけど……」

 口でそう言った次の瞬間、彼女はぱっと顔を明るくした。

 

「でも、そうしたいのならするがいい! 

 きみとアスカは私が認めた勇者、大魔女キルケーのお墨付きなのだから!」

 その言葉に、私は救われたような気持ちになってしまった。肩へ余分に入っていた力が取れる。

 ……視界の端で、腕をぷるぷるさせながらブラックボックスを持ち続けている04の姿が見えた。

 

 

 別れの挨拶も終え、静かな車内へ私達は乗り込んでいく。

 

「箱は機関室に置いておく。デザートランナーに接続して機能を拡張するのはまた挑戦してみるよ」

 04がブラックボックスを抱えてある部屋へと向かっていくところだった。

 

「機関室には俺以外入るなよ! ふりじゃないからな! どうしようもなくなった時以外入るなよ!」

 彼の言葉にアスカはつんと答えた。

 

「耳にタコが出来るほどいつも聞いていますわ、入りませんから」

 髪をなびかせながらすたすた歩いて運転室へ。彼女のアーチャーも続く。

 

「……ちょっとだけ入るのも、だめ?」

 そう聞いた私に、バーサーカーがわざと低い声を出す。

 

「だめ」

 ちょっとだけ興味があったが、彼を怒らせてまで知りたい事でもないので、大人しく運転室へ向かった。

 

「久しぶりにハンドルを握る気もする……デザートランナー、発進だ!」

 04の軽快な声と共に、車体は真昼過ぎの強い日差しの中へ飛び出していく。

 砂漠と荒野がまばらに点在する不毛の大地。命の痕跡など、どこにも感じられない。

 

(さよなら、都市711……)

 後ろ髪を引かれる思いだった。

 あの地下都市にはこの世界から失われた平穏があった、文化があった、美しい自然があった。

 

(でも……)

 全ては箱庭。外から悪意ある敵対者がくれば、あっという間に壊されてしまう砂上の楼閣。

 運転室内の椅子にもたれかかりながら、タブレットで見たあの項目を思い出す。

 

(『レジスタンスとは、この世界の仕組みに反旗をひるがえした誇り高き者達です。

 地下都市と都市運営システムを破壊し、あるべき世界を取り戻すのが目的』)

 がたんと、車体が大きく揺れた。

 

(聖杯戦争を止められたら、世界はあるべき姿に戻るのかな。

 レジスタンスの人達も、戦争は嫌だと思ってくれているといいな……)

 道のりは遠く、日は傾き、やがて深い夜が訪れた。

 

 

「……変な時間に起きちゃったよー」

 日のある内に進み、夜は車体を止めて休む。

 その決まり事通りに自室で眠っていた私だったが、夜中の3時頃に目を覚ましてしまった。

 

「歩けば眠くなるかな……」

 廊下に出てみる。足元を照らす緑の光、静かな世界。

 運転室まで歩いてみると、フロントガラスから満点の星空が見えた。

 

「外、出てみようか」

 胸元につけた四角いエメラルドを指先で触る。

 今はキルケーから貰った宝石の力がある。寝間着でも、過剰な暑さや寒さ、紫外線から体を守ってくれるはずだ。

 アスカの部屋の前を通ったが、起きている気配はなかった。そっと、車外へ出る。

 

「……」

 吐いた息が白くなる。ひんやりと冷たい空気が喉から肺へ。

 月の無い夜。砂の大地が地平線まで続き、空は雲1つ無い深い青だった。

 でも何よりも私の目を奪ったのは、その星空。煌めく無数の光は、瞬いて、静かに燃えている。

 強く輝く星が星座を形作り、その狭間に、彼方にある紫の星雲が薄く広がっていた。

 そんな星空が世界の果てまで続いているのだ。どれほど見ても飽きることなど無い。

 

「……あれ?」

 瞳を地上近くに戻すと、人影があった。目を凝らすと正体が分かった、アスカのアーチャーだ。

 

「……アーチャー」

 近寄って声をかけてみるが、反応はない。

 一定間隔で繰り返される落ち着いた呼吸……驚くべき事に、彼は立ったまま眠ってしまっていた。

 

(すごく疲れているのかな……)

 彼は何時だって警戒を怠ること無く、私達を守ってくれている。

 その心労はいかほどのものだろう、きっと、彼自身も気がつかない内に疲れが溜まっていたのだ。

 

「ん……ん……」

 首を下に向け、ゆらゆら揺れている彼が何かを呟いた。

 

「……おいて……いかないで、くれ……俺を」

 寝言のようなものだろうか。起こそうか起こすまいか、私は判断できずまごまごする。

 彼は、また何かぽろりとこぼした。

 

「……1人にしないでくれ……アルジュナ」

 それは、彼自身の真名だった。

 

 

 第25話 華々しく旅立てば

 終わり




 単語説明


 都市711
 特別な目的のために作られた『実験都市』の1つ。海の生き物と、海辺での人間の生活や文化を保管するための場。
 また、人間が外宇宙に旅立つ際に使用される箱庭で、地球と同じ様に生きていけるかどうかのデータ収集も行っている。
 かつてはAIに管理されていたが、現在はキルケーが乗っ取り好き勝手に運営しているため、それが結果的に人間のためにもなってしまっている。
 平和で穏やかな箱庭だが、ここで生きていくという事は、永遠に外の真実を知らないという事でもある。しかし、それで救われる人間の方がこの世界にはずっと多いのだ。


 フォトニック純結晶
 美しく輝く立方体。光で複雑な思考を編む、高機能演算器。
 2100年代にとある研究機関で理論提唱、試作され、当時の世界のあらゆる演算器を凌駕した。
 2700年代である現在は、地下都市に必ず1つ、その中に居を構えるAIと共に、『ブラックボックス』という形に加工されて配置されている。
 AIを生む場となっている超巨大結晶体の場所は最重要機密であり、限られた存在にしか知らされていない。


 ブラックボックス
 子どもの頭ほどの大きさのフォトニック純結晶体を、特殊加工をしたカーボンプレートで包んだもの。
 真っ黒な見た目と、重要情報を保存する意味合いを兼ねて、ブラックボックスと命名された。AIの魂と心の置き場。
 普段AIはこの中におり、都市運営を行っていて、物質的な接触が必要な時のみ、アンドロイドなどのボディに魂と精神を移して活動している。
 内にAIがいる状態でブラックボックスを破壊すれば、AIの完全な殺害が可能。
 しかし、カーボンプレートもフォトニック純結晶体も非常に強固であり、無線通信を利用し別のブラックボックスに魂と心を移動させる事も出来るので、これらがAIの殺害の難易度を高めている。
 もし殺害を成功させたいのであれば、重火器を超えた火力を瞬間的に出せる存在が必要となってくるだろう。
 ……すなわちサーヴァント。過去の亡霊である彼らは、最新の赤子らの天敵であるのだ。


 レジスタンス
 現在の世界に反旗を翻した者達。AIや人類が主体となって活動している。
 詳細不明。


 星海に幹かける4本の樹
 キャスター171の予言に出てきた単語。詳細不明。
 ↓
 星海に幹かける4本の樹
 キャスター171の予言、キルケーの占いに出てきた単語。星を追っていけば、いずれたどり着くという。
 詳細不明。
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